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SCORE6:ブラッディ・ドリーム Ⅲ

「お疲れ様。話は寝てから。でないと、何を口走っちゃうか分からないからね。お休み。」一日でできた即席基地に戻って来たカールたちに、あくびをしながら眠そうながらも温厚に言うオグラ中佐だった。よく見ると、まるでサンタさんが着けているような寝巻帽を身に着けているではないか。


 何だ、自分だって寝たいからこんな命令を出すんじゃないだろうな。そうジャックは思った。事実、変な光を直視した隊員以外の第一中隊は別に疲労困憊、という訳でもなかった(光を直視したその隊員たちは夜中まで検査を受けていた。受けている最中に爆睡していいたが。結局、被ばくはしていなかった。)。

 だが、第二中隊の第一小隊。特に高所から勢いよく落ちたリューベック軍曹の容体は深刻こそなかったものの、三日は動けないようだった。

 そして先導パイロット四名のうち、カール、レベッカ両二名は肉体的・精神的に限界値まで達しようとしていた。それも考慮の内にあったのである。もっとも、自分が単に眠たかったから、というのもあるが。




 全員は退出し、カールは官舎に入った。段ボールが置かれているだけに過ぎず、ベッド周りが物寂しかった。本当なら、疲労困憊で眠れるはずだった。なのに、眠くなかった。太陽の角度的に言うと、墜落したのは明朝、昏睡したのがその三〇分後、そして起き出したのが大体昼の三時ぐらいだったため、実に六時間以上も寝ていたのだ。それでも、疲れはあった。


 カフェテリアは何処か、探し求めていた。見つけたものの、水か麦茶しかなかった。ビールは・・・未定?こりゃあ、参った。カールは思った。だが、これは「酒飲み」で有名な病み上がり未成年たちが飲めないようにするための、臨時司令官の妙案だったと言えるだろう。その司令官は遅い就寝をしていたが。

「何をしているんですか?」バーバラだった。駄目じゃないか、子どもがこんな夜遅くまで起きていたら。


「今日って、かなりごちゃごちゃしてませんでしたか?色んな事が立て続けに起こって。」

「ああ、全くだ。」そう言って、せめてもの気分転換にビールと同じ原材料でできてる麦茶を、雰囲気だけでも味わおうと苦い顔をしながら飲み干した。

 バーバラには、中年のおっさんが行っているそれと酷似しているようでならなかったが。


「最初は墜落して、その後に基盤の不備が発覚して・・・そして、大尉がやらかして・・・」

「僕は何もやっていない。酷いじゃないか!推定無罪だぞ!」笑いながらカールは言った。


 そして、二人は官舎にそれぞれの部屋に戻ろうとした時、事件は起こった。


 正確には、カールが「やらかした」と言うべきだろう。いや、それ以前の問題だったのかもしれない。

 レベッカの部屋の前を通る時に、聞こえていたのだ。あの、あの時言っていたあの言葉が。

「大丈夫・・・大丈夫・・・。」二人は、かなり焦った。レベッカがおかしくなっているのではないか、と。


 いつものカールなら笑い飛ばすだろう。

「レベッカがおかしくなった?そんなまさか。冗談を言っているんじゃないだろうな。少なくともあいつは、自分よりかは精神が安定していないが、スズキ中佐ほど狂っている訳じゃないだろうに。」と、宇宙に居るスズキ中佐を出汁にして、言い返すだろう。

 だが、この時のカールは違っていた。あの時のレベッカの様子は、誰かに怯えてた。雨に濡れた子犬の様に。


 バーバラもまた、この違和感に気づいていた。だが、バーバラが言いかけた時に、カールは言った。


「バーバラ。手出し無用だ。外で待っているんだ。うまく行けば、三分で終わる。ヤバい時は・・・その時は、頼む。」バーバラにそう言い残し、レベッカの部屋の前の扉をノックした。依然、返事は帰ってこない。ただ、あの言葉だけが聞こえてくるだけだ。


「入るぜ、レベッカ。酒持って来たぜ。」空っぽになった紙コップを片手に嘘を吐いたが、返事が無いと悟って入って行った。


「大丈夫・・・大丈夫・・・。」暗闇の中、かすれ声で、涙は出ていなくて、それなのに顔は引きつった表情で。

 ベッドの毛布にくるまりながら、その手には銃を持っていた。エネルギーがゼロで、コイルガンの弾数もゼロのままのブラスターで。まるで、「ブラスターを持っているから、大丈夫だ。」と言わんばかりの引きつった表情で。


 カールには、事が非常に深刻そうに見えた。レベッカがこんなメンタルだったことが一度たりともなかったのだから。レベッカの過去はカールには分からない。同様に向こうも、こちらの過去は知る由もない。

 だが、その過去を知らずともどうにかしたいと思うのは、エゴなのだろうか。余計なおせっかいだろうか。それでも、カールは覚悟した。自分が今後レベッカにどう思われようと、これでマシになったら幾万倍だ。・・・損得の話では無い。こうしなくて、後悔することになったら嫌なだけだ。手遅れになる前に。あいつと同じようにならないように。


 カールは、レベッカの前に歩み寄る。


「何故、何故、なぜ僕や、コールや、リンや、バーバラや、『大佐』や、スズキ中佐に頼らない?!」彼女の引きつった顔がきれいになくなった。シワも跡が無かった。代わりに、別のもので満たされた。


「一人で勝手に暴走して、勝手に死にかけて、・・・迷惑なだけなんだよ!いい加減にしろ!軍人のくせしてお守りが必要か?!お前はそんな偉い人間か?!あぁ?!」

 カールは、怒っていた。レベッカに、そして、これぐらいしかかけてやる言葉が無い自分の無力さに。


 レベッカの精神は、それまで「無」と「安堵感」の中間に居た。砂上の楼閣の様に、脆く、はかなく、そして吹き飛ばされそうな精神が。だが、その消えてなくなりそうな精神を埋め固めるように怒りが結合した液体をカールに注がれてからは、みるみるその目に色が見え始めた。まるで、尊厳を傷つけられ怒り狂ったライオンの様に。


「アンタに・・・アンタに何が分かっているっていうのよ!!!」

 その叫び声は、錆び付いたスピーカーに漂白剤を加えて音色が戻った後すぐに出した音色のような、そんな音だった。


 全ての脳細胞が「怒り」に染め上げられたレベッカは、銃をベッドの上に放り投げると、飛び降りた後、カールの胸倉を掴んで殴った。怒りに体を任せていた。

 三回殴られた後だろうか。カールの頬は青いあざができて血が溜まり、レベッカは殴りながら涙を流していた。その時、カールはレベッカのパンチを躱した後に彼女の頬を強烈に引っ叩いた。


「いつまでもサンドバッグになると思うなよこのアマ!」

「なんにも・・・なんにも知らないあんたがずけずけと!」

「知らぬさ!人の言わないことを知る人間なんて誰一人として!だから何だ!それがどうした!!何にも知らないから言えるのさ!そんなことが!!」

 カールとレベッカの言葉と拳の勢いはとどまることを知らず、周りにはギャラリーが出来ていた。そして肝心のバーバラは、憲兵隊の所へ事情を説明し、彼らは出動する羽目になった。


「早くしてください!でないとどっちの大尉も予備役になってしまいますよ?!」

「ご協力ありがとう、バーバラ。」大尉の階級を所持している初老の男、へリック・ジョンソンは、ここの憲兵隊の指揮を執る人物だった。時々、アデレイド・ムーン准将と仕事をすることの多いまじめな男だった。




 バーバラとこの星の憲兵隊長の二人による迅速な対応の結果、彼らは自習室(という名の懲罰房)に入れられた。オグラ中佐は当然不満だった。実際そうだ。寝てから三〇分経ってすぐさま起こされたのだから。


「中佐!彼らを自習室へと入れました!それでは!」憲兵の一人はこう言った。

「ああ、待って。二人分の毛布も持って行かせて。」

「良いのですか?」

「どうせ疲れているんだし、彼らに眠らせないという選択はさせたくないからね。」


「しかし・・・。」

「これは命令。彼らに明日説明してもらうのだから。その時に不完全な状態だったら、良くないでしょ?」

「・・・そうでしたか。では、失礼します。」そう言って、退出した。ドアの後ろから大きなあくびが聞こえて来た。


 この憲兵は退出した後、こうぼやいたそうだ。

「・・・お人好しだ・・・。いい意味でも悪い意味でも。」と。




 懲罰房に個別で入れられた。出来たばかりの基地で、それも最初に使った記念すべき人なのだから、埃さえ無く小綺麗なままだった。


「・・・さっきはごめん、取り乱して。」冷静になってレベッカらしくない事を言った。

「お前、何か変なもんでも食ったのか?」薄笑いしながら答えるカールだった。声は通じているみたいだ。


「・・・だからあんたはそうなのよ。いつもいつも。」

「ああ、そうさ。皮肉はビールの次に大事なもので!」相変わらずなカールだった。

「・・・あの時、お前が何を感じていたのか、お前さんの口から直接尋ねることはしない。ただ単に、同僚が精神的にもまずいと、こっちも苦労する。そうなれば、誰が戦闘艇部隊を指揮する?人には適材適所というものがある。」一呼吸おいて、カールは続けた。


「だから、副隊長の意見では、まあ、『楽をしたいがどうにもならぬ』になりそうだからそれを阻止したまでだ。お前が元気じゃなくなってしまったら、それは嫌だ。コールも、バーバラも、リンも悲しむ。ガス抜きを手伝っただけだ。でも、良かった。」


 レベッカは、カールの言った意味がどういうものか、少しだけ分かった気がした。思い込みだと虚しいが。不器用なりに励ましているのだろう。きっと。きっと・・・。


「気にするな。またこんな時が来たら、その時は何度でも殴られてやるさ、『相棒』。」笑顔で言ったカールの言葉に、実際に彼女にはカールの顔は見えなかったものの、レベッカは心が救われたような気がした。


 レベッカは、隣に気づかれないように毛布で声を押し殺しながら、格子の間のガラスから見えてくる夜空を見上げた。目の表面から星の光が乱反射しだしたのは、きっと気のせいだろう。きっと、きっと・・・。

「実を言うと・・・小説の公募に出すのはこれが最後なんだよねえ。」

「嘘!あれだけ『8章まではやるぜ』なんて言っていたくせに!」いちいちうるさいカールだった。

僕「仕方ないだろう、尺がかなり長いんだから。今の時点で14万字だぜ?間話を引くとして、それでも12万字か?」

カ「行けるだろそんなもん!」

僕「無理だってそんなもん。」

カ「あのドンパチを公募に出さないって?!ありえない!」

僕「だから無理だっつってんだろ!」


てな訳で、お次の7章の部分を公募ではエピローグに活用します。ついでに、一週間だけ公募の文章をまとめる時間をください。11/10日、第七章公開!!

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