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SCORE6:ブラッディ・ドリーム Ⅱ

しんどい。スケジュールの都合上、この後にあと一個書くことにしようと思ったが、流石に一二〇〇〇字越えは中々きつい。今日はやめにしよう。とりあえず長めの文章なので、お酒をちびりちびり飲みながら、これもちびりちびりでどうぞ。

「やっと終わった!こいつら手間かけやがって!」ランスは先程捕虜にした山賊の一人をヘリに乗せ、村の中央へと向かっていった。コール達が加勢した後に、事は一五分で終わった。戦闘開始三〇分。疲労よりも興奮状態が勝っていた。なぜなら、陸戦部隊の出撃は「リンガード宙域戦線」以降殆どなかったためである。


 敵は皆、動かなかった。陸戦部隊の身に着けているゴーグルでは、遺体と思わしき物は呼吸・心拍共に無かった。全員が赤か黒に染まっていたのだ。いくら魔法が使えるといっても、生きてはいなかった。殲滅完了の旨を伝えた後、カールたちの元へ向かうのだった。


「やっとS4は動かせられたし、それでいいんじゃないか。」そう愚痴をこぼすランスにコールは言った。

「はっ!すみません!」

「いい、気にするな。それよりも、こっちの方でも翻訳できるみたいだ。」

「・・・と言いますと?」


「聞く方もそう言うだろうとは思っていた。実を言うと、カールに変な機能を付けてしまったのは、俺なんだ。S4の自動操縦はAIの応用プログラムを活用しただけで、それをインストールしただけだ。俺の奴に直接つないでな。別にローゼンバーグ准将にも許可を取ったし大丈夫だと思ってたんだが。だが、カールの奴は一番性能が良くなってしまった。代わりに悪くもなったが。」


「良くなって悪くなったとは、一体・・・?」他の隊員も聞き始めた。

「良くなった点は、『自動バイタリティチェック機能』やこいつに連動した『脳波センサー型翻訳機能』など俺が中学の頃に悪ガキどもと共同開発した代物が入っていたことだ。もっとも、俺はプログラムの補佐位しかできなくて、開発はマティーニ少佐が行っていた。懐かしいなぁ。今あの人は工廠に居るはず。先輩を追ってエンジニアになろうとしていたのだけれど・・・。」昔を思い出しノスタルジックな表情だったが、部下の表情はあまり芳しくなかった。


「そんなのいくらでも悪用できるじゃないですか!」ベン中尉の本気な面が、周りの気分を代弁しているかのようだった。

「自分と先輩は悪用していない。少なくとも自分はしていない。バイタリティチェック機能、便利だぜ?どこが張っているか一瞬で分かるからな。湿布を張りたいときなんか特に。どこを中心にしたらいいか、表示してくれるからな。ただ・・・いや、他の奴は・・・やってたな、服も透視・・・というか、AIが読み取って、その『鋳型』を再構築しているだけに過ぎなかったけど。」


「・・・ホントはやっていたんじゃないのですか?」ランスがいやらしい目つきでコールを見つめた。全く、カールと一緒にしないで欲しい。そう思った。

「それができる、って気づいた時にはもう高校を卒業していたからな・・・。おっと、カールからのデータ・ダウンロードも出来た。こいつに色々直接聞けるぞ。」コールはワクワクしながらその捕虜に近寄った。


 そして、ドスの利いた声で話しかけてきた。

「おい、無理に手を動かしたらこの輪っかが引き締まってお前の手を切る仕組みだ・・・魔法なんか使ってみろ。お前の発動条件は手からだという事は分かっている。」それを聞いた捕虜はぞっとした。先程までの笑顔からいきなり豹変して、自分の知っている言語を吐いたのだから。


「山賊の本拠地はどこだ?言え。」相変わらず詰問するコール。

「・・・言えない。何一ついうことは無い。」もう完全に哀れとしか言いようが無かった。

「抵抗して射殺か、お前の指を切り落としてお前自身が一本ずつ食うのと、どっちが良いか答えるんだな。」相も変わらず同じ口調だった。

「隊長・・・怯えてますよ。」ベンはコールに諭すよう促した。彼は三〇近い年齢だったが、コールの部下でいることに不満は無かった。だが、今回ばかりは話は別だ。これ以上はオグラ中佐に何て言われるか分からない。


「うるさい!カールや、リンや、レベッカは今危険な状態なんだ!黙っていられるかっ!」

 必死だった。あと三分ぐらいでたどり着くのだが、それでもコールは焦りが隠しきれなかった。今まで虚勢を張っていたのだろう。

 ・・・酷な話だ、二〇歳とはいえ、中隊長にまで上り詰める才能はあっても精神面では未熟だ。もっとも、レベッカやカールだって、一〇代なのだ。どうしてだろう、若い人間がどんどん戦争に行って、そして死んでいく。一番若いやつから。

 もう、第一中隊の面々は口を閉じたまま黙ってしまった。


「レベッカ、と言ったか。ふぅん、尻軽女の名だな。そりゃあ、良い値が付くだろうよ。」捕虜は口走った。だが、言ったことを後悔することになる。


 コールが殴り飛ばした。完全に頭にきた。不愉快だ、実に不愉快だ。殴打音が聞こえる。皮膚が金属にへばりつくような音も混じって。だが、気にしなかった。

「こいつ!!」言った本人には声が裏返っていたことに気が付きもしなかった。

「止めて下さい!彼はもう気を失っています!」ベンは言ったが、コールは殴るのを止めなかった。


「死にますよ、そいつが!」ランスも抗議した。あんまりだ。いつもは頼りがいのある中隊長がこんなことをして。いや、待て。なぜそこまで怒る?

「情報を聞き出すためじゃないのですか?!」大声でベンは叫んだ。

 コールは我に返った。我に忘れて暴力を振るって・・・そうやって、カールが掴んだこの村の住人の信用を、恐怖で消し去るのか?いいや、良くない。


 パワードスーツの腕の部分が下がり落ちる。

「・・・すまない。」その一言だけで、彼は元居た席に、足を抱きかかえながら座り込んでしまった。




 リンたちは既にカールの元へ加勢していた。敵はもう数が少なくなっていた。今見える奴らを見積もってあと七人。・・・何故だろう、敵が引く気配が全くもってない。操られている、という訳でもない。何故だ?リンは思った。

 彼らに主義思想がある訳でもない。たかが略奪のためにここまで死人を出す戦いを強いられているなんて。人質?金?でも彼らにそんなものがあるのか?

 分からない。考えれば考える程分からない。

 絶対おかしいに決まっている!


 ・・・いや、そんなことを考えている暇がない。少しでも下にいる彼らの生存率を上げなければ。ビーム砲は・・・エネルギーが殆どない?畜生!レールガンの弾もあと二発。・・・ただ飛んでいるだけではないか。

「リン!確か『スターピアサー』のアームに実弾ガトリング砲があったはず!」思い出した。

 少なくとも、エネルギーが底を着いたら動けなくなるビーム砲よりもこちらの方がコスパいい。弾は軽いが、その分大量に詰められる。すぐにアームを後方にスライドさせて、後方からは別のアームが出る。アームが回転して進む向きへと動くその滑らかな一連の動作は、流れる急流のごとき速さで、されど糸を細い針に通すような精密さで行っていた。二六世紀の生んだ技術の進歩であった。

「ありがとう、バーバラ!」無線でやり取りする彼らだった。


 二人は一斉に射撃する。固まっていた二人の敵に直撃した。彼らは撃たれ続け、身をたじろいで、骨が露出し始めていた。

「あと五人!」二人は言った。彼らが赤くてピンクな蜂の巣になっていたことに何も感じなかった。こっちだって必死なのだからと言わんばかりの表情で。「成績がいい」兵士はもう完成していた。




「おいおい、リンの奴、やってくれるじゃないか。」凄惨な現場をカールが遠目で見ながら心なしに言った。

「それが何なのよ。さっさと行くわよ。あともう少し。」自分自身を鼓舞するかのように「あともう少し、あともう少し」と続けるレベッカだった。その小声がカールには聞こえていた。皆必死なのだ。自分だけ蚊帳の外にいるなんて言う考えは毛頭に無かったが。

「だが、これで手間が省けた。この村にいる山賊は後五人。今キースたちが近距離で戦っている奴で二人。待て、あとは何処へ?」リューベリックは嫌な予感がしていた。とても重大な何かを見落としている。


「おいカール!まずい!ギルドの建物の所に来てやがる!頼む行ってくれ!こっちはこっちで手一杯だ!シーディアを寄こす!制圧してこい!」

 キースたちは二人を相手にしながら応戦している最中だった。二人とも普通の凡夫とは比べ物にならない槍使いであり、そこの方に戦力が集中していた。防衛ラインは突破されたが、死人は門番の二名のみ。敵は今であと五名のみ。そのうち建物に入った人が三名。恐らく目的は人質だろうがそうはいかない。


 カールは急いで建物の中に入ろうとした―だが、ズィブとシーディアに止められた。

「待て!爆弾でもしかけられたらどうする!!」

「こういう時のための『シャプト』なのに。敵は多分立て籠っている。だから、遠隔で始末するのよ。」


 二人に諭され、ハッとした。罠がある可能性は否定できない。わざわざ死にに行くようなものだ。どうして気づかなかったのだろうか・・・。カールはそう思った。訓練機関で散々習ったはずなのに。病み上がりでも許されまい。

「聞いてた?私が上から観察するから、これで。それで今の状況を確認して、『シャプト』で録音したやつから居場所を教える。そこの白い髪の人。」


「俺?」リューベリックは戸惑った。

「そう。あなたも上からそして、シャプトから聞こえた指の鳴らす音の合図で、私たちは表、裏の二つのドアから出てくる敵を撃つ。良い?」

 虫のような「シャプト」を片手に幾つも持っているシーディアだった。あれは蜂だろうか。腹の部分に針がある。これで始末するつもりなのだろう。

「うまく行かなきゃ俺たちの仕事内容が疑われるからな。」モディは言った。皮肉なのか、普通に言っただけなのか。

「持ち場について、彼らが来たら教えるから。じゃあ。」そう言って天井のところまでリューベリックの手助けを借りて壁をよじ登るシーディアだった。




 アルミナ・・・という名の少女は死期を悟っていた。今、館内の護衛で待機していたソルジャー二人が、使い物にならなくなっていた。皆は館内の充満するガスで意識が朦朧としていて、どうしようもなかった。なすすべなくしてロープで手足をきつく縛られた。そして、彼女は腕を掴まれた。

「頭ぁ!こいつ連れて行っても良いですかぁ?」アルミナの精神は嫌悪感で満たされた。身長と同じくらいはあるであろう、長い槍を持っている大男が、気持ち悪い一言をいきなり吐いたのだから。


「・・・君そんな趣味だったのかい?多分一〇歳前後だが・・・。」帝国軍のリオ将軍はこの建物の中にいた。彼が、この館内にガスを充満させた張本人だった。

「売れるんでさあ、帝国の領主のとこに持っていけば。かなりむごい仕打ちをする、で有名なリビダス家の三男坊には。生きているうちは汚しまくって、死にかけになったら生きてるうちにはく製にするんだと。だが大金は出す。これが実に美味しい稼ぎだ。」


「あの、だから・・・。」リオは完全に言い濁すような声だった。関わりたくない一番の人間だという認識はやはり間違いではない。この山賊団「黒竜団」は、元は義賊のはずだった。なのに、内部闘争が起き、元々トップだった奴が処刑された。そして、この強欲な奴がトップになったのを皮切りに、勢力が大きくなった。もっとも、そのために帝国に引き入れたのだが。


「勝手にしろ。転送中に動けないようにすればいい。」リオではない、別の誰かが言った。ナイフ使いだ。黒いフードを被っていた。アルミナは実感していた。たとえ魔法が使えて、もしこの図体だけ大きい奴を、手に縛られているロープのせいで「制御できない」一発限りの魔法でどうにかできても、フード男は黙ってはくれないだろう。脳天を突かれて死んでしまう。


 半分諦めかけていた時、屋上の方から何か変なものが飛び出ている。黄色いような、緑のような。いや、これは、シーディアのシャプト!前に一緒に遊んだ時に作ってくれたっけ・・・。


「何だ?上になんかあるのか?」フード男が言った。そう、あるよ。いま首元に移っている!

「うっ、何だ?今の。虫かっ・・・ばぁ・・・が・・・あ・・・ぁ・・・」そいつは泡を吹きながら、何て言っているか分からない事を吐き続けた。そして、顔が真っ青になって、目が充血し、大きな音を立てて倒れた。


「何だァ!こいつはァ!」その大男に付けようとしていた蜂型のシャプトは、彼の首筋に刺す前に、彼につかまれ、二本の指だけで粉々にしてしまった。

「敵だな。どうする?今ならワープができるだろうな。その娘さんを置いて行くんだ。チャンスはまたあるさ。」そう言うリオはすぐさま緑の石をナイフで割った。石が緑に光る。もう無理だという事を悟ったのだろう。カールたちはその光だけは見えた。決して出てくるそぶりは無かったが。


 シーディアは徹底してその大男を蜂のシャプトで囲んだ。逃げ道は絶たれた。この数ではあの芸当ができない、だが・・・


「頭が・・・逃げやがった!畜生!もう囲まれている・・・。おい、見えているんだろう?なら・・・だったら、こいつがどうなっても良いのか?!」アルミナを見せびらかせるように持ち上げ、アルミナの目の位置に、すぐにえぐり抜けるような形状の小さいナイフを構えていた。人質だ。参った、アルミナの腕と足にロープさえ無ければ。


 そして、この大男の居た位置は、天窓から見るとアルミナがこの大男の陰になっているではないか。そして、いくらサーモグラフィーを使って窓以外の天井からエネルギーライフルで撃とうとしても、貫通しない可能性もあり、乱反射して上に居る二人に当たる危険もある。

 第一、窓に向けて至近距離で撃ってはいけないのだ。こっちに弾道が、いや光道が帰って来る危険性の方が大きい。そして、天窓の下には多くの民間人がいるではないか。窓を割ったら彼らに大けがを加えてしまう。最悪頭に当たってしまったら・・・。

「畜生!これでは撃てない!俺はとんだ役立たずだ!」リューベリックは本気で悔やんでいた。ここからでは無理だ。このままだと、彼女が手遅れになってしまう!


 この大男の、こいつの目は必死だった。カエルが蛇から逃げるためにどうしようか、と考えている心境とでも言うか。決してシーディアは蛇ではないが。それでも、追い詰められた人間がどんな事をしでかすか分かり切ったものではない。


「アルミナを?!・・・卑怯な!」シャプト越しでその大男に抗議するシーディアだった。シャプトを操作する際に見ていた天窓から、悔し混じりの叫び声をあげた。


「はッ!女ァ!おいおいこいつがどうなっても良いのか?ゆっくり始末することも、この槍で叩き斬ることだって容易いもの・・・それにこの形状の『シャプト』、風には弱いっていう特性があってだなァ!」

 天窓に映っているシーディアに見せびらかすように、片腕でナイフと共にアルミナの首元を抱え込み、もう片方の腕で室内の風を巻き起こし、虫型のシャプトは辺りに吹き飛んだ。


「あばよ!いい夢見ろよ!」言われた本人にはとても不快な捨て台詞を言って、緑の石を割ろうとしたその時・・・。

「今よ!」緑の石がこの大男の手に触れる音で、シーディアが大きく叫んだ。このセリフのやり取りは茶番に過ぎなかったのだ。待機していたモディたちが突入した。そして、長身のショットガンでナイフを持つ片腕を吹き飛ばした。これで石は割れない。人質も無事・・・だろう。

「よし、今だ!」反対側の扉から入って来たカールは、アルミナをすかさずこの大男の元から確保したのだが、その大男は怒りに満ちた表情で腕を撃った陸戦兵の三人に突っ込んで行った。


「こいつら・・・ぶっ殺してやる!」片手でいきなり槍を持つと、見境なく振り回した。その力は彼らが着ていたパワードスーツの力をも凌駕し、撃てる体勢だった三人の陸戦兵のライフルは豆腐の様に切られてしまった。

 そして、その圧倒的な力は、彼ら陸戦兵が着けていたパワードスーツの腕にバグを生じさせることが出来た。


 レベッカのパイロットスーツの上から着けていた外付け仕様パワードスーツに対する影響は軽微なものだったが、それ以上に、イノシシのように突進しては槍を無茶苦茶に振り回すその様はまさに地獄の鬼のようだった。彼らが「鬼」の概念を知っているならの話だが・・・。


「退け!レベッカ!」カールは言ったが、退かなかった。それ以上に、この大男の取った行動に怒りが沸き起こっていた。カールのホワイトスクエアからダウンロードした翻訳機能で聞こえていたのだ。人身売買。このいたいけな少女を。思い出す、コロニーが死んだ時の避難所生活を。ジジイに体を汚されそうになったあの晩のことを。助けてもらっていなければ、今頃・・・。


 レベッカの視界が大きく揺らいでいた。一番後ろにいたせいで、周りの陸戦兵はレベッカの動揺に気づいていなかった。あの時、彼らの会話を聞いている時から、レベッカは動いていなかった。そして、震えていた。そして、記憶の底から引っ張り出していた。あの時の、吐き気の催すほどの量の血の匂い、水たまりになった血の匂い・・・!やめて!・・・やめて!


 やめて!


「レベッカ!!」カールは大きく叫んだ。この角度では、味方に当たる!駄目だ!早く撃て、レベッカ!馬鹿野郎!これで死んだら、何てコールに言えばいい?!


「くたばれ!ロリコン!!」レベッカは震える両手を支えるようにブラスターを構え、ショットガンではない、ブラスターの線を、猪の膝の腱に刺した。足が曲がらなくなっていた。


 その大男は立っていられなくなった。まさに「膝が抜ける」ように、前のめりにはならなかったが、膝から地について、体を支えるにもやっとだった。一体何をしたのか?その大男は思わずにはいられなかった。これが、光の魔法・・・?熱くて、己の肉が焦げる。不愉快だ。これが、おとぎ話でしか聞くことのない、光の・・・。 


 それからは、一方的だった。死にはしないが、「わざわざ」ノーマル・モードでもう片方の腕を焼き切り、足を、腹を、耳をも、撃っては撃って、撃ち尽くした。


「おい、・・・レベッカ!もうやめろ!もう十分だろ!こいつはもう戦う意思がない!戦えもしない!」

 カールは言ったが、レベッカは聞く耳を立てるどころか瞬きすらしていなかった。アルミナ・・・という名の少女は隠れて見ている。カールに手渡されたナイフで全員のロープをほどき終えだが、皆怯えていた。それでもなお撃ち続けるレベッカに戦慄していた。屋上で見ていたシーディアとリューベリックもまた然り。


 エネルギーが無くなる。レベッカはコイルガンに切り替える。腹に一〇発。だが、失血死寸前にも関わらず、この大男は息をしていた。膝を尽きながら大きく仰向けになって、苦し気な息を痛々しい声と共に。


 レベッカは目が充血し、荒い息を立てながら、指を曲げてカチッ、カチッとブラスターの射出音と共に続けていた。弾切れなのにも気づかずに。目にはうっすら涙がにじみ出ていた。


「もうやめろ!」レベッカのブラスターを取り上げ、カールのブラスターから火が吹いた。ヘッドショットだった。この肉塊は、すぐに目が上を向いて、口を大きく開けたまま動かなかった。


 カールにも、レベッカとイヤホン越しに繋がっている回線から流れてくる音声が聞こえていた。それでも、これは酷すぎる。彼がもう動けなくなった時にどうにもできた。もう良いだろう。どのみち助からなかった。だったら、今、楽にしたっていいじゃないか。


 それはカールに残されていた、兵士である時の唯一の「良心」でもあった。


「・・・」彼女は黙ったままだった。だが、しばらくして、レベッカらしくない嗚咽と共に涙を流していたのは確かだった。

 カールは、何を言えばいいか見当がつかなかった。どちらも、自分自身の過去を語ることは無かった。何のトラウマがあるかも知らない。だが、彼女の精神状態が間違いなく危うい状態にあることだけは確かだった。


 建物の中で、動きがあった。フード男が息を吹き返したのだ。パワードスーツの腕の部分を脱ぎ終えた陸戦兵だったが、太ももにある小型のブラスターを手に取ろうとしたが、撃てなかった。何故か。エネルギー・チップがなくなっていたのだから!


「そうか・・・このエセ山賊はもう駄目か。ウルツワイツ司令は、今はもう逃げられたみたいだ。フフ・・・欲を出しても怒られまい・・・!」フード男は、反対側の扉から逃げ出した。

「嘘?!致死量の二〇倍の濃度なのに!」シーディアは完全に虚を突かれていた。一体一体がその濃度を有しているにも拘らず、彼は生きていた。解毒剤があったのか?いや、それよりも、回り込んであの二人を始末しようとしている!


「カール!レベッカ!フードを被った男が今そっちに!」カールは振り向いたが、どこから来るのか目配りしていた時。

「君さ!ノロマ君!」フード男は気前よくシーディアに言った。早い!ジャンプしたのか!

「なっ!」リューベリックはショットガンの引き金を引こうとしたが、同様に撃てなかった。

「これ、何だい?」このフードを被った男が手に持っていたのは、あろうことかライフルのエネルギー・チップだった。四人分。


「もう、君にはあんまり興味は無いんだ。」そう言って、リューベリックを押し倒す様に掌を押し出した。五メートルもあろうに、勢いよくリューベリックは吹き飛んだ。リューベリックは突き落とされ、身動きができずに、そしてもだえ苦しんでいた。


 シーディアは手元にある即席人型シャプトで応戦するも、すぐ壊された。身軽なだけじゃない。危険な人物だという事はすぐに分かった。まさか、遊びだと思って?!


「残念だが、ここで死んでもらう!」ナイフを右手で構えた後、立て続けに狙われる。執念深い。まずい、もうシャプトが無い。かわし切れない。後ろに下がろうとしたその時。


「その高さだったら死ぬだろうな、君は。彼の手助けなしで登れなかったのと同様、降りる時も必要なはずだ。体格から察するに、運動能力はあまりない。肉付きは良いが、それは他の女と同様。・・・だが、その『シャプト』の動かし方。一流のものだ。ああ、実に美しい。」


「流石ね、全く・・・。」その洞察力と演技力だけは認めてやる。山賊であるという事以外は!

「どうだ?君の実力だったら帝国でもうまくやっていけるんじゃないか?こっちに来い。極力殺したくない。それに、『山賊』として成り立ってはいない。いるのはこの肉の塊になって虫の息な役立たずのリーダー気取りだけだ。」

「どういう事・・・?貴方は・・・?」

「帝国の禁軍、と言ったら?帝国の身分を隠すつもりは無い。だが、君はここにいてはいけない・・・。わざわざこんな所で才能を浪費させていい訳がない。もっと有効活用すべきだ。」 


「・・・それでも嫌よ。」リューベリックからは離れてしまっている。援軍も当てにならない。だが。

「そうか・・・実に残念だ。陛下に害する人間はすべて始末するという命令なのでな。君の技術は好きだったんだがね。だが、戦場はコンテストじゃ無い!殺すか殺されるかさ!」

 ナイフが脇をすり抜けた。当たって・・・いない。だけど・・・


「実に運のいい。だが、落ちる対策はしていなかったのか?」彼がわざと当てないようにしていたのではない。自分が避けたのだ。そして、彼女は死期を悟った。・・・これが地面か。地面にしてはやけに衝撃が柔らかいような、白いような・・・。・・・白い?まさか!


「驚いた・・・!この星じゃ空から人が降ってくるのか?」ジャックだった。第一中隊のジャックだった。名前は知らないが、リューベック達と同じパワードスーツの風貌をしていたため、味方だという認識に至った。何より翻訳ができていなかった。だけれど、その風貌が、・・・彼女らしくもない思考判断ではあったが、「騎士」のようだった、と言っていたという。大したのろけ話だ。


「隊長!第二中隊も来たそうです!」

「そうか。と言っても、この戦況だ。もうじき終わるというのに・・・。」ジャックは通信兵にそうぼやくと、ずっと抱えていたシーディアを放し、安全な所へと行くようにジェスチャーで促した。最初の方は口を開いて、顔を赤らめ、焦点が合っていなかったが。

 やっとのことで意味を理解したシーディアは、すぐにカールの元へと向かって行った。


 実は三〇分前に、第一中隊はオグラ中佐から命令されて、ヘリで援軍に駆けつけていたのだった。


「隊長!上にナイフを持って、飛び降りようとしている狂人が居ます!」

「オーケー!第一小隊全員で囲め!重力用にスラスターをセットしてからだ!奴は多分一番強い!今まで出会ったどの敵よりも!シールドを構えてナイフに備えろ!」


「「了解!」」そして、彼らは上昇し、狂人のナイフ男を射殺しようと試みた。

「こりゃ潮時だろうな。届かない距離から撃たれちゃあどうしようもない。よし・・・。」そう言って、金色の紋章が彫られた緑色の石をナイフで割ると、緑の石から多大な光が屋上を照らし、彼は消えた。

「た・・・隊長!」

「どうした!」

「き・・・消えました!敵がきれいさっぱり消えました!」

「一回下がれ!もしかしたら放射線の類かもしれない・・・。」そうして、残すところ敵はあと二名だった。





 キースたちはとても戦闘が長引いていた。メイジ・ランサーの使い手は相当な適性を持っており、一人は攻撃、もう一人は防御と巧みに使い分けていた。そしてよく見ると、山賊たちに手渡していたものとは違い、こちらは若干軽量化しており、最新鋭器だと思われる様相だった。


「全く、素晴らしい補助器具なこと・・・!」アータルタは感嘆せずにはいられなかった。何しろ、火の玉を連射したところで、風圧で上まで持っていかれて、火種が消滅してしまうため、攻撃が不可能だったからだ。そして水球でも風のウェーブがそれを阻止し、これもまた弾かれた。


「こいつら、爆破する?」中性的な人物が、キースやクリプトン、アータルタの猛攻に耐えながら言った。

「いや、無理だろうな。」別の人物が言った。さっきの奴とよく似ている。双子だろうか。


 この二人の会話はしばらく続いたが、横からやってきた第二中隊の姿が見えるとすぐに、「これは無理だ」と自覚した。騎士団が来てしまった以上、長居イコール死だ。

「あれを割っちゃう?」

「そうだな。」そして、他の面々と同様、石を割って、逃げて行った。


 彼らはあっけに取られていた。何人もの人数で攻撃したにも関わらず、対処できなかったのだから、そして全員が引いたのだから。何もできず、只々時間を食っただけだった。

「そうだ!シーディアは?!あと他の連中も!」キースは言った。非常に気がかりだった。本部に行ったのがあの三人だけだったのだから。手が離せなかったという事は理由になり得ただろうが。




 ギルドの建物の前で、第二中隊は第一中隊と合流した。

「やっと来てくれたのか。」コールはうれしさ半分疲労半分でジャックに話しかけた。

「あと少しでもう一人死にそうだったがな。」彼はシーディアを横目で見ながら言った。シーディアと目が合って、向こうは少し逸らしたが。リューベリックは・・・他の第二中隊の三人に支えられて歩いている。


 そして、何か重大なことを忘れているような気がした。

「いや、それより・・・カールたちは無事なのか?!」

「無事だ。会ってやれ。どっちも限界だ。」ジャックの言った意味が理解できたのは、レベッカに会ってからだった。

「おい、レベッカ、大丈夫か、おい!」コールは必死だった。彼女の焦点は合っていなかったからだ。


 彼女は涙でしわくちゃになっていた。変な表現かもしれないが、今のコールにはその表現しか頭に浮かんでこなかった。丸まって座り、膝を抱いて震え、うっすらだが、大丈夫、大丈夫・・・と聞こえていたのが痛々しかった。どうにか励まそうとしたが、右手にこびりついた血が自分の「罪」を自覚させ、パワードスーツの表面に乾いた赤い染料は、金属とこびり付いて離れれなかった。


「よお、コール・・・。」大の字になっていたカールは、やはり仰向けの状態で話しかけた。

「誰でもいいから、レベッカを運び出した後でいいから、こっちも運んでくれないか・・・?限界でさあ・・・。特に、レベッカについては・・・。」カールはもうどうしようもなくなっていた。体は動かせる。動かしたくないだけだったが。


 レベッカが壊れかけた。いや、当の昔に壊れていたのだろう。優等生の名が、「ナーガ」と呼ばれ敵兵に恐れられていた自分の、何と無力な事か。聞いて呆れる。僚友一人でさえ励ますことさえ出来やしないのだから。誰に責められても文句は言えまい。

いつから優しい言葉をかけてやれなくなったのだろう・・・。


 大男から発する血の匂いと腐臭が、この時何故かしなくなっていた。感覚がマヒしているのか?いや、熱中症から病み上がりだった体を酷使したからだろう。

 一人。周りはあまり気にしない。この星の中で、一人。眠たいわけでもない。死にそうでもない。ただ、空を見つめていた。コールはなんとかレベッカを励まそうとする。


「大丈夫だから、もう。もう大丈夫・・・。だから、だから・・・。」いたたまれない。コールは必死でその後の言葉を考えた。

 レベッカはコールに抱きついた。必死で、泣きながら。


 カールはそれを横目に見ながら夜空を見上げていると、何か少女が近づいてくるのが見えた。・・・水か?・・・水だ。コップに入った水を手渡してきた。違う星で得体の知れない生物・・・という認識はとっくに消え失せていた。認識が甘い、というのはあったかもしれないが。彼らは人だ。間違いない、人だ。どの成分が入っていたって、水だったらありがたい。そして、これは水だった。純粋な水だった。これまで、ただ普通の水がおいしいと感じたのはローゼンバーグ准将に助けられた時以来か。


「・・・ありがとう、君の名前は・・・何だっけ?」水を飲み干しながら、カールは言った。

「アルミナ。・・・名前、忘れないでね。」

「ああ、忘れないよ。あと、腕を引っ張ってくれないか?もうそろそろ立ちたくてね。」

「頭は痛くないの?」

「痛いよ。いや、最初コール達と再会した時からずっとだ。ずーっと痛かった。戦闘中、ずっと水が飲めなかったからね。そう言えば、キースは?」


「あの人も同じ感じだと思うよ。アータルタさんはまだ動けそうだったけど。」

「きっと、キースは尻に敷かれているんだろうなあ。」

「本当、笑えちゃうよね。」ああ、久しぶりだ。いつもはこんなことで笑うことは・・・いつもやってるじゃないか。時間間隔がおかしくなっていた。体感時間だろうが。今日はそれだけ長い夜だった、という事なのだろう。


 そして、夜の一二時ぐらいだろうか。カールたちは撤退した。

明日、続きを公開。

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