SCORE5:ザ・バンビッツ・ウォークライ Ⅲ
これとあと一回、5章が続きます。
カールが処刑と国交樹立のすれすれの立場で会談している時、レベッカはコールと合流していた。辺りにはレベッカたち以外には誰も居なかった。おかしい。もしかしたら、さっき撃ったことで警戒されて、誰も監視を付けなかった、とかだろうか?分からない。向こうも人質を得ているから、こっちが強気に出られないことを理解してはいるのだろうに。なのに、なぜ、監視を付けないのか。
「ようやく直せましたよ、大尉。何しろ、電子基板が精巧に『真っ二つ』に切れるように細工していたようです。」バーバラはいつものように落ち着いた表情で明るく言った。
「とんだ不始末ですよ。あの後方でずっと居座っている大佐、自分たちが死んでほしいと思っていたようで。」辛口なリンはいつも通り辛口だ。
「どういう事・・・?」レベッカは困惑した。何のことかさっぱりだ。
「ミッチ大佐は意図的に傷ついた基盤をこっちに寄こしていたらしい。それも、レベッカたちを消して、その責任を『止めたのにロールアウトした』とされるマティーニ少佐になすり付けるつもりだったらしい。」第二中隊の内三〇名の第一小隊を連れたコールは淡々と話した。
「どうして?!どうして・・・。」レベッカは驚きが隠せなかった。
ミッチ・ハーグレイブが行った不正は次の通り。
一、「スターピアサー」を「まだ基盤が完成していない状態」でロールアウト
二、幾つか細工をした「ウェンディエゴ」の基盤を代用品として活用させ、事故を誘発させる
三、あくまでも自分は「止めた」という体にし、その責任をマティーニ少佐に押し付け、辞めさせる
これらの動機は自己の保身と嫉妬心からだと本人は供述いるらしいが、実際は裏があるのではないかとの憶測が広がっている。
軍艦か、S4か。その議論が今でも行われているからだ。軍艦は射程が当然S4よりも長く強力であるため数千、数万もの軍艦がひしめく大規模戦闘においては主力である。それに対しS4は機動力があるものの火力が若干弱い。そして装甲や対ビーム膜の範囲も弱いため、まさに諸刃の剣である。
今では「ウェンディエゴ」など戦艦の対ビーム膜を割く程の火力を保有するS4の台頭によってその舵取りを余儀なくされ、その結果、派閥の大きさは逆転していたが、今でも軍艦至上主義のうねりは大きい。もっとも、第二次世界大戦中の日本で、戦艦「大和」の製造費を空母や潜水艦に当てるべきだった、という声も大きいように、戦争というものは常に技術の変化がドラスティックに進み、舵の向きを変更できなかった国や地域は負けていくのが常であった。
「技術が進むから戦争はするべき」などと言う輩もいるが、実際は「せざるを得ない」、だ。決してそれが戦争を行うべき理由にはならないと考えるのは多くの人が思うのだろうが。
そしてミッチは「軍艦至上主義」のうちの一人だった。S4の制作に携わる人間がスパイまがいなことをして、軍上層部にも報告していた。そして、チェルカトーレの工廠はS4よりも軍艦の方に開発の重しを置いていた。全体ではS4,されどチェルカトーレ内部では軍艦が主流。マティーニ少佐は少数派で人数が少なく、通常生産もしつつ開発を行うというハード・ワークだった。そして、決してその功績は彼らのものにはならず、ミッチ一人の成果だった。
そんな彼がS4の制作の功績を上げた、という報を受けた軍艦至上主義の上層部はすぐさま彼に説明を求めたが、答えはこうだった。
「小官は決してS4などという人員の『無駄死に』を強要させる兵器を作って戦艦を排斥する輩ではありません。戦艦主体でのドクトリンを支持していますし、それに加えて数日前に終息したリンガード宙域戦線では、あくまでS4はサブの役割でした。いくら最新鋭機と言っても運用時間は戦艦の五〇分の一です。これでは、戦艦の重要性がなくなることはまずありません。そして、小管はS4を軍艦中心で運用する、そのための管理を『自主的』に行っているまでです。空飛ぶ棺桶は信用には値しません。」
一同は驚いていたという。要は「味方する上に、S4派の方の情報は提供する。されど功績と情報は寄こせ」と言っていたのである。
結局、ミッチは軍上層部とのパイプが繋がったまま、「ウェンディエゴ」の開発の功績の横取りを黙認させることができたのである。最終的に、彼は殺人未遂の罪で予備役、からの免職、そして、その後行方を知る者はキツネを除き軍にはいなかったという。
「まあ、そんなことはどうでもいい。今はカールの救出が先だ。」コールは言った。
「隊長!こんなメッセージがっ!」コールの率いる第二小隊の第一小隊長、ベン中尉が言った。
そのメッセージにはこう書かれていた。
「戦闘はしないで。敵じゃないかも。」
「あの野郎・・・!」コールは罵倒した。それもその筈、せっかくシャトルに乗せた分解可能型ヘリを急ピッチで組み立てたのだから。その中にはRPG(ロケットランチャーの名称)などのいかにも「戦闘」をする気満々な装備ばかりだった。
「また送られてきました!」
「なんだあ?・・・翻訳できた?!嘘だろ!」
コールはもう完全に呆れてしまっていた。自分の作り出した筈のプログラムによって生み出されたこの状況を認識していなかったが、やっとコールは自分が何をしたか気づいた。
「・・・どうなんでしょうか・・・これ・・・。」バーバラは言った。誰もが、本当に参っていた。
「『来るつもりなら彼らにも教えるべきか?今、外交大使みたいな扱いだから・・・。少なくとも、熱中症でぶっ倒れた自分を看病して助けてる人たちなのは確か。』・・・て、面倒くさいな、この状況。」コールはぼやいた。
「ですが大尉、これは恐らく外交的にもいろいろ追及される危険性があるかと。」リンはコールに進言した。第二中隊・第一小隊の半数はここに残り、リンとバーバラは待機だった。当然である。彼らは動かないにしても固定砲台の要員としてとどまらざるを得なかったから。だが、レベッカはここの地理に詳しく(多少マッピングはしていた。)、案内役としてコール達に同行することに決まった。
しかしながら、突入・強行突破の判断は、砂漠に降り立ったオグラ中佐に判断を委ねる訳だが。
「でも、警戒しておいて。あの人たち、『魔法』を使うわ。」
「魔法?!まさか!アハハ!大尉!まさか本気で言っているんじゃないでしょうね?!」リンが心なしに笑ったが、他の皆は黙ったままだった。と言うよりは、「ドン引きしていた」に近いだろう。両方に。
「はは・・・はあ。」流石に空気を読んで笑うこともやめた。
「火の玉・・・火矢じゃなくて?」コールは言った。
「ちゃんとこの目で見たのよ、火の玉だって、あれは。」
「見せかけじゃなくてちゃんと燃えてたか?」
「ええ、火が木の葉に引火して危うく燃えそうに。でも、火矢って九〇度に方向を変えられる物だっけ?」
「・・・大分話が変わって来るぞ。もしカールを明け渡さなかったら当然強硬手段に出るが、彼らは他の『魔法』も使えたりするのか?もしくは超常現象か。・・・フィクションだけのものだと思っていた。火の玉の他に何か変なことがあったか?」コールは続けた。
「半径が一〇メートル以上もの水球を前に話した火を消化するために浮かして落とした位?」
決定的だ。事実、レベッカのボディーカメラに映っていた赤髪の女の杖から火の玉が飛び出したり、両手を上げて水球を呼び出したり、色々えげつない事象が起こっていた。
「・・・本当だった!」リンはおののいていた。
「わぁ、かっこいい・・・。」流石に全員ににらまれたバーバラだった。
「あのねえ、私これで死にかけたの。」
「ところで、一度撃った、と言っていたじゃないですか。もしあれを追及されたらどうなさるんですか。」
バーバラは死線を感じながら言った。これは別にヘイトを別の方向へ誘導させようと意図したものではない。だが、考えて見ても、レベッカは逃げる時、一度だけ撃ったのだ。木に撃ったのだが。それでも、威嚇していた事に変わりない。
「あ、もちろんレベッカ大尉が無事ならそれで何よりですが。」笑いながら言った。さっきの失言もあってか苦笑いだったが。
丁寧さからなのか、それとも演技なのか。それは他の人間にも、ましてバーバラ自身にも分からない。だが、人一倍おだてる才能もあったのは事実だった。
「ええと、カールは拘留されながら現地民と交流して・・・それで別に彼らに敵意は無かったっぽい、それで・・・」司令官のオグラ中佐は本気で迷っていた。
「とにかく合流させればいいじゃないですか。」この時ばかり優柔不断なオグラ中佐に苛立っていた第一中隊長・ジャック・ハーマントン大尉だった。
「一軍人が介入していいものなのだろうか、と考えてしまうよ、これ。」
「もう軍事施設は簡易的ながらも出来ていますし、あと少しで滑走路も出来ます。それに、ここは砂漠ですから『原住民』も近寄りませんし。ならば、いっそ交流させてみてはいかがかと思いますが。第一、何故コールなのです?我々第一小隊に任せないのです?」
「だって、君たちはコロニー内の大規模戦闘のための部隊なのだから。隠密作戦とは違う。エネルギー兵器を空からやたらに撃ったらそれは問題がありすぎる。彼らの支援も得られない。それにしても、人がいるというのも驚きだけどね。」
「全くです。ところで、結局コール達にはどうさせるおつもりで?」
「一回合わせて、それで明け渡すそぶりも無ければ強硬手段で眠らせる。・・・麻酔が彼らにとって毒でないことを祈るけど。」
「分かりました。では、その旨を通信兵や第二中隊の面々にもお伝えします。司令官殿の意向として。」
「あの、質問が多くなるかもしれないけど、司令官に『殿』はつけないでほしい。だって私、そんな柄じゃないでしょ?」
「・・・そうですか。お強いのに・・・。」ムッとしながらジャックは言った。
「まだ根に持っている?」
「当然じゃないですか。」
そう言って、ジャックは基地の司令官室を後にした。空は地球のそれに近い、青色のはずなのだが、夕日が照って赤く染め上げていた。海に近く、赤光が波に溶けていく様はAIが作り出すそれとは大違いなものだった・・・。
レベッカたちは唖然としていた。カールが外に出ているのが、二メートル近い丸太製の柵越しであったのだが、レベッカたちが村の裏山の森の中で隠れている中からでも見えたからだ。
「おい、あいつ、もう動けるのかよ?!」
「・・・看病してもらっていたというのはホントらしいが・・・水とか植物に毒とか入っていたら最悪そっちで死にかねないぞ・・・。」第二中隊の面々は言った。
「何人か人を連れてない?」レベッカは言った。困惑な表情だった。当然であるが、それでも動揺していたことがコールに勘づかれてから、何かきまり悪い気分になった。
「・・・カールの奴、面倒なことをしやがって。いいか、皆。最小のエレキ・ショットに切り替えろ。こっちは人質救助だ。大げさだが、本気でかからないと最悪な状況も想定できる。かと言って、殺してしまえば大問題だ。被害は最小限に抑えろ。三〇秒後、突入する。」淡々とコールは言った。それはもうプロの目つきだった。
そして、森を抜けて、村の外壁にたどり着き、そして外壁の柵をジャンプして飛び越えカールたちに出会った。
今日はこれで切り上げます。読んでくれたら幸いですが、質問がありましたらいくらでも受け付けます。それでは、紅茶やコーヒーでも飲みながら、土曜の午後を楽しんでください。
それでは。




