SCORE4:レゴリス・ダスト Ⅰ
名簿:第三章初登場だったキャラ
・セルゲイ・アレクセーエフ(AK首相。コロニー〈ビクトリアス〉出身。)
・アイン・サントソ(内務相。〈アンバーライト・マム〉出身。)
・レ―・クアン・フィン少佐(ローゼンバーグの副官。コロニー〈ホーチ・モー〉出身。)
・リリアーナ・ダウスン少佐(マーシャル6現副艦長。〈ペレリンダ〉出身。)
・ジャック・ハーマントン大尉(第六大隊・第一中隊長。〈ミシガンベルツ〉出身。※ハートマン(フルメタルジャケットの鬼軍曹)じゃないよ!)
・ベン・ハスレド(第六大隊・第二中隊・第一小隊長。〈ゴールド・イーグル〉出身。)
・カン・アユン大尉(第六〃第三中隊長。〈大東〉出身。)
・ファケロフ・ポポフ中尉(第六〃第四中隊長。〈ペレリンダ〉出身。)
・ミッチ・ハーグレイブ大佐(AK・チェルカトーレ所属技術部顧問。〈パシフィック〉出身。)
・エアスト・マティーニ少佐(AK・チェルカトーレ所属技術部副顧問。〈チェルカトーレ〉。)
・アントニー・サーティス大佐(チェルカトーレ第六連隊長。〈パシフィック〉出身。)
・アデレイド・ムーン准将(情報部機密情報運用課(別名キツネ)・顧問。〈フランクリン〉出身。)
・リーゼロッテ・レザイア少佐(アデレイドの副官。銃の腕は立つ。〈アルセーナ〉出身。)
・ドロシー・ムーン(アデレイドの娘、カールの従妹。カールの記憶の中では元気。)
敵が来ていないというのは非常に幸運と言うべきなのだろう。彼らが酔いつぶれている時に来られたら大変だ。そうなれば、彼らは抵抗する手段も何もなく捕虜となっていたかもしれない。だが、酒を飲んでもいいと、ブリッヂから連絡があってやっと飲んだのだ。勤務時間外だった、という条件もあったが。
いずれにせよ、カールのように無断で飲むほどの度胸は持ち合わせてはいなかった。
しかし、着いたといってもすることはせいぜい整備・点検・通信傍受・索敵、そして簡易的な星の調査だった。宇宙から遠隔小型探査機を使い、気体濃度、温度、毒性の有無(発見されている物質なら、の話)位だ。あと五日という所で、そして手に届きそうな所で、作戦を実行できないというのはかなり歯がゆいものだった。
そして念願の第二陣がその宙域付近に辿り着いて、大量の開拓物資を持ってきたという情報を傍受してからは、待機直前の準備まで行っていたカールたちからは「待ってました」と言わんばかりの大歓声だったという。
「なあ、ところでその『スターピアサー』、本当に大丈夫なものなんだろう・・・?」朝食をとっている最中、コールに聞かれて、レベッカは返答しかねた。
コールは、マティーニ少佐のことを乏しめるようなことは言いたくない。だが、あの「ミッチピッツ」の話を聞く限り、何かミスが生じていたりしてもロールアウト・・・前線に出荷させることをしていてもおかしくは無い。そう思っていた。
「分からない。だけど、外側の部分は丈夫だから。何とかなるわ。」レベッカはライ麦パンの最後の一かけらを飲み込んで言った。
「あまり怖がらせるようなことは言いたくないけどな、どうも引っかかるんだ、ローゼンバーグ准将の言ったことが。」そう言って、コールはコーヒーを飲んだ。
「マクシミリアン少将とミッチ大佐は蜜月だってこと?」カールは意図せずに言った。
「そう!・・・うん?手を組んでいるのと『蜜月』は違うものではないのか?」違和感に気づいたコールだった。
「何でもない。でも、もう一回電子基板のチェックはした方がいいのかな・・・?」
「どのみち、俺たちの方もあまり変わらないけどな。」コールはコーヒーの最後の一滴を飲み干すと、プレートを皿洗い機へと続くベルトコンベアに置いた。
コール達第二中隊は、先行部隊としてカールたちと共にその星―アルファと記号で名づけられたその星に向かうことになっている。
目標地点は海から二キロ離れた砂漠地帯。植物の痕跡はその砂漠地帯にはないものの、内陸へと進んで行けば緑が広がっている。ただ、毒があるかもしれないので、敢えて砂漠地帯を選んだ。第一、空気だって安全か分からないのだ。不明物質という名の毒だって存在する危険性はあるのだ。それに加えて、シャトルやS4の滑走路も欲しい。
それはともかく、未知の惑星に行くというのは危険が伴う。遺書が必要ないとも言い張れない。降下作戦に参加する全員がこれを書くのだった。
当然、カールもこれを書いたのだが、内容がすこぶるひどかった。
「遺言・もし私が本作戦において死んでしまうような間抜けを冒すことになれば、従妹のドロシー・ムーンに遺産を全額引き継がせるものとする。だが、私自身、人と接してまともなことが無かったように、もし地獄の番人からもいつもの如く嫌われて追い出されるようなことになれば、その金額は全額戻って来るものとする。」と書かれてあった。
遺書には普通、家族への感謝や謝罪の文言がよく入ってくるはずなのだが、彼にはそれも無く、あるのは己の侮蔑と楽観視に過ぎなかった。後世の人々がカルロス・パルマという人物を偉大なる歴史人物としてではなく、道化のように扱う理由の一つと言えよう。もっとも、これが明るみに出たのは死後一五〇年が経った時だが。
そして、出撃命令の合図が出され、四人のパイロットは一足早くコックピットへと乗り込んだ。
「よ、先行部隊、頑張れよ。」多くの整備兵が出迎えてくれた。正確にはバーバラに六割、その他に四割。やはり人格だろうか、と心なしにカールはぼやいたが、
「自覚はあるじゃないの。」とレベッカに返された。どうやら無線は四人の間で繋がっていたようだ。
きまり悪くなって、カールは黙り込んでしまった。
「よし、カール。今酒飲んでないよな?パイロットたち。まもなく最終調整に入る。出撃は三〇秒後。いいか?」管制官のドラゴミル・ハイヴィチ中尉はそう言って、滑走路のランプを点灯させた。
「カルロス・パルマ、死なないように頑張ります!」相変わらずの言い方だった。
「全く、大尉は・・・。」リンが呆れたように言った。
「次だよ、リン。」諭すようにバーバラが言うと、分かったの一言で黙ってしまった。
「リン・ゼーラン、発進します!」一筋の光に続くように飛んで行った。
S4乗りたちが続々とアルファに向かって飛んでいく中、第二中隊と資材を載せたシャトルが準備を進めていた。
「そこ!やっぱり調整が終わっていないじゃないか!」
「すみません!あと三分で終わります!」
「口じゃなくて腕を動かせ!」
工兵たちの怒号が飛び交い、コールは若干焦っていた。先導部隊に後れたら、無事に着陸できないではないか。そうなれば、多くの兵が路頭に迷う。もっとも、自分自身が死ぬことは想定に無かったが。
「それでは、発進します!」
「OK!気を付けろよ!」シャトルの操縦士はハイヴィッチ中尉に誘導され、そしてカールたちに続いて行った。
「彼らは大丈夫でしょうか・・・?」ロメロは心配そうにローゼンバーグに言ったが、帰ってきたのは祈るような声だった。
「私だって何かしたいですが、今更できるというものではありません。せいぜい祈るしかないでしょう。もうやることはやったんですから。」内心心配そうにうつむきながら自分自身の手を強く握っていた。
「ミッチ。君は本当によくやってくれた。」
「いえいえ、閣下のご彗眼があってこそ。私など取るに足らぬものです。」
AK・チェルカトーレ軍司令支部にて。マクシミリアン少将の個室でウィスキー片手に二人は勝利の笑みを浮かべていた。
「それにしても驚いたよ。最初に『使える』と偽って電子基板がボロボロの状態の『スターピアサー』をロールアウトにして、彼らを死に追いやり、その責任をマティーニとやらになすり付ける。次に、スズキ准将に全ての作戦立案の責任をなすり付け、開発用具や軍需品を我々の管理下に置く。それがあと一歩で実現すれば、私の懐も潤うという訳だ。返却なんて、改竄すればいくらでも誤魔化せる。あの二人を身代わりに。いやぁ、大したもんだよ、君は。」
少しばかり、記憶が蘇る。
「ダメです!この基盤は終わっています!いっそのこと『ウェンディエゴ』の基盤で代用して活用したほうが事故は起きません!何故です、大佐!」苦渋に満ちた表情で、マティーニ少佐はミッチに言う。
「うるさい!お前は俺の命令に従っていればいいだけの話だ。何故口出しする?!あの『ウェンディエゴ』だって俺が手掛けたんだ!俺の作品だ!」オイル臭い奴の話なんか聞いていられるか。こっちは企業各社との会談で忙しいというのに!
「『私たちの』ものです!第一、あなたは私たちが汗水垂らして開発作業を進めていた時に、どこにいたのです?軍需物資会社の所で酒を飲みながら大した仕事もしないで!週に一度の報告会に申し訳程度で参加して!それで手柄は『自分だけの物』?!それであなたは・・・あんたは仕事した気になっているのか?!何か言ったらどうだ!ああ?!」
ああ、虫唾が走る。こんなカスに何かとやかく言われるとは。こいつごときが俺様に。利用価値はもうない。そして、カルロス・パルマ、とか言った小僧は本当に憎い目をしていた。丁度いい。
「いえいえ。私自身は『廃棄処理』したかっただけなのですから。それが途方も無い程の利益を上げるとは思ってもいませんでした。」
「ところで、君は何か当てがあるのか?マティーニをトカゲの尻尾にしても、彼のおかげで栄達出来たという事実もあるだろうが・・・。」
「その時は、閣下の参謀としてお役に立てたらと存じます。」
ひとしきり大笑いされた後、マクシミリアン少将がうなずいて答えた。
「ああ、構わない。もうそろそろ、『副顧問』の席が空くところだ。ところで、副官は誰がいいか?お前の好きな奴を私の権限内でいくらでも選ばせてやるぞ。」
「本当にこの私に選ばせても?」
「当然だ。第一、その権限は君にある。そいつの同意を得なければの話しだが、この私を通すのであれば、断ればそいつを前線送りだと脅すことだってできる。君が女好きなのは知っているが、毎回シンデリアに行くのは非効率だろう。」
「高くつきますよ?」
「望むところだ。」
そして、アルコールと高笑いが部屋の中を充満していた。
今回も入れるつもりは無かったんだけど・・・
ハートマン・・・スタンリー・キューブリック監督、1987年公開のアメリカ・イギリスによる合作映画「フルメタル・ジャケット」のキャラクター。「鬼軍曹」として有名。なお、下ネタが多いせいかテレビでは深夜帯などに出てくる。ゴールデンタイムにはできるか分からない。
本作はベトナム戦争を題材にした映画だが、「訓練期間」がかなり有名。特にハートマン軍曹を演じるロナルド・リー・アーメイ氏(1944~2018)の演技は圧巻。




