間話3:オグラ中佐の(陽気で愉快な)ブート・キャンプ
驚愕の事実。「未成年飲酒の描写アリ」のタグが付いているのが自分の作品のみだということ。恐らくこれは「ファーストペンギン」と言うものだろうか?
・・・そんなことは別にどうだっていい。しかし分かっていることは一つ。この文章を読んでくれているというのは則ち、「あなた方読者が、一個一個の文章の長さに慣れてきている」のではなかろうか。読んでくれたらありがたい。PCで読んでいる人の割合が殆ど。だが、その方が見やすいという裏付けなのだろう。通勤、通学中に読みたい読者(いたらいいな。いたら、だけど。)向けにスマホ版も作るべきなのだろうか。
長文失礼。では、紅茶やコーヒーやお菓子や、それかお酒を片手に、どうぞ。
コロニー内部の熱帯雨林地帯にて。パワードスーツ内部から、電子音が聞こえてくる。部下からのけたたましい通信音だ。
「隊長!前方約三〇メートル先、熱源反応あり!識別コード、『アン・セーフ』!!武装してます!」
「構わん、撃て!」そして、その「敵」と称された的を射抜く。
「・・・あとどの位続くんですかね・・・?」
「分からん、だが、・・・はぁ、畜生・・・暑いな・・・。」快適とは言えない状態のスーツで、彼らは再び、歩みを進める。
「今回の脱落者は居なさそうね・・・残念。」オグラ中佐は中継地点のテントの中で、モニターを見ながら訓練用の銃の手入れをしていた。
「脱落しないほうがいいのでは?」医療班のスタッフが言う。
「・・・そうね。」当たり前のことを言われて苦笑いするのだった。
コールたち第六大隊は今、「テスト」を行っていた。内容は、コロニーの自然保護区に行って、移動及びゲリラ対応戦を行うというものだった。常に、ランダムで出てくる敵がいると反応するゴーグルを着けながらゲリラ戦を行い、コロニーの内部を円周上に周回するというものである。彼らは腕時計を着けさせられ、オグラ・キョウコ大隊長に全部健康状態を見られている。
もちろん、ずっと見張っているわけにもいかないから、心拍や水分量に異常をきたすと医療班がS4で飛んで来るという仕組みだ。脱落と引き換えだが。
だが、しぶとい彼らにはそんなことを歯牙にもかけなかった。水分補給は脱落しない程度のギリギリラインで行い、「水分を残しておきたい」と「オグラ中佐の『庭』には行きたくない」の狭間でバランスを取っていた。
四八時間後、結局脱落者は居なかった。そして、二四時間の休養の後にテストを再開した。その内容というのは、四つある中隊同士で戦闘を行う実践訓練である。コールが二日酔いで苦しんでいるときに日程が被ってしまったときに行っていたものと同じである。コロニーの外円は軍だけでなく民間人も使う宇宙空間訓練場広場といっても過言ではなかった。その為、日程がずらせなかったのである。
コロニーの外円部分は、LMG(液体金属ガラス)に囲まれてはいるもののスペースがあり、障害物を出現させるスペースもある。税金の無駄だ、という人もいるのだが、これが中等学校生徒の宇宙空間活動の訓練になるということで、有効活用されている。(実際は民間人が活用する方が時間は長い。)
戦闘訓練といっても、実際にビーム弾も使わないうえに、トマホークの棒の部分でパワードスーツ越しに殴るしかない。センサーが作動して当たった判定になり、パワードスーツが物理的に動かなくなるという技術でその問題は解消されたが、遠隔で制御可能ということでハッキングの危険性もあり、実戦用と訓練用では分かれている。
しかしながらパワードスーツ自体は実物と同じ性能を誇っている。低重力下では足が地に着くが、足のボタンを触るとばねが反応する、という仕組みを利用して派手な大ジャンプを行うことだってできる。ただ、それを行うのはデブリ内でのサバイバルの時ぐらいで、戦闘中に使ったらいい的である。
重火器戦・格闘戦・機動戦重視の部隊がそれぞれ同じ条件下で行い、作戦を成功させる度合と味方陣営の生存率で競い合うというものである。
ゲームのように見えるが、実際彼らは今後三ヶ月間の命運を賭けているようなものである。
宇宙空間で訓練を行いつつ自由な時間が少し長い生活をできるか、それとも美人な(オグラ・キョウコは部隊内で割と評判な美人らしい。実態を知る人にとっては優しい悪魔の)大隊長の元、厳しい訓練を受けさせられるか。その二択を迫られたら、最初の頃は後者を選ぶ下心で一杯の「野郎」も居ることだろう。二回目から圧倒的に前者を選ぶが。
悪意という悪意はないが、オグラ中佐はそのことを認識していた。その為か、コロニーでしかできないことも増やしてるとはいえ、圧倒的にコールたちの第二中隊がそれを乗り越えていた。やはり負けている者にはハングリー精神が、勝っている者には脅迫概念がそれぞれ頭の中を占めている証拠といってもよいだろう。
「弾幕薄いぞ!もっと建物の方に集中しろ!」コロニー内部の市街地を想定したグラフィックに彩られた単色ブロックの障害物が、パワードスーツのゴーグルに映る。彼らの第二中隊・第一小隊長のベン・ハスレド中尉が例の戦闘訓練で防衛網を敷き、代わりに同中隊所属、第二・第三小隊が突撃してくる。
勝利条件は、「いかに自分達の防衛ポイントを守り、かつ相手の防衛ポイントを叩けるか」、というもの。四つの中隊どうしてトーナメントで戦う。
「畜生!あの人たち、盾を鋭角にしているから跳ね返ってしまう!ショットガンを使え!撤退だ!」対戦相手の第四中隊の隊長、ファケロフ・ポポフ中尉は悔しい表情で後退を余儀なくされた。
「隊長!背後に!!」ポポフ中尉に言う部下だったが、もう遅かった。コールが直接率いる分隊が奇襲を仕掛けたのだ。
まず彼は、どうやって、が頭に浮かんだ。そして次に、自分の部隊が二方向に囲まれていることを自覚し、別方向への撤退をしようとしたが混乱の一途にあった。
コールのトマホーク(だとそのゴーグルには映っているが実際はただの棒)で二人、三人と次々に死亡、つまり行動不能判定にする。彼らは固まって動けなくなってしまう。喋っても味方には繋がらない。
死人に口なし。そしてコールは怯まずに、牡牛の如く突撃してくる。
「隊長!危ない!」部下の一人が、コールのトマホークから中隊長の頭を守るべく、身を挺してエネルギーライフルの銃身で防いだが、別の第二中隊の兵によって撃ち殺された。
「降伏しろ、でなければ!」コールはいつの間にか、エネルギーライフルに持ち替え、ショットガン・モードの最大出力に設定した。それはパワードスーツの装甲を濃縮プラズマによって金属に直接電子を照射させ破裂させる、ビーム以上に効率が悪く、されど最強のオプションだった。
「もう、これ以上の流血(注:これは訓練です)は不要、という訳ですか。」結局、第四中隊は途中棄権という形になった。
勝ち上がったとしても、一度死んだ人間を使ってはいけない、というルールだった。だが実際はコール達の隊は一二〇人中二人が死亡したのみだった。結局、コール達が勝ってしまった。皆は渋々納得していた。が、オグラ中佐がとんでもないことを言い出した。
「なら大将戦でもする?」パワードスーツ越しに放った明るい声の持ち主は笑顔で答えた。
「特典は何ですか?!」先程コールと戦って負けた中隊長たちは、口をそろえて言った。
「一位の部隊と再戦できる機会を与えます。ただし条件。まず、私と一対一で戦う。一対多でも構わないけど。ウェポンスタイルはライフルやトマホーク、いや、ロケットランチャーも。全部でも構わない。挑戦したい人・・・」最後まで言いかけた時にはもう、聞いてきた連中は静まり返っていた。
戦闘中の彼女を言い表すなら、「歩くコ〇ンドー」とまあ五〇〇年以上昔の安直なネタを使われている。だが、実力は確かだ。
事実、彼女は一七五センチと日本人女性の割には高い方で、銃撃戦・白兵戦共に右に出るものはいない。強いて言うならコールでさえ白兵戦は「五分」というところである。
そして静寂に耐えかねたのか、第一中隊長ジャック・ハーマントン大尉は言った。
「まずは自分からやります。他の二人は尻込みしているようです。」そう言われた二人は言い返そうとしたが事実を的確に言われたせいか返せなかった。
「いい度胸。無謀でもなく臆病でもない位が丁度いい、戦士ならね。じゃあ、始める?」
「はい。」そう言うと、二人はそれぞれ持ち場についた。
先程、ジャックは工兵の人から人間用ガス・スラスターを装備させてもらい、準備は万端だった。彼の選んだ武器は第二次世界大戦後にドイツで設計された短機関銃、ⅯP5のフォルムをモチーフとした対人用マシン・エネルギーガン「BM―20」の訓練仕様整備品である。
かつて実弾が主戦力だった時代では対テロ作戦部隊の標準装備で、小型ビーム兵器が到来するまではかなり重宝されていた。MP5は反動が少なく、有効射程圏内では命中率が高いことで有名である。
その為世界に広く行き渡り、ビーム兵器が主流となっている今でも使用する人が多い名器である。
このMP5を模したBM―20の装弾数は、はるかに多い六五〇発で、装填の回数がかなり減ったものになっている。
第六連隊・第六大隊所属の中隊はそれぞれ個性が特化している部隊である。
第一中隊は小型小銃とガス・スラスターや低重力用ホバークラフトの機動を重視した空中戦(S4が入れないスペースなどの作戦がベース。カールのように「S4だけでいいじゃん」とは言わない。)、第二中隊は軍艦の強襲に、第三・第四中隊はコロニー内部の防衛を重視した部隊、という内訳になっている。
しかしながら、なぜか毎回第二中隊が「任務能力で決めることが目的のテスト」に合格しているのである。それも総合的に他の三部隊よりも上という訳だ。その理由は、彼ら曰はく、
「オグラ大隊長の脅迫概念」だそう。船の中でできることは何でもやり、マーシャル6の艦内のトレーニング・ルームでは、通常勤務の午前六時から午後六時までの一二時間中ほぼずっと占領している。副艦長にとっては他の連中も使うわけで「どうにかならないか」と思う程だったが。
そして、ジャックはたった今、機動戦による訓練(はっきりと言えば「決闘」)を行おうとしていた。装備はガス・スラスターバックパック、BM―20。それに対しオグラ中佐はスコープを申し訳程度で備え付けたエネルギーライフル一丁。そしてマップは遮蔽物の少ない農地状のステージ。塹壕と言えば用水路位で、ただただ機動力がものを言うマップだった。
実際のところ立体部分はそのまま再現できたが、コロニーの外壁がそのままの灰色で、グラフィックはゴーグルが担っていた。
そして、それぞれ持ち場について、始めの合図で双方動き出すのだった。
ジャックは容赦なく空中から襲い掛かった。弾幕といってもいい程の弾の数の照準をオグラにあててほぼ正確に撃った。だが、相手も当然動く。パワードスーツに備え付けられたボディーカメラから、ジャックの重心のブレを見て、右へ左へと避けていく。常人だったら三半規管や空間認識能力がすぐにパンクしそうだが、それが彼女を二五歳で中佐にしていた理由でもあった。
ゴーグルをつけていなかったら、恐らくこの絵面はシュールに見えるだろう。訓練用のエネルギー弾は電気信号を通して光学映像で入ってくるため、ゴーグルを外すと弾は見えなくなってしまう。ジャックが空を飛んで、オグラが回避するその様は傍から見れば狂人の戯れなのだろうか。
この光学映像はバグが起きることは殆どなく、正確性は本物と同じ。逆に言えば、訓練用でできなければ絶対に本物では不可能、という裏付けにもなるが。
それはともかく、彼女は用水路へとたどり着いてしまった。狭いものの人が十分通れる大きさで、ちゃんと銃が撃てる。そして、射撃の名手、オグラ・キョウコの劇場は幕を開けた。
「畜生!入られた!」ジャックは自分のミスを痛感した。弾数がなくなっても弾倉は最大二個接続できる。だから、弾幕が途切れることは無いものの、一番の懸念点は彼女が反撃してくること・・・そう。そして、ジャックはスラスターを右へと最大出力に動かし、急旋回した。
予想通り、撃ってきた。宇宙空間だからどのみちビームの音声が聞こえてくることは無いが、光が見えた。オグラ中佐の銃の元から。エネルギーライフルの欠点は銃口から〇・五秒だけ発光することだった。そのため、ジャックはすぐに対処できた。移動していなかったら間違いなくやられていただろう。
「危ない!本当にどうしてここまで強いのか大隊長は・・・!」第一中隊から緊迫したプレッシャーを感じていたジャックは早くケリを付けたかった。左周りでオグラ中佐に詰め寄って、用水路のラインを弾幕で一掃すべく向かっていった。が、いざ上から確認してみると、いないではないか。一番端の方に移ったのだろうか?わざわざ・・・どうやって?あの人はスラスターを持っていないはず!
「大ジャンプを真横に使った・・・そうか!」トリックを見破れたのは良かった。しかし、用水路の分かれ目へと移動していたオグラを目視できたのは、彼女の銃口から光が出ていた時だった。そして、ビームに当たった判定が出て、彼のスラスターもろともパワードスーツが機能不全に陥り、彼は宙に浮いたまま取り残された。所要時間はたったの一分だった。
「今日は反省会だね。」そう言い残して、彼女は次の二人と対戦しようとした。が、どうも黙ったままだった。
「対戦しないの?」
「「勝ち目がないに決まっているじゃないですか!」」彼らは同じタイミングで叫んだ。
「大ジャンプでどうして人間魚雷をリスクなしでできるんですか?!いくら低重力だからといって、パワードスーツでも頭から打ったら首の骨が折れますよ?!」第三中隊長のカン・アユン大尉が言った。
「いや、肩に衝撃が来るからむしろ安全だよ。それに、・・・いや、いいや。でも、この方法は別に目新しい物でもないけど。」何を言いかけたのかはよく分からなかったが、中佐は言葉を濁してこう言った。
「誰の考案なのですか?」死亡判定の解除を工兵にやってもらい、運動の自由を取り戻したジャックが言った。
「前の隊長かな。かなり奇妙な方法で敵を翻弄していたから。私はそれにあやかっているだけだよ。」彼女は昔を懐かしむように言った。
「名前はなんて言いますか・・・?」再びジャックがこう語ったが、
「今の連隊長って言ったら?」一同は驚きを隠せなかった。その名前はアントニー・サーチェス。
前の「リンガード宙域戦線」にて要塞占領・破壊作戦の第一人者だった。彼はこう呼ばれている。「伝説」と。あくまでオグラ隊長は、これを模倣していたに過ぎなかったのだ。白兵戦において彼の技術力に右に出るものはいない。そう軍の中で呼ばれる程、彼は桁違いだった。
ちょうどその時、オグラ中佐のホワイトスクエアから連絡が入った。
「こちら第六連隊所属、オグラ中佐。・・・はい。・・・・・・はい?・・・え!?・・・あの・・・待って下さい。それってつまり・・・、はい・・・分かりました。それでは。」先程の表情からはとても想像できない沈鬱な雰囲気を醸し出して見せて残念な一言を放った。
「連隊長からの連絡です。全員、心して聞くように。我々チェルカトーレ第六連隊・第六大隊はこれより未確認衛星調査団へと派遣される。よって、この試験の良しあしに関わらず、コロニー外作戦に参加するものとする。なお、この作戦には情報の漏洩防止を条件に拒否権がある。作戦は一五日後。参加するかしないかは二日後までに決めてほしい。」
さらに戸惑いが隠せなかった。さっきの試験や連隊長の話なんて塵芥に等しいものだった。
「未確認衛星とは何でございますか!」第一中隊の一人が言った。
「分かりません。上層と担当部署にしか公表されていないですから。とにかく、私は先程の通信で来た情報は全部言いました。ですので、私にも分からないことなのです。初めて聞いたことですから。」よく見ると、ホワイトスクエアを持つ手は小刻みに震えていた。
「なあ、シャルマ。このことはローゼンバーグ准将からしか伝えられていないよな・・・?」
小声で真後ろに居たニール・シャルマ中尉にコールは問いかけた。
「上層部の考えていることは私にも分かりかねます・・・。ただ、分かっているのは、この不確定の情報がまるで『本当にある』と断定しているように見えることです。もしかしたら、誰かがそれを望んでいるように・・・いや、何でもありません。」
「つまり『本当に星は存在している』として罠にかけよう、というのか?ならばスパイがどこかにいると?」
「あくまでも推測の範疇です。それも陰謀論に近い方の。」
「いずれにせよ、気分の良い物ではないな。俺たちが口出しするものでもなさそうだが。」そう言うと、コールは空を、宇宙を見上げた。真空までわずか4センチ。
そう考えると奇妙なものだった。宇宙の星々は幾つもあるというのに、わざわざこんな星(があると思われる宙域)に固執することに滑稽に覚え始めていた。それと同時に、何とも言えぬ寂寥感に襲われた。
さてさて、今回は長くなりそうだ。
コマンドー・・・「ターミネーター」で有名なアーノルド・シュワルツェネッガーが主演のアクション映画。1985年公開。
日本では、日本語訳が秀逸であるためかネットミームとして定着。ニコニコ動画でも今だにMAD動画が作られるなど、名作としての、いや「カルト的」といっていい程の人気を博している。
筆者は、ターミネーター⇒コマンドーの順である。いずれにせよ、どっちも面白いことは否定しない。
個人的に好きなのは、「面白い奴だな、気に入った。殺すのは最後にしてやる」の部分。その後が・・・まあ、これ以上は言わない。
なぜ、オグラ・キョウコが「歩くコマンドー」呼ばわりされているかって?それは、彼女本来の戦い方がまさに・・・これ以上はこの「ネメシスの空」のネタバレになってしまう。
クラマイ「以上だ。OK?」
オグラ「OK!(ズドン!!)」
第四章、2025年10月22日水曜日公開!!




