SCORE3:ダークネス・パール Ⅳ
さて。今回で一応、第三章はラストだ。
次は「オグラ中佐のブート・キャンプ」。いつもの如く、間話だ。
なお、第四章リリースは来週の水曜日に行う予定だ。
・・・ぶっきらぼうに言うのは柄じゃあないようだ。
「なあ、バーバラ。お前は親に顔を見せに行かないのか?」マーシャル6の格納庫にて、整備中のバーバラに向かって話しかけた。時間は午後九時前だった。
「カール大尉だって、アデレイドさんに顔合わせないじゃないですか。」バーバラはちょっぴりいたずらっぽい笑みを浮かべて返した。
「姐さんの勤務先どこだと思っているんだよ。中央だぞ。」
「今こっちに来ているのでは?」
「でも忙しいんだろうからなあ。」
「あと二〇時間で出航ですから顔を合わせに行けばいいじゃないですか。」
「だからバーバラはどうして行かないのさ。生きているうちに家族の顔を拝んでいた方がいいだろうに。」
「不吉じゃないですか!」二人は大笑いした。話の内容は物騒なものだったが。
「僕はもうあの人に画面越しでもう会っているから。お前は合わなくても良いのか?」
「良いんです。喧嘩中ですから。それに、家族のことを戦闘中なんかに思い出してしまったら嫌ですから。」
「そうか・・・でもな、死んでからじゃ遅いんだ。謝ることだってできやしない。」カールは顔を曇らせて言った。
「まあ、早く寝ることだ。未成年はお酒を飲まず、タバコも吸わず、変なビデオも見ず・・・ええい!何でもない!取りあえず、夜更かしするなよ!忙しくなるからな。」そう言ってカールは去って行った。自分自身はお酒を飲んでいるではないか、とは言わなかった。バーバラでなかったら突っ込まれていただろうに。
そして、チェルカトーレの軍港にて、ほんの少しのセレモニーが行われた後、出航した。
「あんなに時間のかかった航路が数時間で・・・。」最初にカールたちがロメロの船団に会った宙域をものの二〇分で通過し、ワープから通常航行へと移行しようとしたとき、ブリッヂにいたロメロが嘆いていた。
ワープ航路にはデブリが無い状態でなければならない。終点ポイントでぶつかったりめり込んだりするならば、軍艦だろうと破壊されてしまう。故に、そのリスクを防ぐために、外宇宙探索においては通常航行が常だった。だが、「ワープができない」と「ワープをしない」とでは、天と地の差があるが。
正直な話、すぐに着けるのだったらその方が幾分もよかった。死人が出なければ尚更。
「ですが、あなた方の苦労があってこそ、新情報がつかめる、というものでもあります。もし星が実際にあるとしたら、意味はあったかと。」ローゼンバーグ准将は言った。
「あなた方も星を見つけたいのはよく分かります。ですが、見つからなかった時、私は死ぬのでしょう?」ブリッヂに居た全員が青ざめた。ローゼンバーグはロメロに何という約束をしたのか、それも辛辣で肯定のしようもない。
「私が対処するのはあなたがクルーに対して危害を加えようとした時です。あなたがその宙域に誘導した、という証拠もないです。彼らがそこで待ち伏せしているのは彼らの意思です。もっとも、クルーに銃やナイフを突きつけるのは誰でも構わず営倉行きですが。あなたを殺す必要性もない。あるのはパフォーマンスで宣言することくらいです。それにカールたちがいます。・・・信じましょう。」これが本心だった。
「准将。あと三十秒でワープ区域から離脱します。」スズキ中佐が元(おそらく臨時だが)艦長に向かって伝えた。
「奇妙なものだな。元々自分が艦長だった船が旗艦になるなんて。」ローゼンバーグは言った。
「この船は戦艦ぐらいに大きいですから。」
「我々人類が地球に居た頃は、軍艦なんて最大で四〇〇メートルが限界だったからな。今では一五〇〇メートル級の大きさの軍艦が錦を挙げているから、奇妙なものだ。」ローゼンバーグは、船窓から遠くを眺めて言った。
「これも我々が宇宙に進出した結果なのでしょうか。」
「いや、単に上層部の嗜好だったりしてな。」ともあれ、大きさに関係なくワープから通常航行へとスピードが変わるのは事実だった。
数日が経って・・・
「もうそろそろ例の宙域に着くらしいな、カール。」コールがやけに嬉しそうに話しかけた。戦闘狂め。そうカールは思った。
「ああ。まさか予定よりも五日早いとは。軍用と民間用では移動時間に差があることを思い知らされるよ。それにしても、星は実際に存在するのだろうか。正直今になって怪しく思ってしまうね、僕は。」
「あの感じなら、あってもおかしくは無いんじゃないか?少なくとも、ロメロさんの発言がすべて真実なら。」
「あったときのために今、準備しているのか?五日目とはいえあと二日、それでもまだ時間はあるだろう。航行前に既に終わっていたんじゃないのか?」
「何もしない、というのは暇だからな。それも、カールやレベッカはシュミレーション・ルームが使えるからまだいいだろうが、俺たちは備品が限られている。できるとしたらせいぜいポーカーとか筋トレとか、それぐらいだぜ。」
焦る必要はないだろうに、そうカールは思ったが、それでも時間を持て余すことには間違いなかった。
そして別にこれといった事件も何もなく、ただただ時間だけが過ぎ去って行った。
「全員、ディスプレイ又はホワイトスクエアを見るように。」そう発言したのは、他でもないローゼンバーグ准将だった。夜勤明けで眠い目をこすりながら散歩していたカールは、何か面白いものがあるのだろう、と軽い気持ちで開いてみた。
そこには、ロメロがローゼンバーグたちに見せた星がそのまま映し出されているではないか。
「何だ、『これはロメロが提出してきたビデオだ。見つかるか確認してほしい』などの個人レベルでの要請だろう。なら、見つかっていないという訳だ。」一人でボヤいた。第一、今は六日目だ。片道で一二日の予定のはずだろう。おかしくは無いのだろうか。いや、意外とデブリの数が少なかったからか。
実はこの時、カールはお酒を飲んでいた。正常な判断ができなかった、というのもあったのだろう。普通はその情報を確かめる筈だったが、カールは見なかった。それで、廊下からすぐに自室へと進んで行った。周りからとてつもない程の歓声が上がっていたが、それをものともせずに眠りの奥深くへと進んで行った。
「どうしたんだ?みんなやけに嬉しそうで。」やっと起きて来たカールは頭を押さえながら言った。
「まさか寝てたの?噓でしょ?!」レベッカは叫ぶように言った。
「まさか星が見つかったのか?本当に・・・?」
「ええ、それでみんな大騒ぎよ、ほら!」レベッカに連れられて窓の前に立たされた。そして肉眼で認識できるほどの青々とした惑星が堂々と漆黒の暗雲の中を彩っているではないか。
「・・・敵は?」
「いないわ。いるのは私達だけ。」
「それは・・・良かった。」
「何よ、あんた、嬉しくないふりして。」よく見ると、目が座っていた。
「もしかして、みんな今お酒を飲んでいるのか?」
「あんたも飲むの、飲まないの?あたしの酒が飲めないって?」だめだ、完全に酔っている。
「他の連中も見てくるだけだ。」そう言って立ち去った。いつもお酒は遠慮せずに飲む性分なのだが、今回だけは遠慮させてもらう。頭が痛くまだ眠気も冷めていない。申し訳程度で制服の上着部分だけを身に着け、ブリッヂへと進んで行った。
「カルロス・パルマ、入ります。」もちろん、敬礼は欠かせず。
「あなた、ズボンがパジャマのままよ?」副艦長のリリアーナ少佐が違和感を口にした。
「あれ、すみません、一度失礼します。」一〇分後、再びブリッヂへと上がって行ったが、まだ少しだけ笑い声が響いていた。
「出撃はいつになりましょうか、ローゼンバーグ准将。」カールはローゼンバーグに聞いた。
「寝なくても良いのか?随分と夜遅くまでどんちゃん騒ぎをしていたらしいからな。」少し悔しそうな表情でこちらを見つめていた。
「実を言うと、夜勤明けですぐに寝てしまっていたのです。」
そうか、と言うとしばらく考え込んだ。きっとブリッヂにいる人たちは忙しいというのに、パーティーをしていたやつらはなんて薄情者だろう。そして帰ってきた答えというのは、
「皆が起きてから」だそうだ。
ともあれ、チェルカトーレに通信で送って、第二陣が来るまでの時間を計算するとあと五日というところだろう。カールは退出し、廊下をほっつき歩いていると、レベッカが倒れているように眠っていた。その風貌は眠り姫と言った所だが、このまま彼女たちが風邪をひくことになったら、いざ敵が来た時に少数で出撃させられる羽目になる。面倒だ。
「こいつ、自分で移動できないのか?全く・・・。」こいつは眠り姫じゃない、赤い髭のアザラシだ。カールはそう思いながら、まだ生き残っている(正確には『酔いつぶれていない』だが。)人間を部屋に誘導して、未成年のしらふの連中と共に酔いつぶれた連中にブランケットをかぶせてやった。もちろん、艦長達に許可は取ったが。
「あのパイロット、意外といい性格ですね。」ローゼンバーグの副官、フィン少佐は心に思ったことをそのまま口にしたところ、
「「どこが?」」という元艦長と艦長の反論に遭ってしまった。
そして、カールが落下死寸前の所まで追いつめられてしまう出来事は、着々と進んで行った。
カールが堕ちるのが見たいって?
「こっちは愉快じゃあないんだぞ!」本人が言ってら。
いいや!「限界」だッ!押(堕と)すねッ!
「うるせえ黙れ!」ああ、本人に殴られた。スタープラチ・・・これはセーフだろうか。
いいや!「限界」だッ!押すねッ!・・・荒木飛呂彦作、「ジョジョの奇妙な冒険」、第四部に登場する「吉良吉影」のセリフ。ネタバレを防ぐためこれ以上は言わない。
スタープラチナ・・・同作品、第三部の主人公、空条承太郎の「スタンド」の名前。「スタンド」とは大まかに言えば超能力のこと。これ以上は言わない。




