SCORE3:ダークネス・パール Ⅲ
前回が難解だったかもしれないため、ここに概要を書いておきます。
・ミッチ大佐はマティーニ少佐たちの功績を横取りしている。
・ミッチ大佐は勤務時間中に遊び惚けている。
(正確に言えば、軍事物資を提供している会社と「話し合い」の名目で接待を受けているにすぎず、それをはしごしている、という状態。仕事をしていない訳ではない。だが、「軍の部品」などは送ってもらえばいいと考えているマティーニ少佐たちとは方向性が違っていた。また、「シリコン・ヴェイル」は仕事が終わってから。それだけはきちんとルールは守っている。それでも、納期がヤバい状態で遊びに行っていることに何ら変わりはない。)
・ミッチはこのコロニーの司令官、マクシミリアン少将とコネがある。
・マクシミリアン少将は、これは親族のコネで勝ち得た地位である。(虚しい。)
・・・ワロタ。(果たして彼らは『ネメシスの空』における「ワロタ枠」になれるのだろうか?)
「ところで大佐。第六大隊にて、『すべての隊員はこの作戦に参加するように』と言われたのですが、どうも話が飛躍している気がするのです。実際のところ、どうなのでしょうか。」ローゼンバーグが来てから初めてコールが口を開いた。
それは訓練が終わった直後のこと。
「と、いう訳で、テストは終わり。成績が良かったのは第二中隊。他の中隊は同じくコロニー内で訓練・待機という形で。」コロニー外縁部分の訓練広場にて、第二中隊以外の部隊の隊員の不満を受けながら、テストの記録を淡々と言うオグラ中佐だった。
訓練。それは、オグラ大隊長が言うのと他の人間が言うのとでは、重みが違っていた。彼女の訓練は「生きている限り行う」のそれと言ってよかった。実際に死人は出たことは無いが、二四時間、三六五日ずっとデジタルウォッチを付けさせられ、それによって体調を常時記録され、誰が動けるか、動けないかを判断する指標にしていたからである。故に死人は出なかった。ある隊員の証言によると、
「気づいていないうちに一晩でコロニー内の円を一周していた。」
「よく分からないが疲労が感じない。」という感じだという。感覚がマヒしていたといってもよい。
ちょうどその時に、彼女のホワイトスクエアに連絡が入る。
「こちら第六連隊所属、オグラ中佐。・・・はい。・・・・・・はい?・・・え!?・・・あの・・・待って下さい。それってつまり・・・、はい・・・分かりました。それでは。」先程の表情からはとても想像できない沈鬱な雰囲気を醸し出して見せて残念な一言を放った。
「連隊長からの連絡です。全員、心して聞くように。我々チェルカトーレ第六連隊・第六大隊はこれより未確認衛星調査団へと派遣される。よって、この試験の良しあしに関わらず、コロニー外作戦に参加するものとする。なお、この作戦には情報の漏洩防止を条件に拒否権がある。作戦は一五日後。参加するかしないかは二日後までに決めてほしい。」
つまり、訓練の良しあしに関わらず、作戦には参加する、という訳である。
戸惑いが隠せなかった。動揺が辺りを覆う。
「未確認衛星とは何でございますか!」第一中隊の一人が言った。
「分かりません。上層と担当部署にしか公表されていないですから。とにかく、私は先程の通信で来た情報は全部言いました。ですので、私にも分からないことなのです。初めて聞いたことですから。」よく見ると、ホワイトスクエアを持つ手は小刻みに震えていた。
「・・・コールが懸念するのは理解できる。だが、スズキ准将は口外していない。だから、恐らくチェルカトーレの中に別ルートで議員につながっている軍人がいて、そいつが言ったんだろう。そして、そいつはそれを自分の利益になるよう動いた。星が見つかれば、の話だが。」きな臭い。実にきな臭い。
だが、ローゼンバーグには大方予想はついていた。マクシミリアン少将だろう。あれは勤務態度の割に自分の私腹を肥やすために手段を選ばない。チェルカトーレ支部でも噂が広まっているのだ。だが、民間のメディアが鍵つけようとしたが「証拠不十分」、または「軍の機密に入る」として片付けられていた。キツネは何をやっているんだか。
「兵力の空白はどうなさるのですか。」バーバラは言った。純粋な疑問だった。
「問題ない。中央から来るらしい。確か『マーシャル1』などの旗艦が色々と数々の巡洋艦などが補充されるようだ。彼らが探索するわけじゃないが、それは我々がその付近の宙域に慣れているから、と言っている。でもね、彼らが探索ではなく駐屯するだけだというのは、単純に面倒くさいからだと考えるがね。」
決して「死ぬようなことは辺境にお任せ」などの自虐は言うような悪趣味はローゼンバーグには無かった。
そして、不愉快極まる午後のティータイムは、彼らが寝る時でさえ腹の苛立ちは治まらなかった。
「・・・成程。では、ミッチを見張ればいいわけだ。」暗いままの通信室で、カールは女性士官と話していた。
「はい、姐さん。」
「姐さんだなんて、私はあなたの叔母さんだぞ。照れくさいじゃないか。ところでカール、私の部署に来ないか?少なくとも、戦死することは無いし、裏で君の友達のことを守れるんだから、そう悪い話じゃないだろう?」
「・・・まだやり残したものがあるのです。ドロシーの敵を。『グリフォン』を全員倒してからでないと・・・そう易々とやめるわけにはいきません。それに、自分自身でケジメを付けたいのです。」
「ケジメ、か。もうそろそろ五年になるな、ドロシーが起きなくなったのも。」
「僕のせいです。僕があの時一緒に居なかったから・・・。」
「いや、それを言うなら私も同罪だ。不甲斐ないよ、自分でも。でも、もうこれ以上誰かが目の前で死んでいくのが嫌なだけだ。だがな、本当に来る気はないのか・・・?」
「気持ちはありがたいのです。ですが、その気持ちは変わらないのです。」
「そうか。悪かったな。ところで、ヨシユキのやつは今、元気か・・・?」
「元気すぎて僕に対して注意するほどです。」
「どうせまた酒飲んでいたんだろう?」
「・・・違いますよ。」
「でも、どっちも元気だったら何でもいい。あれは私の責任だ。私がトップになる前、あいつが自分で辞めてしまったのは、私がしっかりとしていなかったからだ。あの時は大問題だった。いきなり転向したいと言ってきたんだからな。ショックだったよ、私も、あいつも。でも、今は元気でよかった。」
「それでは。」カールには分かっていた。スズキ中佐が、彼女のことを悪く行ったことは一度たりともなかったことを。
「ああ。さっき言ってたように、ミッチを見張る、で良いんだな。でも何で内部告発されないのだろうか。とりあえず、今回の作戦で死ぬようなことがあったら承知しないからな。」
「はい、失礼しました。」
そう言ってカールはビデオ通話から退出して行った。
「失礼します、閣下。チェルカトーレ行きのシャトルの準備が整いました。」
ビデオ通話を終えたその女性士官に言う、部下のリーゼロッテ・レザイア少佐だった。
「・・・どこまで話を聞いていたんだ。」
「ミッチ大佐への、マティーニ中佐の告発の録音の所です。」
「お前、秘密警察の素質があるぞ。」
「ここはそういう部署では?」
「・・・それにしても、なぜ情報がこっちに来なかった?部下はあのコロニーにもいるというのに・・・。」
「セオドア少将のサボタージュでしょうか。」
「分からない。だが、もし彼がその情報をもみ消すくらいの理由があるなら話は別だ。急がないと。マティーニ少佐が危ない。」
「はい、閣下。」
そして、閣下―アデレイド・ムーンは部下を引き連れてシャトルへと乗り込んで行った。
「どうしたんだ、レベッカ。どうして廊下で突っ立っているんだ?」カフェテリアから出て、艦内を通りがかったコールは、通信室の前で立っていたレベッカを見つけるや否や聞いてみた。
「中佐が来ないように見張っとけって、カールが。」
「また変なことをし出したのか?中で爆竹でも作っていたりして。」
「いや、醸造酒を隠しているんしょ。」
「度胸あるな。」
「ホントそう。」
「誰が隠しているって?」カールが出てきた。
「いや、何でもないわ。」誤魔化し切れるか怪しかった。
「なあ、カール。お前の意見が聞きたい。うちの中隊だけでなく、大隊全部に出撃命令が下されそうなんだ。なんか俺たちの周りだけおかしくないか?本来調査のはずだ。そのうち移住計画まで話が進みそうだぜ。誰かが仕組んだとしか思えない。スパイだと俺は考える。」
「スパイじゃなくて汚職って考えたらどうだ?僕はその方が考えられるね。」
別の可能性が浮かび上がった。あの司令官は縁故採用で、そして親のコネで成り立っているようなものだ。多少の無茶はもみ消せる、そんな立場だ。
「ありえない話じゃないわね。今の司令官は『儲かればいい』で、私たち前線の兵士には興味が無いもの。でも、あの『司令官』にできるのかしら。何でも、代々軍高官のボンボンだもの。度胸があるかどうか。」
「このセリフ、他に聞かれたらやばいよな・・・?」コールは恐る恐る言った。
「『事故死』したくなかったらこの話から手を引くべきだろうな。」カールの発言でその会話は終わった。だが、忘れることは無かった。そして、それは九日たって出航する時になってもなおその思いは変わらなかった。
「遂に明日だ・・・。」神妙な面持ちでスズキ中佐は息を吐くように言った。
「正直、このプランで良いのかどうか・・・。」ローゼンバーグ准将がまた答えた。
そのプランとは、探索の第一陣と、軍事基地開拓用の第二陣と分け、第一陣は未開宙域直前までワープ、そしてデブリが比較的多い外宇宙では、デブリを一掃してワープ航路を確保し、後続の進路の妨げにならないようにするというもの。デブリの量や大きさはそれぞれ。
そしてデータは殆どなく、大航海時代の航海を彷彿とさせるものだった。だが、ロメロの証言と例の輸送船のブラックボックスから航路は再現できる。もしロメロが工作員でなければ、が必要条件ではあるが。
航路日数は計一二日。もっとも、これはあくまで「予想日数」である。ロメロの場合だと通常航行で時間はかかっていたが、幸いこちらは軍艦だ。推進力があった。多くなるか短くなるか。それは、まだ分からなかった。
だが、ここで多くの人が混乱する事態に陥る出来事が起こっていた。そして事はそう単純ではないものになっていった。
マクシミリアン少将が軍部に申し出ていたのだ。
正確にはスズキ准将がゴールド・イーグルを発って一週間が経過し、その入違い様に少将がリモートで申し入れたのだ。
「その宙域はノクタリスの前線区域に近い。もし仮に奴らに勘づかれる事態になれば、例え未開区域だとしても、潰しにかかるはず。そうなれば、我々は足がかりを失う。いや、失うだけならまだいい。問題は、彼らに有効活用されてしまうことだ。」
このように、真っ当なことを口にしていたのだ。正確に言えば、部下に―スズキ准将に作らせたものだった。
ここからは終戦後に「キツネ」から押収したデータだったものだが、一応説明する。スズキ准将(当時)はその原稿を「提案」として書いていたが、准将の「提案」には、
「もし先行部隊の連絡が途絶えるか戦闘が開始される、それ以前に星の存在が確認できないという事態に陥るならば、このプロジェクトを直ちに中止し、必要に応じて救出部隊を送るものとする。それに伴い、必ず開拓用資材及び軍需品は直ちに返還するものとする。」
と、書かれていたが、この部分が改ざんされていたのだ。「プロジェクトが再開されるまで、一度チェルカトーレの倉庫で保管、そして待機。」と。
そして、ここからは会話内容がデータベースからは見事に隠蔽されていたものだったが、退出時間とかみ合わない部分が生じていた。戦後になって初めて明るみに出た氷山の一角だった。どのみち、マクシミリアン少将はしばらく後に「名誉退職」という形で、四〇歳半ばで早めの年金生活を送ることになるが。
だが、ただの汚職事件(未遂)が、大ごとになるには一部の要素が欠けていた。それは、もうしばらくしてから、キツネによって明るみになったことであるが。
どうしてカールとアデレイドの通信がジャミングされないか、だって?
・・・そのうち分かる。
「なんで言わない。」カールが言った。
「4章に被るんだよ、そこは。」
久々登場、「パロディ辞書」。今回は・・・
ワロタ・・・2ちゃんねるにおけるネット・スラング。本来は「モーニング娘」を語る内容のチャット・ルームにて出て来た、「古参」が「新参者」をあおる文章の定型文。
何故か「銀河英雄伝説」のハイドリッヒ・ラングのアスキーアートに言わせていたことから、「ラング=ワロタ」などと言うイメージが定着。ラインスタンプではなんと公式化されている。




