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SCORE3:ダークネス・パール Ⅱ

 コール達第六大隊の「テスト」、これはどうも本編に入れたら講談社の公募に入りきれなさそうなので間話に入れたいと思っています。どうかその所をよろしくお願いします。

 それでも、今日の話は長いです。ですが、頑張って読んでくれたら幸いです。

 それではパート・Ⅱ、午後のお茶のついでにどうぞ。


追記。文量が多いせいか、二重になっているところがございました。修正を入れましたのでどうかよろしくお願いします。

 というのが二週間前にあった出来事。今現在ではマーシャル6へ帰還し、再びローゼンバーグは艦長に戻った。スズキ中佐曰く

「短い平穏が終わってしまった。」だそうだ。他のクルーからしたら逆だろう、とカールは勝手ながらに思った。自分の方が少数派だとは知らずに。


 今、彼らは準備で忙しい。戦争のではなく、例の宙域に対する探索作戦である。人が住んでいるかどうかはさておき、生物がいるということは事実。水源があり、うっすらと緑やオレンジも見えていた。恒星による光の反射などではなく、誰かがそこに居るという裏付けなのかもしれない。


 実際に星があるという保証は今のところなく、ロメロがスパイで罠だという可能性もある。しかしながら、その映像が本物だとしたら、ノクタリスの手に易々渡すわけにもいかない。大佐自身ではその件に手に負えなくなり、防衛責任「副顧問」たるスズキ・ソウマ准将に相談したのだった。


 星が在るとされる宙域からチェルカトーレまでわずか四・九光年の距離である。

 その調査のため、ローゼンバーグはそのための船団を率いることになった。巡洋艦と言っても戦艦と大きさは変わらない「空母型大型巡洋艦」などという、「巡洋艦とは?」と疑問に思う人も多数いるだろう。

 それはともかく、今回はチェルカトーレ・第六艦隊の兵力のおよそ二〇分の一である五〇隻を率いることになったため、ローゼンバーグ大佐を臨時准将に、マーシャル6を旗艦とした調査艦隊を率いることになった。それと同時に、ローゼンバーグはその船団のトップに就任したため、スズキ中佐にマーシャル6の事務的な仕事を全て一任することになっていた。


 つまり、結果的にスズキ中佐は艦長に、ローゼンバーグは艦隊指揮官になったのである。


 この人事の影響で、スズキ新艦長の補佐を担当する副艦長にはリリアーナ・ダウスン少佐を、ローゼンバーグにはレ―・クアン・フィン少佐を副官に充てることになったという。どちらもジョークが嫌いじゃない性格の持ち主だったので、ローゼンバーグやカールの皮肉にはついていけるスペックはある(スズキ中佐よりは)。

 いずれにせよ、この船旅が賑やかなものとなるのは想像に難くなかった。




 予定の日まで一〇日近くなった日の、勤務明けの午後のこと。バーバラとリンが不機嫌そうに、カフェテリアで互いに椅子に座って黙り込み、肩ひじを付きながらコーヒーをスプーンで回していた。彼らは別に不仲だという訳ではない。ただ、今日ばかりは期限が悪い。


「どうしたんだ、不景気な顔をして・・・。」コールが「テスト」を終えて、二人の前にやって来た。そう、あの「笑顔な鬼教官」の訓練をクリアできたのだ。

 ちなみに本人に言わせれば「睡眠不足、疲労、笑顔、これらすべてが詰まっている」だそうだ。

「実を言うと、こんなことがあったんです。」珍しくバーバラが怒りながら話すのだった。



 それは、その日の午前11時の事・・・。


「すごいぜ、この機体は・・・!」S4の工廠にて、カールはまるで少年のように心を躍らせていた。一八歳とは言え、本来なら他の同世代の連中とバカ騒ぎでもしているような年代である。


 彼は一四歳から士官学校に飛び級で入ったとはいえ、そういった機会に巡り合えることはあまりなかった。強いて言うなら、彼にとって友と呼べるのはレベッカやコール、バーバラ、リンとあとはスズキ中佐位だった。彼がただ周りから浮いていたのではない。突出して浮いていただけである。

 ただ、彼自身、感謝はしている。もし彼らに巡り合えなかったら自分は今頃どうなっていただろうか。「名誉な戦死」でもしていたのだろうか。その時、カールはそう思っていた。


「はしゃぎすぎですよ、大尉。」リンが止めに入ろうとしたが、焼け石に水の如く興奮は止まるものではなかった。

「だって、『ウェンディエゴ』の次世代機で、しかもこいつは大気圏突入可能仕様ときた。それに、乗るのは僕たちなんだから。」カールは言った。

「言っても聞かないのがカールよ。」レベッカがいつものように呟いた。


 カルロス・パルマ、レベッカ・フリート、バーバラ・ミュラー、リン・ゼーランら四人はチェルカトーレの戦闘艇部隊の中で群を抜いて秀でていた。そのためか、今回の降下作戦(罠かもしれないから戦闘も考慮)にて開発途中の「スターピアサー」に登場することになっていた。そのための工廠視察である。


「何だい、君たちは。ああ、そうか。君たちは確かローゼンバーグさんからのお使いで来たんだったな。初めまして、私はエアスト・マティーニ少佐。チェルカトーレ所属技術部副顧問で、このS4の設計を担当している者です。とりあえずよろしく。」

 奥からやって来て、そう言って手を差し伸べた人物は、作業服がオイルまみれだったがしっかりと少佐を名乗っていた。コール位か、いやそれ以上に長身の人物は三〇歳から四〇歳の間という所か。


 少佐の階級を見た途端、彼らはすぐに右手でおでこを若干付けるように敬礼した。よく見ると、階級章は茶色がかったオイルに三割方染められていた。そして、工兵の制服の格好をしていた。

「ああ、これか。こっちの方が動きやすいからね、制服より。階級章は・・・黙っていてほしい。」


「はい。・・・ええと、第六戦闘艇部隊・マーシャル6所属、レベッカ・フリート大尉。」正直、この人の行動が読めない。なぜ少佐の階級の人が、そして設計の人がこんな所で。とりあえず、動揺していることが悟られないように形式はしっかりしなくては。

「同じくマーシャル6所属、カルロス・パルマ大尉。」

「同じく・・・」リンが言いかけたところ、少佐は静止した。

「あー、なんていうか、その。リン君、でもう一人の君がバーバラ君。君たちの情報はデータで伺っている。確か君たち全員はここに来るのは初めてだったと聞くけれど、問題なかったかい?」そう言って一人一人握手した。


「こんにちは、マティーニ少佐。初めまして。」バーバラが礼儀よく答えた。

「君たちは『降下作戦』に参加する予定らしいね。もし万事うまくいけば、の話だけど。」

「はい。」リンが答えた。


「この『スターピアサー』、何というか、その・・・。『ジャガー』のフレームの成分をそのまま採用しているんだ。大気圏降下用の使い捨てのグライダーの底部分に。」

「再現できたのですか。」カールが目を輝かせながら言った。ここは遊園地ではないのに、そう他の同僚からは思われていたが。

「かなり大変な作業だった。ここの皆の活躍がなかったらできなかったことだけど。」マティーニは謙遜していたが、カールは少しおかしなことに気が付いた。


 ミッチ・ハーグレイブ大佐がこの素材をを「改良した」と自分で語っていたのを五日前にニュースで見ていたのだ。彼はチェルカトーレ所属技術部顧問という肩書を名乗っており、その時に名前に載っていたのは彼一人。

 まるで「すべてのアイデアを自分一人で作った」と言わんばかりの感じだった。いや、大学の研究チームだって研究所のトップが何らかの勲章を受け取っていたりするものだ。だが、少し違和感があった。


「失礼ながらお聞きしたいことがございます。ミッチ・ハーグレイブ大佐は今日、居ないのですか・・・?」カールはこれを一回聞いてみた。他の三人は血の気が引いた。マティーニ少佐の表情が冷たくなったからだ。カールは言ったことに後悔した。


「毎回来ませんよ、あの人は。きっと『シリコン・ヴェイル』にでも行っているんじゃないでしょうか。それで、できた時には『自分の手柄』と言わんばかりに発表するのですから・・・ウェンディエゴの時だって・・・フフフ。」

 その声には憎悪の笑みがこもり、今にも誰かを殴り倒しそうな雰囲気を醸し出していた。地雷だった。もうこれ以上言わせまいと、リンはカールの口元を強く押さえつけた。


「少佐が全部制作したのですか?!凄い・・・!」バーバラは目を輝かせて言った。こういう時にそのスキルは重宝する、本当に。雰囲気がまだましになった気がした。先程の険悪な表情は収まっていた。

「『ウェンディエゴ』もですか?!」リンが言った。


「自分だけの手柄じゃないけどね。みんな頑張った。そう、人手不足で自分がバーナー片手に試作機を制作しているときは本当に楽しいですよ。みんなが『ハッピー』になれますから。」

「ハッピー・・・。」レベッカはそれ以降絶句してしまった。よく見ると目には少しクマができていた。遠くからなら分からない程だったが。


「上には報告しないのですか?」リンが言った。カールの口元をずっと抑えつけたまま。

「無理な話だ。セオドア・マクシミリアン少将がバックについているからね。あの人は『お気に入り』なのだから。大抵のことはもみ消されるのが常だ。」お労しい様に感じた。

 その後、スターピアサーの説明を聞いていたが、カールは嫌な予感がしていた。それはレベッカも同じだった。


「なあ、導火線。この機体、やっぱりどう思う・・・?」カールは、調整途中の「スターピアサー」を見ながらレベッカに話しかけた。

「導火線じゃなくて名前で読んだら教えてやるわ。」

「分かった、分かった。レベッカ、これはやっぱり前線で使えると思うか?」

「大気圏突入仕様だから、機動性は若干鈍いかもね。アームは上部分。だからアームの機動範囲が制限されるわ。どのみち、鈍いのは大気圏に突入するための分厚い装甲が下部分にあるから、だけど。」


「取り外せば問題はなさそうだが、やっぱり動かして体験しないとコツを掴め無さそうだろうな。突入するときは実際どうなのだろうか・・・。」

「三〇〇年近く人類は地球に戻っていないから・・・まずいわよ。それにあの星は多分地球と同じ条件じゃない。」

「ああ、まずい。ノウハウがあまりない。面倒なことになりそうだ。」二人は同じ結論に達していた。


 人類が地球を見捨てて五百年。その間、別の星への移住がまだ活発だった時代。だが、今まで移住できなかった理由がいくつかある。その一つが大気圏突入時における、「熱圏の厚さの違い」である。重力・大気組成・恒星活動で大きく変わるため、地球の耐熱技術がそのまま通用する保証は無かった。

 装甲を厚くしたところで、今度は熱疲労などの問題も重なるため、事はそう単純ではなかった。

 これがコロニー中心での生活へと繋がっていった経緯でもある。




「それでは、一週間後、『スターピアサー』の輸送を行いますのでその時は。」担当者と思われる軍属はそう告げて、少佐は再びこう言った。

「うまくいけば、の話だ。もし仮に敵に遭遇したら構わずウェンディエゴに乗ることを勧めるよ。資料や説明からも分かる通り、アームの稼働域がかなり制限されているからね。それとまだ基盤の耐久チェックが終わっていない。あと数日はかかるだろう。」


「はい、ありがとうございます。」礼儀を欠かさずに四人は退出した。

 丁度その時、ミッチ大佐が入れ違いざまにやって来た。他を見下すような気分を感じ取ったが敬礼はしなくてはならない。


「ほう、あんたらが例のパイロットか。」四人のことをじろじろ見ては、大佐は続けてこう言った。

「さぞかし優遇されてるものだ。どんな色仕掛けを使ったか知らないが、調子に乗るなよ。」ミッチ大佐は大きな面で不機嫌を露わにしていた。

 レベッカやバーバラは三つ以上階級が離れていたものの、この時ばかりは嫌気がさした。全員は敬礼の手を既に下ろしていた。


「他の前線勤務の面々も大変だろうに、こんなところで時間を食うのはもったいないとは思わないのか?教育がなっていないな、ローゼンバーグのドイツ野郎は。」五分にも及んだ罵詈雑言の数々は、この大佐への認識を更に悪くするものだった。

「俺たちが居なきゃ死んでたくせに」声には出さずリンは言った。その手のすぐ近くにはポケットの下に収納しているブラスターがあった。


「大佐は日々精進なさっているようで。」カールは皮肉を込めて言った。

「当たり前だろう。試作機は()()手掛けているんだからな。調子に乗るなよ、青二才風情が。せいぜいママのミルクでも飲んでな。」ミルクでなく酒臭い息を吐きながらカールに向かって言ってやった。

 そして、去って行った。リンの殺気におじけづいたのか、ただ言い飽きたのか。

「何なのよ、アイツ・・・!」レベッカが言いかけたが、リンが静止した。

「聞かれてます、多分。」バーバラの一言で、もうみんな黙っていた。




「そりゃあ、怒るよ。」コールは思った。ここまでひどいとは思っていなかった。

「・・・なんだ、盛り上がっているじゃあないか。」ローゼンバーグ准将・・・人呼んで「提督」、と呼ばれる立場にあったこの将官は、話に入りこんできた。

 リンは先程コールに説明したことを再び説明する。


「ミッチの奴・・・?ああ。あいつか。実は同期でね。」

「同期・・・ですか?」ローゼンバーグの返答にリン、いやその他も静まり返った。

「あいつは『豚野郎』なんて呼ばれてたっけ。もしくは『ミッチピッツ』か。まあ、酷い奴だったよ。幼年学校の下級生の金を強制的に奪って上級生に笑顔で『上納』する奴だった。おっと、顔をしかめないでくれ、別に下ネタを言ったんじゃない。お金をだ。お金を。」


 リンとバーバラは「上納」を別の意味に捉えていたから、不快に思っていた。

「要するに、上に取り立てられるのがうまいんだ。マクシミリアン少将に取り入ってからはその傾向がある。困ったもんだ。内部告発ももみ消されてしまうから、どうしようもないのさ。『キツネ』は何をやっているのやら。」そう言ってコーヒーを注いだ。

 

 だが、ローゼンバーグの口の中はとっくに苦かった。まるで焼き目がとてつもない程にまでになっているパンを頬張ったかのように。

恐らくこのような質問があるかもしれない。

Q、どうしてミッチ・ハーグレイブ大佐は、勤務時間中に遊びに行けるの?内部通告はできないの?

そしたら、私はこう答える。

A、内部通告しようにも中央に情報を伝えないようにすることができるため、何度も中央に内部告発文書を送ったマティーニ少佐自身も、「無意味」だと言っている。

 少なくともコロニー内部の情報を管理できるのはマクシミリアン少将で、ミッチは彼と癒着している。「コバンザメ」が一番分かりやすい例えかもしれない。

 ずいぶんごり押しな方法かもしれないが、情報統制はかなり有効な手段だ。もっとも、ミッチは「渉外活動」と称しかなり終わっていることをしているが、・・・それもまた後程。

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