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間話2:闇に葬られたデータ

今回はギャグ(だと自分だけしか思っていないとしてもやはりギャグ)回。

 ロメロとローゼンバーグとスズキ親子が「リンゴ」について話し合っている時のこと。


「構わない。どのみち君も参加せざるを得なくなるだろう、このプロジェクトに。だから、これは前払いだ。後日、もし仮に予算が下りて、その日程が決まったらぜひ我々の元で働かないか?」


 ここまでは公文書には記載されている内容と同じだった。ただ、意図的に削除されてしまっていたものもある。これはあくまで噂レベルでしか浸透してはいないが、その火蓋を意図せず最初に切ったのは中佐だった。


「というよりもう八時じゃないですか!大佐!リミットすぎています!」時計を見て中佐が慌ててこう言った。

「なんと!」と大佐。

「大佐が一ダース買うんですよ?!」

「いつからそんな話になった?!」

「なんでいつもいつも私にとって関係もない子どもに自分の給料使ってお菓子を与えなきゃいけないんです?!」

「決まっている!未来の投票者のためだ!」

「私が金出しているんですよ!いつもいつも!」


 カール並みにくだらない会話内容で、「どっちが変人だよ」とロメロは思った。決して口には出さなかったが。

「おいおい、ヨシユキ、ローゼンバーグ。外でやってくれ。ロメロ君が困ってる。というか、俺自身も困る。もう話し合いは終わったってことで良いんだろうな・・・?」


「証拠の録音はあるんですからね!私のホワイトスクエアに!今時部下に強制で物を奢らせるなんて!五〇〇年前の地球圏にあった悪しき風習をなんで再現するんです?!パワハラですパワハラ!」

「パワハラじゃないだろ!」

「パワハラです!」


「うるさい二人とも!・・・どうしてここまで変人に育ってしまったのか・・・ヨシユキの教育をミスったか・・・ローゼンバーグの部下教育も・・・ああ。実に嘆かわしい・・・」

「「あんたに言われたくは無いね!」」二人が言った。ナイスタイミング。

「俺准将だぞ?!」

「「うるせえ!」」紳士の面影はもう消え失せていた。


「何事ですか?!」部屋の外に待機していた護衛の人が銃を持って入ってきたのを見て、やっと我に返った。


「・・・で、ローゼンバーグ。どうして息子に色々買わせるんだい?」落ち着き払って准将は言った。

「酷いじゃないですか・・・准将だって私が副官の時、『シンデリア』の代金を『妻にバレそうでまずいから頼む!』とか言って百枚近くのレシートを私に払わせたのは何でしたっけ?あれで妻にめっぽう怒られた記憶があるのですが。まだ全額は返されていませんよ!」第二ラウンド。


「卑怯だぞ!今更そんな事を!」変な店に良く行きつけている張本人が口を開いては、その事実を否定した。

「嘘だろ!」もう公で「父親」という単語を使うことを意識できないような情報だった。

「あの・・・もう帰れるんじゃないのですか・・・?」ロメロが言ったが、三すくみでの口論の真っ最中で聞き入れてもらえなかった。変態、奇人、堅物。これらによる怪獣映画のような言葉の暴れ具合はすさまじかった。



 結局、退出できたのは午後八時三〇分になってからだった。

 護衛が恐る恐る言った。

「あれは一体何の時間だったのでしょうか・・・?」

「嵐さ。」准将はそう言うと、先程のグラビア誌を読み直した。

「そうですか・・・。」そう言うと、護衛の彼は退出して行った。

 これは後に、「チェルカトーレ三銃士」と軍の内部から陰で揶揄されてしまう要因になったエピソードでもあった。なお、その噂を広めたのはその時の護衛で、酒に酔った勢いで同僚に話したことがきっかけだったが。

 ふと、准将は思い出してこう言った。

「お土産何買ってこようかなあ。」陰で何を言われるのかも知らず、呑気な准将だった。




 結局、あの口論で勝ったのはスズキ中佐の方だった。別にそこまで高い金額ではなかったものの、准将に今までの恨みつらみ(?)を果たせて満足したのと、普通に中佐はその後すぐに艦長代理として勤務に戻らなければならなかったから、大佐が全部自腹で買ったのだった。


「では、また明日伺いますので、よろしくお願いします。」そう言うと大佐は、本部へ戻ってマーシャル6で荷物を整理するために、タクシーを使って戻って行った。




 ロメロ夫妻と別れ、再びマーシャル6の艦長室へと向かった。そして休む間もなく荷物を整理し、そこまで大きくないキャリーケースの中に着替えや歯磨きなどを詰め込む。

 ふと、机の写真に目を向ける。家族の写真だ。妻と3歳の娘、そしてローゼンバーグの。

「・・・」写真の面を下に向けた。まるで、自分の腫れものに当たるかのように。彼女らのこの笑顔は、もうとっくに自分には苦痛になっていた。


 久しぶりに見た気がする。家庭としての、あの暖かい雰囲気を。今の私には、拭いきれない後悔と、そしてわが身では償いきれない罪がある。家族を見捨てた罪だ。あの時、軍を辞めてどこか遠い中立のコロニーへと引っ越していれば。そうしていれば、今頃は・・・。

 いや、戦争さえ起きなかったら・・・。

 ローゼンバーグの脳内に、ふと蘇る。

「痛みを知る者が戦争をする人間に回るな!」

 ・・・全く、我ながら皮肉なものだ。そう思って、彼はキャリーケースを運びながら艦長室を後にした。


「お、スズキ君じゃないか。どうした、こんなところで。」カフェテリアで食事をしていたスズキ中佐とばったり出会った。

「それは、食事をしていたからですよ。」箸を置いて敬礼していたスズキ中佐だった。

 中佐は手を横に下ろす。

「そりゃそうだ。」実に他愛ない会話だ。

「まあ、これから首都に行くが、取りあえず、カールには気を付けろよ。」

「分かっています。」さっきまで問題があったことは言うべきか、言わないべきか。

 そして、ローゼンバーグは自分の船を後にした。

 え?「ギャグ回のくせしてギャグのままで終わせてくれない」だって?

・・・事実だ。


次は2025年10月14日(火)になりそうです。

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