9話「相思相愛」
カナミさんとカノンさんが喧嘩しました。
今日一日、カナミさんは何度もカノンさんに話しかけてましたが、その度に『近付かないでって言ったでしょ!?』と、距離を取られてしまいます。
一体何があったんだろ…。カノンさんがあんなに感情出してるとこ初めて見た…。
「――ダメだヅッキー。カノカノから聞き出すの無理だぜ。なーんにも言ってくれない。」
「やっぱり?じゃあカナミさんが落ち着くの待つしかないか…。」
とはいえ…。カナミさん、私の血を最初に吸ってきたあの日以来の大泣きなんだよな…。コトハさんが慰めを試みておられますが効果はあんまりだし…。見てるだけなのにこっちも苦しくなってくる気がするよ…。…ヤバいなんか泣きそう…!
「…カナミン。こういうものは早めに解決しないと、後を引いて一生ものになるからさ。苦しくなくなって忘れちゃう前、一番苦しい今の内に解決したいんだ。だから、今だけ苦しいのは我慢して、頑張って話してみて?部分部分でも、綺麗に話せなくても、私たちならちゃんと伝わるから。」
ソラさんの言葉もあって、泣きながらではあるけどカナミさんは少しずつでも話してくれました。
要約すると、昨日は二人が友達になれた日以来初めてのカノンさんのお休みの日で、カナミさんは勇気を出してカノンさんに『一緒に試験勉強しませんか?』と誘った。カノンさんはOKしてくれて、放課後に二人で期末試験に向けての勉強をしてたんだけど…。…で。カノンさんは怒って出て行った。ということらしいです。
いやごめん。意味分からないですよね…。『なんでカノンさんは怒ったの?』って話、私も全然分からなくて…。っていうかカナミさん、そこは教えてくれなくて…。なんか勉強してる時に“なにか”をしてしまったらしいんだけど、それがなんなのかは話したくないみたいなんだよね。どうしたものか…。
放課後になっても、結局カナミさんは話さずに帰っちゃいました。
「――ヅッキーどうする…?『“ぶふぉー”』のピンチだぜ…。」
「トイトさんどうしよう…?あと『“ぶふぉー”』って何…?…あ、『Best Friend Operation』の略で『BFO』か。読み方だけ変えてほしいな…。」
「コトハ、パス。」
「えっと……どういうことなのかな…?」
あー、そうか。コトハさんには『ベストフレンド大作戦』のこと説明してなかったか。
「――なるほど。みんなでそんなことしてたんだ。」
「してたんだよコトハさん。それでその『BFO』で一応成功して、カナミさんとカノンさんをくっつけられたんだけど…。」
「『BFO』で決まりなんだ…。…じゃなくて。まだ仲良くなったばかりなのに喧嘩しちゃったんだ…。理由はやっぱりみんなにも分からないの?」
分からないんですよねぇ…。
「カナミさんがカノンさんに“なんかしちゃった”って感じっぽいよね?」
「だよね。…トイッチ、どう思う?」
「私に聞かれても答えられん。」
「だよねー…。」
うーん…。…いや待った。
「あの二人って、喧嘩するほど仲良くないと思いませんか…?」
「言うねー。つまりヅッキーは、カナミンは“喧嘩”って言ってるけど“実は喧嘩じゃないんじゃないか”って考えてるワケだ?」
「そう!そういうこと!…どうですかこの推理は?」
「素晴らしいと思う!」
「え、ほんとに!?」
「うんマジマジ。じゃ、ヅッキーを『BFO』のリーダーにするってことで、今日は解散!なんかあったら命令してくれリーダー!じゃ!」
ソラさん帰った…!
「じゃ、リーダー後は頑張って。」
トイトさんも帰った…!
「私も『BFO』に入れてもらおうかな。いい?リーダーさん。」
「もちろんです!助かります!」
コトハさんは帰らない…!女神様は帰らない…!
…まぁ多分、ソラさんとトイトさんはカノンさんの方行ったんでしょ。私がカノンさんの方行けるわけないし、私はカナミさんに行くと踏んで。トイトさんは多分ソラさんの手伝いで、これで丁度2:2に分かれたわけだ。
「それでヅキちゃん。これからどうする予定なの?」
「えっと、とりあえずカナミさんの家に行って、喧嘩…かどうかは分からないかもしれないけど、それの原因をなんとか教えてもらって――。」
待てチヅキ…!原因が“吸血鬼関連”だったらどうするんだ…!?ていうか原因だけ話してくれなかったのそれが理由っぽくない…?ヤバい…!それならコトハさんを連れて行くわけにはいかない…!カナミさんが隠したいなら私も隠したいし、どうにかコトハさんを引き剥がさなければ…!
「…どうしたの?ヅキちゃん。行かないの?」
「…やっぱり、今日はやめとこうかなー!」
「カナミちゃんのとこ、行かないの?」
「うん!行かない!コトハさんも帰っていいよ!」
頼むコトハさん、先に一人で帰ってください…!明日絶対お詫びに何かするから…!
「……一人で行くの?私はお邪魔――…だよね…!みんなのことなのに、勝手に入っていっちゃってわがままだよね。」
え。いや、そういうことでは。
「私、もう帰るね。もうわがまま言わないから大丈夫だよ。ばいばいヅキちゃん。」
帰った…。帰ってくれた…。…なんか…いやでもカナミさんが…いやでもコトハさん…いやでもカナミさん…。……どうしよう…。カナミさん…コトハさん…。カナミさん、コトハさん、カナミさんコトハさんカナミさんコトハさんどうしよう!?
引き止めるか!?いやでもカナミさんの秘密を知られるわけには…。しかしコトハさんに誤解を…。……いや考えるなチヅキ。どうせ考えたって気の利く言葉は思い浮かばないんだ。言葉より行動!人付き合いは会話だけじゃないんだから!
「コトハさん待って――!!」
私は廊下を進んで行くコトハさんの腕を掴んで引き止めた。
「どうしたの?」
「コトハさん聞いて!」
「うん。聞いてるよ。」
「私、コトハさんのことマジで好き!」
「……!?」
「コトハさんが話しかけてくれたから友達できたんだし、コトハさんを邪魔とかわがままとか思ってないから!ていうかわがまま言ってるのは私の方だから!」
「ヅキちゃんがわがままなんて…。」
「でも今日だけ!今日だけ私のわがまま聞いてください!お願いします…!」
頭を下げて、コトハさんの返答を待つ。
「…“わがまま”っていうのは、“カナミちゃんのところには一人で行きたい”っていうこと?」
「そうです…!決してコトハさんがお邪魔というわけではないんです…!ただ、今回は私を信じてお任せしてくれますか…?」
「もちろんだよ。それに、私に頭を下げたりなんてしなくていいんだよ?」
「分かりました上げます!」
「…えっと、ヅキちゃん。」
「はい!」
「私、応援してる。頑張って!」
「はい!頑張ります!」
よし、コトハさんの誤解は解いた。ほんとにごめんコトハさん。いっつもいっつも私、コトハさんに甘えてばっかでよくないよね…。決めた!もう甘えない!逆に私がコトハさんに甘えられるのを目指そう!よしそうしよう!
そしたら。それじゃあ、カナミさんの家に行ってもう一度話を聞いてみよう。みんながいるところじゃ話せなくても、私と一対一なら話してくれるかもしれないし。
というわけで、コトハさんと別れてカナミさんの家まで来ました。ぴんぽ~ん!
『はい…。』
「カナミさん今いい?」
『ちょっと待ってて…。すぐ開けるねチヅキちゃん…。』
さて。まぁまぁ久しぶりに、カナミさんの部屋に私は座っているわけですが、話してくれるかな…?コトハさんを作戦から降ろしておいてなんだけど、吸血鬼関連が原因だと私にはどうしようもないんだよな…。そもそも、それで私以外の仲良い友達を作ろうってことだったんだし…。
「カナミさん。」
「うん…。」
「カノンさんに何をしたのか話してくれる?」
「うん…。」
「…吸血鬼関連?」
「…うん…。」
マズい…。もう解決できなさそう…。諦めるわけはないんだけどさ…。吸血鬼は吸血鬼で、人間は人間で、それはもうどうしようもないことだから…。…いやまぁ、そうだね。話を聞いてから考えようか。
「……私、カノンちゃんの血を吸おうとしちゃって…。無理矢理…。それで顔をはたかれて、正気に戻れたんだけど…。…カノンちゃんに怖い思いさせちゃった…。」
…どうしよう…。いやほんと、どうしよう…。
カノンさんはカナミさんが吸血鬼だと知って、それで…。…でも仕方ないよ…。吸血鬼なんだもん…。…どうしようかな…これ…。
「“そっち”になったってこと…?」
「それが分からなくて…。血を吸ったのは観覧車でのチヅキちゃんが最後で、吸血欲求なんてそれ以来一度も感じなかったんだけど、昨日急に吸いたくなって…。…多分…なんだけど、私“そっち”に近付いてる…と思うんだ…。」
中学までの私と同じ感じなのかな。楽だからだんだん“そっち”でいることが増えて、元の自分でいることがなくなっていって…。っていう感じ。
「…私のことはそのままで噛めたじゃん?今って、人を噛めるようになったってことではない感じ?」
「どうだろ…。一度はできたから、チヅキちゃんなら噛める気がするけど…他の人は無理だと思う…。カノンちゃんも…。」
「“でも昨日は噛めた”…と?」
「そうなの…。それが不思議で…。」
いや不思議すぎる…!全っ然分かんね~…!
うーん…。…私が思うに、カナミさんは本来、普通に人を噛んで血を吸えるんだと思う。ただ普段は“噛みたい”とか“血を吸いたい”とか思うことがないからそれはできなくて、いざそういう感情が頭の中に現れたら“したい”が“したくない”に勝っちゃってできるようになれちゃう。みたいな?
でもさぁ…。それって結局、相手のことをカナミさんがどう思ってるかっていう“人の人付き合い”を分かってなきゃいけないってことでしょ…?それ…私、無理なんですけど…。相手がどう思ってるかなんて私に分かるわけないじゃん。少なくとも今は、私は額面通りに受け取るしかできないんだもん。カナミさんは私とカノンさんと友達で、仲良くなりたくて、血を吸いたくて、カノンさんの血は吸いたいけど吸えなくて、私の方の血は吸えそうだけど吸いたくなくて、って感じにさ?集めたカードの表面を並べて繋がりがないか考えるくらいしかできない。私とカノンさんで何が違うの?カノンさんにはカナミさんの方からグイグイ行ってるよね。一方で私は私がカナミさんにグイグイ行ってる感じだ。で、何?こっからどうすればいいの?
それが分かってたらって話ですよね…。よし!人に頼ろう!吸血鬼ならではのお悩みなんだし、人間の私より吸血鬼の人に聞いた方が良いに決まってるよね。向こうは私と違ってヒマじゃないし、あんまりこの手は使いたくなかったんだけど…私が頼りないから仕方ない。それでは。
「カナミさん。カナミさんが吸血鬼ってことと、色々悩んでるってこと、一人にだけ明かしていい?その人は絶対口外しないって断言する。それと絶対頼りになる。」
「いいけど…。誰に…?」
もちろんこの人。えっと、『友達のことで相談したいことがあるのですが、今から通話できますか?』っと…。…通話出られるかな?忙しい人だからな。…あ、既読付いた。なんかいけそう。ちょっと待ってみよ。
数分後――。
通話がかかってきました。
『――チヅキ君?どうしたのかしら?』
「ごめんスイさん急に――。」
「“スイさん”――!?チヅキちゃん“スイさん”ってスイ――…え!?“スイさん”!?」
「うん。…あー、後で説明する。」
そういえばスイさんって有名人なんだった。
えー、ということで紅梅寺のスイさんです。スイさんならきっといい感じのアドバイスをくれるはず!
スイさんに諸々の状況を説明しまして、『BFO』に加入してもらいました。
『――なるほど、カナミ君が…。』
「どう?スイさんなら分かる?解決できる?」
『…チヅキ君のお疲れ様ボイスがあれば解決できそうな気がしてくるような気がするわ!』
「なんでだよ。…まぁ、“お疲れ様ボイス”?そんなのでいいなら…。」
『ありがとう!後で台本送るわね!』
そんなのでいいんだ…。
「…ん?待って、解決できるの?私、アドバイスとかもらえたらなーってだけだったんだけど。」
『できるわ。』
さすがスイさん…。もっと早く頼ってれば…いやいや!スイさんも忙しいし、遠く離れてるし、迷惑でしょ…!…次なんかあったら大人しく頼ろ…。
『ではチヅキ君。お願いがあるのだけれど。』
「私に手伝えることでしたら。」
『帰ってくれるかしら。』
「……分かりました…。」
『ごめんなさいチヅキ君…。一対一で話したいのよ。』
「お任せします…。」
コトハさんに任せてって言ったのに…。すみません…。まだ成長途中ってことで見逃してください…。
そんなわけでして私は家に帰りました。スイさんはカナミさんの方に通話をかけ直すらしいです。後スイさんのことは、カナミさんには適当に濁して説明してあります。残りはスイさんがなんとかしてくれるでしょう。
カノンさんの方はどうなってるかな?ソラさんもトイトさんもいるし心配することなんて何もない…か…?…でも任せるしかないしな…。…いや私、人任せにしすぎじゃない?今回何かした…?してないような…。いや今回っていうか、スイさんとのあれこれも特に私が何かしたってことはないんだけど…。蚊帳の外っていうか…。なんか私…やっぱカナミさんと相性悪いのかも…。
次の日、カナミさんからカノンさんと仲直りできたと報告されました。スイさんとどんなこと話したのかは秘密らしいです。己の成長のために知りたかったのでスイさんにも聞いてみたんですが、カナミさんが話さないなら話さないとのこと。私の知らないところで色んなことが進んでいるのを感じますね。私はなんのために存在してるんでしょうか。包帯巻きつけ器でしょうか。
違いますね。そうですね。期末試験ですね。これで一学期も終わりです。みんなが早々に諸問題を終わらせたかったのにはこういう理由もちょっとだけあるんですよ。試験勉強したいんでしょうね。私はしたくないのでしてませんが。
でもなんとか中学までの貯金で支払えましたよ。ただ私という生き物は勉強しないと頭が悪いんです。なので夏季休暇が終われば私の高校生活も終わりそうです。勉強しないとですよね~。でもしたくないんですよね~。笑える。
やべぇよぉ…。成績ギリギリだよぉ…。でも勉強したくないんだよぉ…。でもみんなと別れるのは嫌だよぉ…。でも勉強したくないよぉ…。…試しにみんなを誘ってお勉強会してみる…?みんなと一緒ならできるかも…。いや一人の方がマシか…?前の私には戻りたくないけど、それをみんなに見られるのはもっと嫌だし…一人の方が…。でも一人だと確実に戻っちゃうしなぁ…。せっかくミヅキとも少し仲良くなれたのに、また前に戻っちゃったらそれで二度と口きいてくれなくなるかもだし…。
などと考えておりますと、カナミさんからメッセージが送られてきました。
カナミさん…!私の点数を心配してお勉強を教えてくれるのですか…!?なんてお優しい…!ありがとうございます!謹んでお受けさせていただく所存でございます!…で、メッセージの内容は…。
『今週末空いてますか?良かったら一緒に映画を見に行きませんか?お返事お待ちしております。』
真面目な文だなぁ……。……勉強じゃないじゃん…!?
カナミさんが私を遊びに誘って…!?嬉しい…。めっちゃ嬉しい!行きます!絶対行きます!もう勉強とかどうでもいいですやっぱりよくないです貯金がなくなる前になんとかしておきます!
週末――。
カナミさんと二人で映画を見に行ってます。




