8話「相談相手」
『ベストフレンド大作戦』とは、お互いに“嫌われている”と思い込んでいる二人をくっつけてやろうという大作戦である。
「――なるほど。仲を深める“きっかけ”を作ってやろーってことね。面白そ――…慈愛に満ち溢れたこと考えるじゃんヅッキー!」
「お遊びで考えてないからね?私はガチのマジだからね?」
「分かってるって!で、具体的に何するかはこれから決める感じ?」
「決める感じ。ソラさん、なんか作戦ある?」
私は恥ずかしながら何も思い浮かばないです…。
「実は完璧な作戦が一つあるのだ…!ただ、カノカノがあそ――…作戦に付き合ってくれるワケないから、カナミンに色々やってもらうことになるね。」
言い間違いワザとやってるでしょ…。
「カナミさんに言っちゃっていいの?」
「どっちかには話して、手伝ってもらわなきゃキツイっしょ?両方奥手なんだしさ。」
「なるほど。」
やっぱりにソラさんは頼りになるなぁ~!
ということで次の日の朝。カナミさんと話はつけてあるので通学路にて、いざ作戦実行です。
「それでソラさん、作戦内容をお聞きしても?」
「うむ。カナミンにやってもらうことはいたってシンプル。『遅刻しかけながらパンをくわえて角を曲がる』!」
おお…。…おお?前に、スイさんにオススメされて読んだ漫画でそんなシーンあったな…。寝坊したヒロインが食パンをくわえて走るやつ。
「…あれ?でもカナミさんがくわえてるやつ、どう見ても食パンじゃないよ?」
「もっちりしたチョコのやつだね。トイッチに十一で貸してもらった。」
「パンを!?」
“借パン”ってことなの?『トイッチと十一』言いたいだけなら怒るよ?
「“パン借りる”って、どうやって返すの…。」
「え、普通に新しいの買うけど。」
でしょうね!
「ほらカノカノきたよ!隠れて隠れて!」
大丈夫かな…。この人、頼りになるんだかならないんだかマジ分からねー…。
「ふぁー、ふぃほふふぃほふー。」
『うわー、遅刻遅刻ー。』ってことね。声に出さなくてもいいでしょ…。…うわソラさんこの人『形から入ることが大切なんだよ!』って目で訴えてくる…。だったら食パン用意しときなさいよ…。
いやでも上手く行きそうかも…!この調子で行けば角を曲がったところで二人はぶつかって作戦は成功する…!してしまうのか…!?あと5m…!3m…!2…。1…。
0――あ、普通にスルーされた。
まぁ、曲がり角って気を付けるもんね。そう上手くぶつかったりはしませんと。
「ちぃっ…!失敗か…!」
「いやそもそも何がどうなったら成功なのこの作戦は。」
「そりゃアレだよ。ぶつかった後でカノカノがカナミンの通ってる高校に転校してくるんだよ。」
「元からクラスメイトでしょ。」
相方を間違えたかもしれない…。
「心配するなヅッキー!他にも作戦は用意してある!ちゃんとメモ帳も作ったんだから!」
さすがソラさん!作戦メモまで用意済みなんて本気じゃん!やっぱり頼りになる!ソラさんが相方でよかった!
「プランAの『ラブコメ作戦』は失敗したから、プランBの『ライバル作戦』をやってみよーぜ!」
「おっけー!どういう内容?」
「幼馴染として仲良くすごしていた二人だったが、ある日を境に決別…。別々の道を歩んだ二人は再会すると、互いに剣を向け合った…。己の信じる正義のために、たとえ幼馴染であっても容赦はしな――。」
「うんすごくいい作戦だと思うけどやっぱり次は私の作戦でいいかな?」
「いいよー。」
私の作戦は私自身の経験によるもの。ずばり、“きっかけ”とは“出会い”なのだ!
“倒れたスイさんと偶然出くわす”というあの出会い。それこそが私とスイさんが仲良くなれた“きっかけ”だった。つまりあの日を再現すればいいということ!もちろん、再現と言っても吸血鬼云々は関係なくて、単純に体調不良で倒れているカナミさんを偶然通りかかったカノンさんが助け、それを“きっかけ”に二人の仲が深まってくれればいいって話。
しかしカノンさんは無駄に動き回ったりしないからな…。ソラさんのメッセージも既読無視が基本らしいし、誘導するのは無理。となれば、カノンさんの動線にカナミさんを配置して、目の前で倒れ込む作戦にしよう。
「――カノカノきた!」
「よし、カナミさん行って!作戦通りお願い!」
さぁ、カノンさんが廊下の奥からやってくる!カナミさんはふらふらとした足取りで着実にカノンさんとの距離を詰めて行く!おっと、カノンさんが間合いに入ったぞ!今だ!行けカナミさん!全力をぶつけるんだ!
「あー、つらいよー。ばたり。」
どうだ…!?
「あ、スルーされた。」
「なに!?」
完璧な作戦だと思ったのに、なぜスルーされたんだ!?一体どこに見落としが!?
「どういうこと!?カノンさんってこんなに冷たい人だったの!?違うよね!?」
「大丈夫、全然冷たいヤツじゃないよヅッキー。これはアレだね。仮病だってバレてんだね。」
「そんな…!カノンさん…なんて隙のない人なんだ…。」
「いや“隙”っていうか、演技力の問題だよね?“ばたり”って声で出す音じゃないよね?」
中々一筋縄じゃ行かないな…。もっと方向性を変えたアプローチが必要かも。
「慈愛に満ち溢れ――…面白そうなことやってんじゃん。」
「順番間違えてるよ。…ってトイトさん!」
パンを徴収しにきたトイトさんに、事情を話して手伝ってもらうことになりました。
「――なるほど理解した。小手先の嘘が通じないなら本音で挑めばいい。」
「カナミさんに『友達になってください』って言わせるってこと?」
「無難な作戦だけど、トイッチそれ、セッティングがキモだぜ?前に失敗して以降、カノカノは私の誘いも断るんだから。」
「大丈夫。こっちは3人いる。」
と、いうことで。
ソラさんが調べたカノンさんの休日に合わせ、作戦を決行します。ただ、平日だったので放課後決行となり、制服を着替える時間がなかったので正体バレが怖いです。一応、マスクとサングラスで顔を隠してはいるんだけど…。
「――何?」
「カノカ――…茜谷カノンだな。お前を連行する。」
「…ソラ、アンタのお遊びに付き合ってる時間は――。」
初手でバレた…!
「問答無用!あと私はソラじゃない!遠い天の向こうからやって来た謎のマスクウーマン『ブロッサム・TEN』だ!」
いやもうバレてるから。それにマスクウーマンのマスクはそのマスクじゃないから。
でもここまで来たからにはやるしかない!突撃!
「確保ー!」
「は!?ちょ、何やって――。」
「乗せろ乗せろ!」
「連れてけ連れてけ!」
ここは学校の敷地内。当然、先生方には許可を取得済み!通報される心配はない!しかもこのメンバー、私は元から避けられてるし、ソラさんは誤解なんてすぐ解けさせられるし、トイトさんはそんな細かいことは気にしない、学び舎の仲間たちに変に思われても全く痛くない最強のトリオなのだ!
目隠しさせたカノンさんをトイトさんが用意した車に乗せ、これまたトイトさんが用意した“とある部屋”に押し込める。
「おら!抵抗は無駄だぞ!入れ!」
「分かった、入るって…。もう、マジでなんなん…。」
部屋の扉に鍵をかけ、私たちは別室でモニタリングします。もちろんスマホなどの持ち物は没収済みなので、カノンさんは私たちの言うことを聞かないと出られない…これ大丈夫かなぁ!?コトハさんとかスイさんとか、止めてくれる人がいないとどこまでも爆走しちゃうんだなぁこの人たちは…。…私もその一人だもんね…反省しないと…。
さて、部屋の中にはカナミさんもいます。一応カノンさんと二人きり。無駄にデカいモニターでテレビ通話状態だから向こうもこっちの様子が見えてて、あんまり二人きりって感じではないんだけどね…。それと、他には特に何も置いてないです。急ごしらえなので。
で、私たちの仕事はというとルール説明をすることだけ。なんだけど、まぁそれもソラさんがやるから、仕事が終わった私とトイトさんは大人しく行く末を見守りましょうか。
『ふっふっふっ…。よく来たな茜谷カノン!』
「アンタらが無理矢理連れて来たんでしょ。」
『この部屋から出たければ…いや、もう分かっているのだろう?ほら、そこの看板!読み上げて!』
「はぁ…。『友達になるまで出られない部屋』。これ何?」
『じゃ、後は任せたぜカナミン!がんば!』
ミュートにして画面も切り、これで向こうからは私たちの声も様子も知られなくなった。これ以上は何もできないしするつもりもないので、こちらの三人は二人を勝手に応援しておきます。頑張れカナミさん!頑張れカノンさん!
「…よし。これで私の仕事も終了だぜ。」
「お疲れ様。ソラさんのこと、カノンさんにめっちゃバレてたね…。」
「幼馴染だからね。…ヅッキーとトイッチも多分バレてるけど…。」
多分そうだろうね…。
「そういえばここ、トイッチの家なんでしょ?借してくれてありがと!今度パン奢るよ。」
「チョコ多めで。」
「おっけー、探しとく。」
…トイトさん、やっぱり“スイさん寄り”の人間だったな…。スイさんと最寄り駅おんなじだし…。家デカいし…。…でもその割には、なにかと理由をつけてはパン奢らせようとしてくるんだよね。…いや思えば金銭面で困ってそうなとこは見たことないぞ…。からかってんだなコイツ…。
「言いたいことがあんなら言いなよ、ヅキ。」
「べつにー?なにもないですー。」
「ビビり。」
コイツ…!
「…じゃあトイトさん、実際上手く行くと思う…?」
「賭ける?」
「いや賭けないから。…カナミさんとカノンさん、こんなよくわからんことで仲良くなってくれるのかなって…。」
この部屋って映画か何かのネタ?みたいだけど、私なんも知らないんだよ。トイトさんとソラさんはノリノリで準備してたから有名なのかな?でも、結局フィクションはフィクションで、現実ではそうはいかない。それは二人も分かってるはず。
「知らん。私、大して二人と仲良くないし。」
「おぉ…。…なんかほんと、手伝ってくれてありがとね…。」
なんで手伝ってくれたんだこの人…。…これが『友達想い』ってヤツなのか…?
「ソラさんは?カノンさんの幼馴染としてどう考えます?」
「いやー…幼馴染としての考えではね…。ここまで協力してもらってなんだけど、正直無理だと思う…。」
「え、そうなの?」
そういえばソラさん、“前に失敗した”とか言ってたな…。
「入学してすぐの頃、私の家にカノカノとカナミンを別々に誘って勉強会したんだよ。それならあの二人も来るだろうって。カノカノも、あの時はまだ私とは遊んでくれてたから。で、試しに二人きりにしてみたんだけど…。まぁ、お察しの通りでして…。私が変に焦らず、じっくり仲介してればよかったと後悔してるよ。そうしてれば、お互いに“相手に嫌われてる”なんて勘違い、しないでいられただろうからね。…いやホント、マジでアレはマズった。それ以降、カノカノ、私の誘いすら断るようになっちゃったもん。」
マジか…。…いやでも、カナミさんは“嫌われてる”と思ってても仲良くなろうと頑張ってるし、カノンさんもなんだかんだでこの変な状況まで付き合ってくれてるし、一度離れた距離でも少しずつ縮まってはきてるはず…!頑張れカナミさん!勇気を出して!…変な状況かもしれないけど勇気を出して頑張って!色々考えててもこっちの三人全員応援してる…と思うから!
「カノンちゃん…!」
言えカナミさん!
「私と、友達になってください…!」
言った!
「いいけど。」
さぁそしてカノンさんの返事は――…返事は!?あれ、言った?返事しちゃった?え、あの、え、意外と即答なんだな…。
「いいの…?」
「“友達になるまで出られない”んしょ?」
「……今日からよろしくお願いします…!」
「ん。」
ちょ、ヤバいソラさんヤバい。あっさり終わっちゃったよ。早くマイク早く。
『あーあー、これ聞こえてる?カナミン?』
「聞こえてるよソラちゃん。」
“ソラちゃん”って言っちゃった。
『えっと、カップル成立おめでとうございます!わ~、パチパチ~。』
そこまでは行ってないよソラさん。
『えっと……鍵開けるね!』
もう言うことなくなっちゃったんだねソラさん。
さて。
では鍵を開けまして。
「カノカノ、カナミン、お疲れ様!この後打ち上げにでも――。」
「私、帰るから。」
「え!?…じゃあ送ってく!一緒に帰ろ!」
ソラさんとカノンさんが帰宅しまして。
「上手く行ったよ!チヅキちゃん!ありがとう!」
「うん。よかったねカナミさん。…駅違うから途中までだけど、私たちも一緒に帰ろっか。」
私とカナミさんも帰宅しま――。
「待て。ヅキとソラは帰るな。片付けてから帰れ。」
見逃してくれなかったか…。部屋空けるために移動させた家具とかあるし、陽は落ちるなぁ…。
「私も手伝うから頑張ろう…!」
と、4人で片付けしたら結構早く終わって、まだ太陽はギリ登ってます。まぁそれも、家に着く頃には落ち切ってんだけどね。…でも、こういう“後片付け”も、みんなでやるとなんか楽しかったな。
「――よし終わったー!終わったぞヅッキー!打ち上げだ!」
「お疲れ。流石に打ち上げする時間はないけど、帰りにジュース奢るよ。トイトさんには明日パン買ってくる。」
「チョコ多めで。」
「トイトちゃんって、本当にチョコのパン好きなんだね。」
カナミさんに変な知識を教えてしまった…。
と、いうことで。カナミさんとカノンさんをくっつける『ベストフレンド大作戦』は大成功~。やった~。…で、いいんだよね…?なんかカノンさんが“この状況をさっさと終わらせるためにOKした”って感じが凄いんだけど、大成功でいいんだよね?カナミさん喜んでるっぽいし、いいよね?いいですよね?…いいのかなぁ…。
「ヅッキー。」
「ん、なに?ソラさん。」
「あんがとね!」
……ま、二人の仲はこれからコツコツ縮めて行くとして、カナミさんとソラさんの笑顔が見れたってことで今回はよしとしますか。
よくなかったです。
ってことでね。カナミさんとカノンさんが友達になってからしばらく経ちまして、期末試験が近付いてきた今日この頃ですが…。
「――カノンちゃんと喧嘩しちゃったぁ…!」
『ベストフレンド大作戦』は継続中です。




