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こっちもそっちもあっちもどっちもにっちもさっちもいかないけれどもわっちは元気です!  作者: スマイロハ
どっち編

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18/20

18話「どうして言ってくれなかったの」

 『恋』というものはヒトが子孫を残すために組まれた戦略プログラムであり、利益・快楽・安心などを求める欲求や、恋愛ホルモンなどと言われる脳内物質の働き、生存を目指す上で有用である仲間との連携など、そう言ったものによって人は『恋』をする。『恋』は人間という種族が有利に生きていくため遺伝子へと刻み込んで子孫へ伝えた『技術』なのだ。

 だがヒトという生き物は頭がよくなりすぎてしまった。今この時代において、ヒトが生物の本能のみにしたがうのは難しい。例えば、欲求は直接的な解消をしなくともその代替手段を知っている。直接的な欲求の解消が非効率的な行動であると感じたならば、もうその行為を行うことはないだろう。特定の欲求を別の欲求を満たすことで落ち着かせるということも多いと思われる。わざわざパートナーを持たなくとも一人で有利に生きていく方法を知っているし、わざわざ複雑な人間関係の迷路に入って出口を見つけるまで彷徨い歩く必要はないのだ。

 それでも脳内物質の働きや三大欲求などの強い欲求に対しては流石にどうしようもないこともある。ヒトがそういう風にできているからだ。孤独を避けたり子孫を求める本能もあるだろう。しかし、世の中にはそういったものであっても魅力を感じない人間が、一定数存在しているという事実は認めなければならない。


 要するに、私は今のままでは絶対に『恋』をすることはないってことだ。


 普通の人間が自然と経験している『恋』へと繋がるあれこれを、私の人生では全く味わってこなかった。高校生になって、それらを経験する機会は沢山でき始めていたのに、私はせっかくの好機に1枚の壁を挟んで応対してしまい、結果全ての機会を見事に逃し続けている。『恋』を知るには『友』の時よりももっと深く踏み込まなくちゃいけない。踏み込むには壁を取っ払わなくちゃいけない。相手と手が触れているように見えても、その手と手の間に硝子(ガラス)の壁は確かに存在するんだから。“私にしか見えていない”、“相手はその存在を知らない”、そんな透明で薄いのに決して透き通ることは無い氷硝子(こおりガラス)の壁が。



 夏休みが終わり、学校が始まり、バイトも再開して高校生生活の日常を(ゆる)やかにすごす毎日。

 の、放課後――。


「――今日バイト休みなんだけどさ。コトハさん、どっか遊び行かない?」

「うん、いいよ。トイトちゃんたちは?」

「トイトさんはソラさんに誘われてゲーセンのイベント荒してくるらしいからダメなんだよ。」

「それは色んな意味でダメだね…。」


 ホントだよねー。


「カナミちゃんとカノンちゃんは?」

「映画見に行くって。」

「ヅキちゃんは行かなかったの?」

「いやー…あの映画面白くないんだよね…。長くて疲れるし…。ほら、カナミさんが好きなアレ。」


 どっちを見に行ったのか知らないけどどっちも…。ついにカノンさんにも布教の矢が飛んだか…。


「そっか。じゃあ、ふたりきりだね。どこに行こうかな?」

「カラオケ行かない?夏休みの間、地味にアニメハマっててさ。アニソン歌いたい!」



 ということでコトハさんとカラオケにやってきました。


「――(なに)歌おっかな…。」

「…ヅキちゃんとこうしてふたりきりですごすの、なんだか久しぶりだね。」

「そう?…あー、確かに…。言われてみればそうだね。久々だ。」


 いつ頃からか、私も結構多くの人と行動するようになってたもんな。最初はコトハさん1人だけだったのが、なんだかんだで増えたもんですよ。


「…よし。とりあえずこんな感じで…。歌うぞ!」

「おー。」


 コトハさんは歌も上手い。暖かい声に暖かい歌。凍ってしまった湖を優しく溶かしてくれるような…。

 一方の私は下手も下手…。まぁ、私って特技とかないし…。耳は悪くはないと思うんだけど、やっぱ声に出して歌っていかないと上達しないんだろうなぁ…。


 カラオケで楽しんで、この(あと)は行きたいところがあるんですが。


「百均行っていい?ノート買っときたいんだよね。」

「いいよ。行こっか。」


 それともう一つ。


「コンビニ寄っていい?新作スイーツ出たらしいんだよね。」

「いいよ。行こっか。」


 に、加えて更にもう一つ…を言おうとして、その前に聞いておくことがあったことを思い出す。


「そういえば、コトハさんは今日、(なに)も予定なかったの?」

「妹のお迎えと、お夕飯のお買い物があるよ。」

「えぇ!?言ってよ!大変じゃん!ごめん連れ回そうとして!」

「そんなことないよ。学童保育のお迎えの時間まではまだまだあるし、お夕飯のお買い物もすぐ終わるから。それに、私はヅキちゃんが喜んでくれるのがとっても嬉しいんだよ。」


 いいならいいけど…。


「じゃあ、買い物行こ!今から行けばまだゆっくり選べるでしょ!」

「いいんだよ?ヅキちゃんがやりたいことを――。」

「いいんだって!コトハさんに無理させてると思ってたら、(なに)やってても全然楽しくなんてないんだから!」

「…そう…なんだ…?」



 てなワケなんで、近所のスーパーまで買い出しに来ました。


「――夕飯(なに)にするか決めてるの?」

「うーん…。今日の給食はミートスパゲッティで、昨日の夜は豚肉の生姜焼きで、昨日の給食はお魚で…。」


 妹さん基準で決めてるのか。自分が食べたいもの選んでもいいと思うんだけど、カノンさんも妹さんたち優先で色々考えてそうだったし、お姉ちゃんとはこういうものなのか…?…いやでも、私の場合は(ミヅキ)とそんなに歳離れてないしな…。そもそも(ミヅキ)(ほう)がしっかりしてるし…。なんなら私の(ほう)が背も低くて、二人並んで街頭インタビューしたら私が妹だと答える人の(ほう)が多い…というかそう答える人しかいない気がする…。


「…カレーライスかハンバーグかな?お野菜は買うとして、ルーとひき肉も買って行こうか。」

「おっけー。野菜の目利きなら任せてよ!やったことないけど知識はあるから!」


 やったことはないんだけどね…。



 さて、買い物を終えましてまぁまぁな時間です。あのまま連れ回してたら大迷惑をかけるところでしたね危ない。


「――一旦家に帰るんだよね?」

「うん。買ったものをしまったら妹のお迎えに行くよ。」

「私もついてっていい?コトハさんの妹さん、会ってみたい!」

「いいよ。お夕飯も食べて帰る?」

「いいの!?食べる!」


 コトハさんのお(うち)にお邪魔しまして、食材やらなんやらしまうのをお手伝いしまして、妹さんのお迎えについて行きました。


「――お姉ちゃんと一緒にいる人、誰…?」

「チヅキお姉ちゃんだよ。ほら、前に話した美人のお姉ちゃん。」


 可愛い…!ちっちゃいコトハさんだぁ~!…おっと、挨拶しなくては。


「こんにちは。」

「こんにちは…。」


 ヤバい可愛すぎる。コトハさん(おねえちゃん)の後ろに隠れてるの可愛すぎる。どうにかなりそう。(いつく)しみたい。



 妹さんをお迎えしまして、コトハさんのお(うち)にお帰りなさいです。


「――じゃあ、私お夕飯作ってくるね。」


 手伝う…のは私じゃ役に立たないから。


「妹さんのことは任せて!」

「ありがとう。まだちょっと緊張してるけど、ヅキちゃんがいてくれると妹も喜ぶと思うよ。」


 いっそもうずっといてもいいのかもしれない。


「夜ごはんまで(なに)して遊ぼっか?」

「ゲーム…。チヅキお姉ちゃんこれできる…?」

「このゲームならやったことあるよ!弱いけど…。」


 ソラさんにボコボコにされたヤツ…。



「――この技はね~。こうやってやると出るの!強いんだよ!」

「へー。すごい…。ゲーム上手いね?」

「チヅキお姉ちゃんも練習したら上手くなるよ!わたしが教えてあげる!」


 緊張が解けてきたのかな~。可愛い。


「ふたりとも、ごはんできたよ。おてて洗っておいで。」



 今日のご飯はハンバーグでした。うま~!


「――ごちそうさまでした。お風呂ためてくる!」

「ありがとう。」


 食べ終わった食器をキッチンに運んで、妹さんはお風呂の用意をしに行く。

 私は片付けを手伝いながらコトハさんと話した。


「今日、お母さん遅いの?」

「うん。最近忙しいんだ。夜遅くに帰ってくることが多くて。」

「そっか。私にできることがあったらどんなことでもするからね!気軽に言ってよね!」

「ありがとう。妹も今日はさみしくないみたいだったよ。」



 片付けを終えて、妹さんが(なに)やら分厚い本を持ってきました。


「チヅキお姉ちゃん!わたしのアルバムみて!」

「いいよー。成長の記録だね~。」


 可愛いな~。


「これがね、保育園の運動会のときのやつで…。」

「うんうん。」


 可愛いー!癒される!幼くなったコトハさんがいるみたいだ~。…お、ところどころコトハさんやお母様と写ってるのもある…くはっ!コトハさんの小学生時代マジ女神様すぎるっ!今も昔も女神様すぎるっ!


「…あ、ここから小学校のやつ!みてみて!入学式のときのお写真、お姉ちゃんと一緒に撮ったの!」

「へー、歳的にコトハさんは中学生か――…な……。」


 妹さんが見せてくれた思い出写真の数々。その1枚に私は目を奪われ、言葉を失う。


「…ねぇ。これって…。コトハさんだよね…?」

「…?そうだよ?」


 そこには、あの頃ほぼ毎日着て通っていた、当たり前に知っている制服姿があった。


(――私と同じ……()()()……?)


 頭が痛い。


「チヅキ 姉ちゃんど したの…?わたし、悪 ことした…?」

「え…ああ、いや…。…ごめんごめん。ちょっと考えごとしてて…。怖い顔してたかな?ごめんね。」


 心臓が痛い。


「ヅ ちゃん?  した ? 丈 ?」


 息がし(づら)い。


「もう真っ暗になってきたし、流石にそろそろおいとまするね。ばいばい。」

「 い い、  キ 姉   !  遊   !」


 視界が揺れる。


「 キ     と    ?  悪  ? 、     う ?」

「じゃあねコトハさん。また。」


 (なに)言ってるか分からない。


 やだ。ダメ。お願い。思い出さないで。


 戻らないで。忘れたままでいて。


 私はもう変わったの。前には戻らないから。絶対戻らないから。


 痛い。頭が痛い。前が見えない。視界がボヤける。視界が歪む。立ってられない。音が聞こえない。聞こえてるのに言葉がボヤけて理解できない。暑い。寒い。吐き気がする。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。頭が焼ける。


 やだ。やだ。思い出したくない。そんなこと思ってない。思ったことない。私は今のままがいいの。お願いだから。死にたくなんてないから。死にたいなんて思ったこと、今まで一度もないんだから。だから。だからお願い。


 思い出さないで。

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