17話「あっちも」
カノンさんに夏祭りの出来事を語ります。
「じゃあ、最初から話すね。まずこのお祭りの起源は――。」
「いやそんなに最初からじゃなくていいんだけど。」
「そう?じゃあやっぱりチョコバナナから話すよ。」
「それでお願い。」
「チョコバナナの屋台なんだけど、チョコが何種類かあって、左からB、M、W…。」
「ビター、ミルク、ホワイトって言って?BMWは自動車になりかけてるから。」
「で、その次にお隣のフルーツ飴の屋台に行ってね。全部ひと口サイズなんだよ。」
「あー。串に何個か刺してあるヤツ。」
「いや大袋の中に個包装されてるヤツ。」
「飴玉なん?お祭りの屋台のフルーツ飴でフルーツ味の飴玉のパターンあんの?そんなん誰が買うんよ。」
「だよねー。いっこ食べる?」
「買ったん?正気?」
「特売日で安かったんだよー。」
「スーパーマーケットみたいなシステム採用してんじゃん。」
「そのあとねー、ボールすくいやってみたんだよ。でもこれが難しくて…。ひとつもすくえなかったんだよね。」
「アンタがそういうん苦手なんは知ってるけど、ヘタすぎん?適当にやってもひとつくらいはすくえるでしょ?」
「私もそう思って何回か挑戦したんだよ。でも前の人が全部すくってっちゃったらしくて、毎回プールにボール入ってないんだよね。」
「すくうボールないのにすくおうとしてたん?だったらすくえんのはボールじゃなくてアンタの思考回路になるんだけど。」
「いや屋台の人が言うんだよ。『すくわれるボールはなくても、すくいの手を待つ人たちは沢山いるんだ!私はそんな人たちをすくいたいんだ!』って。」
「詐欺じゃん。ごめん、ならアンタの過失少し減る。」
「で、そこからちょっと歩いて、次はやきそばの屋台!美味しかったよー、鉄板で焼いてくれててさ。屋台の人めっちゃあつそうで大変そうだったなー。」
「火使う屋台って暑そうだよね。アタシもバイトでキッチンに立ってる時はかなり暑いし。」
「素手でやってたけどアレ大丈夫なのかな。チラッと見た感じはしっかり火傷してたんだけど。」
「そっちの“熱い”?パフォーマーだったん?やきそばがメインじゃなくてパフォーマンスがメインのヤツだったん?」
「あれ、屋台の人いなくなってる。…あ、救急車だ。」
「大丈夫なん?しっかり火傷してしっかり運ばれた?」
「そんなことより。そのあと食べたベビーカステラがめっちゃ美味しくて。しょっぱい系のあとのあまい系っていいよね。」
「あー、分かる。」
「塩かけたスイカみたいな。」
「それは違うと思う。一緒に食べてるし。」
「そのあとはたこ焼き屋台に行ったんだけど、横にイカ焼きの屋台もあってさ。ああいうのって、たこ焼き王国とイカ焼き帝国で無益な争いが起きたりしないのかな?」
「そういうんじゃないから。食べ物のジャンル全然違うし。」
「そっか。確かに、素材なくなったら貸してもらえるもんね。」
「タコとイカは貸し借りできないんじゃないん?そういう意味で言ったワケでもないしさ。」
「で、えっとその次は…そうだわたあめ!わたあめ忘れてた。わたあめの袋って、色んなキャラクターのがあるじゃん?私なに選んだと思う?」
「別になんでもいい。」
「もー。もうちょっと興味ありそうにしてよー。」
「どうでもいいし…。」
「しょうがないな。じゃあ、少しずつヒントあげるから、分かったら答えて。最初のヒントはウサギ!」
「ウサギ?海外のキャラ?」
「日本の漫画だよ。二つ目のヒントはカエル!」
「ウサギとカエルで日本の漫画…?全然分かんない。もうちょっとヒントくれん?」
「おっけー、じゃあ大ヒント!高山寺!」
「鳥獣戯画?マジ?鳥獣戯画ノーヒントで当てさせようとしてたん?」
「すごい!大正解だよ!当ててくれたご褒美に買ってこようか?」
「いやいらない…。」
「そっか。じゃあね、最後はかき氷!かき氷はすごいよ!氷がふわっふわだったんだよ!それで種類がB、M、W…。」
「ブルーハワイ、メロン、…Wってなに?」
「ウォーター。」
「氷水じゃん…。どんなかき氷なん…。」
「いやそれが、このお祭りの起源に由来してて――。」
「いや。もういい。」
「そう?じゃあ、ここまで聞いてくれてありがと。みんなと合流しよっか。」
「ん。」
ではでは、お祭り会場から離れまして肝試しに合流です。
少しの街灯が薄暗く道を照らす、小高い丘の陰にある廃れた公園。雑草に巻き込まれた遊具たちは物静かに錆びついていて、ペンキは殆ど剝がれかけている。よっぽど人の出入りがないのだろう。それにそこそこの広さで、木や小さな建物に遊具と物陰もあり、確かにここなら肝試しの場所として丁度良い。
「…みんないないね?」
先に来ているはずのみんなの姿が見えない。公園の周りにはいないようで、とりあえず中に入ってみんなを探そうと公園内を二人で歩く。しばらく進んだところで、コンクリートでできたドームの向こう側から突然、キーコキーコとブランコを漕ぐ音がした。“みんなかな?”と急いでドームの向こう側に移動すると、そこに想像していたみんなの姿はなく、あるのは錆びついた音で鳴くボロボロのブランコがひとりでに揺れている光景だった。
「ばあ!」
ドームの陰から真っ白いシーツを被ったような人影が勢いよく飛び出してきて、聞き馴染みのあるような大きな声で私たちを脅かそうと――…ん?この声、めっちゃ知ってる人じゃない…?
「ソラさん…?」
「…幽霊です。」
「いやその声、シーツ被っただけのソラさ――。」
「幽霊だって言ってるじゃん!本人が言ってるんだから幽霊なんだよ!」
めちゃくちゃなこと言い出したなこの幽霊…。どこからシーツを持ってきて…最初から脅かすつもりで用意してたな?
「ちぇー、あんまり驚かなかったなー。やっぱカナミンにやればよかったぜ。」
観念したのか満足したのか、幽霊はシーツをとって正体をあらわにした。
「いやー、二人が来たら脅かしてやろうと潜んでたんだよね。ちなみにほかの3人も隠れてるよー。私入り口で待ってるから探してみて!」
「もうかくれんぼじゃん…。」
でもまぁ、花火が上がるまでの暇つぶしに、カノンさんと二人で残りの3人を探してみましょうか。
「どこが怪しいんだろ。カノンさんどう思う?」
「…あの小屋とか?」
カノンさんが指さす先には物置小屋っぽい小さな建物が。
近付いて引き戸に手をかけ、鍵が開いているのを確認する。
「じゃあ、開けるよ…。」
「ん…。」
息をのんで一気に開くと…中には誰もいない。ハズレかと思って物置小屋を後にしようとすると――。
「ばあ!」
物置小屋の陰から、今度は幽霊でもなんでもなく、見知った姿が飛び出して脅かしてきた。
「コトハさんみっけ!」
「わ~。見つかっちゃった~。」
これであと2人!
「私も入り口で待ってるね。二人とも頑張って!」
さて、トイトさんはどうせ難しいところに隠れてるんだろうし、先にカナミさんを見つけたいところ。隠れられそうなところと言うと真っ先に思いつくのは建物の中なんだけど…。
「…カノンさん。カナミさん、建物の中に隠れるかな?」
「…妹の1人が怖がりなんだけど、かくれんぼやった時、建物の中とかは怖くて入れんから鬼の姿が見える外…木の陰とかによく隠れるんよ。カナミもおんなじ感じなんじゃないん?」
なるほど。さすが“お姉ちゃん”。…私も“お姉ちゃん”だった。いやそれはどうでもよくて、“木の陰で鬼の姿を見てる”…。じゃあ、こっちから見える木を一個ずつ確かめて…――。
「ばあ…!」
今度は涙目のクラスメイトが“助かった!”とでも言わんばかりに脅かしてきた。
「カナミさんみっけ!」
「チヅキぢゃ~ん…!やっぱりごわがっだよぉ…!」
これであと1人!
「…入り口まで付いて来て欲しい…。ダメかな…?」
「いいよ。一緒に行こ。」
トイトさん見つけるの苦労しそうだし…。
入り口まで行ってカナミさんを預け、最後の1人を探し回ってみたんですが、全然見つかる気がしません。もう公園内は隈なく確かめたのに…。
「うーむ…。…カノンさんヘルプ。トイトさんどこに隠れてるか分かる?」
「隠れてないんじゃないん?アタシらの行動を監視して逃げ回ってるんでしょ。」
そっか。一つのところに隠れ続ける必要はないのか。…もう完全にかくれんぼだな…。となると…。
「意外と真後ろにいたりして!」
私が不意打ち気味に振り返ると…そこには誰もいなかった。
そう簡単には見つかってくれないか…。
「ばあ。」
「うわああ!?」
カノンさんの方へ振り返り直した私の目の前に、トイトさんは立って脅かしてきた。
腰抜けかけた…。音もなく忍び寄らないでよ…。フクロウかあなた。
「トイトさんみっけ…。」
「いい暇つぶしになった。」
何はともあれ、これで全員見つけることができましたね。入り口の3人と合流しましょう。
「――ホントに心臓止まるかと思った…。トイトさんずっと後ろつけてたの?いつから?」
「二人が公園入った時から。」
「最初からじゃん…。気配消すの上手すぎない?じゃあ、ブランコ揺らしてたのもトイトさんてことか。」
「何それ。私はブランコなんて触ってない。」
「そうなの?じゃあソラさんかな。」
そんなことを話しつつ、入り口まで戻ってきたので、肝試しを終えてみんなで花火を見に行きましょうか。最後にブランコのことをソラさんに聞いてみて――。
「――ブランコって、公園のヤツ?昨日、肝試しの下見でちょっと触ったけど、今日はまったく触ってないよ?」
「ソラさんが動かしたわけでもないんだ?じゃあ風かな。」
「いやいや、鎖に雑草巻き付いてたんだから台風でもこなきゃ揺れないでしょ。…あれ…?」
「ちょっと待って…。じゃあ何…?揺れないブランコがひとりで、勝手に揺れてたってこと…?冗談だよね…?」
ソラさんは無言で恐る恐る首を横に振った。
かくれんぼを終えて丘を登り、私たちは花火が見やすい場所に移動して、横並びになってその時を待ちます。
「――始まった!」
夏の夜空に蕾を開かせる大輪の花は、今この時にしか咲きません。咲いては散って、一夜の内に消えて無くなります。だからこんなに綺麗に見えるんでしょう。一瞬のキラキラをこうして大切なみんなと共有できて、私は幸せ者です。
「――どう?スイさん、見える?」
「ええ。とても綺麗…。」
スイさんとビデオ通話を繋いでみました。これでスイさんとも一緒に花火を見られます。
「ほら見てスイさん!コトハさん、トイトさんに加えて、ソラさんにカナミさん、カノンさんまで来てくれてるんだよ!私結構友達増えたんじゃない?」
「カノン君も…。なら、そろそろ恋愛にも興味が出てくるかしら?」
「うっ…。それはまだちょっと…。」
「ふふっ。チヅキ君が夏休みを満喫できたようで嬉しいわ。」
初めの頃は永遠にも思えた夏休みだけど、今では残り数日で終わってしまう。そして、高校一年生の夏休みはきっと二度とやってこないんだ。
最後にやり残したことをやって終わろう。
みんなで花火を見たあの夜から数日後。夏祭りも終わり、始業の日を待つだけとなった夏休み最終日の夕方。私はソラさんと一緒にカノンさんの家まで来ています。
「――よっ!ガキども!久しぶりだな!」
「本物のソラちゃんだ!久しぶりー!」
私はニセモノ扱いかい。
「そっこーで支度しな!公園行くぞ!」
どういうコトかと言うと、カノンさんとカノンさんの妹さんたちを誘ってやっておきたいことがあったんです。妹さんたちが帰ってきた時にはもう花火終わっちゃってたので。もちろん、カノンさんには話を通してありますよ。では公園に移動しましょう。公園と言っても遊具などがあるわけではなくて、多少の整備がされたまぁまぁの広さのグラウンドがあるだけの場所なんですけどね。やりたいことにはこれが丁度良いんです。…あ、先に言っときますけど、ちゃんとルールは守ってますよ。安心してください!
「――で?ソラちゃん何するん?」
「ガキども、夏祭りの花火見れなかったでしょ?私とヅッキーとカノカノで花火買ってきたから、みんなでやろーぜ!」
と、まぁそういうことです。手持ちだけじゃなくて打ち上げも何個か買ってきたので、夏休みの最後に思いっきり花開かせちゃいましょう!
「――よし!両手に8本持って草燃やそう!」
「よくないから。1本かせめて2本に――。」
「ケチぃぞカノン!ソラちゃんやってんじゃん!」
「…は?」
ソラさんの方を見ると、指と指の間に1本ずつ挟んで。
「ふぁいやーくろー!!」
「ソラ。ちょっとこっち来てくれん?」
…この先のことはとても語れそうにない。
そんなわけで。一通り楽しんだので、高校生組は妹さんたちを眺めながら線香花火でちまちま遊んでます。
「…ソラ、チヅキ、こんなアタシと付き合ってくれてありがと…。」
「なになにぃ~?線香花火見てたらしおらしくなっちゃったぁ~?」
「そうだけど。」
「…!?」
ソラさんがたじろいでいる…。
「アタシが胸張って友達って呼べるんは、アンタらとカナミぐらいだから…。その…これからも色々誘ってくれると助かる…。」
「カノンさん…!もちろんだよ!ずっ友だよ!」
「いえすだぜカノカノだぜ!べすとふれんどふぉーえばーだぜ!」
「ウザい。」
さっきまで甘かったのに…!
「…チヅキ。」
「ん?なに?」
「アタシとソラと、両方の彼女になってくんない?」
「何故!?」
えぇ!?いきなり過ぎない!?唐突過ぎない!?時間飛んだ!?
「ちょ、そうだよカノカノ…!ジョークが高度過ぎんって…!ヅッキー困ってんじゃん…!」
「イヤならいい。今頼めるんがチヅキしかいないから、一応言ってみただけ。」
どういうこと…?カノンさんだけじゃなくてソラさんも一緒なの…?…でも、まぁ、私の答えは決まってるから…。
「ごめんなさい。」
「ま、そうなるよね。」
カノンさんは残念そうでも嬉しそうでもなく、本当に“当たり前”と言った風で。
ただ一方で、ソラさんの方は線香花火の火球をすぐに落としてしまうほど、私でも分かりやすいくらい焦っていた。
「…あのねヅッキー…。色々気になるコトあると思うんだけど、ごめん…。いつか話すから、今は何も聞かないでくれる…?」
「…うん。…分かった。」
私の答えを確認すると、ソラさんはそのまま何も言わずに新しい線香花火を取りに行った。
「…チヅキ、花火消えてるんは気付いてるん?」
「え?…ホントだ。私も新しいの取り行ってこようかな。」
「もう遅いんだし、帰ったら?アタシとソラは家近いけど、チヅキは電車でしょ?」
「あー…。確かに…。」
辺りはすっかり暗くなっていて、花火の跡片付けにも一苦労しそう。あんまり遅くなるとまた家に泊まらせてもらうことになりそうだし、夏が名残惜しいけど今日は大人しく早めに帰るとしますか。
「じゃあもう一本だけやったら帰るよ。」
「ん。」
「…あ、そうだ。カノンさん聞いた?店長さん、来週からお店再開するって。」
「あー、うん。聞いてる。もう一回雇われてくれって頼まれた。」
「やっぱり。私ももっかい雇ってもらうからさ、また一緒に頑張ろうね。」
「…ん。」
夏休みが終わって、抜けてたバイトの穴も埋まって、カノンさんはまた元の忙しい日常に戻る。そうなると夏休み前のような簡単には隙間を作れない生活になっちゃうから、友達に遊びに誘われても行けないことが多くなる。だからせめて、私がいるバイトの時くらいは友達を意識できるように、もっと手際をよくできるよう頑張らないとな。お仕事は真面目にこなしつつ、通勤時間とか、空いた時間で友達っぽいことしよう。…友達っぽいことって何すればいいんだ…?何してたら『友達』になるんだろう…。
…いや。深く考え込まなくても、意識しなくても、自然にやってるあれやこれやが『友達』の証になる…んだと思う。今までやってきた何気ない日常のほんの一行が、私たちを『友達』に押し上げてくれるんだと。お互いのことを知っているとか、共有する秘密があるとか、そういうのは単なる関係性の一面であって、そういう条件が『友達』にあるわけではなく、お互いの腹の内を探り合う気なんて起きないような関係のことを私たちは『友達』と呼んでいる…みたいな…。
私の秘密を二人は聞かないし、カノンさんの秘密をソラさんは聞かないし、私もソラさんの秘密を聞き出したいとは思わない。隠し事をし合っていても、嘘を吐き合っていても、二人が私と友達になってくれたのは、全く意識してない言動一つ一つの積み重ねの結果であって、私が何か特別なことをしたわけではない。だから多分、『友達』というものは『なるもの』ではなく『なったもの』で、知り合ったり仲良くなったりのきっかけはあっても“きっかけはきっかけ”で。それは関係性そのものではなく、友人関係を形成しているただの一行目にすぎず、意識して書き込もうとしなくても気付けばその内、ページは数え切れなくなっている。そういうものなんじゃないかな。
まだまだ暑いし、湿度も高いし、日が落ちるのもちょっと遅いけど、今年の夏はこれで終わり。なんか、少しだけ、この夏休みの間に見える景色が広くなった気がするよ。…きっと、背が伸びたのかな。
最後の散り菊を見届け終えて、私は水バケツの中に燃え尽きた線香花火を落とした。
「…よし!今度こそ帰る!じゃあねカノンさん。また――。」
カノンさんは右手の人差し指を私の唇に当てて、言葉を止める。そしてほろ苦いチョコレートケーキみたいな優しい笑顔で、私から奪ったその言葉を夏の終わりに残すのだった。
「また明日!」




