16話「憧れ」
お泊り部屋キャンの翌朝、朝食はトイトさんとソラさんが作ってくれたものをみんなで食べました。
「――待てヅッキー!食え!抵抗するな!」
「もうドッキリじゃないじゃんか!」
「このままだとトイッチとの賭けに負けるんだよ!?」
「知らないよ!勝手に負けてろ!」
無理矢理食べさせようとしてくる人から逃げ回ったりもしつつ、本日はひとまず解散です。
その昼。家でミヅキが作った昼食を一緒に食べていると、“ぴんぽ~ん!”とインターホンが鳴り。
「お邪魔しまーす!」
ソラさんが何の連絡もなしに、突然私の家に訪問してきました。
「どうしたの急に。」
「ヒマだったから来た!ゲームやろ!」
肩にかけたカバンの中から、よく見ればゲーム機が覗いています。
「そんなにヒマなら朝言えば…それか、一言メッセージくれればよかったんだよ?」
「サプライズ的なヤツだよ~。どーせヅッキーも、何の予定もないんでしょぉ?」
ないけど…何かモヤモヤする言い方だな…。
「まぁ、いいけど。ごはん食べてからね?」
「ありゃ、お食事中でした?こりゃ失敬ですな。すまんすまん。」
リビングにソラさんを通して、私は真隣のダイニングに。
「お、ミヅキちゃん!お久~。」
「こんにちは。いつも姉がお世話になっております。」
さすがミヅキ…。ソラさん相手でも調子が崩れない…。…ん?
「面識あったの?」
「前にお話したことあるんだよね~…このテレビ、ゲーム繋げていい?」
「いいよー。」
「ミヅキちゃんも、ごはん食べたら一緒にやろーぜ!」
「え…。…はい。お邪魔でなければ。」
リビングの大きいテレビに手際よくゲーム機を繋げるソラさんと背中越しに話しながら昼食を食べ、私は気になったことを聞きます。
「カノンさんとは遊ばないの?」
「カノカノは今バイトちゅー。」
そっか、そりゃあ喫茶店以外にもやってるか…。でもそうなると…。
「カノンさんって、ちゃんと休めてるの…?」
「休めてないと思うよ。私たちに付き合ってたら余計に、ね。」
「え、じゃあ私…。無理に色々連れ回して、せっかくのお休みを潰しちゃって…。」
カノンさんにかなり悪いことを…。
「いーやヅッキー。それは自惚れだね。カノカノは本当に嫌なら断るよ。ちゃんと自分の体調管理できる子だから。バイト一個なくなって、その隙間に私たちの予定を入れてくれてるの。感謝して、目一杯楽しませてあげないとだぜ?」
「そっか…。そうだよね!私頑張る!」
昼食を食べ終わって片付けも終えて、3人でのんびりほんわかゲームプレ――。
「――また負け…!?ソラさん強すぎるって!手加減してよ!私、初心者なんだよ!?」
「ぐはははは!甘ぁい!獅子は兎を狩る時も常に全身全霊を持って臨むのだ!」
「…もしかして、賭けの負けを取り返そうとトイトさんに挑んで返り討ちにあったから、私で憂さ晴らししてる…?」
「…チガウケド?」
目が合わないな。この…格闘ゲーム?初心者が慣れてる人に勝つの絶対無理じゃない?ゲーム慣れしてる人なら最初からある程度は上手く立ち回れるんだろうけど…。
…まぁいいや。ソラさんが楽しいなら私は何でもいいしね。
「…あの、私としませんか?」
「いいぜミヅキちゃん!相手になってやろう!ふっふっふっ…。いやしかし、また一人無謀な挑戦者を生んでしまったか…。罪深いな私は…!ぐはははは!」
数分後――。
「――負けた…。…中々やるじゃないか…!これは手加減する必要もなさそうだな…!次は本気で――。」
更に数分後――。
「――あれぇ…?おかしいなぁ…。…もう一回!もう一回やらせて!次はマジのガチで本気出すから!もう…ミヅキちゃん泣かせるから!」
「いや私の妹泣かせないでよ…。」
更に数十分後――。
「――……?…??……??」
(ソラさんが、“壊れた家電を試しに分解して修理してみた後で全部ちゃんと元通りにして無事に直って正常に作動したはいいものの何故かネジが10本くらい大量に余った時の人”みたいな顔してる…!)
ソラさんはミヅキに全戦全敗していた。
「…勝てない…。この私が手も足も出ない…。何なんだお前はぁ…!?」
「油断したなソラさん…!」
「なにぃ!?どういう意味だ!」
「ミヅキは私と違って大体なんでも上手くできるのだ!」
「そ、そうだったのかー!かー…!かー…。かー……。……。」
……。
「…満足した?」
「満足したー。」
ということで地理系すごろくゲームに変えまして。正真正銘、のんびりほんわかゲームプレイです。雑談しながらだらだらやりましょう。
「――もうすぐ夏祭りだねー。ミヅキちゃんは夏祭り行くの?」
「はい。友達と。」
「やっぱミヅキちゃんは友達いるんだー。」
「おい。私だって友達いるでしょうが。ソラさんのことも夏祭り誘ったでしょうが。」
「ミヅキちゃんの歳の頃は?」
「それは……ね?」
「いなかったんだ…。夏祭りさ、メンバーは結局いつも通り?スイタンは?」
「いつも通りだね。スイさん、やっぱ帰ってこれないっぽい。“代わりに”って、浴衣大量に送ってきた…。」
「いいじゃん!着よーぜ!みんな何色が似合うかな~?オシャレなミヅキちゃんとしてはどう?とりあえず私とヅッキーで想像してみて。」
「…美人ですし、スタイルも良いので、どの色でも似合うと思います。お好きなものを選ばれては?」
「確かに。私たち美人だもんね。」
「“謙遜しなよ”って言うべきだろうけど、ホントに美人だよね。カノンさんとか、スイさんと同じくらいスタイルいいし。よくは分かってないけど、モテてたんじゃない?高校入る前は今ほど忙しくはしてなかったんでしょ?」
「そうでもないよー?昔のカノカノは私にべったりだったから、好きになる隙とかなかったし。“すき”だけに。恋愛に興味はあると思うけどね。」
「興味あるんだ?意外かも…。」
「カノカノはキラキラに憧れてるからねー。本当は恋人とか恋愛とか、そういうのにもめっちゃ興味あると思うよー?でも自分に器用さも時間もないから、興味ないことにして忘れようとしてるんだよ。」
「ふーん…。」
“憧れ”か…。
「…あ、ゴールしました。」
「嘘ぉ!?ミヅキちゃんサイコロ運良すぎない!?」
「日頃の行いでしょ。さっき私をボコボコにした罰だね。」
「くっ…!…ヅッキーだって課題、ひとにやらせてたくせに。」
「うっ…!…じゃあ、“二位と三位は一位に指定されたものをコンビニで買ってくる”っていうのはどう?日頃の行いが良いのはどっちかはっきりさせようよ。」
「ほう…。臨むところだぜヅッキー…!借金まみれにしてやる!」
「それはこっちのセリフだよソラさん…!ゲームから飛び出してリアルの財布の中まで空にしてやる!」
――しかして一位はミヅキになり、二位と三位はソラさんと私になったのであった…。
「えっと…『期間限定ビターチョコシューアイス』で…。」
3人分買ってソラさんと半分ずつ払った。美味しかった。
時は流れ、夏祭り当日――。
一旦私の家にみんなで集まり、各々好きな浴衣を選んで着てから会場に向かいます。
「――おお~…。凄い人の数…。ヅッキー、迷子にならないでよ?」
「ならないよ。」
「犯人は皆そう言う。ヅキが迷子になった時のために集合場所を…。」
「ならないって。…なんだ“犯人”って。」
「ヅキちゃん、おててつなぐ?」
「だからならないって。」
「じゃあ…!チヅキちゃん、私が迷子にならないために手を…。」
「“じゃあ”じゃないよ。カナミさんもならないでしょ。」
…カノンさんはノってこないか。よかった。
「…去年、妹が同じこと言って迷子になったんだけど、マジで探すんダルかったんよな。」
「いくら初めての夏祭りでも迷子にはならないよ!私のことなんだと思ってるの!」
みんなして楽しみやがって…。
「まぁいいや。早く屋台めぐりに行こうよ!」
「カノカノと離れないでよ?背高いカノカノが一緒にいないと、ヅッキー小っちゃいんだからこっちが見失うんだからね?」
「ああもう、分かったよ!そこまで言うならカノンさん、手繋ご。」
まったく。カナミさんとだってちょっとしか違わないのに。大体はぐれても高校生なんだからどうとでもなるでしょ。なんでわざわざ手を繋がなきゃいけないの…。小さい子どもじゃあるまいし…。
…あ!チョコバナナだ!ホントに売ってる!
「カノンさん行こ――!」
――屋台は一通りめぐったワケですが、花火の時間までちょっとあります。どうやって時間潰しましょう。
「はいは~い!提案があります!」
「はいソラさん!」
「花火をどこで見るかっていうのさ。いいトコ知ってるんだよね。で、そこに行く道中でい~い雰囲気の場所があるんだよ!花火の時間までそこで肝試ししよーぜ!」
「いいね!採用!」
カナミさんには申し訳ないけど、夏と言ったらホラーはかかせないのだ!
「じゃあこっち付いて来て――…カノカノどうした?固まっちゃって。かき氷溶けちゃうよ?」
ソラさんの言う通り、私の少し後ろでカノンさんは溶け始めたかき氷のカップを握って立ち尽くしていた。
「いや――…。」
それに続けて何か言い訳を言おうとして、何も言葉が出て来なかったんだと思う。私はカノンさんのその顔にはっきりと覚えがあって。だから私にしては珍しく、すぐ助けに入れた。
「ごめん…!落し物しちゃった…!カノンさん気付いてくれてありがとう…!ついでと言ってはなんだけど、探すの手伝ってくれない…?」
「え、ああ…うん…。手伝う…。」
カノンさんも私のそれを察したのか、上手く口裏を合わせてくれる。
「ヅキちゃん、どんなもの落としたの?私も探すの手伝うよ。」
「私も…肝試しよりも…チヅキちゃんたちと落し物探しの方がいいな~…なんて…。」
「いや大丈夫!コトハさんたちは先に行っててよ!カノンさん手伝ってくれるって言ってるし、大したものじゃないから、ちょっと探して見つからなかったら諦めるから。…ね!?カノンさん!」
「ホントに大したものじゃないから、アンタらはソラについて行って。」
どうにか誤魔化せて、コトハさんたちには先に行っててもらい、私はカノンさんに何があったのか聞く。
「――チヅキ…アタシ……会場に来てから先のコト、何も覚えてないんよ…。」
私が考えていた通り、やっぱりまた記憶を失ってしまったらしい。
「どこまで覚えてるか分かる…?」
「…“チョコバナナ”…?」
「最初じゃん…!じゃあ、最後のかき氷は…?」
「気付いたら手に持ってた…。」
この前と違って、今回はカノンさんもかなりショックを受けたっぽい。“寝ぼけてた”とかじゃ言い訳できないから。
「思い出すのは…やっぱりダメ…?」
「…ごめん。」
カノンさんが自分を責める必要なんて…。…むしろ…。
「…私といたら、カノンさんの大切な時間を、思い出を無駄にしちゃうのかも…。」
「そんなこと…。」
「だってそうじゃん…!私がいなかったら、カノンさんはちゃんとお祭りを楽しめたんだよ…?私のせいで全部忘れさせて…。せっかく来てくれたのに…。」
“なくなった”のか、“覚えてられない”のか、どっちにしても時間が戻ってくれない以上は、記憶は一度きりで、二度目はない。なのに私は曖昧な記憶の海に放り出して、カノンさんのかけがえのない大切な思い出を一つ、波で連れ去ってしまったんだ。
「“思い出は一度きりじゃない”。」
カノンさんは優しい声でそう言った。
「親友の受け売り。“時間は作れんけど、思い出は時間いっぱい何回でも作れんじゃん!”って。そりゃ、流石にハッキリ記憶障害を実感したらショックは受ける。でもアタシは気にしてないから。」
「なんで…。」
「記憶がないことに気をつかうのは、周りの人間が思い出を忘れられたことに落ち込んでるからでしょ?要するに周囲の人たちを気遣っての考えなんよ。だからチヅキが気にしてなければアタシも気にしないで済む。」
「私が…。…でも、やっぱり覚えてられないのはつらいよ…。私だけじゃなくて、今日のみんなとの思い出全部忘れちゃってるんだよ…?この先思い出を何回作ったって、全部忘れちゃったら寂しいじゃん…。」
「それなら。今回ので“寝ぼけ”が原因じゃないんは分かった。だったら記憶障害は“吸血欲求の暴走”の一種ってこと。アタシがまだガキだからこういうコトになってるだけで、その内“慣れる”自信はあるんよ。ソラやチヅキと比べたら劣るけど、アタシも家の中では“天才”だから。今すぐは無理でも、すぐに克服してみせる。」
「…でも…でも…!克服する前にみんなにバレたら、絶対みんな心配するよ…!?」
「心配されるほど距離近くないし、適当に話合わせとけばバレないでしょ。ソラはどうせ騙せないし。」
そうかもしれないけど…。
「…じゃあ、私ともう一回屋台めぐりして!」
「…は?」
「カノンさんが覚えてないことは、私が代わりに覚えて、カノンさんが忘れちゃっても全部教える!そうしたらカノンさんも話を合わせられて、みんなに秘密バレないでしょ?」
「いや、そんな時間かけて、肝試しはどうするん?」
「見るだけ!私が思い出を語るだけ!お願い!カノンさんに思い出作りたいの!」
「…まぁ、別にいいけど…。」
私はカノンさんの手を引いて、二人きりで人混みの中へ戻って行った。
「……あ!手、繋がない方がいいかな…?」
「いや…ぼーっとしてるんがよくないワケで、ちゃんと意識してれば“暴走”はしないから…はぐれたら面倒だし、このままでいい…。」
「そう?じゃあ行こ!」




