13話「あーゆーかんじ」
私の自己紹介と、カノンさんにご家族を紹介してもらいました。
「――以上がアタシの家族。」
「よろしくお願いします…!」
勢いで付いて来ちゃったけどやめとけばよかったかなぁ…。みなさんめちゃくちゃ歓迎してくれてなんかこう…罪悪感が…。いやほんと騙してて申し訳ない…。
「義姉ちゃん義姉ちゃん!メシまで遊ぼ!」
その字は違うような…。
しかし妹さんたち、本当にカノンさんと似てない。顔は似てるけど雰囲気の違いでこうも変わって感じるのか。
「いいよ。何して遊ぶの?」
「カブトムシ捕り行こう!」
はぇー、夏休みっぽい。
「カノンさんも行こうよ。」
「いや行かんけど。」
「何で?」
「勉強。」
その真面目さが私にひとかけらでもあればなぁ…。
まぁいいや。私と妹さんたちだけで行ってくるか。
「カノン!」
あらお婆様。如何なされましたか?
「彼女さんを一人にすんな!このボケ!」
…まぁいいや。
と、いうことでカノンさんも交えて昆虫採集です。虫取り網にプラスチックの飼育ケースを携えて、完全装備とは行きませんが中々気分が乗りますね。
「――カブトもクワガタもおらん…なんで!?」
「いないね~。めっちゃ昼間だし、そりゃあカブトとクワガタはいないだろうけど、あんまり大きい虫も見つからないね~。」
20分ぐらい探し回ってるんですが、あんまり珍しい昆虫は見つからないですね。20分ならそんなもんだとは思いますが、小さい子には長い時間なんでしょう。
「カノンさん、この辺って昆虫採集に向いてる場所とかあるの?」
「知らん。」
そうですか。
「…あー、そういえばクヌギの木はあったはず。」
「マジですか!?」
カノンさんも昔はこんな風に遊んでたのかな。
てことでクヌギの木のところまで移動しまして。
「おー…。本物のクヌギだ…。」
「アタシが嘘言ったみたいに…。」
「違うよ!本物を初めて見て感動してるの!」
カノンさんから負のオーラが溢れ出ている気がする…。
「…かのーん。カブトムシおらーん。」
「木じゃなくて木の下を探すんよ。」
「…探してんのモグラじゃないけど…?」
「昼間は落ち葉の下とかで休んでんの…!誰が穴掘れって言った…??」
はは…。
…私も探しますか。
しばらく探してましたが、見つかりそうにないですね。
「どうする?カノンさん。トラップとか仕掛けてみる?」
「そんな贅沢コイツらには要らん。」
そこまで厳しくしなくてもいいんじゃ…。
「じゃあ、目星付けといて夜にもう一回来てみる感じか。」
「ん。」
てなわけで適当に下見を済ませて夜まで待つことになりました。
「見つかるといいね。」
「見つかんなかったら穴掘らせて幼虫でも探させればいいでしょ。」
ソラさんへの当たりの強さに通ずるものを感じる…。
「ばっかカノンお前、幼虫ってケムシのことでしょ?ケムシはカブトムシじゃないじゃん。バカだなー。」
いやカノンさん…『な?幼虫でいいでしょ?」みたいな顔を私に向けられても…。
よし!ここは大人として、子供たちの健やかな成長を後押しせねば!
「いい?妹さんたち。幼虫って言うのは虫の子供のことでね?毛虫や芋虫は蛾や蝶の幼虫のことだけど、毛虫は基本的に蛾の幼虫を指すことが多くて――。」
「そーゆーのどーでもいいや。早く帰って昼メシ食べよ!」
え。あ…。帰っちゃった…。
「チヅキ、帰らんの?」
「帰ります…。」
家まで帰りたい…。
その後、昼食に夕食もいただきまして、カノンさんに話を合わせつつ、極力ボロが出ないようにまぁまぁ結構頑張ったと思います。
それにしても兄弟姉妹の扱いと言うのは難しいものですね。まぁよくよく考えれば私はお姉ちゃんだけどお姉ちゃんらしいことは何もしてこなかったわけでそりゃ当然子供の扱いなんて上手く出来るわけないって話だったんですけどねちくしょう…!
はぁ…。私って…周りに恵まれてたんですよね…。自覚しないとな…。
「――義姉ちゃん義姉ちゃん!夜んなった!カブトムシ捕り行こう!」
「確かにそろそろいい時間だね。行こっか。」
カノンさんも呼んで来まして。昼間確認した道順でクヌギの木の下まで移動します。
「――妹さんたちどう?いる?」
「…いる…!ホントにいる!」
おお、結構あっさり。自然がいっぱいなところはこういうメリットがありますよね。大多数の都会人にはどうでもいいメリットなんでしょうが…。
「おー。よかったね。」
「なんで!?昼はいなかったじゃん!」
「カブトムシとかは昼より夜の方が好きなんだよ。夜になると樹液を吸いに出てくるの。」
「へー。捕まえよ!」
「気をつけてねー。」
私とカノンさんが喋ったこと、マジで気にも留めてなかったんだな…。
カブトやクワガタを捕獲できまして。ご家族ご一同の手厚いご歓迎の談笑を一身に受けまして…。なんだか今日はバイトよりも疲れた…。しかし、その疲れもこうして熱いお風呂に入れば癒えるというもの――…もの…。…。
「…あの…。」
「何?」
「やっぱり何でもないです…。」
「あっそ。」
何で私はまたカノンさんとお風呂入ってるんだ…。
そして寝床も同じ…。
またカノンさんが私の隣で寝てる…。そして寝付くのが早い…。しかし私は寝れない…。眠いのにカノンさんが気になって眠れんですよ…。また吸われるんですかね…?
などと考えていたらいつの間にか眠っていたようで。翌朝、首の噛み傷を写真に撮って確認すると、案の定噛まれた痕跡が。
同じ場所噛まれてる…。一回目と違って綺麗に吸ってくれてるからいいけど、昨日今日での吸血はさすがにキツイな…。体が重い…。…ま、今日でもう帰る予定だしいっか。
「――えぇ!?チヅキちゃんもう帰るん!?」
「課題が溜まってるので、流石にそろそろ手をつけないとなんですよ。」
「そうかぁ…。ええとこの生徒さんは大変…ってカノンも同じか。」
カノンさんの進捗は私よりずっと進んでますけどね…。だからこそ私もさすがにやんなきゃな~ってことなんですが…。そのことをみんなに言ったら、明日から私の家に集まって『チヅキの課題を終わらせる会』を毎日開催する運びとなりましたので…。私は遊んでないで帰ります…。
はぁ…。川遊びとか野山を駆け回るとかしたかったなぁ…。危険なこともあるのでよいこはそれらに詳しい大人と一緒に行きましょうね…。
ちなみに、帰る時も盛大にお見送りされました。それはもう盛大に。カノンさんの機嫌が悪くなるくらい盛大に…。
帰りの電車内――。
「カノンさんも来るよね?」
「何に?」
「私の家。」
「何でアタシがチヅキの課題を見なきゃいけんの。一人でやったら?」
それはそうなんですけど…。
「ウチに来たら一個500円のアイス食べ放題だよ…!」
「…アタシがお高いアイス程度で釣れると思ってんだ?」
やっぱアイスじゃダメか…。トイトさんならこれで大漁なんだけどな…。
「行く。」
「行くんかい。」
ということで明日。私の家に5人の監督官が襲撃してきました。
「――どうぞどうぞ!みんなあがって!リビングにどうぞ!くつろいじゃってよ!アイス食べる!?ジュース飲む!?」
「チヅキちゃん。そんなこと言ってないで、ちゃんと課題やらなきゃダメだよ?」
ちぃっ…!時間稼ぎはお見通しか…。
「アタシはアイス食べに来ただけだから。」
それマジの理由だったの…。
「冷凍庫にあるから好きなの持ってって。スプーンは右端の引き出しの一番上ね。」
「ん。」
…マジでアイス食べてるだけだカノンさん…。と、後トイトさんも…。
「ヅッキーん家ちょー整ってるじゃん!妹ちゃんの趣味?」
「そうだけど…何で知ってるの…。」
「うーん…“なんとなく”?」
“なんとなく”で人の妹の趣味当てないでよ…。
「ヅキちゃん。進捗はどのくらい進んでるの?」
「名前は書いたよ!」
「…名前だけ?」
「名前は書いたよ!」
「…一緒に頑張ろうね。」
「うん!」
かくして長い長い戦いの火蓋は切られたのだ…。
「――とりあえず、筆記のヤツは手分けしてみんなのを全部写しちゃえばいんじゃない?ヅッキーの字って綺麗じゃん。私とカノカノとトイッチも同じ字が書けるし、筆跡じゃバレないでしょ。アイス貰ってるんだし、二人ともそれくらいは手伝うよね?」
「まぁ、別にいいけど。」
「カノンさんありがとうございます!」
「パンもあるなら。」
「トイトさんあります!」
バイト代の一部を注ぎ込んだ甲斐があったぜ…!
「いいのかな…。先生に怒られないかな…。」
「大丈夫だよカナミさん。バレてもみんなには迷惑かけないよう、私の評価が下がるだけに全力で努めるから安心して!」
「安心できないよチヅキちゃん…。」
と、こんな感じに作戦を立てて、夏休みの課題を全速力で終わらせにかかった結果。今日だけで進捗を30%進めることができました!みなさんのおかげです!もう頭が上がりません!
さて、そんなみなさんも今日はひとまずお帰りです。
「――みんなマジでありがとうございます!報酬はそれぞれのご期待にそえるものを個別にご用意させていただきます!」
「…じゃあカノカノ泊めてもらいなよ!」
また!?…ってソラさんは別に何度も一緒に寝てること知らないのか。
「このあっつい世の中でエアコン無し生活なんて正気じゃねーぜ?」
「別に慣れてるし…チヅキも迷惑でしょ?」
「私はカノンさんがお望みとあらば!」
「ほれほれ、ヅッキーのお礼だぞ?素直に――“チヅキ”呼びだと…!?」
あ、そういえば確かに。ずっと名前で呼んでくれてる!嬉しい!
「カノカノ…成長したな…!」
「アンタは何目線なん?」
「“カノカノは俺が育てた目線”に決まってるだろ!?」
「うわー。だっる。」
カノンさんと一緒の、3回目の夜です。
「――今日も一緒にお風呂入っちゃう?」
「は?」
「冗談です…。」
そんなに睨みつけなくても…。
「着替え、私のサイズだから小さいかもだけど、一応できるだけゆったりしてるやつ選んだから、どう?」
「…これなら…まぁ……胸のボタン全部開ければ着れると思う…。」
小物は使い捨てのやつでもなんでもどうとでもなるけど、服とかは私の貸すしかなくて…。そして私は小物だからカノンさんのサイズに合うものが…。一晩だけならなんとかなりそうで良かったけど…。…次があったらちゃんと用意しとこ…。
「シャンプーとかは左下のヤツ使って。私のだからもうじゃぶじゃぶ使っちゃっていいよ!なんならボトルのふた開けて直接いっちゃって!」
「そんなんするわけないでしょ…。」
「遠慮しないで!いっちゃいなって!」
「“遠慮”じゃない。“常識”。大体アタシがそんな使い方したらチヅキの分がなくなるでしょ。」
「え?じゃあやっぱ一緒に入る?」
「頭狂ってんの?」
とまぁ、普通に一人ずつ入ったんですがね。
お風呂にも入ったので、寝る場所を決めましょうか。私のベッドはいたって普通のシングルサイズですが、これはカノンさんのものとして。私は布団でも敷きますかね?この家敷布団なんてあったっけ…。ちょっと探してくるか。
なかったです。まぁ、私はカーペットの上に毛布でも敷いて寝ますか。
「…ベッドで寝ないん?」
「いやぁ…家族とは言え他人のベッドで寝るのって、私かなり落ち着かないんだよね…。」
「そうじゃなくて、このベッドで一緒に寝ればいいでしょ。」
「……冗談?」
急に何言ってるんだこの人…?
「狭いよ…?シングルだし…。」
「アタシは下が多いから、狭いのは慣れてる。」
私は慣れてないんだけど…。でもカノンさんがものすごく真っ直ぐな瞳で見つめてくる…!そう、それはまるで拾った綺麗な石をお宝だと言って渡してくる純粋無垢な子供の眼差し…!断れない…!
ということで何故か私もベッドで寝ることになりました。
…狭いとか慣れてないとか落ち着かなくて寝れる気がしないのは、それはもういいんだけどさ。
(――なんでこのひと、わたしをだきよせてくるの…!?)
なんでぇ…?何で私はクラスメイトに抱き枕にされてるの…!?落ちないようにってこと…!?なんかめっちゃ匂い嗅いでくるし…!ちゃんと体洗ってるよ…!?ちゃんと部屋も掃除してるよ…!?
「…家族、いつ帰ってくるん…?」
カノンさんから話題を!?
…はっ!もしかしてカノンさん、慣れてない場所だと寝れない感じ…!?それで話題を…!?ごめん…!無理に泊まらせちゃった…!せめて答えは迅速に…!
「明日だよ。お昼食べたら帰るんだって。」
「ふぅん…。…良い匂いする…。」
「え?明日のお昼の匂い?」
「なわけないでしょ…。なんか…落ち着く感じの…。」
「“落ち着く”…。」
…あ!そういえばカノンさんに渡すつもりだったアロマディフューザー、結局渡すの忘れて持って帰ったんだった!明日絶対渡そ。
…ん?いやでも、私はそんなの使ってないぞ。何の匂いだ?カノンさんめっちゃ私のこと嗅いでくるし、私からするのか?
「シャンプーですか?」
「それならアタシも同じ匂いでしょ…。」
確かに。じゃあ一体全体何の匂いが――。
「――…っ!」
匂いの正体を探っていた私は、不意に与えられた首元の痛みに思考を止められた。
噛まれたんだ。カノンさんに。ただ、その時の私は短期間での立て続けの吸血に体力を持っていかれてて、何か行動を起こす間もなく意識を失ってしまうだけだった。




