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こっちもそっちもあっちもどっちもにっちもさっちもいかないけれどもわっちは元気です!  作者: スマイロハ
あっち編

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12話「愛するは家族」

 状況を整理して糸口を探そう。

 まずカノンさんが吸血鬼だとして、私が寝てる間に血を吸われたとする。そしてその時の血汚れがべっとりしてるとする。よく匂えば血の匂いがするけど、さすがに鼻を近付けないと分からないはずだから、つまり、目の前にいるカノンさんの…カノンさんの“(なん)”だ…?“お姉さん”かな…?その“お姉さん”に血を悟られることはない。誠実に接していれば疑いの目を向けられることは…。


「……。」


 完全に言葉を失っているっ…!信じられないことが起こったみたいな顔で見られているっ…!

 やらかしたか…!?私の気付かない位置に血の汚れがあったか…!


「ソラちゃんが縮んだ…!?」


 ……は?


「どう見てもソラじゃないでしょ。」


 後ろから来るこの声はカノンさん!


「ごめん、カノンさん。起こしちゃった…?」

「いや…。」


 眠そう。今度、落ち着く香りのアロマか(なん)かプレゼントしよ。


「“ソラちゃんじゃない”ってことは……カノンが女の子を家に連れ込んでいる!?」


 えぇ!?

 さっきからこの人、発想が飛躍し過ぎ――…私は人のこと言えないな…。


「なんでそうなんの。で、(なに)(なん)のよう?」

「そうだったわ。カノン、()()探してるのよ。家にない?」

「“()()”…ああ。ちょっと待って。取ってくる。」

「おねが~い。」


 と、カノンさんは奥の部屋に“アレ”を取りに行ったので、私はお姉さんと二人きりになりました。


「お名前は?」

「あ、和津池(わつち)チヅキです。バイト帰りに電車が止まっちゃって、カノンさんに一泊させてもらいました。このお礼は必ずします。」

「彼女じゃないの?」

「え?違いますけど…?」

「なーんだ。彼女じゃないのね。面白くないわねー。」

「えぇ…。」


 カノンさんとは似ても似つかない人だな…。もちろん、そんなにカノンさんのこと知ってるわけじゃないんだけどさ。


「チヅキちゃん。」

「はい。…(なん)でしょう?」

「カノンと仲良くしてあげてね。」

「はい!」



 しばらくして。カノンさんが戻って来て、お姉さんに“()()”を手渡します。


「ん。」

「ありがとカノン。ちゅーしたげる。」

「要らん。行け。」

「相変わらず可愛くないわねー。」


 そんなわけでお姉さんは行ってしまいました。誤魔化す必要、なかったのかもしれない…。


「…“()()”って(なん)だったの?」

「リップ。家に帰って来たら毎回忘れてんの。」


 よく“()()”で伝わるなぁ。これが家族の絆というものなのか。私も見習わなければならんですね。


「…暑くないん?」

「…(なに)が?」


 ……あ、“エアコンないから暑くなかったか”って聞いてるのか。優しい。となれば、ここは気を使って“暑くない”っていうより、正直に言った方がいいかな?


「さすがに暑くはあったかな。でも普通に寝れたし、なんなら暑さで早起きできたし、全然大丈夫だよ。」

「アンタ…昨日の夜からずっとだったん…?」

「まぁ、そうなるね。」

「マジ…。」


 カノンさん無言で見つめてくる…。そんなに心配しなくても…。めっちゃ優しいなこの人…。これ以上心配かけさせたくないし、ここは嘘をついてでも安心させよう。


「冗談だよ冗談!」

「“冗談”なん…?…アタシが昨日、気付かんかったから、そんな暑いことを…。…ごめん…。」


 なんで頭下げるの…!?


「だから冗談だって!謝らないでいいから!」

「だからごめんって!謝ってんじゃん!」

「いやだか――…ちょっと待ってカノンさん。(なん)の話してるの?」

「は?だから…。」


 数分後――。


「――ごめん…。アタシてっきり、服の話してんだと…。“冗談”って言うから、アタシがツッコミできなかったからツッコまれるまでずっと厚着で寝てたんだと思って…。昨日の夜からボケ仕込んでたんなら悪いことしたな…って…。」

「いや私の(ほう)こそごめん…。“冗談”とか、よく分かんない嘘ついちゃって…。暑くはあったんだけどさ、この2枚重ねは急に来訪者が来たからで…。昨日は普通に、借りたパジャマを使わせてもらいました…。」


 なんか噛み合わないと思ったら、エアコンと服の話ですれ違ってたみたいです…。


「…で、結局(なん)で2枚も着てんの?人が来たから着替えんのは分かるけど、パジャマ脱がんの?(なん)で上から重ね着してんの?」

「いや?これは着替えじゃなくて隠すために。」

(なん)か隠したいことあんの…?…アタシは別に、そういうんは気にせんけど…。」

「?カノンさんには隠さないよ?」

「!…あっそ。」


 “あっそ”って(なに)!?カノンさんが吸血鬼したこと、(なん)でカノンさんに隠すの?ってことなんだけど、“あっそ”ってどういうこと?…もしやアレか?カノンさん的には隠したいつもりなんてなくて、全然知られていいと思ってるってことなのか?…まさか、昨日の夜カノンさんに血を吸われた時、忘れてるだけで私、(なん)かカノンさんに言っちゃったのか…?それか意識はなくても寝言で(なん)か言っちゃった感じだな…?…絶対そうだ…。絶対(なん)か言っちゃったんだぁ…。ふぉお…!思い出せチヅキぃ…!いや寝言なら思い出せるわけない終わったぁ…。


 しかし…冷静に考えるとしても、一体私は(なに)を言ったんだ?『血を、吸われたーい!』とか?私ならあり得るもんね?もう認めるけどさ。私、完全に吸血されることにハマってるもん。今朝、吸血痕(きず)見てちょっと残念に思ってたし。どうせなら意識ある時に吸って欲しかったーとか、ちょっとだけ考えちゃってたからね。…いやまぁ、どっちかといえば、“吸血そのもの”というよりかは“人に求められること”が私は嬉しいんだろうけど。



「――パジャマとか布団とか、汚しちゃったやつは持って帰って、洗濯して返すよ。」

「別にそんなんいいけど。」

「一宿一飯の恩義に少しでも報いたいの!」

「“一飯の恩”は無いでしょ。」

「細かいことはいいの!じゃあ、借りてくね。またバイトで会おうね~!」

「ん。」


 ちなみに、鼻血などの“血の汚れ”は早めの対処が大切です。ほっとくと落ちにくくなるので、できるだけ早く洗った(ほう)がいいんですが…今回はもう気付いた時点で完全に固まっちゃってたので、これは…落ちないかもしれませんね…。落とそうと思えば落とせるんですけど、それなりに手間もお金もかかりそうなんですよ。プロにクリーニングを頼んだ(ほう)がいいかもしれないです。ていうか多分その(ほう)がいいですね。せっかくなので、目一杯綺麗にしてから返却しましょう。



 その夜――。


 カノンさんにまで血を吸われるとは、私ってそんなに吸いやすいのかな。今は健康的な生活してるけど前は全然そんなことしてなかったし、まだまだ質の()い血液ではないのに…って思ったけど血液の質は関係ないのか。“好きな人の血は吸いたくなる”って話だもんね?…カノンさん、私のこと好きなの…?いやいや調子に乗るなチヅキ。カノンさんにとってはなんてことないお遊びかもしれないんだから。私が変に意識して違ったら申し訳ない…でも正解だったらちゃんと誠実にお断りしたい…。…あー!どうすればいいの!


 と、ぶちぶちぶちぶち考えていると、店長さんからメッセージが送られてきました。


『――ということですので、しばらくの間お店はお休みすることになりました。急で申し訳ありませんが、お二人のお仕事もお休みとさせていただきます。すみません。』


 職を失いました。が、それを惜しむ暇もなく、今度はカノンさんから連絡が。


「…カノンさんから!?」


 間違いないぞ…。カノンさんからだ…。私(なに)かやらかしましたっけ…?それか忘れ物でも…?…ってこれメッセージじゃない…!通話だ…!


「もしもし…?」

『アンタ、アタシの彼女になってくんない?』


 何故(なにゆえ)!?


「あの…どういう……え、どういうことですか…?私、(いま)告白されてますか…?」

『あー…ごめん。勘違いさせた。告白とか、そういうんじゃないから説明する。』


 違うんだ…。


『まず…ウチの母親が、“バイトなくなってヒマんなったんなら実家に顔出して来い”って言うんよ。“実家”っていうのは母方の祖母の家ね。で、それはもう向こうに言っちゃってたから、行くんは決定してんの。』

「はい。」

『で、問題なんが、そん時アンタんこと“ガールフレンドだ”って報告しやがったん。』

「はい。…はい?…まぁガールのフレンドではありますか。」

『そしたら向こうの連中全員、“連れて来い”ってうるさいんよ。』


 カノンさんのお母様すっごい自由な人だな…。


『で、どう?』

「“一緒に来るか”ってこと?行きたい!」


 楽しそう!


『…アンタ状況分かってんの?』

「恋人のフリすればいいんでしょ?面白そうじゃん!」

『…アンタ、ソラに影響受けてんじゃないん…?』

「否定はできないけど…茶化すために行くわけじゃないから!そこは信じて!」


 誘っておいて引かないでよ…。でも、カノンさんの吸血の真意を探るにはいい機会な気がするんだよね。バイトなくなったから勉強しなきゃいけないし、友達のピンチを救ってたってことにすれば勉強しなくても許される気がするし!


『別にどうでもいいけど…。アンタ予定は?ソラとかと遊ばんの?』

「みんな課題終わらせてから遊び行こうって言うから、全部夏休み後半に詰まってるんだよね。」

『は?じゃあアンタの課題は?もう全部終わらせたん?』

「私がそんな優秀なわけないじゃん。(なに)一つ手つけてないよ。」

『それ…進学校の生徒として大丈夫なん…?』

「まだ夏休みは始まったばかりだから…。」


 大丈夫じゃないかもだけど…。


『…じゃあ、細かい予定はメッセージで送るから、それ見て。』

「了解!」


 ……もうメッセージ来た!早っ!

 ……“出発明日(あした)”!?早っ!



 明日(あした)――。

 朝、カノンさんと合流して、電車とバスを乗り継いでカノンさんのお婆様のお(いえ)まで参ります。


 めっちゃ時間かかったぁ。そしてカノンさんめっちゃ寝てたぁ。昨日、帰りに気持ちよく眠れそうな香りのアロマディフューザー買ってたんだけど、贈るタイミングを(のが)してしまった…。スケジュールがタイトだったんだもん!しかもカノンさん、寝て起きてを完全にコントロールしてて…。全然渡す機会も話す機会もなかったんだよぉ…。まぁ、寝る前に渡せればなんでもいいか。


「――バス停(ここ)からちょっと歩いたら家。」

「おお。遂に。」


 結構キツイ坂だな…。でも、山に囲まれて、川があって畑があって田があって、のどかでいい感じのほっこりする風景だから、この“歩き”なら全っ然苦じゃない。…いや、そんなことよりこれ、今がカノンさんとお話しする大チャンスなんじゃ…!?家に着くまでに急げ…!


「そういえばアレだね。お姉さんは来ないんだね。」

「“お姉さん”…?誰…?」

「え?昨日の朝の。」

「アレは母親だけど。」

「え!?」


 若っ!?お母さんが吸血鬼なのか。


「下は多いけど、ウチはアタシが一番上。」

「へぇ~。」


 ヤバい会話が終わる。


「なんか…“姉”多いね!妹の人いるのかな?」

「ソラは末っ子じゃん。」

「そうなの?」

「知らんの?友達でしょ?」

「いや…。ソラさん自分のこと話さないし…。」


 そう考えると…私とソラさんってあんま仲良くないのかもしれない…。


「ふぅん。…ソラは、上に2人いる。」

「はぇー。さすが幼馴染。…当たり前だけど、私より全然仲()いに決まってるよね…。」


 私、ソラさんに限らず友達のことよく知らないし…。まさか一般的な意味での“友達”じゃないのか…?なんか悲しくなってきた…。


「あー…まぁ、アイツ猫被ってるから…。そんなもんじゃないん…?」


 慰めてくれるんですか…?優しい…!…ん?


「“猫”?ソラさんが?アレ()じゃないの?」

「ん?誰だってそんなもんでしょ。みんな嘘に(おぼ)()んで生きてんの。」

「カノンさんも?」

「励ましてるん?アタシなんて“特に”でしょ。」


 純粋な疑問だったんだけどな。


 しばらく歩いて、ひとつのお(うち)の前で立ち止まります。


「――着いた。」

「ここがカノンさんの…。」


 ごく一般的な家屋ですね。


「…入る前にいいですか?」

(なに)?」

「恋人のフリするの、女の私でよかったの?」

「別に、女でも男でもなんでもいいんよ。みんな話の“当て”が欲しいだけなんだから。」


 ほぇー…。…カノンさんがいいならいいか。


「アタシからも、入る前に聞いて。」

(なん)でしょう?」

「さっき、カーテンの隙間から妹が覗いてた。多分、“来たよ!”“よし、全員配置に着け!”とか言って、パーティ用のバズーカみたいなデカいクラッカーかなんか構えて玄関で待ってるんよ。あー、マジでダルい…。」


 マジでダルそうな顔してる…。


「一回開けるから、入らずアタシの後ろで待ってて。」

「はあ…。愉快なご家族ですね…。」

「あんなんただのバカ集団でしょ…。」

「はは…。」


 カノンさんが玄関を開けると…。


「ハッピーウェルカーム!!イエーイ!!」


 の掛け声と共に、のどかな原風景に爆発音と銀テープを巻き散らかすご家族一同。


「な?」

「はは…。」


 外まで飛び出した銀テープに彩られた玄関から、いよいよ中へ入ります。


 ほんとに全員揃ってるっぽい…。マジか…。愉快なご家族ですね…。


「おいカノン!このバズーカいくらしたと思ってんだ!フェイント入れるな!」


 お歳的に妹さんかな?


「フェイントに引っかかるバカが悪い。大体、そんなん買う金があんなら辞書でも買ったら?」

「へへーん。どうせアタシらはカノンと違ってバカだもん!勉強したって頭に入んないもーん!やるだけ無駄!」

「だからいつも勉強教えてんじゃん…。」


 私にも分かる…。カノンさんがキレかけている…!


「カノンは教えるんヘタなんだよ!全然わかんねーもん!」

「そうだそうだ!もっとわかりやすく教えろー!」

「教えろー!」


 増えた…!怒りの種が増えた…!


「な?」

「はは…。」


 カノンさんの妹さんたちはこういう感じなのかぁ…。苦労してそうだなぁ…。


「黙らんかいボケ共!彼女さんの前だぞ!逃げられたらどうすんだボケ!」


 今度は(なに)ぃ…!?…めっちゃ若いけど、お歳的にお祖母(ばあ)さんかな?言葉遣いは一旦記憶から消すとして。さすが、鶴の一声というやつですね!やいのやいの騒いでた皆さんがすっかり(もく)しちゃいました。


「で、カノン。土産は?」


 お土産が気になるだけかい。


「ん。デパートで買った一箱15000円のクッキー。」


 え、それって、“しばらくお店閉じることになって賞味期限切れたら勿体ないからって余ったやつを店長さんがくれた、紅茶と合わせて提供してた、カノンさんが作ってるお茶菓子のクッキー”だよね?どう見てもそんな高級お菓子には見えないんだけど、さっき嘘の話したから実践してくれてるのかな…。しかし…さすがにその嘘は(とお)らないんじゃ…。


「マジでか!?太っ腹じゃん!」

「みんなが喜ぶんならタダみたいなもんだから。」

()い子に育ったなぁ!サンキューカノン!お婆ちゃんはお前を誇りに思う!」


 (とお)ったぁ…!!マジか…。カノンさんのご家族みんな…カノンさんとは似ても似つかないな…。


「全員、“クラッカーの残骸(コレ)”片付けたら居間に戻って。紹介するから。」

「はーい。撃つまでは楽しいんだけどなー…。片付けんのがダルいんだコレが…。」

「そう思うんなら撃つな。」

「歓迎はハデな(ほう)が楽しーの!」


 はは…。


「チヅキ。」

「…あ、はい!」


 皆さんの前では下の名前で呼んでくれるんだ。嬉しい。ずっとそうでいいのに。


「騒がしくてごめん。上がって。」

「失礼します…!」


 カノンさんに迷惑かけないように気を付けないとな。

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