転生車 俺を転生させるためにどこまでもトレーラーが追いかけてくるんだが
形式上トレーラーと書いていますが、正確には頭(運転席のある方)はトラクタヘッド、連結して牽引する後部がトレーラーです
朝の通勤時間、それはいつもと変わらぬ日々のはずだった…だが今日は違う
「往生せいやー!」
誰も乗っていない25tトレーラーから怨嗟に満ちた叫びを上げる
もはや偶然を装うつもりもないらしい、トレーラーのフロントバンパーには撃墜マークいやこれまでに転生させてきたであろう人型のマークがびっしりと着いている
トレーラーの行灯には
『YOUは何しに異世界へ!』
と書かれているが全くもって笑えない
俺は横っ飛びでそれを回避出来たがおそらく、きっと、たぶん関係ないであろう浮浪者のおじいちゃんが何処かでパクって来た空き缶満載のカートごと跳ね飛ばされてきりもみ回転で吹っ飛びブティック『王様』のショーウインドを粉々に割って店の奥へと消えていった
「ちっ」
フロントにべったりと血のついたトラックが舌打ちをし尚も俺に迫る
トラックが入ってこれない裏路地へと逃げた俺は安堵して後ろを振り返る
唸りを上げる600psオーバーのエンジン、だが入ってこれないのだから負け犬の遠吠えもいいとこ全く怖くなんてない
アイドリング状態でこちらを見つめる血まみれのトレーラー
突如としてトレーラー上部風防が開き大口径ミニガンの銃身が飛び出してきた
「そんなん有りかよ!」
キュ、キュキュと電子的な音をたて方向を微調整
ウィィィィィィィ
高速回転する軸
けたたましい音を奏で薬莢を撒き散らし俺を狙うミニガン
建物の遮蔽物にして横へと逃げる後方からはガラスの割れる音やコンクリートが砕ける音がするが見ていてはやられてしまう
「ぶっ殺してやる」
聞こえてくる物騒な声も気にしない、死にものぐるいで走る走る走る
ヒュウウゥゥゥ
やっとで弾切れか
飛び出した先の通りには奴の姿はない…だが
「ヒャッハー!魂レベル100じゃねえか、こいつを送り込めれば俺もランクインだぜ!」
中型程度おそらくは8t転生車が、俺に狙いを定めて突っ込んでくる
さっきの奴に比べれば大したドラテクもない、ただバカ正直にまっすぐに突っ込んでくるだけだこれならば軽くいなせる、そう思ったときだった
「俺の獲物に手を出すんじゃねえ」
絶妙なブレーキングを駆使して後部につながる40fコンテナを遠心力に依ってムチのようにしならせ奴が8t車を跳ね飛ばす
「げぎゃああぁぁ」
無機物とは思えない断末魔を上げて何回転も横転する8t車
「危ない!」
そう思った時には既に遅かった、8t車の先にはクタクタのYシャツを着て人生に疲れ切ったブラック企業でまともに家に帰れてなくて60連勤後の久々の休みを謳歌するんだとささやかな幸せを噛み締めようとしているアルコール度数9%のチューハイを手にしているサラリーマンが吹き飛ばされキリモミ状態でい◯ゞの某トラックに叩きつけられて逝った、きっと来世は木に囲まれうん百うん千年とスローライフを営むのだろう
「邪魔が入ったな、続きやろうぜ」
「てめえこそ異世界送りにしてやるぜ」
逃亡と追跡が再開される
それに巻き込まれる人々
「あ~れ~」
キリモミ状態でスナック『貴婦人』に弾き飛ばされた朝帰りのキャバ嬢、ガチ高貴な身分として生まれ変わるんだろう
「大学落ちた死のう」
8浪の大学生は大学構内へ飛ばされた、良かったね異世界ではストレート入学出来そう
「来世では結婚できますように」
そう願いながら芸術点の高いキリモミを披露した50代男性は居酒屋『独身貴族』に突っ込んだ残念
邪魔をしてきた別のヒャッハーな転生車達は尽く奴に返り討ちにあって敗車…廃車か?
どうでもいいことだが転生車に撥ねられた転生車は来世は異世界で何に成るんだろうか?
「来世は轢かれる側に…ガク!」
口惜しそうにそう言い残して大爆発を起こした転生車…なかなかに業が深そうな職業だな
死闘を繰り広げた俺達はスクールゾーンで対峙する
にらみ合いが続き時折トレーラーがフェイント気味にエンジンを空ぶかしする、俺は言ってやった
「無駄だぜ、ギヤが入っているかどうかぐらい音でわかるさ」
正確にはエンジン音ではなくギヤを入れる時の音を聞いているが馬鹿正直に答えてやるほど俺は甘くない
くだらないやり取りで時間を稼ぎつつ突破口を探すがなかなか簡単には見つけられないものだ
くっ、せめてもっと頑丈な建物が有れば…
ジリジリと続く静寂を信号のメロディが切り裂いた
ぺェーぺーぺー ぺェーぺぺぽー♪
「あおしんごぉは手を上げてわたりましょぉ~」
班登校中の子供たちに一瞬ほんの一瞬だけ気を取られた
ガコ
ギヤがニュートラルから1速に入った?しまった!
あいつ子供たちごと…頭よりも先に体が動く、青信号なのに突っ込んできたトレーラーに驚き恐怖からしゃがみ込んでしまう子供たち
不快なスキール音俺はとっさに一人の女の子を抱きかかえ衝突を覚悟する
しかし衝撃はなかった
止まったトレーラーのコンテナの下からわらわらと子供たちが出てきて四方八方に逃げるしゃがんでいたのが幸いしたのか
「お逃げ」
女の子を逃がして距離の縮んだトレーラーと再び対峙する
「なんのマネだ」
「フッ、あの距離ではお前に逃げられてしまう可能性があった」
「子供が巻き込まれるところだったんだぞ」
「見くびるな、何の罪もない子供を撥ねるような真似ができるか」
「計算づくだったとでも言うのか」
「そうだ」
狂ってやがる
「この距離なら逃げられまい」
「そうでもないさ」
離れられないならくっついてしまえば良い、俺はダッシュで飛びつき側面についたはしごに取り憑いた
ドアを開けて乗り込みたかったのだが開けるには時間が足りなかった
「小癪な真似を」
唸りを上げて走り出すトレーラーは俺を振り落とそうと路駐している車に体当たり、あわやという所で
キャビンの後ろに回り込む
ぐんぐんスピードを上げるトレーラー
苦し紛れに繋がっているホースを切り離す、これで後ろのブレーキは効かなくなるはずだ何の役に立つかはわからないが嫌がらせにはなっただろう
キャビンを守るために取り付けられた鳥居に足をかけコンテナにジャンプする
なんとかコンテナには乗り移れたがもう術がない
フルブレーキを奴が掛ける、慣性の法則で俺を弾き飛ばすつもりか!
しかし嫌がらせがまさかの効果を生み出した
フルブレーキの前部に対して制御の掛からない後部のトレーラー、これまでの死闘でヘタったのかキングピンが折れ、カプラーもひしゃげ後部全重量がトラクターヘッドを押しつぶす
俺はコンテナから振り落とされ川へと落下全身痛むが命には別状ない
びしょびしょになりながらもトレーラーの生死を確認しに行った
もげたキャビンから落ちたタバコを手に取り数年ぶりのタバコに火を灯す
「俺を転生させたきゃ戦車でも持ってくるんだったな」
歩き出した俺は背後に向かって吸いかけのタバコを指で跳ねた
背後で大爆発を起こすトレーラー
「あばよ」
振り向きもせず歩道を歩く
背後からやって来た大音量イヤホンにスマホ弄りをしていた一般人に撥ねられ俺は死んだ
素直に転生車に撥ねられておきゃ良かった
息抜きにふざけた作品が書きたいなと思い勢い任せに書きました。トレーラーの構造も適当だしツッコミどころしかありません