遭遇
「……まだ、遠すぎる…。」
夜の風が頬に当たり、やけに冷たく感じる。中性子は宿の中庭で、1人夕焼けを眺めていた。風にも微量の電気が流れている。異常の影響は、あらゆる所に現れている。
「…すぐに、行かないと…。」
手遅れになる前に、止めなければならない。中性子は空を仰ぎ、密かに決意を固めていた。
「中性子、お前は昨日の夜どこに行ってたんだ?」
「………外。」
「……はぁ…お前、協調性って知ってるか?」
「………?」
中性子は、ガンマの問いをあまり理解していない様子だ。アルファは意外にも、その様子を黙って見ていた。というより、余計な事を言わないようにベータに止められていた。しばらくそのまま見ていたが、時計を見ると、もうとっくに出発の時間だ。
「みんな、もう8時だよ!」
「あっ、本当だ。そろそろ行かないと…ほらガンマ、行くよ。」
「…なんで俺が怒られなきゃなんねーんだ…。」
エックスに叱られ、ガンマはぶつぶつ文句を言っている。5人は代金を支払って宿を出た。アンペルさんが笑顔で見送ってくれて、旅への不安も少しは和らぐような気がした。
「磁界の中心部を目指すんですよね。中性子さん、道は知っていますか?」
「……うん。みんな、着いてきて。」
ベータがそう聞くと、中性子は静かにそう答えた。詳細が分からない4人は不安になりつつも、中性子に着いていくことにした。
「すげぇ、やっぱ電磁波の国に比べて発展してんな…。」
「そうだね。電磁波の国も穏やかでいいけど、私は発展している街も好き。」
歩きながら、ガンマとエックスはそう話していた。あまり乗り気ではなかったガンマも、磁界の風景を見て楽しんでいるようで、エックスはそれを見て嬉しくなった。
「なんか意外と平和じゃない?余裕で磁界の中心部まで行けそうじゃん!」
「…アルファ、そうやってフラグを建てると…。」
余裕そうに笑うアルファに、ベータはそう釘を刺した。すると、その瞬間…
「きゃああっ!!」
「うわっ、なんだ!?」
突然、大きな音と共に人々の悲鳴が響いた。何かと思って音のした方を見ると、逃げる人々の先に、2つの人影が見える。
「何!?何なの!?」
「もう、アルファがフラグ建てるから!!」
「言い争ってる暇あったら行くぞ!世界の異常に関係あるかもしれないだろ!」
「そうね!みんな、行くよ!」
人にぶつからないように気を付けながら、5人は人影の方へと向かった。煙でよく見えなかった人影が、段々と鮮明になっていく。そこには、アルファとベータよりも少し年下らしき少女と、顔に独特の模様のある青年が立っていた。
「……あーあ、こんな派手にやっちゃって。見つかったら面倒なのに。」
「おい、何してんだ?」
「……ん?何よ、あんたたち。」
エックスが声を掛けようとしたが、先にガンマが一歩前に出た。
「何やってんだって聞いてんだよ。町の人が怪我でもしたらどうすんだ?」
「そんなの、エレクには関係ないし。エレクはただ、お仕事してるだけよ。」
「……エレク?それ、貴方の名前?」
エックスがそう聞くと、少女は子供らしい声で笑う。そして、ポケットから何かを取り出した。
「きゃはっ、聞かなくても分かるじゃん。おねーさんお馬鹿なの?」
「……このクソガキが!エックスにそんな口聞いてんじゃねーぞ!」
ガンマは思わず怒りに任せて、少女に向かって怒鳴った。そんな事を微塵も気にせずに、エレクと名乗った少女は取り出した道具を弄っている。
「……エレク、こんなお馬鹿さんたちを相手にするほど暇じゃないの。レミング、あとはよろしく~。」
レミング、とはこの青年のことだろう。次の瞬間、エレクが立っていた地面から光が現れた。眩しすぎるほどの光が旋回する。思わず目を瞑ると、その間にエレクの姿は消えてしまった。
「あいつ、逃げやがった…!」
「……?そんなことより、あと一人は…。」
エレクだけが消えたはずが、何故か青年の姿も見当たらない。エックスは辺りを見渡したが、砂埃が待っているだけだ。
そう油断した瞬間、背後に嫌な予感がした。
「……!?」




