冒険の始まり
「もう…置いていかれるかと思った…!」
「ごめんね、アルファちゃん。」
「そういうエックス姉さんも笑ってるじゃん!」
ようやく電磁波の国から出ると、アルファとエックスはそう話していた。アルファの件で少し話がそれたが、結局中性子の考えとは何なのか、ベータとガンマは再び話を戻した。
「あー、結局出てきちまったけど…こっから何か考えあんのか?中性子。」
「私も聞きたいです。大丈夫でしょうか…。」
ガンマとベータが揃って質問する。中性子は、少し考えた後にぽつぽつと言葉を発した。
「……僕も、確信は持てないけど…磁界の中心部に行こうかなって…。」
「磁界の中心部…って、かなり遠いじゃねぇか…。」
「なんか楽しそう!行ってみようよ、みんな!」
「……アルファはもっと危機感を持ったら?そんなんだからいつも…。」
「ひぇっ、ベータの説教は今は勘弁して…!」
電磁波の国を抜けた先は、すぐに磁界へと繋がっている。磁界の末端部であるここから中心に行くには、かなりの労力が必要だ。途端に騒がしくなった4人は、エックスによって制止された。
「みんな、とにかく何も考えずに行動する訳にはいかないね…色々見て回らないと。」
「そうだな。特に中性子!勝手に行動すんなよ?」
「……うん、気を付ける…。」
中性子は曖昧な返事をした。ガンマは納得していないようだが、エックスに止められるのを察して黙った。ようやく今後の意見が固まり、5人はやっと動き出そうとした。その時だった。
「そこの兄ちゃん達!そこに居ると危険だよ!」
「え?何が…うわぁっ!?」
張りのある女性の声が聞こえて、アルファが後ろを振り返った。そして突然、何かがアルファの頭にぶつかった…と思いきや、寸前のところで止まる。
「あ、えっと…ありがとうございます…?」
「ははっ、その様子は…あんた達、もしかして電磁波族かい?」
アルファの目の前に歩いてきたのは、恰幅の良い明るそうな中年女性だった。手に持った磁石で、アルファの頭に降ってきた物を引き付けてくれたらしい。
「いやぁ、ほんの少し前まではきちんと整備されてたんだけどねぇ。急な異常なんて参っちまうよ全く…というか、電磁波族が磁界に来るなんて珍しいね。」
「あ、えっと…その…。」
「この異常の原因を調べようと思っているんです。けどまだ計画がはっきりしていなくて…この近くに宿泊施設ってありますか?」
アルファが戸惑っていた所を、エックスが素早く説明した。中年女性はエックスの相談を聞き、頼もしく答えてくれた。
「そういうことなら、すぐ近くに私が経営している宿があるよ。よかったら案内するけど…。」
「!ぜひ、お願いします。」
偶然女性は宿泊施設の経営者で、宿まで案内してくれるとの事だ。お喋り好きな女性は、道中に磁界の街並みを紹介してくれた。磁界はとても発展している素晴らしい国だ。しかし、この異常が原因で、街の所々が壊れたり崩れたりしてしまっている。
「(…はやく、異常を見つけて解決しないと…。)」
エックスは一刻も早く世界の異常を見つけようと、そう決意した。
「…なるほどね。やっぱり電磁波の国でも…。」
「はい。だから、この異常の原因を見つけなければと思ったんです。」
宿に着くと、エックスは先程の女性と話していた。宿自体は一般的なものだが、どの部屋も綺麗に掃除されていて、とても居心地が良い。
「…実際は中性子の変な行動のせいで、冒険する羽目になったんだけどね。」
「こら、アルファ。そういうことは黙ってなさい。」
エックスが説明をしている間、ベータはアルファを監視していた。隙あらば無駄なことを話すアルファに、ベータは常に警戒しなければならない。ベータは呆れながらも、所々エックスの話を聞いていた。
「若いのに偉いねぇ…あ、そういえば自己紹介を忘れてた。私の名前はアンペル。ここら辺のことはかなり知ってるつもりだから、なんでも相談してよ。」
女性の名前はアンペルといった。彼女は長い間磁界の端の方に住んでいるらしく、土地勘だけでなく顔も広いようだ。
「よろしくお願いします、アンペルさん。私はエックスです。そしてこの子達はアルファとベータ、であちらは私の弟のガンマ、そして…あれ?中性子は?」
エックスは自己紹介をし、仲間たちを紹介し始めた。3人を紹介した時、中性子の姿が見当たらないことに気付く。辺りを見渡しても、中性子はどこにもいない。数分前までは、確かにそこに座っていたはずだ。
「ああ、さっきの長身の割に可愛い顔した兄ちゃんかい?それなら向こうのほうに歩いてったよ。」
「…マジかよ…なぁエックス、もう放っておこうぜ。どうせすぐ帰ってくるだろ。」
「…はぁ…それもそうね…。」
中性子の行動の数々に、流石のエックスも呆れてしまった。ベータとアルファも、中性子の事は放っておくようだ。