プロローグ
世界の電力供給を担う国、電界。世界のあらゆるバランス調整を担う国、磁界。そして2つの国の間に存在する小国、電磁波の国。電界族、磁界族、そして電磁波族。この広い世界の一角に、様々な人々が生活をする3つの国が存在していた。
「…ふぁ…もう朝ね。支度しないと…。」
電磁波の国の平和な朝。小さな一軒家に住む彼女…エックスは、今日も仕事に行くために準備を始めた。彼女はこの国で平和に暮らす、ごく普通の電磁波族だ。
「ガンマはもう行ったのかな?起こしてくれれば良いのに。」
早起きな弟は、いつも先に仕事に行ってしまう。同じ職場で働いているとはいえ、担当が違えば始業時間も少し違うのだ。エックスは目覚まし時計を止め、ベッドから降りた。
窓を開けると、鳥の声が聞こえてくる。今日も、この穏やかな国での平和な日常が続くのだろう。
「ベータ!!なんでそんな所にいるの?一緒に遊ぼうよ~!」
「…アルファの運動神経には着いていけないよ。私はここで待ってるから。」
「えぇ~、私はそこ通り抜けられないのに!」
自然豊かな広場に、今日も元気な声が響いている。時間には少し余裕があり、エックスは声の聞こえるほうへと歩いていった。
「二人とも、今日も元気ね。特にアルファちゃんは。」
「あ、エックス姉さん!ガンマは?」
「ガンマは、私より先に仕事に行ってるよ。確か…中性子くんと一緒に。」
アルファとベータは、近所に住む少し年下の女の子たち。いつも元気で明るいアルファと、対照的に大人しく、真面目でしっかりしているベータ。2人は、エックスを姉のように慕っていた。
「私達とあんまり年は変わらないのに…私も、はやく働きたいです。」
「ベータちゃんは偉いね。まだ、そんなこと気にしなくていいのに。」
エックスはそう言うと、ベータの頭を撫でた。そして少し話をしていると、いつの間にかすっかり時間が経っていた。2人と別れると、エックスは急いで仕事へと向かった。
電界と磁界の間に存在する小国、電磁波の国。この国に住む彼女たちは、電磁波族と呼ばれている。
「…あっ、エックス。遅い!早く手伝え。」
「ごめんね、ガンマ。何をすればいい?」
「中性子にこれ渡してきてくれ。それから、患者の検査はエックスの仕事だろ。」
「了解。じゃあ、中性子くんのところに行ってくるね。」
ガンマと呼ばれた青年は、エックスの双子の弟だ。言葉遣いは荒く、目付きも悪い。根は優しいが、いつも怖い印象を持たれてしまう。そんな弟の事は、エックスにとっては常に悩みの種でもあった。
「中性子くん、これ渡してってガンマに頼まれたんだけど…。」
「……ありがとう、エックスさん。」
「どういたしまして。それより、髪に何か付けてる?」
「……患者の子に貰ったの。磁界で流行ってる髪飾りだって。」
「……なるほど…?」
エックスとガンマの同僚である中性子は、無表情で不思議な人。今日は患者の子に貰ったらしい、明らかに女の子向けのU字磁石型の髪飾りを付けていた。
「(…今日も平和で良かった。これからも、こんな日常が…)」
しかし、次の日のことだった。
「……あれ?ガンマ、何見てるの?」
「エックス、これ見ろよ。ヤバくねぇか?」
「なになに…"電界と磁界に異常発覚…世界の危機”って……。」
ガンマが見ていたのは朝のニュース。何やら異常事態のようだ。世界規模の異常なんて、初めてのニュースだと驚いた。
「…私、外の様子を見に行くわ。」
「俺も行く。先に行っててくれ。」
エックスは外の様子を心配し、見に行くことにした。そして、家の扉を開けた時。丁度家の前に来ていたアルファが、綺麗なショートヘアの赤毛を揺らしながら、凄い勢いで走ってきた。
「エックス姉さん!!どうしよう、町の様子が変なの!」