仕事の依頼
ティアが作ってくれた昼ごはんを食べ終わって腹ごなしに冬用の薪を身体強化を使って割っていた。常時身体魔法と肉体活性化魔法を使っているので、さほど重労働では無い。有料だが街の人の依頼も受けつけている。
この街には冒険者ギルドの支部もないので、駆け出し冒険者の日雇いクエストなどはみんな手分けして行なっていた。依頼は上役に投げられ、小遣い稼ぎの依頼として掲示板に張り出される。
汗も書かない労働だが、身体強化を使っていてもそれなりには疲れる。飽きるとも言う。そんな時。屋敷の郵便受けに1羽の鷹が降り立った。
「助かるなぁ、このところ物入りで金に困ってたんだ」
その鷹は暗殺者ギルドの使い魔だった。
普段は鳩の方を使うのだが、鷹は難易度が高く、緊急で、破格の値段の依頼の事が多い。鷹がひと鳴きして足を差し出した。
依頼書の手紙が括りつけてある。素早く読むとどう足抜けした暗殺者の暗殺依頼だった。
鷹にはお礼に肉をやろうと思うが、あいにく家には保存の聞く塩漬けの肉と燻製肉しかない。しかない。どうしたものかと、屋敷に入るとティアがロビーを掃き掃除していた。昼ごはんの出来に上機嫌なのか、即興の鼻歌を歌っている。
ちなみに昼ごはんはキノコと春の野菜の気まぐれパスタだった。ウルススはティアに失敗の少ない料理から教えている。例え失敗しても怒らずに完食しているが、
「ティア、肉屋まで行くんだが、他に買ってくるものあるか?」
「お肉ならたくさんありますよ? なんでお肉屋さんまで行くんですか?」
「いや、暗殺者ギルドの使い魔の鷹に例として肉があいにくなくてな。乾燥肉でもいいんだろうが、塩漬けの肉は食べるかはわからんだろ?」
「使い魔に肉は必要とは思えませんが、そうですね、胡椒が切れかかっていたような気がします」
「また微妙に金の掛かる胡椒かよ、最近金より高いなんて言われた時代でも無くなったが、それでも香辛料としては割高なんだよなぁ……」
「ご飯が美味しくなる尊い犠牲です。買って来てください」
「分かったよ」
ウルススは極力ティアの出歩きを制限している。整った容姿である、ほぼ無敵と言っていい魔法士だが、油断は禁物である。不意をついた拉致を警戒してのことだ。
簡単な護身術を教えてはいるが、ティアの魅力に結託した男共が連携してきたら多勢に無勢だと、万が一の事を考えてのことである。
パッと見、ただの美少女である。武装もしていないし誘拐の可能性もあった。まあ、ないだろうが、
「鷹には近づくなよ、警戒して噛み付いてくるかもしれん」
「はい、いってらっしゃい。ご主人様」
肉屋と言っても扱う肉は罠にかかった野うさぎやカモ、鹿肉などジビエ的なものモノが多い。豚肉や牛肉、馬肉など家畜の肉はあらかじめ専門に飼育しているあらかじめ予約しないといけない。高いし食べ切れない。何人かで金を出し合い買うようなものだ。祝福祭や収穫祭などでは豚肉が振る舞われるが、あとは食べられる魔物とかの魔物肉である。
ウルススは鹿肉が好きなので、自分で狩ることもある。弓矢の腕前には自信がある。
「鷹なら野うさぎとかの方がいいのかな?」
使い魔にも気を使うウルススだった。
「ただいま……」
「おかえりなさい、ご主人様。どうかしましたか?」
「どうして鷹が居ないんだ?」
「あぁ、それなら燻製肉でも懐いてくれました」
「そうなのか、ならいいんだ。肉が余ったなどうしよう……」
「それで誰を殺すんです?」
「いやな、本部に直接聞かないとなんとも。それと、暗殺が顔も見ずにどうやって殺すんだ?」
「それもそうですね、で、誰を殺すんです?」
「あのなぁ、暗殺者ギルドって言ってもギルド員は居るし、殺人以外の依頼だっ手あるんだぞ?」
「へぇ、でも今日は暗殺依頼ですよね?」
「……。同業者だよ契約違反で逃亡したみたいだ」
「血の掟って奴ですね」
「よくそんな言葉、知ってるな勿論はペナルティはあるターゲットと姦通して逃亡を助けたりな」
「かんつう?」
頬に指を当て小首を傾げるティア。いちいちあざと可愛いなと、ウルススは思った。
「まあ、一線を超える奴だな」
「ああ、私たちが超えてない、アレですね」
せっかく包んだオブラートを破くような発言に閉口する。
「……しばらく戻れないかもしれないから、そのつもりでいてくれ」
ウルススはそういうと買ってきた野うさぎの肉を渡した。
「コレが私の振る舞う最後の料理になるかもしれないんですね。必ず、私の元へ帰って来てください」
「はいはい、無理やり死亡フラグを立てようとするな。まあギアスが消えたら死んだと思ってくれていいから」
契約者の死亡で契約が無効になる事はよくある話で、強制のギアスも例外では無かった。
「冗談はさておき、このお肉はどうやって食べます?」
「無難にシチューだろ」
「切って煮込むだけでいいなんて、シチューはお手軽でいいですね!」
「いやいや、小麦粉とバター入れて煮込まないと美味くないからな!?」
「煮込む時間は苦ではないですね」
「それを言うならローストは焼くだけだぞ?」
「オーブンって使った事ないんですよね、この際やってみてもいいですか?」
「ま、これが最後の授業になるかもだしな」
「そうですよねぇ、ってご主人様もフラグっぽいこと言わないで下さい!」
「なんで怒られるのか、意味わからん」
「私が言う分にはいいんです!」
「理不尽だ」