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その男、伝説につき

「ウルスス・コル殿とお見受けするが相違ないだろか?」


トラビアス王国の王都から北東に向かって大陸を分断するヴィエルブ山脈の麓にサガの街はある。


腰に剣を下げ、使い込んで鈍く光る槍を持ちミスリルの鎧で身を固めた武人らしき人物の問いにウルススとおぼしき、くすんだ銀髪の青年は歩みを止めた。買い物の帰りなのか膨らんだ買い物袋を手に持っていた。容姿はそれなりに整っており、くすんだ銀髪。紫の輝くような瞳。中肉中背の武装して武装していない、どこにでも居そうな二十代後半の青年だ。


「そうだけど。とりあえず、金、名誉、女が欲しいなら別の方法をお勧めする。害意に寛容なほど、俺は人間が出来ていないんでな」

「武人を志し傭兵として生きて早数十年、自分の武が伝説にどこまで通用するか試したい」

「武人を志したんなら騎士団にでも入れば良かったんじゃないか? まあ、訓練ばかりで鉄火場に立つのはもう稀だろうが、戦場で鍛えたかったってところか? できれば、他を当たってくれると超助かるんだけどなぁ、ホントに」

「貴殿に会うためにこの街まで足を運んだ、この意味を汲んで欲しい」


その言葉にウルススは持っていた買い物袋をそっと置くと、武人に向き合う。素手だが死合う気だった。


光か不幸か周りには2人をとめようとする者はいない。


「お前、名前は?」

「銀翼傭兵団副団長、アーデン・クロス」

「そうか。他の誰もがお前を忘れても俺はお前を忘れないよ、アーデン・クロス」

「その言葉、痛み入るが、私が勝った場合どうすればいい?」

「この首を持って王城に届いければいい」

「私の死体は……、打ち捨てて下さい」

「………」


一瞬の交錯。

アーデンの神速の突きを躱すと懐に潜りこもうとするウルスス。槍を捨て、腰だめからの抜き打ちの一撃より速くウルススの拳はミスリルの鎧を砕くことなく体内の心臓を破裂させた。裏打ちと云う技術、正面と背後からの挟撃で内部に衝撃を与える暗殺方法だ。

血を吐き崩れ落ちるアーデンを一瞥すると、

「悪いな、今日の料理は時間がかかる料理なんだよ」


ウルススは買い物袋を広い歩き出す。この街に自警団はいない、衛兵もだ。お小遣い稼ぎに物好きがアーデンの武具を剥がして生活の足しにするだろう。この街には教会もないが、墓守にまで話が届けば、最低限の魂の救済を行ってくれることだろう。


「まったく、料理を教えたら食費が生活を逼迫するようになるとはな、仕事も最近減ってるって言うのに、あの凝り性め……」


家で待っている同居人の意外な性分に頭を悩ませながら美味しい食事は大歓迎だから強くも言えない。美味い食事と酒、清潔で快適なベッドは人生には必須だと、仕事の時は魔物の暮らす森の木の上でも熟睡出来るウルススだが、本気でそう思っていた。


元々名門貴族の出で成人と共に家を出された。から贅沢は知っていた。


「奴隷なんて勢いで買うんじゃなかったなかなぁ……」


しかし、そう言うウルススの口元には薄く笑みが浮かんでいた。


ある賭けで金貨の10倍の白金貨8枚の買い物になってしまったが後悔自体はしていない。奴隷としては破格。いや、人の価値としてはありえない額だったが。

魔法士の血筋でしかも元名門貴族、強制のギアスが着いた絶対服従の絶世の美少女ならそれくらいの価値がついてもおかしくは無いのかもしれない。なぜなら金の卵を産む鶏なのだから。

「あの超気に食わない成金貴族の玩具にしたくなかったんだから仕方ないか、必要経費って奴だな」


賭けに勝ち、奴隷契約を奪い取ってやった時の男の表情を思い出してウルススの笑みは深くなる。その表情を思い出すだけで安い蒸留酒でもことさら美味く感じてしまうのだからしょうがない。


「あの豚野郎を殺す依頼なら超良心的な値段で受けるんだがなぁ……」


ウルススは私情で人を殺す人を殺さない職業殺人者だ。暗殺者として伝説になるレベルの仕事もこなしたが、殺人の暗い愉悦に浸かったことは一度もなかった。


「ただいま、ティア」

「おかえりなさいませ、ご主人様」


歳は13歳くらいだろう。腰まで伸びる長い銀髪は手入れが行き届いており、光に反射してキラキラ光っている。すみれ色の瞳は活力に満ちており、顔立ちは幼いが整っており、数年後は傾国の美女確定である。出会った頃を思えば、さらに格段に可愛くなったと思う。


「……帰って来た時に、迎えてくれる人が居るっていいよな」

「ご主人様。それ、毎回のように言ってません?」


出迎えてくれたティアに買い物袋を渡す。


「今回は余計な物は買ってないようですね……」

「俺だって毎回怒られたくは無いからな。まあ、買い食いはしたが」

「はぁ~~。予算内にお金を抑える事をいつになったら覚えてくれるんですか、ご主人様は」

「いや、今日の料理は時間か掛かるって言ってたから待てるように、な?」

「な? じゃありませんよ、まったく」


ティアはプリプリ怒りながら台所に向かう。


「夕飯が出来るまで、ゆっくりしていてくださいね、夕飯前のお酒はダメです」

「そうだな。じゃあとりあえずティアは裸エプロンになってくれ」

「絶対服従ですけど……。拒否していいですか?」

「悲しいなぁ、してくれないのか」


ティアはイタズラめいた笑みを浮かべて、


「自発的にその格好になるには、私の好感度を上げて下さいな、ご主人様?」

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