05 垣間見
蓮宮を見送ってから、宗勝は光春と実清のところへ来た。共に食事をとるつもりらしい。実清は遠慮しようとしたが、おぬしも客人だ、と呼び止められた。
宗勝は他に泊めている親族のところへは行かず、二人のところへ来た。膳も準備してある。
「親族だからといっても、親しいわけではないのだよ。私がいなければ、将軍家の跡目に就けるのに、という者は少なくないからな。」
蒸したカレイをつつきながら、宗勝が言う。
「おぬしらにはな、我がよき友となってほしいのだ。」
突然の言葉に、光春はむせた。
「ありがたいお言葉ではありますが、あまりにも畏れおおくございます。」
恐縮した様子で、光春が答える。いやいや、と宗勝は笑った。
「こうして語らうも何かの縁ではないか。同じ歳だし、私はおぬしらのことを面白く思った。身分など忘れて、これを機に、今後とも良い関係でありたいのだ。伊佐国と須佐国もな。」
そう言う宗勝は、どことなく寂しそうだった。もったいないお言葉です、と光春が返す。
それから、三人は食事をしながら語らった。最初は緊張気味だったが、時が経つのと共に和やかになっていく。宗勝は伊佐のことを、光春は須佐のことをたくさん話した。
光春は、宗勝にせがまれて浜子唄を披露した。須佐国で塩を作る時、浜子が歌う唄だ。歌舞音曲が得意なだけあって、とても良い声色だ。途中からは、実清も加わった。少し外れた調子が重なっても、宗勝は楽しそうにしてくれた。
宗勝は、笛を披露してくれた。高価そうな笛だ。
あっという間に、夜は更けていった。長居をしたな、と言いつつ、名残惜しそうに宗勝は部屋を後にした。
光春がふっと息をつく。
「いいお方だな、宗勝様は。」
天上人でありながら、ああも気さくだったとは。
主人が楽しそうなので、実清も嬉しくなった。警戒していたのは最初だけで、宗勝はとても気の良い人だった。膳の料理は少し冷めていたが、どれも美味しかったので満足だ。
布団を準備し、実清は部屋を下がった。光春はもう眠たそうだったので、すぐに寝入るだろう。
実清は、四畳半ほどの小部屋に案内された。菜種油で灯りを灯してある。襖を閉め、案内役の女房が立ち去る音を確認する。そして、袴と小袖を脱ぎ、荷物から替えの着物を取り出した。館に帰るつもりだったので、寝巻着はない。
実清は、子供の頃から、胸の膨らみを隠すため、さらしをきつく巻いていた。今日は汗をかいた。せめて、それだけでも交換したい。
荷物の中から、さらしも出した。胸に巻いてあるさらしを、手早くほどいていく。ほどいたさらしを、先に巻き取り、一つにまとめた。その時だ。
なんの合図もなしに、いきなりがらりと襖が開いた。光春かと思い、ふと暗闇を見やる。
揺れる灯りに照らされて、そこには宗勝が立っていた。着崩した寝間着姿だ。
廊下の冷気が、実清のあらわになった素肌に触れた。
わぁっ、と声をあげ、実清は慌てて後ろを向いた。それと同時に、すまぬ、と宗勝が襖を閉めた。
見られた、今のは絶対見られたーー頭の中がぐるぐると混乱したまま、実清は素早く着物を整えた。
そっと、音を立てないように襖を開いてみる。ばん、と音がした。見れば、宗勝が大の字に板壁に張り付いている。口を魚のようにパクパクさせている。
「お、おぬし、胸が……。」