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02 御前試合にて

 御前試合は、朝早くから始まった。全国から人をよんだだけあり、大賑わいだ。特に、身分の高い者ほど多くのお供を引き連れている。光春は、道中も実清と二人だけで来た。路銀の節約のためだ。

 もう春も半ばに差しかかる。知らせが届いてから、皆がこの国の中心、伊佐国いさのくに梅蔵うめくらの地に集まった。

 見物客は、今上帝と蓮宮はすのみやにとどまらず、蓮宮の弟宮、今上帝の親戚である公家からも何人かが来ていた。また、軍事を担う番方の者も来ているという。

 加えて、大将軍菊丸家の嫡男も十六歳であり、試合に呼ばれていた。

 見物に来たいという申し出は方々からあったそうだが、あくまで全国からの若者の交流の場と取り決め、見物は差し控えるよう沙汰があった。

 試合は、菊丸家の別邸で行われることとなった。

 空は快晴だ。そんな空とは裏腹に、光春は暗い顔をしていた。


「若様、大丈夫ですか。」


 心配した実清が声をかける。光春が膝の上で拳を握り、じっとりと汗をかいている。どう見ても大丈夫ではない。

 光春は、黙って首を左右に振った。

 何試合か終わり、光春に支度をするよう声がかかった。白いはちまきを額に締め、木刀を握り、覚悟を決めて彼は立ち上がった。

 相手は、光春よりも一つ歳下の者だった。彼もまた、緊張した面持ちだ。

 二人が開始線につくと、しばしの静寂が訪れた。どこからか、かすかな衣擦れの音がする。

 始め、の合図で両者とも気合を入れる。互いに木刀の切先を合わせると、カタカタと音が聞こえる。両者がじりじりと移動していく。道場の壁際で、皆真剣にそれを見ていた。

 これは、勝てるんじゃないか。若様は剣術も得意ではない。けれど、間の詰め方や牽制の仕方を見るに、相手ももしかしたら、剣術がさほど上手くはないのかもしれない。

 そう思った矢先だ。

 相手が動いた。そして、板の間に足を滑らせて派手に転んだ。観衆から、おおっと声が上がった。

 そこで胴なり首元なり、狙ってしまえば良かった。けれど、光春は切先を相手から外し、あろうことか手を差し伸べた。すると、相手は瞬時に体勢を整えた。そして、若干前屈みになった光春の面前に切先を突きつけた。

 時が止まる。そして、誰かが吹き出し、緊張の糸が切れた。それにつられるように笑い声が起きる。

 その笑いの渦の中、実清は居心地が悪そうに正座していた。

 光春が戻ってきた。人の前を通ると、くすくすと笑い声が起きる。

 実清の隣に、そっと腰を下ろした。気まずいのか、実清と目を合わせようとしなかった。隣で、光春が水を飲む音がした。


「若様らしい負け方でしたね。」


 優しい声で実清が言う。


「……情けないな。」


 普通、相手の隙をつくことをためらわないだろう。相手が転んだなら、これ幸いと狙うものだ。それを、助けようとするなど、ましてやそれで負けて、いい笑い者だ。


「その優しさが、若様の素敵なところです。」


 実清は、本心からそう言った。しかし、光春は眉をひそめたままだ。

 従者だから、そんな優しい言葉をかけるのだろうか。実清にどう言われても、悔しいことに変わりはない。

 確かに実清が言うように、試合なのだからどちらかが負ける。それが自分だっただけだ。けれど、いつもこうだ。このままでは、大切なものも、何も守れないのではないか。

 甘い。とかく、人に甘い。光春は己でそう自覚している。今日の試合は忘れないようにしよう、と心の中で誓った。




 試合はつつがなく終わった。結局、大将軍家嫡男の菊丸宗勝きくまるむねかつが頂点に立った。

 夕刻にかかる前に全てが終わったので、皆心なしか嬉しそうだ。なにしろ、普段は領国にいる者ばかりだ。せっかく梅蔵まで足を運んだのだから、楽しんで帰ろうという雰囲気に満ちあふれている。

 その時、観覧の御簾みすの向こうから声がした。

 蓮宮が、まだ一人、試合をしていない者がいると言うのだ。皆が顔を見合わせた。俺はもう済んだぞ、という声があちこちから上がる。

 そこのそなた、と蓮宮の従者が扇で示す。皆がその先を目で追う。そこには、実清がいた。

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