6 告白
不幸だと思う。
俺以上に、不幸な奴っていないと思う。
俺は投げ飛ばされながら、そう実感した。
「おいおい、色男さんよ、もう終わりかい?」
「はい、終わりにしてください」
「さっきと、態度が違うねえ」
「はい、俺も学びました」
何を学んだというか、まあ現実というか、信じることはよくないことだということをだ。
「す、好きです」
「はい?」
俺に春が来た、わけではない。
俺を好きだと告白してきたのは、一応女子のようだ。
しかも、いわゆる巨乳だった。
しかし、だ。
「わ、私でよ、よ、よかったら、お、お、お付き合い、お願い・・・・します!」
たどたどしく告ってもなあ。
いくら俺が博愛主義者でも、好みというのがあると思う。
「わ、私、ブスですけど、つ、尽くします!」
「はあ、そうですか」
「はい!」
「他をあたってください」
「な、なんでですか?」
「俺、デブ嫌いなんです」
女は泣いた。
目の前でわんわん泣いたけど、まったくと言っていいほど、同情心が湧かなかった。
「泣けばいいってもんじゃないけどな」
ブスが益々醜くなった。
見るに堪えない。
面倒になった俺は、その場を立ち去った。
どうも、それが良くなかったようだ。
いきなり、後ろから羽交い絞めにされ、道場に拉致された。
連れて行かれた場所は、どうも女子格闘技部らしい。
看板にそう書いてあった。
しまった、体育会系か!
でも、なんで?
ああ、そういえばこの前告ってきたあのデブじゃなかった、あのブスじゃなかった、女もどきは格闘技部の人間だった。
嫌な予感がする。
体育会系の怖さは、身をもって学んでいたはずだけど、でも、俺のような一途な男にとって、その学びには意味がなかった。
そう、俺を待っている美女が居るんだから、浮気はしたくない。
いや、カネくれるなら少しなら付き合っても良かったかな。
ブスは三日で慣れるって聞くけど、ちょっとだけなら。
そんな俺の思いをよそに、女子格闘技部員の怪物どもに俺は囲まれた。
「なあ、お兄さんよ」
「は、はい!」
「後輩が随分と、世話になったようだね」
「はい、たくさんお世話しました」
なんのことか分からないけど、否定はしない方がいいと思ったら、竹刀をバンっと俺の肩に振り下ろした。
俺はとっさに避けたけど、むしろそれが悪かったようだ。
なんでか分からないけど、とても嬉しそうな表情をしていかたらだ。
「そうそう、なら恩返ししないとな!」
俺は持ち上げられ、床に叩きつけられた。
「稽古をつけてやるよ」
「え、えんりょし・・・」
「遠慮は無用だ。私たちの仲じゃないか」
また、投げられた。
「なあ、お兄さん」
「は、はひ~」
「お前、女好きなんだって」
「ひ、ひえ」
今度は、寝技を決めてきた。
「ほら、お前の大好きなおっぱいだぞ」
絞められた。
というか、これおっぱいなのか?
筋肉の間違いじゃないか?
「ほら、良かったな」
「ふ、ふふひ~」
「なあ、お兄さんよ」
「ははひ~」
「私の後輩にさ、なんて言ったか覚えているかい?」
「へ?ひひへ」
「おら!」
投げられた。
これは、もう死ぬ。
ああ、俺は美女の涙で溺死する前に、こんな場所でブスに囲まれて死ぬのか?
それは嫌だ。
「なあ、もう一度、言ってくれないかなあ」
「ほ、ほおほはひひはふ」
「あ?なんだって?」
「やめて!!!」
「おいおい、お前にひどいことをした奴なんだぞ?」
「で、でも、ブスだから、私は、私は」
「お前は可愛い後輩だよ。自分をブスなんて言うなよ」
「でもでも」
「本当にお前はいい子だよ、こんな馬鹿にはもったいない」
「わ、わたしは」
「だいたい、こんなクズのどこがいいんだ?」
「や、やさしいところ、かな」
「どこが?」
「ええっと、この前、ねこちゃんにごはんをあげていたり、おばあちゃんの荷物を運んであげたりとか」
「え?本当か?」
やめろ、あれはたまたまだ。
美女に俺のいい人ぶりをアピールしようとしただけで、それ以外の目的はない。
「だ、だから、私、この人に相応しい女性になります!」
いや、無理でしょう。
「よく言った!」
ええ?
「おい」
「は、はひ」
「お前、私の後輩と付き合え」
「ひひゃれふ~」
「おお、そうか、分かってくれたか」
「ひ、ひや~」
「良かったなあ」
「はい!」
ブスは、いやデブは、いや、後輩さんは俺の側にしゃがみ、手を付いた。
「これからも、よろしくお願いします」
「お!女子の鏡!」
お前ら、いつの時代の女だよ。
「私、あなたに相応しい、いい女になって見せます」
「一応言っておくけどな、私の後輩をぞんざいに扱ったらどうなるか、分かるよな」
「は、はひ~」
こうして、俺に彼女が出来た。
出来るだけ早く、別れよう。
今は命が惜しいから無理だけど、俺には世界の美女が待っているんだから。