表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/7

2 知らない天井

 スマホが鳴った。


「う~ん、朝か?」


 スマホを見たら、目覚ましではなかった。


 とりあえず、無視しよう。


「うん?なんだか、変な夢を見たような」


 目が覚めると、さっきまで居た何だか色んな機械がある部屋ではなく、普通の病室に居た。

 いや、違う。

 ここは、天国だ。

 だって、女神さまがいるからだ。

 真っ白な衣装を身に着けた、とても清楚な愛の化身だ。

「好きです」

「あ?目覚めました」

「綺麗だ」

「はあ?」

「LINE交換しましょう」

「ええっと」

「まずは、清い交際から始めませんか?」

「あの~、私結婚してますけど?」

「大丈夫です。ボクは気にしません。いい店を知ってます。今からどうですか?」

「はあ、そうですか。元気になったようですね」

「はい!ボクはいつでもどこでも、元気です!何でしたら、ホテルでも我が家でも構いません!さあ、ふたりを邪魔する者は、どこにもいません!」

「仕事中ですけど」

「愛の前に障害はつきものです!」

「頭でもぶつけたかな?CTでは、異常無しと聞いているけど」

「はい!俺は大丈夫です!だからこれから、ふたりで愛を語り合いましょう!」

「私と語り合う暇があるんだったら、さっきから鳴り続いているスマホに出たらどうですか?」

「そんなことより、仕事はいつ終わりますか?」

 白衣のお姉さんはこめかみに指をあて、頭を振っているけど、頭が痛いのかな?

 僕が介抱してあげるよ。

 ここには丁度いい具合に、清潔そうなベッドもあるし。

 ああ、そうだ。ホテルなんか行かなくても、ここで十分じゃないか!

 俺って、頭いい!

 避妊は、別にいいか。お姉さん既婚者だから、旦那さんの子供ってことにしてもらえれば。

「具合が悪いの?とりあえず、横になりなよ。ボクが添い寝してあげるから」

 お姉さんは盛大にため息を吐いたけど、あまり色っぽくないなあ。女子のため息って、もっと色っぽくするもんだよ?

 ああ、でもその睨むような目は、蠱惑的な感じがする。

 やばい、反応しそうだ。

 俺、こんな目をした女に弱いんだ。


「いい加減にしてくださいね」


 何だろう、これ以上はやばい気がする。

 命の危険を感じる。

 でも、俺の愛は負けない。


 負けないよね?


 それにしてもうるさいスマホだ。というか、録音機能はどうした?

 もしかしたら、俺の事を心配している美女たちに違いが無いと思うが、カネ返せだったらどうしようか?

 そうだ、ここの支払いを借りよう。

 だって、ここを出てバイトしないと、借りたカネは返せないんだから。

 カネを返してほしければ、ここを退院出来るようにカネを貸してくれと。


 俺って、本当に頭いい。

 

 問題がひとつある。

 白衣のお姉さんの魅惑的なお尻に手を伸ばすか、スマホに手を伸ばすか、ここは悩みどころだ。

 俺って、罪な男だぜ。

「はい、どうぞ」

 悩んでいたら、白衣のお姉さんがスマホを取って渡してくれた。

 優しい女性は、好きだよ。

 でも、スマホは手渡しして欲しかったな。

 何も、放り投げることは無いんじゃない?

 というか、頭に当たりそうだったけど?

 当たると、痛いと思うけど?

 もっと、俺に優しくしてもいいと思うけど?

 愛を誓い合った仲じゃないか。

 もしかして、君ってドSですか?

 でも、紳士な俺は動じない。

「まずは食事なんか、どう?いい店、知ってるよ?」

 最近のラブホのルームサービスって、結構馬鹿に出来ないんだよね。

「電話、出ないんですか?」

「ああ、はいはい」

 何だろう、恐ろしく冷たい目で見返されたような気がする。

 いつもなら、ゾクゾクっとするんだけど。

 ちょっと、嫌な感じだった。 

 例えるなら、虫を見るような。

 それも今すぐ潰そうかって、そんな感じの。

 いや、気のせいだろう。

 きっと、照れてるんだろう。

 そうだ、これがツンデレって奴だ。

 可愛い女だ。

 おおっと、電話に出ないと。

 さて、どの美女からの電話だろうか?


 俺って、本当に罪な男だ。


「ああ、もしもし」

「あんた!今、どこに居るの?」

 うわ!女は女でも、お母んだった。

「ああ、後でかけ直すから」

 スマホを閉じると、すぐにまた鳴り始めた。

 ホント、しつこいなあ。

 しつこい奴は、嫌われるよ?

 ああ、でも俺も良く言われたな。

 しつこい!って。

 でも、しょうがないんだ。

 だって、出会いは運命なんだから。


 俺って、いやいいや。


 何かを諦めつつ、再びスマホを開けるとやっぱりお母んだった。

「だから、今は取り込み中だって」

 人妻ナースを口説けるかどうかの、瀬戸際なんだ。

 人生が掛かってるんだ!

「だから、あんたはどこに居るのよ!」

「怒鳴るなよ。ここか、ここは病院だよ」

「病院?あんた、病院に居なかったよ?どこの病院に居るの?」

「居ないって、どこの病院って、ああ、そうだ、お姉さん、ここは何て病院?」

 近所の病院だったけど、それを話すとお母んはまた怒鳴った。

「あんた、何でそんなところに居るん?」

「何でって、そういやあ、何でだろう?」

 俺は首を傾げつつ、お姉さんに訊ねた。

「お姉さん、俺、何でここに居るん?」

「駅で倒れたんですよ。高熱が出たので、伝染病の疑いがありました」

 何だろう、すごく小さな声で、そのまま死ねばいいのにって聞こえたけど、間違いだよね?死ぬほど俺が好きの、間違いだろう。

 何だか、追及しては行けない空気を感じる。

 面倒だけど、そのままお母んに伝えた。

「とういう事で、分かった?」

「分かったも何も無い!心配したんだから」

 とうとう、お母んは泣き始めた。

 まあ、確かに伝染病と聞いたら、まあ心配はするよな。

「お母ん、俺は大丈夫だから。そうですよね?」

「はあ、一応」

 一応って、なんだよ。これから付き合おうって言うのに、冷たいじゃないか。

 ああ、照れてるのか。

 人妻なのに、純なんだな。

「ホント、たくさん人が死んで、本当に、本当に心配したんだから」

 死んだって、誰が?

「ええっと、落ち付こうか。俺は死んで無いし」

「あんた、覚えてないのかい?」

「何を?」

「あんたが乗ったバスが、崖から転落したんだよ」

「え?何それ?」

「あんたが、あの、何だったかのサークル?の旅行のバスだったか、そのバスだよ」

 何だか要領を得ない言い方だけど、大筋が分かるのがやはり親子だ。

「バスって、俺、それに乗ってないよ」

「え?なんで?」

「とにかく、話は後で」

 俺はスマホの通話を切り、ネットに接続した。

 バス 転落 事故と検索を掛けたら、俺の通っている大学の名前が出た。


 どうも対向車と俺が乗るはずだったバスが正面衝突し、そのはずみでバスが崖から転落したようだ。

 分かっているだけで死者は7名、重軽傷者21名、行方不明者1名と、かなりの事故らしい。


 行方不明者?


 もしかして、俺の事か?

 

 まあ、何だ。

 色々と不幸なことがあったが、運が良かったのかな?

 合宿のバスに間に合わなかったことが、むしろ幸いしたということか。


 これで地獄のしごきは、無くなったと言うことか。

 

 うんうん、俺ってついてる。


 まてよ。

 あの鬼畜の先輩共が死ぬのはいいけど、女子部員は困るな。

 特に憧れの先輩を、まだ口説いて無いしな。

 後少しで、部屋に連れ込めそうだし。


 生きているって、本当にいいな。


 もったいないし。



 何だか、うきうきしてきた。

 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ