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2話「無意識の特別扱い」

 ◇歩夢◇


 四月も二週目に入り、本格的に授業が進み始めた水曜日。今日は珍しく、全員が揃った会議が行われていた。議題は、今月末にある三学年合同レクリエーション大会の出し物と予算について。あかり先輩たちの話を聞くに、レクリエーション大会は毎年行われる恒例行事であり、新年度最初の生徒会主催イベントらしい。

 


 目的としては、新入生が少しでも早く周囲と溶け込み、先輩たちとの交流の壁をなくすこと。遊びの中で、気楽にコミュニケーションをとっていこう、という話だ。

 正直、去年の流れなどを知らない俺は、先輩たちとの会話を書記代わりにメモしホワイトボードを埋めていくくらいでしか役に立たない。



 同じく副会長で三年生の先輩——宇波(うなみ)(なぎ)先輩や、会計でクラスメイトの新田(にった)華乃(かの)のように意見をいうこともなく、黙々と板書を続ける。二人とも、毎日生徒会室に来ることはないが、仕事自体はしっかりこなすタイプであかり先輩からの信頼は厚い。



 凪先輩は背が俺よりも高くて、身長は180超え。大体頭一個分くらい違うだけでなく、顔立ちも整っており優しい雰囲気のあるイケメンだ。短く切り揃えられた茶髪に焦げ茶の瞳で、一見遊んでいる雰囲気もあるが……生徒会室に来ない日は、専ら部活動に引っ張りだこで色々な運動部の助っ人をしている。メインは陸上だと聞いたことがあるけど、他のスポーツでも部員に負けず劣らずな成績で、女子から告白されている場面を何度も見たことがある。



 未だに浮ついた話を聞いたことがないが、噂では——幼馴染みであるあかり先輩を想っているとかなんとか。基本笑顔なのもあって、謎が多い人だ。



 華乃は……同じクラスで接点も多いから知ってることは結構ある。カールのかかったセミロングの金髪に、透き通るような茶色の瞳。童顔ゆえにかわいらしさがあるが、少しつり目でしっかりとメイクをした彼女は、あまり同い年とは思えない。生徒会室に来ない日は、バイトとバンド活動の二足わらじで過ごしていると言っており、今日も愛用のギターを背負ってこの部屋に来ている。



 明朗快活な性格で友人も多いが、青春を駆け抜けるがごとく過ごしていることもあり、頼みごとをされることが多い。この前も、授業中に寝てしまったからノートを貸して欲しいと頼まれたばかりだ。



 ——まぁ、空席の書記以外は、この二人に俺とあかり先輩を加えたメンバーで生徒会を運営している。



「——それじゃあ、今日の会議はここまで! みんな、お疲れさま」


『お疲れさまです』



 放課後から計一時間半に及ぶ会議は、あかり先輩の号令をもってつつがなく終了。レクリエーション大会の内容に関しては通年と同じものを行い、新たに必要なものは予算を用意して購入することが決まった。

 幾ら自由な校風と言えど、伝統や通例は存在する。余計な仕事は極力避けるのがベストだろう。



「それで……華乃ちゃん? 予算なんだけど、今週中に出せそう? 買い物とかは先生に相談しつつ、週末でテキトーに済ませちゃおうかなぁって思ってるんだけど」


「あ~、そうっすね。去年までの予算とか、今ある資材とか確認できれば明日明後日でなんとか終わりそうですよ」


「そっか。なら、お願いしてもいいかな? 先生たちには私の方で話通しておくからさ」


「助かります! んで、その資材がどこにあるかなんですけど~、お二人はわかります?」



 俺以外の先輩二人に困ったような表情で視線を向けてそう言う華乃。さらっと自分が頭数に入れられなかったのはいいが、一瞬こっちを向いたあとに言われたのは、なんとも言えない感覚だ。一瞥するのを端折ってもよかったのでは、と言いたくなる。

 ともあれ、そんな俺の独り相撲を他所に、凪先輩が彼女の問いに答えた。



「資材かぁ。去年使ったボードゲームとかのおもちゃの類は、グラウンドの隅にある生徒会用の倉庫の中だったかな。僕もそっちに行く予定があったし、案内しようか?」


「マジすか!? 助かります!」


「いやいや、それくらいならお安い御用だよ。あかりちゃんと歩夢君はどうする? ここに残るかい?」


「……そうですね。特に今日は予定もないので、課題でもやってから帰ります。明日授業で使うやつがあったので」



 もっとも、それとは別に議事録も作らなければいけないが予定がないのは事実。どうせ暇な時間だ、有効活用するべきだろう。

 俺がそう言って課題のプリントを取り出すと、凪先輩の隣でウキウキ気分だった華乃の表情がみるみるうちに暗くなっていく。それもそのはず、この課題プリントは授業中に配られたもので、授業時間内に終わらなかった部分をやってこいというものだった。



 当然の如く、授業中に爆睡していた彼女のプリントは真っ白。両面あるうち、俺は表面と裏面半分の近くが終わっているので、残りの問題は片手でも数えられる程度。残念過ぎる現実だ。けど、これは課題。自分でやることこそに意味がある。

 だから——



「ねぇ、あゆむ——」


「見せないぞ」


「ちょっ! まだあたし何も言ってない!」


「課題、見せて欲しいんだろ?」


「それは、そうなんだけど……お願い! 今度のライブが週末で、まともに合わせができるのが今日の夜くらいしかないの! 一生のお願いだから!」



 ……俺だって、別にイジワルがしたいわけじゃない。だけど、課題は課題だ。自分でやることこそに意味がある。他人の答えを見た回答に意味なんてないし、なんの役にも立たない。そうして、俺がなんと言おうか言葉に詰まっていると、あかり先輩は困ったように微笑んで、助け船を出した。



「うーん、じゃあさ。裏面だけ見せてあげたら? 表面は華乃ちゃんががんばって終わらせて、裏面だけ歩夢くんに見せてもらうの? これなら、最低限課題はやったことになるし……ね?」


「……まぁ、それなら」


「やったー!! 会長、ありがとうございます!」


「はいはい。お礼は私じゃなくて、歩夢くんにどうぞ」


「あゆむ! ほんとありがとう! 今度、私の生演奏披露するから!」


「いや、別に……」



 出された助け船に勢いよく乗り込んだ華乃は、凪先輩を引っ張りながら、俺の最後の言葉も聞かぬまま去っていく。感情の振れ幅が激しい、なんともうるさいやつだ。……一年から、なんだかんだ付き合えているのは相性がいいのか、はたまた……いや、考えるだけ無駄か。



 また二人になった生徒会室で俺はいつも通り、あかり先輩にさっきと同じ言葉を口にする。



「お疲れ様でした、会長」


「ほんと、お疲れさま歩夢くん」



 こうして、昨日と同じ二人だけの時間が始まった。


◇あかり◇


 二人が居なくなった後、私はいつものようにソファに行くことはなく、黙々と課題を進める歩夢くんの横顔を見つめていた。

 なんとなく、さっきの彼と華乃ちゃんの問答が気になったからだ。私自身、彼のように課題を見せて欲しいと頼まれることは多々ある。勿論、課題は課題。自分でやらなければ意味はないが、周囲との円滑なコミュニケーションを行う上で、そういう貸し借りは優位に動くことも少なくない。



 なるべく都合のいい関係にならないよう、簡単な見返りを求めるのも手だ。

 でも、彼にはきっと、そういう打算的な優しさは存在しないんだろう。

 私のやってることは、自分を善い人間に魅せるためのイメージ戦略に近い。褒められたことではないが、そうやって自分の外面を作るのは世渡りをする上で必要だ。



 必要だけど、偶に思う。歩夢くんのように、ただただ真っ直ぐでいられたらどれだけ楽なんだろうって。自分の思うことを、思うままになす。自分勝手だけど、自由で、気ままで。私はそうはあれない。作り上げた仮面がそれを許さない。

 だからだろうか、少し羨ましく思う。

 熱のない彼は自我が薄いのか、考えてることも何を思ってるのかもわからないけど、分け隔てなく他者と接し、今を過ごしている。



 そんな彼が、もうちょっとだけ周囲との壁をなくせるように導くのも、先輩としての私の役目だ。そう、役目。ほんの少しでも、彼が自分に近付けば理解できるかもしれないという打算。



「……歩夢くんはさ、さっきの課題見せるのなんで断ったの?」


「なんでもなにも、課題は自分でやるものです。自分でやらなくちゃ力にならないし、先生が課題を出す意味がない」


「だね。私もそう思う。けど、けどさ、そういう頼みごとを通して自分のイメージをコントロールできるんだよ?」


「コントロール?」


「そそ。受け方一つとっても、断り方一つとっても、自分のイメージの変化に繋がるの。私はさ、君が優しいのを知ってるから。あんまり、他の人に勘違いしてほしくないし、君が他のクラスメイトや友人と楽しく学校生活を送って欲しい」



 本当にそれだけだ。

 君は優しいんだから、それが勘違いされないでほしい。

 君は優しいんだから、その優しさを忘れぬまま親しい友人を作って欲しい。



 これは、そのための私からのレッスンだ。



「例えばの話をしよう。もし、私が先生に頼まれて重そうな荷物を必死に運んでいたら……君はどうする?」


「助けますね」


「ふふっ。そう、それでいいんだよ。困っている人がいたら助ける。それだけで、君の評価も、君のイメージも変わる」


「……なるほど」



 何故だろう……あまり納得していない気がする。例え話がが悪かったのだろうか。

 いや、変に凝っても仕方ないし、あれくらい単純なのがわかりやすい筈なのに……どうして?



 生まれる疑問。

 一瞬の自問自答。

 そんな中で、ふと先ほどの華乃ちゃんと歩夢くんの問答が思い浮かぶ。さっき、彼は頑なに課題を見せることを拒んでいたのに、私が華乃ちゃんに助け船を出した途端、意見を変えた。妥協した、上手い条件だったのではないかと我ながら思っていたが、勘違いだったのでは?



 彼は、純粋に()()()()に意見を変えたのでは?

 私が、こうして欲しいと伝えたから、無理矢理納得したのでは?



 じゃあ、さっきの例えも、重い荷物を運んでるのが私じゃなかったら……?



「歩夢くん、さっきの例え話。もし、もしもだよ? 荷物を運んでいたのが私じゃなくて華乃ちゃんだったら、どうしてた?」


「……助けて欲しいと頼まれたら、助けますかね」



 うわぁ、やっぱりか。

 まさかとは思ったけど、思いっきり私のことを特別扱いしてる。嬉しい、そうやって誰かに特別扱いされるのは嬉しいが、そうじゃない。特別扱いは、その人からの信頼や好意の表れだから嬉しいが、今じゃない。



 こういう時の特別扱いは、人間関係に亀裂を生んでしまう原因だ。

 当の本人は無意識だろうが……ここだけはしっかりしないと。



「歩夢くん」


「なんですか?」


「……私以外の時も、その相手を私だと思って対応してみて? そうすれば色々上手くいくだろうから!」


「は、はぁ、わかりました」



 私の言葉に、いまいちバツが悪そうな歩夢くん。そんな彼を宥めるように頭を撫でて、落ち着かせる。――ちょっとだけ避けようとしているのを見るに、こういうのは恥ずかしいんだろう。うん、今日はこれが知れただけで満足しておこう。


 

 彼の無意識が意識に切り替わった時にどうなるか、楽しみだ。


 次回もお楽しみに!


 誤字脱字などがありましたらご報告お願いします!


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