第一話 小さな少年
私の名前はジーサ・キルケー。何億もの年月を生きる魔法使いだ。
そんな私には自殺願望がある。それは何故か?退屈だからだ。
何億もの年月を生きてみるといい、飽きてしまう。
大切な者も失い、心も壊れ、痛みも最早感じない。基本的に欲求が満たせる事の無い人生は退屈そのものだ。
そんな私は今、新たな自殺を考える事にしている。思い付きの自殺では最早死ねないのは理解しているので、数十年単位で計画するのだが、それも死ねない。少し頭の整理がてらに自らが作った勢力へと訪れる事にした。
「大陸魔導会、作ったのは良いけども結局無駄骨だったのよねぇ……」
目の前にある城門をくぐり抜けながら呟く。
彼女を殺せる魔法使いを期待したが、結局一人として彼女を超える魔法使いは現れ無かった。
城の中を歩き、奥の一室を開けると、そこには十人の男女が並び立っていた。
「畏まらなくていいのに、別に私はそんな事しなくても気にしないよ?」
「僕たちは君の部下何だ!建前上はこうしておかないと文句を言う奴がいるからね!」
「ジーサ様への口の聞き方には気を付けろ、ディザ」
最初に口を開いたフレンドリーな少年はディザ、〝十才〟の一人で最も若い天才だ。
そして生真面目そうな男はレレノア。私に自殺の注意をした男で、勿論〝十才〟の一人。
十才とは大陸魔導会最強の十人で、一人で国一つを滅ぼす事も出来る。
魔族との戦線では彼ら一人で上級魔族や最上級魔族を殲滅など、著しい戦果を上げる。しかしその力の矛先は人類に向かう事は無く、各国も無闇に刺激や取り込もうとはしない。
「今日私が貴方達を集めたのは他でも無い、私の悩みよ。素晴らしい自殺の方法を数十年以内に考える命令を下すわ」
「「「「「「「「「「断ります!!!!!」」」」」」」」」」
知ってた、全員が私を慕っているからね……
「はぁ…それなら次よ次。魔族の動きは?」
「ここ最近は特に音沙汰は〝無かった〟ですね」
「今はあるのかしら?」
「大魔王が復活しました」
一瞬混乱した。大魔王が復活?そんな事はあり得ない筈なのに。
「大魔王は私が殺した。輪廻転生も許さぬ様に」
「はい、存じておりますが……先日戦闘した上級魔族や最上級魔族がそう喋り」
「……何処にいる?」
「ジーサ様、憎しみは分かりますがどうか冷静に。大魔王も馬鹿ではありません、貴女様への対策をしているでしょう」
冷静でいられる訳が無いでしょう!?私の最愛の妹を凌辱し、死体を世界に晒した男を!!
私は魔族が嫌いだ、その魔族に殺されるのはもっと嫌い。
「十才に告ぐわ!大魔王が復活したならば魔族の攻勢は強まる、それだけで無く石龍の動きも活性化するわ!貴女達はそれへの対策として魔族、魔物との戦線に行って人類の援護を!」
「は!!!」
言葉通り十才達は世界各地に向かった。私は………大魔王を始末しに行こうか。
「生き返って早々に死んでもらうわよ?」
あの男だけは許さない。私の妹を奪った奴だけは!!
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魔族領内。人と魔族の境となっている樹海を抜けた先に広がっているのは様々な死の大地。
毒に染められた土地や竜が跋扈する土地、嵐が止まない土地など様々な脅威が蔓延っている。
「き、貴様は………」
「十魔天様に急いで………」
「うるさい」
道中には何匹かうるさい害虫共がいるが踏み潰すだけだ。どうせ大した事はない
探知魔法をかけながら突き進んでいると一つの反応を見つけた。
「魔族領内で矮小な反応…?」
魔族は生まれ持って強大な魔力を持つ。魔力が無くとも規格外の身体能力などが存在感を放つ。
だからこそこの小さな反応は疑わしい。私の探知を誤魔化せるのは世界を探しても大魔王ただ一人なのだから。
「隠れたところで私から逃れられると思わない事ね」
小さな反応の元へと向かう。
そこは森だった。
土地の大半が災害などに侵食されている中で自然を保っている森。
「魔族領にもこんな場所があるのね」
ジーサは歩を進めていくと立ち止まる。
視線の先にいたのは小さな少年だった。
「魔族…ではあるようね」
「お姉ちゃん誰?」
「気は進まないけど、魔族なら殺しておくか」
魔力も姿も大魔王とは一致しない。
髪色と角の形こそ似ているが流石に弱すぎるわね。
「せめて楽に殺してあげる」
『神之雷鳴』
雷が少年を貫く、辺りには焦げた臭いと煙が舞う。
その雷鳴は少年を跡形も無く消し去った……筈だった。
「お姉ちゃん何してるの?」
「は?」
私の魔法がこの少年に防がれた?そんな馬鹿な。
魔力なんて人間の赤子よりも低いこの少年が?
「お姉ちゃんー!教えてよ!」
いつの間に私の傍に?防がれた事に気が行き過ぎたか…
「お姉ちゃん!喋ってよぉ」
「え…?」
「どうしたの?そんなに怯えた顔して」
あり得ない、近付かれてやっと分かった。
こいつは大魔王だ。けど以前とは比べ物にならない程の魔力を保持している。
私でさえ霞む程の膨大な魔力の塊。しかもこれは近付かれてやっと感じる力の片鱗だ。
これが大魔王となれば私でさえ手が出せない化け物が誕生する……
「お姉ちゃんー大丈夫?」
「え、ああね。それより君はいつからここにいるのかな?」
「分かんない!気づいたらここにいたんだ!」
「へ、へぇ…」
「それよりさっきの雷ってお姉ちゃんが起こしたの!?」
「そ、そうだよ」
「僕にも教えて!格好良いのやりたい!」
「別にいいけど…」
もしかして記憶が無いのか?私にこんなに接触してくるなんて。
だが警戒はしていないとね、いつ本性を表されても困るから。
「取り敢えず私の足を掴むのをやめなさい、邪魔だから」
「はーい!」
喜ぶ少年を見ながら私は協会へ戻るのだった……