プロローグ
死んだら地獄や天国に行く、人間はそういつも聞かされてきた。
けど私にはそんな場所があるとは思えない。
だって私は………………
死なないから。
「今日はここでいいかな」
やって来たのは霊峰星天山。この世界で最も天国に近いと呼ばれる山だ。
地上からは約百万メートル程の高さがある。
だがこれだけでは死ねるか分からないと、保険も作ってきた。
億を過ぎた辺りから数えるのを辞めた自殺も、今日でお終いになると良い。私は頂上から飛び降りた。
風が気持ち良い。久し振りにこんな颯爽とした気分になれている。これはもしかすると、もしかするとかもしれない。
「取り敢えず地上かな?森も見えてきたね」
暫く経った後、ようやく地表が見えてきた。
だが彼女の下に見えるのは地面では無く、巨大な穴だった。黒く染まり、底が見えない。深淵を感じさせるそれは、彼女が先程創り出したものだった。
更に暫くの時間が流れ、終わりの時間は訪れた。
星の中心、重力の最終点がきた。
彼女は巨大な衝撃と共に熱で炙られる。刹那の間、彼女は今回こそは死ねるのかと思ったが、それは直ぐに思い違いと知った。
「耐性と再生……もう付いちゃったのか。これじゃあ無駄骨だね、戻ろう」
落胆しながらも、割り切って地上へと戻る。
落下も熱も、彼女を至高へと連れ行くには足りなかったのだ。
■■■
自殺から数日後、彼女の元へ数名の人物がやって来た。
「ジーサ様、また星に危害を加えましたね!」
「……自殺の為よ、仕方が無いでしょう」
「どんな理由であれ!星の核まで届く大穴を創られては困ります!周辺諸国では大地震によりインフラは停止しているんですよ!?」
「悪かったわよ……けど私の身にもなって。ここ何億年も意味も無く生きているの、早く死にたいのよ」
「大陸最強の魔法使いに死なれると困ります!自殺は自重してくださいとあれ程!!」
「うるさい部下だなぁ……」
「大陸魔導会も混乱しています!そのトップが元凶なんて笑えません!」
大陸魔導会。大陸中に点々とする魔法使いを纏める組織であり、その組織力は大陸随一だ。大国などとも引けを取らない組織だが、そのトップは私、ジーサ・キルケー。
本来なら私を殺せる魔法使いを作る場が、今や魔法使い養成所だ。
「……言ってもジーサ様は聞かないよ」
「だからと言って我々が諌めなくてはどうする!?この方が好き勝手して得する勢力など何処にも居ないのだぞ!?」
「まるで天災かの言い方ね……」
「その通りでしょう?数多の魔王を滅ぼし、世界の均衡を保つ一角。気まぐれで動く分魔王よりもたちが悪い」
「今貴方を殺しそうよ……レレノア」
「私を殺すならば今後百年は自殺を辞めて下さい。でなければ死ねない呪いをかけますよ」
「分かったわよ、暫くは自殺を控えるわ。これで満足?」
「はい、それでは我らはここで」
そう告げた後には彼らの姿は無かった。
去った彼らを忘れ、早速新たな自殺を彼女は考えるのであった…………
こんなでも部下には慕われている模様………