公園
女の子について行き、屋根を走ったと思ったら電柱を飛び回り、当たり前のように建物から建物に飛び移った。当然、私はそれについていけないわけで、何も考えず、その場に突っ立っていた。女の子はようやく、私がついてこれないと分かったらしく、こちらに振り返って「あ、そっか、忘れてた。」と言い、なぜか私をおぶろうとした。
「他の道はないの?」
「ない。」
即答され、行き方がわからない私は女の子の言うことを聞くしかない。おとなしくおぶられた。
「軽っ!」
「え?」
「軽すぎない?十二歳だよね?体も小さいし。」
「まあ、学校の同学年では一番背は低かったけど。」
「…そうなんだ。」
そんな話をした後、女の子はずっと無言で歩いた。
初めて、おぶられたな。改めて女の子を見て気がついた。…昼の時となんか違うなあ。雰囲気が。女の子は、すごく綺麗な白髪。男の子みたいな髪型で、電灯の光でキラキラしていた。異国の人とも思えない。絶対に日本人なんだけどな。アルビノってやつかな?よくは知らないけど。さっきから気分がふわふわしていたので、特に気に留まらなかった。
女の子は、ゆったりしている長袖のシャツと、これまたふわふわした半ズボンを着ていた。シンプルといえばシンプルだが、すごく、似合う。着ていた服は、上下ともに真っ白で、髪と同じ色だった。しかも、なんか、
「…良い匂い。」
「へ?そう?」
「うん。」
というか、さっきから人っこ一人居ない通路をずっと歩いていて、どこに着くのか分からない。そもそも、ずっと私をおぶりながら歩いて疲れないのだろうか。
あ、まずい、あったかい。眠い。いい匂い、眠い。
布団の中みたいで、とんでもない睡魔に襲われた。
「寝てていいよー。着くいたら起こすから。」
私の心を読んだみたいにそう言った。でも、寝かせてくれるなら…。あ、そうだ。
「後で家に帰してくれるの?」
「当たり前だよ、安全なまま帰してあげる。」
よかった…。と、そのまま寝落ちした。
痛い、痛い痛い。
「あ、起きた。」
どうやらほっぺをペチペチ叩かれていたらしく、目の前にあの女の子の顔があった。起きてみるとそこは椅子の上だった。どうやらベンチらしい。
「ここ、どこ?」
「公園。私以外誰も知らないんだ〜、ここ。」
「これが、公園なんだ。」
「来たことないの?」
「ない。聞いたことあるだけ。」
そもそも、学校以外で外に出たことなんかなかったのだから行くわけない。公園…聞いたことはあるけど、見たこともなかったな。
「ここで何するの?」
「遊ぶに決まってるじゃん。」
「遊ぶ?」
「そうだよ。」
「どうやって?」
「どうやってって…何したい?」
「なんでも。」
「うーん、じゃあいつものあれにしようかな。来て。」
「うん。」
初めての遊びだ。頑張らないと。いや、遊ぶことも、知らない間にやっているのかもしれないけど。
女の子の選んだ「あれ」は、鉄の棒の支えについている鎖に厚めの木材がついているもので、ブランコと言うらしい。こんなものを、どう使うと言うのだ。ただの装飾ではないのかな?
「どうやって遊ぶの?」
「あ、そっか、公園を知らないんじゃ、使い方も分からないか。」
思い出した、と言うように言い、実際にやりながら説明してくれた。どうやらこれは、板の上に座って動くものらしい。
説明し終わると、女の子は急に板の上で立ち上がり、その後、板を動かし始め、そのまま鉄の支えをぐるっと一回転した。それを、何度もやっていた。私は何かバケモノを見ているような気分になりつつ、自分の乗っている板を動かそうとした。が、少し揺れるだけで全然動かない。
「なんであなたはそんなに大きく動かせるの?」
女の子に聞いてみた。
「うーん、座ってる時は、自分の足を動かして揺れるんだよ。」
そう言いながら、まだぐるぐると回っている。
足、を動かすのか。ああ、なるほど。
すぐに理解した。これ、振り子だ。すごく大きい振り子。体を動かし、振り子の重心が変わり、同時に遠心力も変わっているのか。なるほど。
「どお?面白いでしょ?」
女の子がようやく回転を止め、聞いてきた。
「面白い?」
面白い、のかな、これ。よくわからない。
「うん!面白くて、楽しくない?」
「うーん、そう、なのかな?」
「…まあ、いいや。」
「何か言った?」
今何か、女の子がつぶやいた気がした。
「いや何も!そういえば、ほら!名前、何?…あ、まず自分から名乗るべきなんだっけ。私、ノネだよ。」
この人、ノネって言うんだ。私と一文字違い…
「私はノウ。」
「ヘー、一文字違いだ!よろしくノウ。」
「あ、うん。」
「それでだけどね、ノウ。少し私の話を聞いてもらってもいいかな?ノウも私に聞きたいこと、あるでしょ?」
あるにはある。というか、ないわけがない。急に家に来て、夜に連れ出された挙句、こんなところまで来たのだから。
「うん。」
「いい子!じゃああそこのベンチで話そう。」
「うん。」