そして精霊は考えるのをやめた
大地が揺れ、大きな波が街に押し寄せる。公爵邸からはっきりと確認できる大きさ、この街まるまるひとつを埋め尽くすこともできるだろう。
ここで突然だが、メイドかつ美少女に似合う武器は何が思いつくだろうか。短剣、大鎌、どれもかっこいい。しかし、どれも大きい敵相手には使えるとはいえない。
そこで私はある局所へ逢着した。それこそが──
「アンチマテリアルライフル」
現れるの一メートル以上はあるスナイパーライフル。AW50がもとになっている。この銃はL96を50口径に改良したもので射程は1500メートル。対人として使用したらその人の後ろも危険な代物だがあのサイズとなると火力も射程も足りない。
しかしご安心をアズマ先生。私には魔法…モドキがある。いつもナイフに使っている材質で強度を底上げし、弾丸にも力を付与する。あとは、
「駄妖精、力を貸しなさい」
「なにそれ…。いや、あ、うん。僕は何をすればいい…?」
「私が攻撃するので道をつくってください」
「わかったよ。エリー、いっしょにしてくれるかい?」
エリーゼも何をすべきか理解したのか若葉色の瞳を真っ直ぐにこちらへと向け、大きく頷いた。
「「風向きは変わり、私たちに祝福あれ」」
エリーの魔力を変換、シルフィで出力。公爵邸からクラーケンへトンネル状に黄緑のサークルが展開、風の通り道ができる。これで準備は整った。
もはや意味をなさないスコープを覗く。その方がかっこいいからね。まあでも適当に撃ってもどっかは当たる。
トリガーに指をかける。始めて使うのでワクワクする。それでは発射!
ドンっという音がなる前に銃に大きな衝撃がはしる。この衝撃を抑えていなかったらこのあたりは吹き飛んでいただろう。そしてクラーケンはというと伸ばしていた足を残してほとんどが吹き飛んでいた。それどころか後ろの雲に大きな穴を開け、穴からは青い空が姿をのぞかせていた。
後ろを向くと精霊ありでも長距離の魔法を維持するのはさすがに厳しかったのかエリーゼはぐったりとしていた。すぐさまぐったりしてる姿を脳内ファイルに刻み込む!
「さてお嬢様、イカパーティにしましょう!」
エリーゼをお姫様抱っこして、いざパーティへ!
「あれを食べるの…?」
※※※
おかしい。クラーケンの存在が完全に消滅している。
過去に自分は歴代公爵たちと契約し、クラーケンと戦った。しかし、最終的には眠りにつく形となった。
確かにあのメイドの火力は凄まじかったが、歴代公爵たちのなかにも命と引き換ええた力をもってクラーケンを倒した者もいた。とは言っても眠りにつかせるだけたった。そうでなきゃ、この国に二つしかない精霊契約をした家をわざわざ国境以外のところにおかない。
撃ちます、倒しましたの一言では終わらないハズだ。いや、ひとつだけ方法がある。
それは魂の破壊。魂とはあらゆる生命体の核であり力の源である。それを破壊すれば完全消滅を成し得ることができるだろう。そんなことができる存在なんてそれこそ───
「あーもういーや!めんどくさい!そういうもんだと思うことにしよう」
こういうときは現実逃避に限るね。
「シルフィ…大丈夫?」
「う、うん。僕は大丈夫だよ」
いけない、いけないエリーを心配させてしまった。自分はこの世に四体しかいない特別な存在なんだから気を引き締めないと。
「そういえばイカパーティって言ってたけど建物とか壊れていないの?」
そういえばそうだ。前の契約者も街の復旧にかなり手を焼いていた。
「それは大丈夫です。私の部下に結界を頼みましたので。003、姿を表しなさい」
メイドの一言でフードを被った部下らしき人物が現れる。顔を見られるのは特に問題がないのか、フードに手をかけた。
腰ぐらいまである金色の髪に翡翠のような瞳、特徴的なのはその耳の長さだろう。というかこれって
「僕の眷族のエルフじゃん!なにパシリにしてんの!」
「いや、なんか都合が良かったんです」
ナイフで脅されて、眷族は都合が良かったで使われて、これ程屈辱的なことが今までにあっただろうか。
「いや、ない!」
メイドがいきなり声を出した。いや、お前が言うんかい。
「風の精霊様、そんなに邪険にしないでください。この御方はエルフ族53名を救ってくださいました。それにプライムナンバーズという今の立場も気に入っているのです」
「プライムナンバーズ?」
「お嬢様ファンクラブですね。適当に使ってくれて構いません。ちなみに私は002です」
「モイラが001じゃないの?」
「わかってないですね、お嬢様。メイドは組織の二番目あたりのポジションがいいんですよ二番目でめっちゃつよい、一番はいったい誰なんだ…って感じが重要なんです」
いったい何処から突っ込めばいいんだろう。こいつそのために僕の眷族救ったとかじゃないよね?自然的な善行ってことで信じていいよね?
なんかまた馬鹿馬鹿しくなってきた。もう眷族なんて知らない!
「イカ食べよう!」
エリーが悲しそう目でこっちを見ている。やめて、そんな目で見ないで。
というか、もう僕っていらない子なのでは…?エリーにとってはぽっと出で、役目も今失くなった。やっぱつらい…
その時名案がビビッと頭に奔る。そうだ、あのメイドのポジと入れ替わればいいんだ。そうしよう、あいつの頭のおかしさをエリーに伝えればいける!
その時、悪寒が全身に奔った。うん、やめておこう。
エリーはその後ちゃんと魔法を覚えた!