考えるな!感じるんだ!
手を繋ぎながら二人で廊下を歩く。とりあえず掃除をして、いや使えそうな家具がそもそもないな。
「お姉ちゃん、あそこの床、赤くなってる。」
うーん。どうしようかな。ベッド、いい感じのあったかなぁ。ん?赤、赤、赤…。あっ!やば、あの部屋そのままにしてる!すぐさまエリーゼから手を離し、急いで扉を閉めに行く。
「いやぁさっき掃除している際中に、部屋の中でトマトスープを零してしまったんです。まだ熱いかもしれないのでお嬢様は絶ッッッ対に入らないでくださいね。いまから掃除しますので待っててください。いいですね、絶対に入ってはいけませんからね」
中がわからないように一瞬で部屋の中に入る。この間0.01秒未満。ドカンと扉の閉まる音がした。
「闇魔法 影 空間収納」
なんということでしょう。バイオハザードだった世界が一瞬で元通りに。収納したのは後で花壇の下にでも埋めておこう。
それにしてもお金がない。いやまあ仕送りの受取人、殺ったのは私なんだけど。
どうにか稼げる方法。エリーゼを養うための金。いや、あるじゃないか。ここは魔物の出る世界。つまり、お決まりのあそこがある。そう冒険者ギルドだ。
公爵邸から港までの大通りに冒険者ギルドは位置している。冒険者ギルドは一応国家が関わっていて言うならば自由に動かせる騎士団だ。と言っても強制力はあまりない。そりゃ入らない方がいいなら誰も入らないよね。
建物の前に来た私は両開きの扉に手をかける。ふむふむ。奥は基本的に受付、手前は依頼と酒場、二階は宿屋といったところだ。
なんか見られてる気がする。服装…いや、今顔と服に血が付いてるからか。とりあえず新規登録のために受付に行こう。
「冒険者ギルドへようこそ。ご用件をどうぞ」
「新規登録をお願いします」
「かしこまりました。ではこちらの水晶に紙を持って当ててください。その後に希望依頼の欄の記入をお願いします」
______________________
名前 モイラ
性別 女
種族 人族
年齢 15
ご希望の依頼
・討伐○ ・調査
・護衛 ・雑用
・採取
______________________
「はい、女性のモイラさん、人族の15歳ですね。希望依頼は討伐でよろしいですね?」
「はい」
「等級の話をします。下から初級、中級、上級となっていますが、上級の中でも抜きん出た者が、稀に特級となります。また、当ギルドは実力主義となっており、受けた依頼は自己責任となっております。一気にのし上がることもできますがその分危険が伴いますので、お気をつけください。それでは、証明書をどうぞ」
冒険者の証明書を受け取る。それから、だいたい理解した。階級が上がるほど知名度が上がって割のいい仕事が回ってくるみたいだね。依頼を受けてもいいし、自由買い取りで稼ぐも良し。そして、実力主義…最高だね。じゃ、早速ドラゴン討伐でもするかな…そう思いながら受付から掲示板へ移動しようとした。そのときだった。
「おい!そこの女やめとけ。お前なんかには無理だ。そこ行って死ぬくらいなら一回俺に抱かせろや」
「……………」
うわっ酒くさ。酔っ払った男は私が何も喋らないからか、調子に乗り始めた。その視線には熱が籠もっており、その思考は容易に読むことができる。ちなみに受付の人はゴミを見る目だった。
「お前なんかにギルドの仕事は無理だな。それともあれか?その身体使って依頼達成するのか?」
「ベタだ!」
突然大声を出したからか、男はキョトンとしていた。まあそうだろう。
それにしてもベタだ。ベタベタだ。小説で2〜30回はもう見た。ここで絡んでくるコイツにはもはや芸術的な価値がある。
ギルドでこんなのいたら、いや治安が今は悪くなっているのか。いやだとしてもいないぞ。
「おい!何をしてる!かわいい女の子はこの僕が守る!」
なんか出た。こういうのはだいたい…あっ殴られて気絶した。うんベタだ。
ここは空気を読んで私もあいつをボコボコにして、スゲーとなるところか。いやクールに立ち去り、あいつ…何者なんだというのも捨てがたい。
「おい」
どっちだ。どっちがよりベタなんだ!こんなテンプレート乗るしかない!だがいったいどっちがいいものか…。
「あの、一人でブツブツされるのであれば外でお願いします」
気がつくと誰もいなくなっていた。男は何故か床にめり込んでいた。そういえば考えているときにうるさかった何かをはたき落としたような…。ま、いっか。気にならなかったということはそういうことなのだ。
その後依頼を普通に受けた。ドラゴンは結構遠かったので、ワンちゃんを討伐することにした。今家にエリーゼを置いてきてしまっているので日が暮れるまでには報酬をもらっていろいろ買わなければならない。最速で行こう。
「さあRTAを始めましょう」