最強のメイド
書くのは初めてなのでその辺はご了承ください
ガタガタと音をたてながら、一台の寄り合い馬車が、なにもない田舎道を走っていた。
乗っている人は四、五人といったところだろう。当然、乗っている人の年齢や身なりはバラバラだ。しかし、その中で明らかに浮いている者がいた。メイド服に身を包んだ少女だ。
単なるメイド服ならどこかの屋敷で働いていたが主人から暇をだされてしまったと思うだろう。しかし、フードをかぶるわけでもなく、身につけているメイド服は働く者の服、というよりかは貴族のパーティで目にする装飾を目的とするドレスに近かった。
とは言っても基本はメイド服なのか色は白と黒を基調としており、黒のロングワンピースに白いエプロンとなっている。エプロンの面積はやや少なめで、見た目は黒の印象が強くなっている。そしてエプロンなどには派手にならない程度に、生地と同じ白色で薔薇の刺繍があしらわれている。
今まで服ばかり話してきたが服は浮いている理由のひとつだ。もうひとつは何かというとその容姿だ。ほんのりと青みがかった長髪に、深い海の底のような瞳。肌は白いが不健康というわけではなく唇は薄くピンク色に染まっている。とは言っても表情はない。しかし、それが人形らしさを引き立てていた。それはもうある種の芸術品だろう。神の創作物、と言っても過言ではない。
高貴な人が、なにかしらの事情があり身を潜めようとしている、それがこの場にいる人全員の共通した考えだった。
関わったら面倒事になりそうだと思い、沈黙が続く。
ガタガタと馬車の揺れる音と、馬が地を蹴る音が絶えず聞こえてくる。
沈黙を破ったのはヒヒーンという馬の鳴き声だった。鳴き声とともに馬車が急停止し、慣性により乗っていた人々が勢いよく揺れる。
馬車の外にはガラの悪い男たちがいた。来た道を塞ぐように二、三人がカットラスに似た弯刀を手に持ち、立っていた。この様子だと進行方向にも数人立っているのだろう。
「命が惜しけりゃ金目の物おいてきな!」
奇襲をかけて略奪しないのは盗賊にしては優しい部類だろう。いや、単純に殺す勇気がない腰抜けなだけなのか。
殺すに殺さないのどちらにしても、寄り合い馬車としては商売あがったりである。しかし、命には変えられないので渋々、盗賊の要求にうなずこうとする。
そこで待ったがかかった。止めたのは例のメイド服の少女だった。
「その必要はありません」
恐怖による震えはなく、自分を奮いたてようと力がこもっているわけでもない。落ち着いた声だった。御者からは背中しか見えないがおそらく表情は変わらず無表情だろう。
盗賊たちは声の方向へ顔を向け、その容姿に一瞬惚けたような顔をする。そして狙いを決めたのか、下卑た顔になる。
「こんな上玉がいるなんて今日はツイてるぞ。よし金はいいからそいつを寄越せ」
リーダーらしき男が口にすると他の盗賊たちもニヤニヤとし始める。その欲望を隠そうともしていない。
御者としては一人を犠牲にして多数が助かるなら、うなずくべきだったがそうはしなかった。
「お嬢ちゃん、自分を犠牲にするじゃない」
それは子供を守ろうとする正しい大人の顔だった。しかし、その顔はすぐに崩れた。
「いえ、ですから何かを犠牲にする必要はありません」
その声が聞こえた瞬間、ドサッと地面に何かが倒れる音が聞こえた。
その音に驚いた御者が目にしたのは気絶して倒れている盗賊たちだった。御者は意味が分からず固まってしまった。すると少女が後ろを振り返り、口を開いた。
「だってわたし冥土なので」
少女は相変わらず無表情でそう言った。