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6 競技場


「結局、一週間と経たずでしたね。あの大型ダンジョン」

「そうだな。地下は存在してなかったし、すぐに解体されたな」

「私の勝ちですね」

「参りました」


 すこしは平らになった街並みを眺めながら仕事現場へ。

 それはそれとして今日も今日とて街には大小様々なダンジョンが生えている。

 生成位置はランダムで規則性がないため、何時どこで被害に会うかわからない。

 例え自宅が無事でも被害を被ることはある。


「ありゃ、行き付けの店が……」

「よう、ライト。見てくれ二階建てになっちまった」


 よく朝食を買うパン屋がダンジョンに押し上げられてしまっていた。


「マジか。一日の始まりはここじゃないと締まらないってのに」

「嬉しいこと行ってくれるな。だが、残念。今日は商売にならねぇ」

「冒険者はもう呼んだ?」

「あぁ、いま中で解体中だ」

「そりゃよかった。じゃあまた明日くるよ」

「おう、いつもの取っといてやるからな」

「頼んだ」


 非常に残念だが、こればっかりはしようがない。

 引きずるよりすっぱりと諦めよう。


「朝食、どうしようか」

「それなら私の行き付けを紹介しますよ。おにぎり屋さんです」

「おにぎりか。たまには米も悪くないよな。よし、案内してくれ」

「こっちですよ」


 シオンに連れられておにぎり屋へ。

 人気店のようでシオンと同年代くらいの冒険者で賑わっている。


「具はなにがいいですか? おすすめはやっぱり梅です」

「じゃあそれとおかかの二つにしようか」


 しかし、こっちでおにぎりが人気になってるってのも不思議な感覚がするな。


「もうすぐ昇級試験だね。自信のほどは?」

「あたしはあんまり。卒業してから結構経つけど、成長できた実感がないんだよね」

「わかる。なんにも変わってないって感じ」

「冒険者ってもっと立派な人がやるもんだと思ってたんだけどねー」


 そう言えば、もうすぐ昇級試験の季節か。

 冒険者としての階級が上がれば舞い込んでくる仕事も多くなる。

 名指し仕事の指名料もいい収入源だ。

 その分、難易度の高いダンジョンに挑戦することになるけど実入りはいい。

 シオンも挑戦したりするんだろうか?


「次のお客様」

「はい」


 順番が回り、注文を済ませて料金を払う。


「ここは私が」

「いや、でも」

「お世話になりましたし、なりますから」

「……じゃあ、今回はな」

「はい!」


 取り出した財布を雑嚢鞄に戻し、おにぎりを受け取った。


「美味いな。歩きながら食べるのがちょっと勿体ないくらい」


 座って味わいたい美味しさだ。


「ですよね。サイズもちょうどいいですし、お気に入りです」


 幸せそうにおにぎりを頬張る姿はテレビCMに起用できそうなほどだった。


「そう言えば、もうすぐ昇級試験だってな。受けるのか?」

「あ、それは……えっと、まだわかりません」


 シオンは中指の指輪に目を落とす。


「ライトさんのお陰で自分の魔法を正しく理解できました。もう何も出来なかったあの頃とは違う。そうわかっているんですけど、まだ自信がないんです」


 急激な変化にまだ心が追い付いていないってところか。


「だから今は昇級試験のことは考えないようにしようと思います。それよりも自分の魔法を深く理解することに時間を費やしたいんです」

「そっか。そう決めたならそのほうがいい。それに昇級試験までまだ時間はあるし、案外それまでに自信が付くかも知れないしな。焦らなくていいさ」

「ありがとうございます、ライトさん」


 シオンの今の気持ちが聞けたのは収穫だ。

 不用意な言葉でシオンを焦らせずに済む。

 じっくり腰を据えて見守っていこう。


「お、見えて来たな。今日の仕事現場」


 街並みの中に聳えるスタジアム。

 今回の仕事は競技場内に生えたダンジョンの解体だ。


§


「あ、あの。競技場にダンジョンが生えたって本当なんスか!?」


 競技場に辿り着くと若者たちがどっと押し寄せてきた。

 誰も彼も体を十分に鍛えているあたり、なんらかの競技の選手なんだろう。


「すぐに解体できるっスよね? 今日、マジで大事な日なんスよ!」

「何年もかけて調整してやっとこの日が来たんです!」

「お願いします! なるべく早く解体してください!」

「わ、わかったから落ち着いてくれ」


 押し寄せてくる選手たちの圧力が凄い。

 彼らを見ていれば今日この競技場で何が行われるのかはわかる。

 それに掛ける思いも十分に伝わってきた。

 だが、熱くなりすぎている。

 シオンなんて俺の背中に隠れてしまった。


「皆さん! 落ち着いてください。貴方たちが道を塞いでいては冒険者の方も仕事ができないでしょう」

「あ……はい、そうっスね。すみません」


 道が開き、ようやく通れるようになった。


「貴方がこの競技場の?」

「はい。責任者のロークです。こちらへ」


 ロークさんに連れられて競技場へ。


「よろしくお願いします!」


 選手一堂の硝子が割れんばかりの力強い声が響く。

 それに背中を押されるように歩き、フィールドへ。


「あーらら、ど真ん中に」


 この広い空間のど真ん中にダンジョンが生えていた。

 全体の大きさから判断して中型の中でも小さい部類に入るサイズをしている。

 この場合は眠っている遺物も一つであることが多い。


「あれ一つだけですね、ロークさん」

「はい。あれ一つだけです」

「よし。シオン、準備は?」

「大丈夫です。この日のためにバッテリーも充電して来ましたから」


 携帯端末と似た形状のバッテリーを先日購入したらしい。


「いいんですよ、これ。電池みたいにかさばらないですから」

「この前は大変だったもんな。使用済みと未使用とでごっちゃになって」

「特訓の最中で本当によかったです。本番だったらと思うと……」


 何度でも使えるようにと充電できるタイプの電池だったが、あえなくシオンの自宅の引き出しにしまわれることとなった。


「これ一つで足りないようなら……もう一つ……」

「バッテリ-、いくらしたんだ?」


 シオンは無言で指を二本立てる。

 二万か。

 顔色が悪そうだ。


「……電池もたくさん買ったもんな」


 シオンを破産させないように仕事を頑張るとしよう。


「冒険者さん」


 準備が整うとロークさんから声が掛かる。


「今日は選手たちの競技が行われる予定なんです。この日のために何年も頑張って来た人もいます。どうか、よろしくお願いします」

「任せてください」


 そう返事をしてダンジョンへと足を踏み入れる。

 選手たちのためにもなるべく早く解体しよう。

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