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4/6

4 パーティー


「なんだ、まだ辞めてなかったんだ、冒険者。つーか、よくダンジョンに来られるよね、あんな役に立たない魔法しか使えないのに」

「いい気味、あたし最初から気にくわなかったんだよね。お利口さんで、男にもモテてさ」

「わかる。あんなしょぼい魔法だってわかった時は笑い堪えるのに必死だったもん」

「それで? 性懲りもなく冒険者続けてるんだ。いいよね、あんたは。泣きつけば男が助けてくれるんだし」


 彼女たちは口々に口汚い言葉をシオンに浴びせかけた。

 シオンは反論するでもなく、ただじっと耐えている。


「聞くに堪えないな」


 彼女たちの前に立ち、背中でシオンを隠す。


「冒険者の鉄則を知ってるか?」

「はぁ? いきなりなに?」

「ダンジョンで敵を作るな、だ。なんでだかわかるか?」

「それは……」

「もしダンジョンで殺人が起こっても立件が難しいからだよ。死体を魔物が喰っちまうからな」


 人を殺すならダンジョンの中がいい。

 捕まった連続殺人犯が残した言葉だ。

 実際に容疑が掛けられてから逮捕に至るまで犠牲者が何人も出た。

 これは冒険者を続けるなら常に意識しなければならない教訓だ。


「それにダンジョンに私情を持ち込むなって言葉もある。恨み辛み、なんでもいいけど私情を仕事に持ち込んだ結果、視野が狭くなって自分の身が危なくなるからだ」


 連続殺人犯が逮捕された一番の理由はダンジョン内でヘマを打ったからだ。

 殺人に夢中になるあまり、魔物への警戒を怠った。

 法の裁きを受けさせるために治療が行われたが、結果として殺人犯は片腕と両の足を魔物に奪われている。

 これも教訓だ。


「お前たちはもう二つも鉄則を破ってる。そして俺たちを敵に回したことで重要な情報を一つ知り損ねた」


 この階層にはもう遺物がない。

 彼女たちはそれを知ることなく無為な時間を過ごすことになる。


「冒険者としては三流以下だ」

「なッ!?」

「こんなパーティー抜けて正解だ。命がいくつあっても足りやしない」


 シオンの手を取り、彼女らの脇を抜ける。


「ふっ、ふざけんなッ!」


 大声が通り過ぎていくが、魔法が飛んでくる様子はない。

 流石にそこまで馬鹿じゃなかったか。


§


「はぁ……」

「どうしてライトさんが落ち込んでるんですか」

「いや、あの子らにああは言ったけど。鉄則を二つ破ってるのは俺も同じなんだよ」


 彼女らを敵に回し、思いっきり私情を持ち込んだ。

 説教できるような立場じゃない。


「イキリ倒しちまった。恥ずかしい限りだ、反省しないと」

「でも、嬉しかったです。私のためにああ言ってくれて」


 シオンは微笑んでいた。


「いつか見返してやろう」

「はい」


 気を取り直して進み、階段にまで辿り着いて第二階層へ。

 構造は第一階層と変わらず、所々に戦闘の痕が見受けられた。


「二階にも冒険者が来ていますね」

「戦闘も激しそうだ。気を引き締めよう」


 遺物を見付ける遺物を使うと、音が鳴った。

 まだこの階層には遺物が残ってる。

 早速、探しに行こう。


「ずっと戦闘の痕跡が続いてますね」


 魔法の焦げ痕、魔物の爪痕、斑で赤茶けた血痕。

 転々と存在し、線で結べるほど近い感覚で続いている。

 第二階層は第一階層よりも難易度が高いとみるべきか、ここが局所的に激戦区になっただけか。

 どちらにせよ警戒するに越したことはない。


「慎重にな」

「はい」


 シオンは腰の剣に手を掛けたまま、またすこし前のめりになる。

 先ほどとは違って罠だけに注意が向いてない。

 これなら魔物がどこから現れても対応できるはず。

 俺も集中しよう。


「この血痕……」


 足を前に進めると地面に描かれた赤い模様が目につく。

 まだ乾いていないそれは何者かの鮮血。

 それが曲がり角まで続いている。


「ライトさん、聞こえますか? 唸り声です」

「あぁ、近いな」


 声の主は曲がり角から現れて、こちらを睨む。

 狼に似たその魔物は赤く汚れた灰色の毛並みを纏い、口に人間の手を咥えていた。


「――ッ」


 衝撃的な光景を前にシオンが足を後ろへと動かす。


「引くな」


 後退ろうとしたその背中を押さえるように踏み止まらせる。


「大丈夫だ」

「――はい!」


 背中から手を離し、血痕を辿るように歩く。

 それを受けて魔物は咥えていた手を投げ捨て姿勢を低く構える。


「ホロスコープ」


 星の光が集い、形と成す。

 様子を窺っていた魔物はついに痺れを切らして跳ねた。


蟹座キャンサー


 現れるのは星の刀。

 振るった一刀は夜空に落ちる流星の如く、魔物を斬り裂いた。


「お見事です」

「ありがと」


 刀身についた血を払い、地面に落ちた誰かの手を拾いあげる。


「まだ暖かい。近くに持ち主がいるな」

「まだ生きているかも知れません」

「急ごう」


 周囲のものを冷やす遺物と一緒に誰かの手を袋に詰める。

 走りながら雑嚢鞄にしまうと、すぐに血痕の終着点が目に入った。

 大量の血痕の上で腰をつき、壁にもたれ掛かりながらも剣を周囲を取り囲む魔物へと向ける冒険者。

 その左腕の手首のあたりから先はない。


「あの人です!」

「助けるぞ」

「はい!」


 助太刀すべく駆けると、すぐに何体かの魔物たちはこちらの存在に気がついた。

 何体か釣れたのでそのまま斬り伏せて先へと進み、包囲を外側から突き崩す。


「シオン! 手当を頼む!」

「はい!」


 必要最低限の言葉で指示を伝え、シオンを先に行かせて戦いに専念。

 複数体同時に跳ねた魔物たちを剣閃で打ち落とし、足下に死体を転がしていく。


「逆、からも、だ!」


 鮮血が舞い散る極限状態の最中、手負いの冒険者が新手を告げる。

 戦闘の隙を付かれて奇襲を許した。

 新手の魔物は手負いの冒険者の直ぐ側まで来ている。

 すぐにシオンが剣を握ったが、それでは迎撃は間に合わない。


「ホロスコープ」


 飛び掛かってきた魔物を斬り捨て、同時に魔法を展開。


射手座サジタリウス


 魔物たちの間隙を縫って弓を引き絞り、矢を放つ。

 それとシオンが左手を魔物に向けたのは、ほぼ同時のことだった。

 矢がシオンの頭上を過ぎて、魔物の眉間を射貫く。

 瞬間、すでに絶命した魔物を消し飛ばすほどの雷撃がシオンの左手から放たれた。


「なんっ……だ? 今の出力は……」


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