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3/6

3 遺物


 ぴこんと遺物から音が鳴る。


「なんの遺物なんですか? それ」

「これ? 遺物を見付ける遺物」

「そんな便利なものが」

「ただし、未発見の遺物があるってことだけしか教えてくれないんだ。位置情報とか幾つあるかとか、その辺の詳細は全然わからない」

「便利なんだかそうじゃないんだか」

「でも、あると助かるんだ。これでこの階層にまだ遺物があるってわかったし、安心して探索できる」

「なるほど。たしかにそうですね。無意味な時間を過ごさずに済みます」


 大型のダンジョンには何人もの冒険者が同時に活動する関係上、すでに遺物が取り尽くされた階層を必死に探索するような間抜けになる可能性がある。

 それは時間の無駄極まりないことで誰も間抜けにはなりたくない。

 そんな時、この遺物はとても役に立つ。

 この類いの遺物は冒険者間での取引でも高値がつく当たりだ。


「道幅が広い。これだけ視界が開けていると奇襲の心配はありませんね」

「曲がり角と天井に気を付けていればいいから楽だな。でも、一つ忘れてる」

「なにをですか?」

「はい、そこでストップ」


 互いにぴたりと足を止める。


「なにが見える?」

「通路です」

「じゃあもっと解像度を上げよう。今目の前にあるのは天井、壁、地面だ。更に言えばそれらを構成する石材がたくさんある」

「……あの石材、ほんのすこしだけ色が薄い」

「正解だ。あれを踏んだらトラップが発動する」


 矢が放たれたり、奈落に落ちたり、壁が迫ってきたり。

 罠の種類は様々で仮に引っかかったとしても対抗策は常に持っているのが冒険者だ。

 けれど、罠に掛からないに越したことはない。


「言われるまで気がつきませんでした。どうやって見破ったんですか?」

「こればっかりは経験としか言いようがないな。俺はソロ専だから、その辺は特に敏感なんだ。強いて言うなら違和感を見過ごさないことかな」

「違和感、ですか?」

「あぁ、俺も最初からトラップがあるってわかったわけじゃない。ただなんとなく感じた違和を信じて立ち止まった。答え合わせはそれから」

「なるほど……ただ漫然と歩いているだけではダメなんですね。参考になります」

「まぁ、これでも先輩だからな」


 シオンに格好いいところを見せられた。


「じゃあ、あれを踏んでたらどうなったか確かめて見よう」


 冒険者の雑嚢鞄には手の平台の石が幾つか入っている。

 こうした状況でトラップの詳細を確かめるのにちょうど良いからだ。

 店に行けばそれ用の石を売っているところもある。

 流石に買ったことはないけど。


「いくぞ」


 軽く石を放り投げ、それは狙い通りに色の薄い石材の上に乗る。

 瞬間、地面が練り上げられたように渦を巻き、槍のように石を突き上げた。

 真っ二つに割れる石。

 鋭い先端は時間が巻き戻るかのようにまた平らな地面に戻る。


「ふ、踏まなくてよかったですね」

「あぁ、串刺しはごめんだ」


 どのような罠だったか確認した後は雑嚢鞄からカラースプレーを取り出し、色の薄い石材の周りを囲むように円を描く。

 目立つ色で目印をつけて置けば、後からくる冒険者が引っかからずに済む。

 冒険者は助け合いだ。


「これでよし」

「行きましょう」


 やるべきことを終え、遺物を探して再び足を動かす。


「違和感……違和感……」


 若干前のめりになりながら、シオンは罠を警戒して歩いている。

 言われたことを即実行に移すのは素晴らしいことだけどお陰で他が疎かだ。

 けど、一度にすべてのことを上手くはできない。

 シオンもやる気になっているみたいだし、ここは何も言わずにカバーに回ろう。

 ちゃんと出来るようになるのは後からでいい。


「ん?」

「あ!」


 髪をふわりと撫でて行った違和感。

 気がついたのはほぼ同時。


「この壁からですよ、風が吹いてます!」

「本当だ、よくやったなシオン。こいつは隠し部屋だ」

「やった!」


 壁に空いた僅かな隙間に指を引っかけて壁を崩す。

 大した苦労もなく人が通れるだけの穴が空き、その先に台座を見つけた。

 その上には未発見の遺物が浮いていた。


「ありました、ありましたよ!」

「あぁ、あったな。シオンが見付けたんだ」

「私が……」

「だから、シオンが回収してくれ」

「い、いいんですか?」

「もちろん。さぁ、ほら」

「は、はい」


 すこし興奮気味に、けれどゆっくりとシオンは台座に近づいていく。

 恐る恐ると言った風に手を伸ばし、最後には力強く遺物を掴む。

 冒険者として最高の瞬間だ。


「私、初めて……」


 遺物を回収したシオンはとてもいい顔をしていた。

 やっぱり冒険者を続けるべきだ。


「何の遺物なんだ?」

「あ、そうですね。えっと」


 水晶の形をした遺物を撫でると勢いよく風が吹く。

 紫がかった黒髪が靡き、シオンは慌てて風を止めた。


「風を起こす遺物、みたいですね」

「よかったな。役に立つ遺物だ」

「風を起こす遺物が、ですか?」

「あぁ、俺が最初に回収した遺物なんて砂糖を塩に変える遺物だったんだぜ?」

「ふっ……ふふふっ」

「あ、笑ったなー」

「ご、ごめんなさい。本当に予想外で……」


 笑いを堪えるのに必死といった様子でシオンは腹を抱えている。

 手に持った遺物も落としそうな勢いだ。


「ふー……落ち着きました」

「それはよかった。じゃあ、次の遺物を探しに行こう。あぁ、その前に」


 遺物を見付ける遺物でこの階層にまだ遺物が残っているか確かめて見る。

 輪型のそれを起動するも、しかし音は鳴らず。


「ということは、もうこの階層は取り尽くされてしまったんですね」

「みたいだな。じゃあ上の階層に行ってみるか。たしか階段あったよな」

「はい。場所、憶えてます」

「流石、頼りになる」

「これくらいは当然です」


 そうは言うものの褒められたのが嬉しかったのか、頬がすこしだけ緩んでいるのを見逃さなかった。


「こっちですよ」


 回収した遺物を大事に雑嚢鞄に仕舞い、シオンは先頭をいく。

 随分と明るくなったように見える。

 やはり冒険者としての経験がシオンを前向きにしてくれている。

 このまま行けば辞めるなんて選択肢はなくなるかも知れない。

 そう思ったのも束の間。


「あ」


 先頭を歩いていたシオンがぴたりと足を止める。

 何事かと前を向けば、対面に四人ほどのパーティーがいた。

 パーティーメンバーはいずれも少女であり、彼女たちはじっとシオンを見ている。

 このパーティーと出会って、シオンはあからさまに静かになった。

 状況から考えるに、彼女たちこそがシオンが以前に所属していたパーティーか。

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― 新着の感想 ―
[一言] 有機物を無機物に変える遺物ってかなりすごいと思った
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