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1 再会


「ホロスコープ」


 星の光が集い、弓と矢を形作る。


射手座サジタリウス


 星の矢を放ち、魔物の眉間を撃ち抜く。

 長い首をしならせて倒れた魔物は、子供の頃に恐竜図鑑で見たブラキオサウルスによく似ていた。


「追加はなし。攻略完了っと」


 巨体が霞となって消え、このダンジョンに存在する魔物はすべて始末した。

 それと同時に最奥へと続く扉が開かれる。

 そこにはダンジョンでしか獲得できない遺物が眠っていた。


「今回はなにかな……あー、指輪か」


 最奥の小部屋の中心に建つ台座。

 その上に浮かぶ一つの指輪。

 綺麗な紫色の輝きを持つ宝石がはめ込まれている。


「なんかぴりぴりするな」


 手に取ると電流が流れたようにぴりぴりした。

 そのせいか手も動かし難くくなったし、常に電気を帯びた指輪か。


「外れだけど遺物は遺物だし、とっとくか」


 指には嵌めずにポケットにしまうとダンジョンの崩壊が始まった。

 音を立てて天井が落ち、柱が折れ、壁が崩れる。

 その只中にあって足下に広がる魔法陣。

 それによって俺の体は崩壊に巻き込まれることなくダンジョンの外へと転送された。


「ふぅ。あ、どうも奥さん。見ての通り、解体完了です」

「あら、早かったわね。ありがとう。家の下からダンジョンが生えて来た時はどうしようかと思ったわぁ」


 ボロボロと崩れていくダンジョンの上には一般家庭の住宅が乗っかっている。


「最近、こういうことが多くてやあねぇ。本当にちゃんと戻るのかしら?」

「えぇ。ダンジョンが解体されると元あった状態まで巻き戻りますので」

「それを聞いて安心したわ。あぁ、そうだ。ほら、これ。差し入れ」

「あぁ、ありがとうございます」


 缶コーヒーを受け取った。


「いいのよ。朝からお願いして早く終わらせてもらったからね」

「遠慮なく。それじゃあ俺はこれで」

「またダンジョンが生えてきたらお願いね」

「是非」


 依頼主の主婦に別れを告げて缶コーヒーを片手に帰路につく。


「ふぅ……今日も雨後の竹の子みたいに生えてるな」


 視界に広がる街並みは今日も不自然に凸凹としている。

 先ほど解体したのと同じように、この街のいたる所でダンジョンが生えているからだ。


 ダンジョンとは世界各地、あらゆる場所に自然発生するもの。

 運が悪ければ寝ている間に家が持ち上げられることだってある。

 それらを攻略することで解体する俺たちのような職業を昔ながらの言い方で冒険者と言う。


「あれ、家の前に……」


 今日もダンジョン生成から逃れた我が家の前に誰かがいる。

 足を進めるとそれが十代の少女であることがわかり、更に近づくとその顔に見覚えがあることに気付く。

 やや紫がかった黒く長い髪。鮮やかな紫色の瞳。まだあどけなさが残る澄まし顔。


「シオン?」

「ライトさん。久しぶりです」


 身長は昔とさほど変わっていないように見えた。


「久しぶりだな、何年ぶりだ?」

「五年くらいですよ。ライトさんがお爺ちゃんの道場を出てそれっきり」

「たまに顔を見せてたんだけどな。そっか、五年ぶりか」


 脳内に溢れ出す懐かしい記憶たち。

 その中にいるまだ幼かったシオンは、こうしてみるときちんと大人に向かっていた。

 酒が飲める歳になったら一杯やりたいな。


「とりあえず中に入るか。時間あるだろ?」

「はい。お邪魔します」


 シオンを連れて家の中へ。

 自宅にシオンがいるのはなんだか妙な気分がする。

 時が経つのは早いな。


「そういや、ここには何しに?」


 テーブルにお茶を置いて席に着く。


「あの、これを」

「手紙?」


 魔力で動く携帯端末が普及したこの時代に随分と古めかしい手段を執る。

 だから送り主も古めかしい人なんだろうと、手紙を開く前に送り主の見当がついた。


「師匠からか」


 五年前まで通っていた道場の師範を務めていた人物。

 齢七十にしてなお現役の驚異的な人だ。


「えーっと……ライトへ。突然だが頼みがある。しばらくシオンを……預かってくれ? どういうこと? 理由はシオンに聞けって書いてあるけど」

「実は……私、組んでいたパーティーから追い出されてしまったんです」

「追い出された? なんでまた」

「それは私の実力不足です」


 膝に置かれていた両手がテーブルより上に持ち上げられ、両手の五指の間で紫電が走る。

 バチバチと派手な音を立てて閃光が弾けて掻き消えた。


「雷魔法か」

「はい。そしてこれが最大出力です」

「……マジか」

「はい」


 先ほどの雷魔法はよくてスタンガン程度の出力しかない。

 人間相手ならまだ使い道があるだろうが、魔物の相手はとても無理だ。


「魔法の技術をいくら磨いても、魔力の質をどれだけ高めても、私の魔法はこれが限界でした。パーティーでは荷物持ちなどをしてなんとか毎日をこなしていたんですけど」

「ついに追い出されたわけか」

「はい。ですから、もう冒険者は辞めにしようかと思うんです。そのことをお爺ちゃんに話したら、しばらくライトさんの厄介になるようにと。決断はそれからにしなさいとも」

「師匠のことだから何か考えがあるんだろうな。しかし、急な話だな。師匠も」

「ごめんなさい」

「いや、シオンじゃなくて師匠が悪いんだ。そう言えば昔もよく無茶を言われたっけな」


 思い出したくはないが、懐かしい記憶だ。


「よし、わかった。しばらくはシオンの面倒を見ることにする」

「いいんですか? 厄介になってしまって」

「別にいいさ、師匠の頼みだし、シオンの力になれるなら」

「ありがとうございます」


 深々と頭を下げるシオンを見て、どうにかしてやりたいと心から思う。

 しかし、あの異常なまでの低出力はなにか原因があると思うんだけどな。

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