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第二十一話 吾が亡き後も幸福は来たれ

 まだ間に合った遮断持ちは、二人だけだった。やはり二人とも娼婦で十六歳と十五歳。それ以上の歳の者は、今更介添え役にはなりたくないそうだ。

 元々、他人があまり好きではない者が授かる技だ。


 すでに利爪が双身持ちにしてくれていた。

 話しておいてはもらったのだが、改めて、頭の角からしか闘気弾を撃てないのを告げる。吾が直接言うのが必要らしい。

 二人ともそれで構わないと答えたので、喜泉に独角鹿の化身になって貰う。


「こうなる訳だが。これじゃなければ直接戦うことになる。色鷲の絶叫は刺突か強撃がなければたいした攻撃にはならない。斬蹴鳥と色鷲なら、飛ぶのが速くなる。蹴狼と蹴豹は、顔の好みだな。慌てて決める必要はない。行くのは半年後くらいだ」


 ここに三ヶ月以上いて、第二砦に一月以上いる積もりだ。

 二人は固まっていたが、十五歳が動いた。


「姐さん、触ってもいい?」

「いいよ」


 喜泉が触りやすいように鹿頭を下げてやる。


「すごく、いい手触り」


 考えたことのない選択基準である。手触りが悪いのはいないけど、鹿が一番か。


「自分の顔になるんだから、手触り悪かったらやだよな。あ、いかん、フラグ立てた」

「なんだ、また妙な異界言葉か」

「悪い事とか変な事を言うと、本当になる、みたいなの。肌触りの悪い化身獣が、出て来るかも」

「強ければ頭の手触りなど、どうでもよかろう。化身で生活するわけではない」

「そうだよね。武人でも戦ってる時に顔の手触り関係ないし、職人は化身で仕事しないし。飯食いに行って、栗鼠頭が調理してたらやだな。栗鼠に限らんが」


 十六歳が反応する。


「栗鼠ですか?」

「ああ、ご大父様のところにいる熊栗鼠が化身獣かもしれないんだ。一身格だから、そち等には獲らせないつもりだが」

「栗鼠、可愛いですよね」

「自分でなっても、見えないぞ。ずっと鏡見てるわけにもいくまい」

「そうですね」


 十六歳は栗鼠に未練があるようだ。


「子供を栗鼠頭にするか。普通の職人ならば二身格までしかなろうとしない。お袋様でも今で十分だと言ってる」


 東の端の国に、縦に角が三本並んだ鹿みたいな牛の三身格の化身獣がいる。三身半になったら連れて行こうかと聞いたら断られた。

 何か、強制力が働いているようにも思える。

 人間が強くなり過ぎても、機械文明崩壊の二の舞が起きるか。


「子が栗鼠頭ですか。可愛いでしょうね」

「子の助勢をするためにも強くなる必要がるが、強健羊でも十分か」

「旦那様のご一党ならば、色鷲でなければご一緒出来ません」


 そうだね、ご一緒大事。


 二人にはゆっくり考えてもらうとして、早速魔窟殲滅からの斬蹴鳥獲りである。一身半格は武人なら獲りたいので、かなり溜まっていた。

 誘き寄せではなく、助勢での狩りも試してもらう。同格で接近戦は危ないので、足を撃たせた。

 生息域でも大人の武人なら勝てる。

 助勢が有効なのは最初の一撃だけだった。二撃だけでなく狩り手の後から攻撃してもだめ。

 喜泉に色鷲を獲らせればさらに安定はするけど、吾の一党でない職人は二身格にしかなれないんじゃないだろうか。


 二身格で射撃持ちの化身獣は、大陸の西の端にいることはいる。そちらは栄えるだろうけど、逢栄と薫風にも同じくらいには栄え続けて欲しい。

 熊栗鼠の検証と平行して、今まで通り道でしかなかった、西第四砦と薫風の東第三砦の周辺でも化身獣を探すことにした。

 両方の太守閣下の、喜ぶまいことか。


 先ずは熊栗鼠。被験希望者の繊細持ち十八歳女職人を背負って飛ぶ。

 即死させないように、喜泉に下半身を撃たせたのだが、足が一本千切れとんだ。

 この高さから大怪我して落ちたら死ぬんじゃないかと思ったが、なんとか生きててくれて、化身玉を出した。

 能力は足を動かしていれば空中を移動出来る空歩だった。もちろん走ることも出来る。霊力消費量も空跳より少ない。


 二身格の鷲がいるので、行く者がなかった薫風東第三砦の東北に、円錐形の角が二本縦に生えている見たことのない魔獣がいた。

 鹿みたいな顔なので、多分牛。角から交互に闘気弾を撃って来る。

 鹿のような魔獣は、投飛剣の刺突入り闘気弾の一撃で死んだ。高志くん一党はお手掛けさんでなくても異様に強い。


 享隼の母親に試してもらう。享隼が背負おうとしたら拒否られた。


「特別な化身獲りは、若様に背負って頂けると聞いております」


 うん、そう言うシステムだよ。


 空跳と射撃持ちだった。双列牛そうれつぎゅうと名付けられた。やっぱり牛。

 遮断持ち二人の選択肢が増えたが、絶対鹿頭鳥頭だった。

 職人代表で好鮮果にも挑戦させた。腰を撃たれて横倒しになったところに、空跳で跳び掛かる。接近戦に持ち込んじゃえばこっちのもの。


 文人は親父様に相談するんじゃなかった。当然翡翠になった。

 横倒しに跳び掛かったまでは同じ。肉食獣じゃないんだから、片っぽ噛ますんじゃないよ。なんで硬い頭蓋骨の上を叩く。なんで首を切らない。

 勝ったからいいけどさ。


 いつの間にか、妹の芳鷲が三歳になった。なぜか貴凰を姉者と呼んでいる。性格も似てしまった。

 帰る度に親父様が何が出来るようになったか、自慢してくれたので、急に大きくなったわけじゃない。

 そして、異世界お宮参りである。授かり技は隠行。霊気量は二十四枡。中々の傑物なのだが、本人は二十五枡に届かなかったのが不満のようだ。

 剛祥と芳鷲は腹違いの叔父と姪。男女を逆にした吾と貴凰だ。

 百年に一人隠行持ちの傑物が生まれれば、誘き寄せも継承される。


 もうこの世界に手を加える必要はない。後は愛しき者と睦み会って暮らせばいい。

 しかし、もう一つやっておく事はある。



「さあ、お前も十五になった。色鵬獲りに行くぞ。此の方は赤いのな」

「判ってるよ」


 貴凰に促されて、この国の東の果て、東第三砦に向かう。

 野営地を早朝に飛び立ち、色鵬の生息域へ。

 もっと奥に行くつもりでいたので、強い翼が欲しかった。

 獣身を自分から獲りに行く気はないので、別のでもいいのだが、色指定の効く色鵬以外の選択肢はなかった。


 青い巨鳥が舞っている。暗い青ではなく美しく青い。

 貴凰のところまで連れて行って倒す。


「化身、現出」


 首の少し下まで羽毛がある。青い翼は日を受けて煌いている。なんか、見たことがある。

 これ、色はカワセミじゃないか。もう、しょうがない。


「なんで、途中で倒さなかった」


 それは文句言われることか。


「ここまで付いて来るか試した。お前の分を連れて来る」

「おう、赤いのな」


 判ってるって。

 そして、煌く赤い鳥が現出する。


「後は、子を孕むだけだ」

「あと五年は無理だぞ。化身持ちは少し寿命が伸びるんだろ。まだ百年以上時間はある」

「そうだ、お前と一緒に百年以上いられるぞ」

「うん。でも連理の比翼は、ないんだよね」

「なんだそれは」

「仲のいい男女の例え。枝が絡み合って一つになった木や、体が半分でくっ付いて飛ぶ鳥。仲のいい伴侶はそれに生まれ変わるとも言われていたかな」

「そのようなものでは、戦い難かろう」

「そうだね。さあ、みんなの所に帰ろう」

「おう」



 

 神にとって世界はボトルシップのようなもので、造れはするが修正が難しい。

 小さな者を送り込み、手直しさせる。

 神の仕事の報酬は、自分で直した以前よりは良くなった世界での、幸福な一生。


 二羽の美しい夫婦の鳥が、午後の日差しを浴びて、待つ者のいる処に向かって飛んで行く。

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