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第二十話 実り多き日々

蹴猫の魔窟を殲滅して野営地を設置、いよいよ、好鮮果と喜泉を化身持ちにする日がやって来た。好鮮果は貴凰に頼んで、吾は喜泉に同行する。

 索敵を使わずに、遮断を発動しっぱなしで縁野干の群れを探す。隠行に比べて燃費も良いようだ。

 群れに近付いて、手近な一匹に肩に担いだ長巻を投げ下ろすように振る。予想通り、初撃は先手が取れる。

 がちがち装備で噛まれても平気なので、兎も角一匹殺させる。後は色鷲身になるだけで逃げて行く。


「化身玉、これが」


 はい、洗うからね。


 本人の索敵が使える好鮮果が先に戻っていて、二人で抱き合って喜ぶ。興奮したのか、二人して伯母ちゃん仕込のレズっぽい裸踊りを始める。異性間の気の交換が気持ち良過ぎるので、この世界に同性愛はないはずだが。

 男達が集まってきて、カブリツキで見る。高志くんも男の子。地球で服着て踊っても金になる芸はあるように、裸自体が何の価値も無くてもこれは芸。


 十日間の休息の間、二人は料理人の手伝い。裸踊りを見たいとの声があるようだが、見たければ伯母ちゃんの店に行け。敵娼を抱きながら見るフロアショーが店の売りらしい。

 戦闘センスがまったくないので、孤狼は無理だろうとなって、群狼を獲らせる。結果はご大父様を通じて親父様にも行っている。遮断持ちの希望者がいたら、大狐孤狼をさせるために、訓練しておいてもらう。

 休養明けで、同日に双身持ちになった好鮮果と喜泉は再びショータイム。職人芸である。


 蹴猫のリポップを狙って、なぜか翡翠が送り込まれて来た。


「若様、伺っては居りましたが、大層ご立派に御成りになられました」

「お前も随分と出世したようだな」

「ご寵愛を頂いております! お前で御座いますか!」

「特に身近なものを呼ぶのは知ってるだろう。添い寝役だったんだから、お前で良かろう」

「はい! お添い寝役を勤めさせて頂きました!」

「ところで、お前の授かり技ってなんなの。気付いたら武人の技しか知らないんだよね」

「簿記で御座います」

「ええ? 複式簿記って授かるの?」

「簿記だけでお判りになられるのですね! 流石若様!」


 そんなさす若いらないから。

 そして、可哀想な蹴猫が惨殺された。気の質は高いのに狙いが悪いから、深手なのに致命傷にならない。

 出来れば二人目の子供を妊娠する前に、強健羊に凄惨な死を与えたいそうだ。

 今考えているのが当たっていれば、可能性はあるのだが、余計なことは言わないでおく。


 翡翠の話を聞いていた喜泉が一身持ちでも考えられなかったと言ったのを聞いて、またつまらない事を考えてしまう。


「一身まででいいなら、独角鹿獲ってみないか。忍び寄って先手が取れれば、蹴猫よりやり易い。この後家に戻るから、ここで猫獲るより遅くなってしまうが」

「双身持ちも夢ですらなかったのです。どうか、お役に立たせて下さい」

「では、頼もう。その前にやって貰う事もある」


 霊気量に余裕のある武人に頼んで、喜泉と一緒に来てもらう。武人の索敵に寄って来た縁野干を、先に喜泉が攻撃する。武人が倒して、後は追い散らす。


「どうだ」

「出ました!」

「よし!」


 隠行だと攻撃の時に発動が切れてしまうので、見たことになる。攻撃を受けても切れないなら、しても切れないんじゃないかと考えた。


「この身は、お役に立てましたか」


 狼さんが期待を込めた目で見ている。


「おお、凄いぞ、遮断は介添えどころか、助勢が出来る! 吾が死んだ後も、一身半なら確実に獲れるようになる」

「独角鹿を獲り、色鷲を落とせましたら、これのような者でも、ご一党にお加えいただけますでしょうか」

「そちが、望むならな」


 彼女以降の遮断持ちは、大狐孤狼になるだろう。試作品にした責任上、一生面倒見るのは当然か。


「魂の全てをお捧げして、お慕い申し上げます」


 お手掛けさん三号の誕生であった。


 遮断については、何回も攻撃できるか、一撃が獲る者の後からでも有効か、など、検討しなければならないが、敵が群れではやり難い。

 化身獲りに選ばれる武人は群狼なら自力で獲れるので、一身格、二身格でいい職人の助勢を喜泉にさせる。

 だんだん上手くなるので、蹴猫の助勢をさせたら、片足を切り落としてしまった。

 料理人の能力は高い方がいいに決まっているので、次のリポップに好鮮果を割り込ませる。

 左前足を切り落とされた猫に、好鮮果が左のジャマダハルを噛ませて、右で首をがしがし。それほど酷い事にはならずにすんだ。

 好鮮果は、後は料理人の道を究めるだけである。


 なんでこんなに急に喜泉が強くなったのかと言うと、玄人なので、ちょっとだけではなく「もう少し頂いても大丈夫です」なのが影響しているとしか思えない。

 化身獲りが終了した翌日、撤収を一日延ばして、貴凰を護衛に喜泉を背負って独角鹿の生息域まで飛んだ。色鷲身だと日帰りが出来てしまうね。

 吾が正面で気を引いておく。射程には踏み込まない。

 なにやってるんだろうな、みたいな感じの鹿の横から首をざっくり。それでは決まらず、更に五、六回凶刃を振り下ろされて、接近戦最弱は無駄に痛い思いをして死んだ。吾の周囲ではよくある話。


「うわあ、闘気弾が撃てます!」


 鹿頭と化した喜泉が、頭の角から闘気弾を撃つ。そこからも撃てるんだけどね。槍の先から撃たせてみたら、出来ない。


「飛行力が人間にない能力なのに使えるから、いけると思ったんだけどな」

「大丈夫です。この角からは撃てるのですから、鳥は落とせます」

「そうだけど」

「色鷲はどこにいるのでしょう」

「今やる気かよ。一日に二匹化身獣獲ったら、親父様に怒られるぞ」


 親父様に怒られてはいけないので、喜泉は諦めた。吾の関係者としては珍しい諦めのいい女だ。

 帰ると好鮮果と抱き合って喜び、久々のショータイムだった。


 屋敷に帰投して、一身格の化身獣について、ご大父様と検討した。もう、やれる事をやらないでおくのは止める。リポップ待ちがかったるいし。


「怪しいのは熊栗鼠くまりすだが」


 ヒグマサイズのでかい栗鼠がいるようだ。人間を襲わないので、あまり獲られない。たまに討伐隊を威嚇して、返り討ちに会う程度。

 霊核が一身格なのと、空中を走るのを見た者がいるくらいのことしか判っていない。


「獲るとしたら、襲ってくる鳥より難しいぞ。森の上を飛び回っているからな」

「飛んでいるものを落としたがっているのが、一人いる訳ですが。なんか、誂えたような」

「そなたが動けば、そうなるのではないか」

「その辺りも、否定しないことにしました。今をもう少し良くするために呼ばれたのだと思います」

「すでに、随分と良くなっておるぞ。景気が良いからな。下々までそなたの恩恵は届いている」

「そう言って頂けるとありがたいです。熊栗鼠のことは、喜泉がもう少し射撃が上手くなってからで。一度逢栄に帰ります」

「おう、して貰えるなら、何時でもありがたいぞ」


 ご大父様が含み笑いをする。


「どうされました」

「そなたは、吾の孫で娘の伴侶だ。これが喜ばずにいられようか」


 一番恩恵を受けているのはこの人に間違いない。


 喜泉を背負って、一気に逢栄の西第四砦まで飛んだ。砦に入る前に深層に行って、喜泉に猩々を撃たせる。一撃なのは当たった三匹に一匹。四匹に一匹は掠りもしない。スキルによる補正があってこれか。

 的ではなく、ちょっと強い動きの良い魔獣が相手の実戦投入は無理。


 翌日、早朝に西第四砦を出て、まだ朝と言える時間に、懸河師団に帰って来た。

 世界中ほぼ同じ家並みなのに、我が家感が凄まじい。

 懐かしい顔に出迎えられる。芳鷲は親父様に抱き抱えられている。親父様が持っているとそんなに変わっていないように見えるが、お袋様や紅ヤンマと比べると、それなりに成長しているようだ。


「芳鷲、大きくなりましたね」


 と言うと親父様が下に置く。足が地面に着いて手を離すと走り出す。


「走れるようになったのだぞ」


 と親父様が自慢する。自分で作ったみたいに。自分で作ったでいいのか。

 動く乳幼児にだけ母性本能を発揮する貴凰に捕まえられて、じたばたしている。

 これが幸せというものだね。


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