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第十六話 ついに色鷲の地に

 中央砦は大概どこでも王都と遜色ない規模で、ここ薫風のそれも広大な森の前でも存在感を示していた。

 当然、ご大父様なのか継母様なのかから連絡が行っていて、正面門の前に出迎えのでかい兵員輸送車が待っていた。

 まっすぐ太守の館に向かう。乗せられてるんだから、ほかに行きようがない。

 館の正面門にも多くの人が整列して待ち構えていた。

 こちらも車を下りて整列する。

 真ん中の、親父様よりやや細く見えるが上背がある、焦げ茶色の半獣身の五角虎ごかくこの鎧の人が、ずいっと前に出る。


「よくぞ、来てくれた。姉者の娘とその伴侶よ」


 どういう人か、まったく判らないのだが、継母様の実弟だから、絶対に油断してはいけない。


「叔父者、お世話になります。貴凰、参りました」

「招かれ人懸河高志です。宜しくのお引き立てのほどをお願い致します」


 継母様に言われたのですよ。


「改まった場所で挨拶をされる時には、招かれ人を名乗られると、最も相手に敬意を表した事になるのですよ。大勢のいる場所であれば、招かれ人に敬意を示されたと言う事で、相手はおおいに評判を得るのですよ」


 この世界の常識を教えてくれただけで、言えって言ったんじゃないからセーフなのですよ。

 叔父者人の後ろに並んだ集団から、小さく声が出る。

 真正面の人の声はでかい。継母様じゃなくてご大父様の弟じゃないの?


「これはまた、丁寧な挨拶、痛み入る。我が家と思い入られい」


 ぞろぞろと入るが、叔父者人に並んだミドルティーンが吾に必死な気を送っている。着ている茶色の鎧は縁野干の物だろう。

 こっちは斬蹴鳥で色とりどり。


「しかし、聞いてはいたが実際に見ると驚くな。全員斬蹴鳥か。もっとも若いのは幾つだ」

「十五になりましたが、獲った時は十四でした」

「信じられんな。授かりの枡の一番下は」

「最年少の者は十五枡でしたが、その姉は十三枡でした」

「十三枡? なんと? この亮鷲は十八枡で群狼を獲れずに悩んでおるのだ」

「そちら様は、縮地ですか?」

「いや、刺突だ」

「介添えのお約束は、縮地だけです」

「ああ、承知している」


 亮鷲ちゃんが泣きそう。武人は喜怒哀楽でよく泣く。

 歓迎の宴会中、遠回しに亮鷲を助けて欲しい的な話をされる。

 孫の中で一番霊気量が少なかったのだが、吾が親族と呼べるようになって、一抹の希望を抱いていたのだ。

 もうね、こうなるのは判っていた。ここはずっと世話になるんだし。


「刺突なら、吼豹、独角鹿、色鷲か猛山羊ですか。一身半はどちらが好みでしょう」

「よいのか! 当初の約束にはないが」

「叔父者人の直系の血族は、お引き受けします」

「そうか! 感謝に堪えない!」


 貴凰って、こっちの血だな。

 叔父者人は先代の手賭けの子だけど、男系男子で、半獣身を獲ったので太守になった。砦には有力な勢力に本妻さんの一門がいる。

 仲は悪くないので、直系に限定しないと腹違いの兄弟姉妹の血縁者がぞろぞろやってくる。先代の手掛けも一人じゃないし。


 泣き出した亮鷲に貴凰が声を掛ける。


「亮鷲姉、よかったな」

「知ってたのか。知らないわけないよな。なんで言わなかった」

「言ったら、約束が違うと言って、誰もやらないなどと言い出しかねない」

「ま、タイミング次第だが、言ったかもな」

「どうだ、以心伝心だろう」

「なんか、違う」


 絶叫持ちの吼豹は危険なので、ほとんど獲られていなかった。他の化身獣を獲りに行って襲われ、運よく勝った者がいたので化身獣なのが判っている。

 独角鹿で闘気弾が強化されれば、高射砲になれるので色鷲も獲れるはず。

 十六歳刺突女亮鷲は、ご一緒するために色鷲を獲りたいと言った。ご一緒確定なのね。

 しかも、自分と似た太守の一門で霊気量が最低補償だった亮隼が手掛けなので、希望が道端にまで溢れまくってしまった。


 翌日早速、昨日までとは違う、希望に満ち溢れたままの亮鷲を連れて、吼豹狩りの準備に掛かる。

 ここの森は、創造神が配分間違えたんじゃないかってくらい化身獣が多いのだが、その分手強いのも多い。

 まずは一身半格の蹴豹の魔窟を殲滅して野営地確保。蹴豹が獲れそうな人もご一緒してて、獲らせる。

 確実に一人で獲れるまで手を出さなかっただけなので、リポップの順番待ちも野営に加わっている。

 もし親父様が家を出る気がなくて蹴豹を獲っていたら、お袋様とは逢わなかった。


 主討伐した日はそこで戦闘終了。やたら期待を込めてこっちを見ていた亮鷲を、ちょっとだけ組に入れて就寝。

 翌日、森に慣れるために亮鷲と一党全員で出る。貴凰もここまでは来た事はない。吼豹は孤狼と同じで、縁より少し奥にいる。

 見た目はでかい豹そのまんま。虎とは区別付くけどジャガーとどう違うんだか。


 隠行で近付いて視認されるか試す。闘気弾の有効射程より少し寄ったところで口を開いた。

 絶叫を避けても隠行は切れない。沢山いるので、これは唐竹割りにしてしまう。

 貴凰と亮鷲を残して一党を帰す。この場合の隊長は佳鷲になる。


 打ち合わせをして虎サイズの豹を探すと、簡単にこっちのパッシブレーダーに掛かる。獲物の横取りをしようとして、広範に索敵しているようだ。

 亮鷲を大木の陰に隠れさせて、ちらちら目の前を動くと、迫ってきた。

 横から刺突を乗せた闘気弾が耳の下を撃つ。上手い具合によろけた。突進して側頭部に刺突入りの突き。こんなのされたら生きてないでしょ。


「吼豹に! 吼豹にかったああ!」


 正しく太守閣下の血を引いているね。取り出してちょうだい。洗うから。

 どのくらい持つか試すために、猫に比べて丸耳の化身のまま帰ったら、リポップ待ちの中から女性が出てきて片膝を着く。


「こちらの娘も、刺突で野干持ちで御座います」


 娘さんの紹介と言うだけですね。そんな大きな子がいるように見えないけど、見た目じゃわからないんだよね。この世界の女の人。

 今日はもう遅いから、明日連れて来なさいと言って夕飯です。明日は母娘丼の予感。

 夕食後、リポップ待ち強撃男が独角鹿狩りの被験者を希望する。亮鷲にいきなりやらせるのも危ないので頼んだ。授かりの技が刺突の母娘丼の材料も独角鹿に変更。


 しばらく一党は別行動で討伐と採集になりそうなので、太守閣下から貸し出された音声通信機でご大父様に連絡して、識別持ちの二人が来たいかどうか聞いてもらう。

 二人とも家臣の伴侶で家臣も量産型双身持ちだった。

 リポップ待ちの枠が二つ空くので希望があれば獲らせる。主部屋の壁を背にして、三身格の武器二刀流で、片方噛ませてがしがしなら勝てるはず。

 一身半入れちゃうと二身格が入らなくなるのだが、職人で二身格持ってるお袋様が例外。

 

 強撃男連れて鹿を探す。長射程闘気弾の鹿は隠れている。

 二人と離れて、隠行なのにわざと音を立てて歩く。射撃用の溜めを作れば気配が漏れる。

 吾を撃った鹿を強撃男が横から撃つ。長射程の弱点は溜めが長い。次を撃つ暇を与えずに倒し切った。

 帰ると母娘丼の材料が揃っていた。招かれ人のちょっとだけは縁起物なので、夜食は予定通り母娘丼。 

 リポップ待ちは全員独角鹿に変更した。二身半格を獲るなら、格闘戦が弱くても長射程闘気弾の初撃が有利。


 翌日娘を豹頭にする。帰ると職人がそれぞれの伴侶を連れて来ていた。蹴猫、強健羊でも介添えをすると言ったが、職人は縁で身を守れればいいので、蹴猫でも十分なので蹴豹にするそうだ。

 職人の伴侶二人も独角鹿を希望。

 更に翌日、母娘丼の母が鹿頭に。一身半格を獲れたら次の子を産むつもりだったので、孕み前の腹直しを頼まれる。やることは一緒なんだが、気分の問題、らしい。

 翌日二人は父であり夫である男の許へと帰って行った。


 職人は仕事をするだけで能力が上がるので、リポップ待ちの二人は採集してきた食材をがんがん調理する。

 同じ高級食材でも魔窟内で作った方が味がいいようだ。化身持ちには精力が強すぎる事もない。

 野営地がバイキングレストラン化した。武人の群れなので、料理が余って捨てられることもない。


「なぜ、ここに住まないのでしょう」

  

 猟蜂がばかな事を言う。


「橋頭堡にしてしまえるだけの戦力はないのよ」


 太守一門のお姉ちゃんの誰かが答えた。

 魔窟に居続けが出来るのは化身持ちだけだ。一身半は高志くん以前は巡視隊長でも上の方だからね。


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