8月15日 辞める
看護師「さっき寝たよ」
私 「そうですか」
どうやら、お父さんは目を閉じているようだった。
看護師「ごめんね、タイミング悪くて」
私 「いえいえ、大丈夫ですよ」
看護師「昨日は、珍しくて来なかったね」
自分のことを認められているようで少し嬉しかった。
私 「昨日は、友だちと話してて」
看護師「いいじゃない」
私 「いいですか?」
思わず聞き返してしまう。
看護師「友だちと遊ばないとね」
私 「うーん」
看護師「彼氏は?」
私 「いないですよ」
恋愛なんて、生まれてから考えたことすらない。
看護師「もっと、恋愛した方がいいよ」
私 「好きな人がいないんです」
看護師「じゃあ、作りなよ。クラスは?」
作りなよって、、、。
私 「クラスは、みんな付き合ってますよ」
看護師「そうなの?」
私 「大体モテる奴は付き合いますよ」
沢田、中沢、辰巳。ここら辺は、みんな付き合っているで有名だった。
看護師「じゃあ、モテない奴でもいいじゃない」
私 「モテない人は、変な奴ばっかりですよ」
看護師「そうかな?」
私 「そうですよ」
頭の中には、陰キャ男子の顔が浮かぶ。
看護師「私は、たくさん恋愛したけどな」
私 「付き合ったんですか?」
看護師「いや、振られたよ。でも、勇気だして恋愛してたよ」
私 「そうなんですね」
恋愛かぁ。私には、程遠いものだと思っていた。
看護師「私にもあんな頃があったなんてね」
私 「ワカさんは、結婚しないんですか?」
看護師「するよ」
私 「いいですね」
たしかに、ワカさんは可愛いしどこか魅力的な女性だった。
看護師「だから、アナタに会えるのも、もう少しなのよ」
私 「えっ?どういうことですか?」
ワカさんは、点滴を確認して振り返った。
看護師「もうすぐしたら、仕事辞めるのよ」
私 「そうなんですか」
驚きのあまり、上手く言葉が出てこなかった。
看護師「妊娠しててね。だから、アナタも頑張りなさいよ」
私 「いつ辞めるんですか?」
看護師「明後日よ」
まさか、そんなに早いなんて。
私 「もうすぐじゃないですか」
看護師「そうよ」
ワカさんは、当たり前と言わんばかりだった。目の前にいるその時間は当たり前ではないとお父さんに習ったのだ。




