8月8日 病院
まさかだった。こんな状態になるなんて。薄暗い廊下を照らす蛍光灯の光にそって歩いていく。もう少し歩けばもっと綺麗な明るさになる。いろいろ重なりすぎてなんとも言えなかった。昨日、私が家にいてかかってきた電話は、病院からだった。まさか、お父さんが倒れるなんて想像もつかなかった。お父さんは、出張で東京に来ていたので、私もすぐに新幹線で向かったのだった。病院の電話では、突然倒れたので、緊急手術を行うかもしれませんと言われたのだ。急にそんなことを言われると、私は固まるしかなかった。
なんでお父さんが倒れたのかは、病院の人もまだわかっていなかった。電話では、野外で倒れたところを誰かが発見し救急車を呼んだらしい。とりあえず、ICUに入れられていると言われて私は一気に焦ってしまった。どうやら、なんで倒れたかがわからないからどうしようもないと言われていた。もし、緊急性があればこちらに向かっている最中に手術をしていいかという質問があった。そんなに急に言われても答えられるものではない。もし、緊急でして死んだらどうしてくれるのだろうか?
いろんなことが頭の中をかけめぐる。それでも、何もないままお父さんが死んでしまうのは心配だった。白い壁には、時折、患者やその家族に向けられたチラシが貼られている。俺が見たところには残された遺族へと記載されていた。読んでいくと、死ぬ前にしっかりと遺族へと手紙を書きましょうというものだった。もしかしたら、お父さんが私に何かを書いているのだろう?病院の冷たい空気は、暑さをかきけすようだった。
1日たったけど、まだお父さんはよくわかっていなかった。本当に大丈夫だろうか?私の不安を誰かに和らげてほしい気持ちだたった。静寂の中に、看護師たちの明るい声が響きわっていた。遠くから聞こえるモニターのビープ音に震えながら、私は時がくるまで待っていた。時間がゆっくり流れているかのようで、落ち着かない。私がいる部屋には、お父さん以外誰もいないから、余計緊張感が漂ってしまう。なんだろうな、この感覚。なんとも言えない。
お父さんの病態によっては長くいなければならないけど、着替えもそんなに持ってきていない。どうしようかな?すると、部屋の扉が開く音が響く。ギギギッ。私の緊張感は、一気に高まっていく。そこには、看護師が顔を出してきた。看護師は、私の不安をかき消すかのような優しい顔をしてくれたのだった。




