8月7日 不安
お父さんがいなくなった家の中は、とても静かだった。別にいたからと言って賑やかなわけではないけど、独り言のようにいつも話しているのが家の空気を明るくしてくれる。今思えば、ああいう時間って大事だったんだ。もっと早く気づけばよかったのに。こういうどうでもいい時に気づくなんて、やっぱり娘失格だな。
思春期ということもあり、いつもヤケ酒ばかりしているお父さんに暴言ばかり吐いていた。ずっと、独りで頑張っていたのに。もっと、お父さんの頑張りを認めないといけない。でも、どうしても今の私には無理だ。学校でのイライラを家に持って帰ってしてしまう。それをお父さんにぶつけてしまう。やっぱり、相当ストレスがかかってしまっている気がする。学校のストレスは、やっぱりクラス。
3年4組のことを思い浮かべみた。やっぱり、すぐ頭の中に出てくるのは陽キャ組だった。女子で言えば、高田や寺崎。男子で言えば、沢田や中沢。もう、比較してしまう自分が嫌になりそう。そう言えば、この前那奈の噂を聞いた。蒼井がSNSに、那奈の姿が映っていたというのだ。ホントがどうかは知らないけど、そういうことを言うと、楓が気にしてしまう。実際のところ、那奈も何がしたいのかはよくわからない。
私は、蒼井から送られてきた写真を見た。たしかに那奈には似ている。ただ、投稿した人がわからない。アカウント名から誰かを特定するのは難しそうだ。蒼井も誰かに教えてもらったみたいがらさらにわからない。こんなSNSは、人と比べるだけだから本当にやめた方がいいと思う。現に、BIG3の3人はやっていないのだ。噂では、たくさんDMがきて困るからだそう。羨ましいけど、彼女たちのレベルになると僻みや妬みも多そうで大変なのも理解できる。他の高校や大学生からも連絡がくるらしい。
家の静けさをもみ消すかのように突如として響き渡った。その音の正体は、テーブルの上から震きわたるスマホの音だった。スマホは、画面が明るく光り、私にとってほしいと言わんばかりだ。私の心臓もその音に合わせて高鳴ってしまう。誰からの電話だろうか?少し躊躇してしまったが、すぐさま手を伸ばし、スマホを耳に当てる。声が聞こえた瞬間、誰が相手なのかわからない。なんだろう?この気持ち?一気に胸の中が不安で広がってしまう。電話の相手の声は単調で一定のペースで話をしてくる。口の近くに手をやり、電話の声に耳を傾けたのだった。




