表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
57/80

7月27日 お墓参り

 お墓の前にいた私は、この後どうしようか考えていた。今から、お母さんと昔住んでいた家に向かおうかな。正確に言えば、家ではなくマンションなんだけど。お母さんは、もうこの世にいない。それは、決して誰にも伝えたくない気持ちでいっぱいだった。言って同情されるのが嫌というのもあるし、言っていないのを現実として受け止めたくないというのもある。

 お母さんのお墓は、薄暗い墓地の中にある。私は愛するお母さんのお墓を訪れるのにはとても抵抗があった。これまでは、おばあちゃんのお墓参りで来ていたが、今回はお母さんも。なんとも言えない気持ちになる。長い歳月の重みを感じさせられる墓石であった。私は、ゆっくりとしゃがみこむ。そして、目をつぶっていく。近くにいるお母さんが私を優しく抱きしめているような温かさを感じる。それは、全て太陽のせいであることは感じないようにした。土の匂いと線香の香が、かすかに漂っている。お母さんはいつも私の味方だった。

 私が泣けば一目散に声をかけてくれる。私が笑えば一緒に笑ってくれる。一人っ子ということもあり、お母さんの愛情は、ずっと独り占めしていたことが今さらわかっていた。私の心に寄りどころだったお母さんは、死ぬ直前、何を思っていたのだろうか?目を開け、お墓に花を手向ける。「あ母さん、元気ですか?そっちは、苦しくないですか?私は、お母さんがいなくなってから、毎日があっという間に過ぎてしまいます。とてもじゃないけど、元気にやっていますとは報告できません。わがままな娘でごめんなさい。いつも守ってくれて、ありがとう。これからも頑張るね」。

 そっと語りかけた。気がつけば、涙が私の頬を伝っていた。お母さんはもういないけれど、お母さんからもらった愛は今でも私の中にある。見えないとのに何とかしがみつこうと思うことにした。墓石に手を添えていると、手を握り返してくれるような気がしてやめられない。けど、いつまでもというわけにはいかない。しばらくの間、お墓の前で静かに佇み、自分の気持ちを落ち着かせた。木々の葉が風に揺れ、小鳥のさえずりが聞こえてくる。そろそろいかなければならない。すると、墓石から私にこうささやいているような気がした。「元気にしてる?穂波。つらいことがあっても、下は向かないよ。苦しかったらいつでもここに来なさい。お母さんは、いつでもここにいるから」。大粒の涙がこぼれ落ちていたが、振り返らず歩き続けていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ