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第七話 前

 明神シンジ。弁護士になることを志している青年。立松零士。研究医を志している青年。

 「ホモデウス?」

 「ああ、そうだよ」

 二十数年前、都内の大学のカフェテリア。二人の学生の他愛ない会話。

 「なんだ、それ。ほも?」

 「ホモサピエンスのホモ。人の意味だ。お前理系のくせに何言ってんだよ、零士」

 「理系が何でも分かると思うな文系。明神は理系に偏見がある」

 二人は学科も、専攻も、趣味嗜好も全く違う。しかしなぜか馬が合う、その会話では、明神がある論文に興味を示し、それがいかに素晴らしいかを立松に聞かせているところだった。

 「ホモデウスっていうのは、サピエンスがさらに進化を遂げた超人のことだよ。不死で、不老で、自分の身体を思いのままに制御できる。今はクローンとかAIとか、そういう研究が進んでるだろ? いずれ人類は自らを神の領域まで進化させるんだよ」

 「神、ねぇ……」

 熱弁を振るう明神に対し、立松は冷ややかな目線だ。

 「そうは言うけどな、俺たち人間は、自分たちがどういう理屈で動いているのか、その半分すら解き明かせてないんだぞ? 分かってるのは精々どういう仕組みで動いているかだ。特に脳なんてのはブラックボックスで、意識がなぜ芽生えるのかすら分かってない」

 「それをなんとかするのが理系だろうが」

 「なら文系は夢を語るのが仕事か? やってらんねぇよ」

 立松は眼鏡を外して眉間を揉んだ。明神は不服そうに唇を尖らせた。

 「なんだよ、つまんねぇな。ロマンじゃねぇか、こういうのって」

 「ロマンの中に現実は無いっての?」

 「じゃあ仮に、どうすればホモデウスができると思う?」

 明神の問いに、立松は少し考えこんだ。

 「……思いのままに制御できるってことは、どういうことだよ」

 「病気になりそうだったらそれを意図的に無くしたり、身体が機能不全を起こさなくなったり、どんな傷もすぐ勝手に治ったり」

 「無理だ。絶対に人間の身体には不具合が起こる。定期的にメンテナンスしないとね」

 「無理だ、じゃなくて。できるとしたら」

 「……そういう防御機能は人間のより強固にプログラミングされてると思う。受動的な防御じゃなく、能動的な防御で……細胞は常に新品の姿を再現する……とか。不老も不死も病気じゃなくなることも、これで解決するだろ」

 「いい。いいね。あとは感情や情動も制御できるようになる」

 「それも脳だ。でもそれって人間か?」

 明神は「え?」と少し現実に引き戻される。

 「だって感情あってこその人間だろ。感情が制御できるとしたらそれは感情、コンテクストじゃなくてただのプログラムだ。無意識に喜んだり怒ったりするのが感情だろ」

 「ひゅう。おい、なかなかロマンチストじゃないか」

 明神にからかわれ、立松は不機嫌そうに鼻を鳴らした。明神は笑いながら続ける。

 「じゃあ感情の制御は無しにしよう。あとは遺伝子改造だな。認知革命って知ってるか?」

 「知らん」

 「人間が猿から言語を持った時、そこには何かしら遺伝子の変化が起こったとされるんだ。それが認知革命。ならもっと遺伝子を弄って脳の変えればさらなる進化があるかもしれない」

 「今が脳の進化の最終地点じゃないってこと?」

 「そういうこと」

 「出生前診断の究極進化みたいなことか。面白いかもしれないけど、確かめようがない」

 「無いって?」

 「そんなこと倫理的に許されない。出生前診断だって命の選別だーって言われてるし」

 「まぁーな。できたとすればめちゃくちゃ医学は進歩するだろうけど」

 「そこが医者の辛いとこだよ。人間の身体はどこまで触れていいのか。線引きは難しい」

 その日の会話はこれで終わり、二人の道は分かれる。立松は研究医の夢を叶えた。一方明神は弁護士になることはできたが、そこで決定的な社会悪と対峙し政治の道へと進んだ。しかし未だに二人は親友であり、交流は欠かさなかった。


 二人は顔を合わせて食事をした。立松が『再現細胞』の研究で多大な功績を出したからだ。

 「俺はお前に礼が言いたいよ、明神」

 「なんでだ。何かあったか?」

 頬を酒で微かに赤らめながら、立松は言った。

 「あの時の話、覚えてるか? ホモデウスの」

 明神はああ、と思い出した。あれから時が経ち、すっかりそんなこと忘れていたのだ。

 「あれでホモデウスができるとしたら、って話で俺が挙げた例。あれで再現細胞の糸口が掴めたんだ。あの時明神があの話をしてくれなかったらと思うとゾッとする。ありがとう」

 「……照れくさいな、やめろよ。柄じゃない」

 明神は照れ隠しにウィスキーを呷った。政治は常に出し抜くか出し抜かれるか。そんな世界に身を置く明神にとって、旧友との時間は何物にも代えがたい癒しだった。

 「じゃあ、一歩近づいたな。ホモデウスに」

 「……そうだな。できやしないが」

 「だな……」

 政治の中で権力を握る老人は、どれも自分の保身が強い。もっといい暮らしを。もっといい待遇を。そのために汚いことを繰り返す。自分はそれを消すために奮闘しているが、厳しいものがあった。もし人間がホモデウスだったとしたら、そんな薄っぺらな欲望に翻弄されないのだろうか。死の恐怖さえなければ、老いの醜ささえなければ。

 たかが空想だ、と明神にも分かっていた。しかし、転がる石は明神の手のひらに収まった。

 数年後。冬の路上で放置され死んでしまった哀れな赤ん坊が、誰も引き取り手がおらず、解剖という名目で立松の下に来た。立松がこう思った。この死体に再現細胞を定着させれば、息を吹き返すかもしれない。成功すれば、それはホモデウスになるのではないか?

 「明神。どうする」

 立松は明神にそう聞いた。

 「どうする……そんなこと聞かれても」

 「もし俺が何かで咎められたら……守ってくれるか?」

 冗談だろ。明神はそう言おうとした。しかし立松はどう考えても冗談を言っていない。ましてや気が狂ってもいない。本気だった。明神はそれが痛いほど分かった。

 「できるかもしれない。人間の謎が解き明かせるかもしれない。俺に時間をくれ、明神」

 「……しかし」

 「もしこの研究が成功すれば、お前にだってメリットはある。お前は何になりたい」

 「総理大臣になって……クソな政治を正したい……」

 「お前が総理大臣になるために必要なのはなんだ」

 「……支持だ」

 「お前の支持母体は」

 「医学会……」

 「お前は俺を使ってのし上がれ。それでいい」

立松は明神を隠れ蓑にして実験を始めた。この研究を立松は『ホモデウス・プロジェクト』と名付ける。再現細胞はやけにあっさりと定着し、まもなく赤ん坊は息を吹き返した。しかし意識が無く植物状態だった。再現細胞の成長するスピードを速めると、一年ほどで十代前半程まで成長できた。しかし目覚めない。脳に異変があるのか、と再現細胞でできた人工筋肉のコンピューターを埋め込んだ。電気信号により身体は動き覚醒するが、意識は未だ芽生えない。何が原因か分からなかった。実験は暗礁に乗り上げる。ホモデウスなど夢のまた夢か。

 「お父さん。なに、これ」

 そこで実験が娘のユキネに見つかった。家に帰り、ユキネと話す。

 「お父さん。あの子はなんだったの」

 立松は正直に答えた。自分の研究で、死体を蘇らせて成長させたんだ、と。

 「何考えてるの!?」

 ユキネは叫んだ。「そんなことやって良いわけないじゃん!」と。立松は分かっていた。この実験が倫理から逸れたものだと。しかし同時に、誰かが手を汚さなければという使命感も自分の中にはあった。

 「分かってるよ。やってることは間違ってるって」

 「……なら」

 「ごめん、ユキネ。やめることはできない。もう少しで研究が完成するんだ。悲願なんだ」

 ユキネも分かっていた。父親がどれほどこの研究に身を捧げているかを。唯一の家族である自分を放っておいてしまうくらい。普段から愛されていることを自覚しているからなおさら。

 「……じゃあ」

 ユキネは父親を許すための、一つの条件をつけた。

 「あの子と一緒に生活させて」

 そうやって、ユキネとあの少女の共同生活が始まった。装置を家に運び込み、ユキネが少女の世話をする。ユキネは彼女に『アマネ』という名を付けた。自分が雪だから妹は空、という理屈らしい。立松はそれは逆じゃないか? と思ったが、良い名前だとも思った。

 「アマネちゃん。ほら、あーんして。あーん」

 アマネは口をわずかに開けた。そこに栄養食を入れる。アマネは飲み込んだ。

 「よくできたぁ。えらいぞ、アマネちゃん」

 ユキネはアマネの頭を撫でた。アマネは目を閉じる。気持ちよくて眠ったようにも見えた。

 「アマネちゃん、お散歩しよっか」

 アマネを車いすに乗せ太陽の下へ出す。段差の度に意識の無い彼女の身体が大きく揺れた。

 「おおっと! 大丈夫? アマネちゃん」

 ユキネにはアマネの瞳の奥で「うん」と言った気がした。

 「ねーんね、ころーりよ……」

 アマネの背中を優しく叩きながら子守唄を歌う。そうすると寝つきが早い気がした。アマネに本の読み聞かせをする。アマネのために料理をする。アマネのために服を選んでやる。アマネのために、アマネのために、アマネのために……。

 「アマネちゃん。お姉ちゃんって言ってみて?」

 アマネと暮らし始めてから半年以上が経つ。ユキネは時折、アマネにそう尋ねた。しかしアマネは無垢に瞬きをするだけだった。

 「アマネちゃん。アマネちゃんが居てくれて、お姉ちゃん嬉しいよ」

 アマネの頭を梳きながらユキネは言う。

 「お母さんは私が小っちゃい頃に死んじゃって。微かに記憶はあるけど、どこか他人で。お父さんはその分私を愛してくれてるけど、お仕事が大変」

 アマネを膝枕しながら話しかける。

 「私だってもう次の誕生日で十七歳。高校生の大人だよ。でもやっぱり……寂しいんだ。だからアマネちゃんのお世話ができて、私は幸せだよ。誰かのために何かができるって、一番サイコーじゃない?」

 笑いながら問いかける。返事なんて来るはずがない。そう思った。頬に何か温いものが当たる。アマネの手のひらだった。ユキネは声を漏らす。

 「え……」

アマネは涙を流しながら、ユキネの頬を撫でた。アマネの頬に雫が落ちた。


 アマネはそこから時々にだが、能動的な行動を起こすようになった。意識が芽生えかけているのだ。ユキネはアマネに言葉を教えていった。なかなか覚えられないようだが、ユキネの言葉の意味は理解できるようになる。あれ見て、これ持って、などの簡単な指示は聞けるようになった。ついに意識が芽生えた。しかしなぜなのか、立松には分からなかった。

 「どんな様子だ? その……アマネ、だったか? 彼女は」

 「大きい赤ん坊って感じだよ。ユキネが必死に言葉を教えてる」

 明神に経過報告をする。立松は憂いを帯びた表情を浮かべていた。

 「どうした。元気が無いが」

 「……他言無用で頼む」

 アマネを家に引き取ってからも、実験は並行して行っていた。アマネのデータを基に理論を組み立てる。その過程でとんでもないものを発見した。

 「再現細胞の、意図的な暴走?」

 「再現細胞がどうして簡単に定着したのか。それは死体だったからだ。これを仮に生きている人間に用いれば、細胞の衝突が起きて再現細胞は暴走する」

 「……すると、どうなる」

 「死ぬ。六十パーセントの確率だ」

 「残りの四十は?」

 「……再現細胞が元ある細胞を『食えば』、再現細胞は身体に定着できる。そうするとその暴走は意図的に行えるものになる。理論の上では……」

 「いまいち話が見えない。暴走を行えるようになったらなんだ」

 「暴走は、再現細胞のリミッターを外す。例えば音速のパンチを出せる腕を再現するとか、そういう無茶な設定ができないようにあらかじめロックがかけられているんだ」

 「それが暴走によって外れるというのか。なら俗にいう強化人間のようなことも?」

 「ああ。それにゴジラみたいな姿にだってなれる。その気になれば核の熱線まで撃てるかもな……これを悪用されればとんでもないことになる」

 明神は眉をひそめた。

 「そんな……」

  「このことはアマネの存在を詳しく解析すれば解明されるだろう。だがそれはアマネの死を意味する。細胞レベルから身体の構造まで調べつくすからな。生き残れるわけがない」

 立松は重々しく「もう、やめにしたい」と口を開いた。

 「自分勝手なことは理解してる。でも……こんな危険な研究、闇に葬り去るべきだ。それにアマネは俺の家族だ。彼女を犠牲にしてまで、この謎を解明なしたいなんて俺は思えない」

 立松は明神に深く頭を下げた。

 「すまん、明神。この通りだ。この部分を除いた研究は公表してくれて構わない。名誉も報酬も何もいらない。全てお前の手柄でいい。ここでプロジェクトを打ち切らせてほしい」

 この通りだ、と立松は頭を下げ続ける。明神が頷くまでさして時間はかからなかった。後日、アマネのデータを含めた研究成果を発表され、結果医学は飛躍的に進歩した。明神シンジは大規模な組織票が入り、総理大臣へと上り詰めることに成功する。

 一方アマネは、年齢で言うと二歳児ほどの知能になってきたようだった。アマネの脳内コンピューターを調整し、適切な成長速度を導き出す。身体年齢は十五歳に近い。

 「アマネちゃんのお誕生日、お姉ちゃんと一緒にしよっか!」

 「おえーちゃんといっと?」

 「うん! 一緒!」

 「いっと! いっと!」

 おぼつかないながら言葉を放つアマネと、それを母親のように見守るユキネ。それを見ながら立松はやっと分かった。意識の芽生えに必要なもの。それは母親のような存在。つまり愛をもって接する人とのふれあいだと気づいてしまった。

 「なるほどな……」

 危険だから実験を止めたのだ、と自分を無理矢理納得させていた立松は、そこで腑に落ちた。なるほど、これでは完全なる人工人間など無理だ。

 人間を人間たらしめるものは、外部からの暖かな感情に触れることだ。

 やはりこの研究を止めてよかった。立松は初めて緊張していた心が解けていくのを感じた。

 「ユキネ、アマネ。誕生日おめでとう」

 チョコレートのプレートに『ハッピーバースデーユキネ&アマネ』と書かれたホールケーキ。ユキネは十七歳、アマネは十五歳になった。拍手するユキネと、そのマネをするアマネ。

 「アマネちゃん、このろうそくにふーってやるのよ。ふーって」

 「ふぅ?」

 「そう、ふー。せーのっ」

 アマネは力を籠めすぎて「ぶーっ!」と言ってしまう。

 「あはははは! アマネちゃん、力入れすぎ! ほらよだれ拭いて」

 「んぐ、ん」

 「よし、きれい」

 「きえい!」

 「じゃあ食べよっか! お父さんも!」

 無邪気にはしゃぐユキネとアマネ。二人は立派に姉妹だった。立松は二人が愛おしかった。こんな時間がいつまでも続けばいいと本気で思った。二人のためなら死んでもいいと思えた。

 「このまま、アマネちゃんと一緒に年をとっていきたいなぁー! ね!」

 「んー!」

 しかし、幸せな時間はそう長くは続かなかった。


 「おや、明神総理。ごきげんよう」

 竹上ヒロシは明神政権の厚生労働大臣となっていた。明神の所属政党の重鎮だ。そして明神の憎む政界の膿の筆頭だった。汚職、黒い交際。自己保身のためなら他人の命は顧みない。まさに政治悪の権化のような男だ。明神の本音を言えば内閣に入れたくなかったのだが、党内の派閥の大きさから組み込まざるを得なかった。竹上は閣議前に明神に近寄り挨拶してくる。

 「支持率低迷の厳しい時期ですが、何。初めは高く、そしてしばらくなれば下がる。みな同じ道を辿ります。踏ん張りどころですよ」

 「ええ、痛み入ります」

 いつか対決しなければならない。そう決意を固めた。しかし上に立ってみて分かる総理大臣の無力さや官僚主義。上に立てば立つほどリーダーシップが発動しづらい。自分の指先一つで思い通りとならない。明神は苦悩していた。思わずにはいられなかった。もし自分がニュータイプなら。もし自分がゴジラなら。その考えが立松を裏切ることになるとは分かっていた。

 ある日、明神に一通のメールが届く。その内容に明神は愕然とした。立松を拉致した、開放してほしくば要求に従え、という内容だった。要求は荒唐無稽なものばかりだったが、立松零士と明神シンジが親友だということを知っているのはごく少数だ。嫌な予感がした。

 なぜ立松なのか。もしかしたら、ホモデウスの秘密を知っているのではないか。怪物を生み出せると、知っているのではないか。まさか、それを利用しようとしてるのではないか。要求が馬鹿らしいのもカモフラージュで、立松から何かを聞き出そうとしているのではないか。

 「彼は国の重要人物だ。責任は私が全て持つ。どうか最速で救い出してくれ」

 自分に伝手がある自衛隊の特殊部隊を召喚した。隊長は菅生尊。明神が無名の弁護士だった時彼を救って以来の仲だった。

 「そして彼の家族もだ。娘が二人いる。すぐに無事を確保してくれ」

 菅生達をすぐさまアマネとユキネの下に派遣する。二人は幸いにもまだ無事だった。

 「な、なんですか」

 屈強な部下たちと共に現れた菅生。彼らにユキネは警戒の目を向ける。

 「単刀直入に言います。あなたのお父様が誘拐されました。目的は妹さんだと思われます」

 ユキネは目を見開く。そのタイミングでリビングへ至るドアが開かれ、パジャマを着たアマネが顔を出した。寝る時間になっても来ないユキネを心配したのだろうか。

 「おねぇちゃーん?」

 ユキネはアマネを見ると、駆け寄り抱きしめる。

 「大丈夫よ、心配いらない」

 「おねぇちゃん……?」

 「アマネちゃんは、お姉ちゃんが守るからね」

 アマネを寝かしつけた後、ユキネは菅生と護衛数名を家に上げる。

 「……どういうこと、ですか。たしかに最近帰ってこないけど、父が数日家を空けるのはいつものことだし、この前だって連絡が来ました」

 「立松零士さんが、現職の総理大臣である明神シンジさんとご友人なのは知っていますね」

 ユキネは嫌な予感を冷や汗に映し出し頷く。

 「明神総理の元にメールが届きました。立松零士を誘拐したと」

 「……それは信じられるものなんですか」

 「その後送られた画像を解析した結果、間違いなく立松零士さんでした」

 ユキネは信じられない、といった表情を浮かべた。

 「じゃあ、早く助けに行ってくださいよ」

 「ええ。現在救出チームが編成され、居場所の特定を行っています。私もその一人です」

 「……じゃあ、ここにいる他の人たちは?」

 「ユキネさんとアマネさん、二人を守るためにここに来ました。数日不自由をおかけしますが、両名の安全のため、ご理解ください」

 「……お父さんが誘拐されたのは、お父さんの研究成果が目的なんですか」

 「おそらくは」

 「その中にはアマネちゃんも含まれますよね」

 「……その可能性は非常に高いと思われます」

 ユキネは顔を両手で覆い、しばらく固まった。

 「……お願い、します」

 しばらくして、ユキネは深々と頭を下げた。

 「私はどうなったっていい。でもアマネちゃんは……アマネちゃんだけでもどうか……」




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