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第六話 前

 約二年前、アマネが対調に来たばかりの頃。まだ異界人との戦いに慣れない頃のこと。

 「無理だよ……」

 アマネはくじけかけていた。いくらどんな酷い怪我を負っても動ける身体だとは言え、それ以外は普通の人間。身体能力は十五歳の平均を少し上回る程度でしかない。現在のアマネのような戦い方を教えたのは、他でもなく菅生だった。

 「立ちなさい」

 訓練場で倒れたアマネに、菅生はあくまで厳しく接する。

 「基本的な体術ができなければ、回帰する前の異界人と渡り合うこともできない」

 「……だから何度も、私に爆弾でも括りつけてくれればって言ってるじゃん……」

 「それを避けられたらどうする? 君が回復し切る前に、動けないところを頭を潰されて終わりだ。理解したら立ちなさい。君がこうしている間にも異界人は地上を跋扈しているんだ」

 「この……!」

 アマネは立ち上がり、菅生に向かう。アマネはグローブを握り、パンチを繰り出す。それを掴まれ、また床にたたきつけられた。

 「っは!」

 次の瞬間には両目に指を突きつけられる。目を潰され脳をかき回されれば、アマネは死ぬ。

 「一本」

 「くっそ……っ!」

 アマネはその手を取り、菅生に組み技を仕掛ける。逆手に取られ、また投げられた。組み付き、絡めとられ、叩きつけられる。足を掛けられ、極められる。殴られて吹き飛ぶ。蹴られて吹き飛ぶ。踏み込めば足場が揺らぎ、拳の衝撃で髪が揺れる。

 「……あんたの方が人間じゃないよ……」

 「よく言われる」

 あらゆる攻撃手段を以てしても、最後に天井を仰ぐのはアマネだ。刀を使ってもナイフを使っても手りゅう弾を使っても、全ていなされ返される。

 「異界人って、あんたよりも強いの?」

 「ああ、強い」

 「じゃあ無理じゃん勝つの……」

 休憩所でジュースを奢ってもらいながら弱音を吐くアマネに、菅生は苦笑いを浮かべる。

 「初めから相手が強いと分かっていれば、いくらでも対策を立てられる。相手は強いことを自覚しているから、懐がおろそかになる。周囲の地形を使うことをしない。逆に君は弱いから、頭を使うだろう」

 「精神論?」

 「違う。相手は知性の欠けた化け物だ。冷静に相手を見れば、いくらでも勝つ方法は見える。観察しなさい。そして恐怖を無くしなさい」

 「……分かんない」

 不貞腐れるアマネの頭を苦笑しながら撫でるのは、いつも菅生だった。アマネはその手を振り払おうとは思わなかった。

 ある日、その日一日を使って菅生に一撃を加えろ、という課題が出された。どんな手段を用いてもいい。菅生に一発でも攻撃を与えられたら合格だ。だからアマネはあらゆる手段を試した。毒、車、職員を使う、部屋に潜む、ハニートラップ、さらに銃。

 「私に毒は効かんよ。身体の半分が機械だから」「私は車が当たった程度では逆に跳ね返すよ」「職員の陰口を聞かされたって私には意味が無いよ。彼らを心から信じているから」「こら、机の下を汚すんじゃない」「私は妻一筋だ。亡くなった今でも」「君に銃は向いてない。反動を殺す時のくせがある」

 他に様々な方法を試しても、やはり傷どころか埃一つ付けられなかった。

 「やっぱりあんた人間じゃないよ! もう勘弁して!」

 「はは、よく言われる」

 夜、試験の失敗を告げられ不貞腐れるアマネの頭を撫でるのはやはり菅生だった。アマネはその大きな手を心地良いと思った。

 射撃訓練の時、やはり銃は向いてないと言われた。でも遠距離からの攻撃方法は必要だ。アマネがそこで冗談半分で提案したのがネイルガンだ。

 「銃だと中途半端に貫通してしまうかもしれない。身体に残る釘が合理的かもな」

 菅生は思いのほか乗り気だった。体術も、ワイヤーを手足のように操る術も、ネイルガンでの戦い方も、刀での斬り合いも、全て菅生から与えられたものだった。

 アマネは深夜の本部で、菅生と朱里が話しているのを聞いたことがある。

 「立松君はどうかな」

 「精神的には安定しています。初期とは比べ物にならないくらいに。自分を顧みなさすぎるのは考え物ですが」

 「そこをどうにかケアするのが僕らの役目だろうね……」

 アマネは初めて菅生が煙草を吸っているのを見た。一人称が私から僕なのを聞いた。

 「彼女には本当に申し訳ないことをしている。僕たちは愚かだ。あんな子供を口車に乗せて戦わせて……本当はこんな目に遭うはずもないような子なのに……」

 「局長……」

 朱里の気遣うような声に菅生は自嘲した。

 「すまないね、こんなことを君に言うつもりじゃ無かった。これからも彼女を頼む」

 「……ええ」

 アマネは会話を聞き終え、足音を殺しながら泊っている部屋に戻った。

 ────そうか、私はかわいそうだって『思われている』のか。

 いつも厳しく訓練されていたから、強い菅生しか見たことのなかったアマネにとって先ほどの光景はとても珍しかった。アマネは結局のところ対調は自分のことを人間兵器としてしか見ていないと思っていた。いつか自分の血の解析が済んだら捨てられてしまうのだろうと漠然と思っていた。だからあの菅生の姿を見て、アマネはやっと自分が惨めな境遇に置かれていることを自覚した。そしてそのことを案じてくれている人がいることを自覚した。

翌日、腫れぼったい目をしたアマネはいつものように菅生に師事する。

 「よろしくお願いします」

 アマネのかしこまった様子に驚きつつ、菅生はその日もいつものようにアマネを鍛えた。


 「うわぁああ……あああああああ!!」

 割れそうな頭を抱えながら、アマネは爆心地からほど近い神社に身を隠していた。目から謎の汁が出ている。それは透明で、しょっぱかった。アマネは菅生から託された分厚い刀を見る。それに抱き着き、鼻を啜った。耳の通信機からノイズが聞こえてくる。

 『ア……聞こえ……ネさ……答……して!』

 「朱里さん!? 真湖!?」

 アマネは身体を起こし叫んだ。

 『アマ……った! 今ど……』

 「何? 聞こえない!」

 『今どこ……』

 「日枝神社!」

 『分かり……!』

 「お願い……」

 通信は切れた。辛うじて聞こえてきたのは真湖の声だけだ。朱里の安否が分からない。アマネは悪寒がした。神社にやって来たのは、ボロボロに傷ついた朱里と、彼女に肩を貸す真湖だった。朱里は目の周りと左腕を焦がし、ワイシャツに血を滲ませている。真湖も額から血を流し、露出した足にいくつもかすり傷を浮かべている。

 「朱里さん! 真湖!」

 アマネも這うようにして二人に近づいた。真湖はアマネを見ると安堵した顔を浮かべる。

 「朱里さん! アマネ生きてたよ! ほら」

 真湖は朱里に話しかける。朱里は鈍く瞼を開けると、少しだけ息を吐いた。

 「ア……マネ……さん……」

 「朱里さん! 酷い怪我……」

 アマネは朱里を受け取ると、優しく土の上に寝かせた。

 「真湖も大丈夫なの? 頭から血が……」

 「それを言うならアマネだよ。なんか目の焦点が合ってないよ……」

 アマネは意識を辛うじて保っている状態だった。身体が人間としての機能を失いかけているようだった。なにより頭がガンガン響くように痛い。

 「キツいけどたぶん死なないから大丈夫かな……ほっといたらまずいかも」

 「そっか……」

 寝ていた朱里がうめき声を上げる。うっすらと目を開ける。

 「アマネさん……?」

 「朱里さん! 私の声聞こえる!?」

 「ええ……けほっ」

 朱里は手を伸ばし、アマネの頬に触れた。

 「よかった……あなただけでも、無事で……ほんとに……」

 朱里はアマネの持っている大きな刀に目を向けた。アマネはその目線に気付いて、目を伏せる。そしてぱたぱたと涙を落とした。

 「菅生さんが……私を逃げしてくれて……」

 「……ええ」

 「ごめんね……私……」

 アマネの言葉を制するように、朱里は手をアマネの頭を撫でた。アマネは袖で涙を拭く。

 「これからどうすればいいの……?」

 浮ついた声で真湖は言う。彼女の身体は震えていた。現状に感情が追い付いてきたらしい。

 「明日とかさ……学校に通うの? ていうか、何が今起こってるの……?」

 「……ちょっと、整理したい。整理できるか、分かんないけど……」

 「総理の下へ行きましょう」

 朱里はかすれ声で提案する。

 「対調は総理の直属機関です。このことを把握していないはずがない。だから今からにでも、総理に指示を仰ぎに行き────」

 そこで朱里は咳き込んだ。もう体力が限界のようだ。

 「せめて病院で休もう。対調の権限が生きてたら、連携してる病院は使えるはずだから。連絡しないと……」

 「……ですね……アマネさんの脳も、心配です……」

 真湖が目に涙を浮かべながらアマネの肩に縋った。

 「私たち……どうなっちゃうの」

アマネはその問いに何も答えられなかった。何も分からないからだ。もうすぐ夜が明ける。曇り空の合間から眩しい陽光がアマネの目を焼く。彼女らの脆さを明瞭にさせる陽光だった。


 対調と連携していた病院で、しばらく穏やかな時間を過ごす。穏やかとは名ばかりで、すべきことが分からず立ち止まっているだけの無駄な時間だった。組織は壊滅した。異界人と戦うための武器も無ければ設備も無い。一度に失ったものが多すぎて、貧血状態になっている。病室のテレビでニュースを見た。議事堂前で謎の爆発。テロ行為か。怪しき三人組。捕まってしまうかもしれない。守ってくれる組織はもう無いのだから。今異界人に襲われたらなすすべがない。ネイルガンも刀も無くしてしまった。もう次にどうすればいいか分からない。

 「……っは、はは」

 乾いた笑いを浮かべる。完全に負けた。誰かには分からない。きっと大きな敵だ。アマネはテレビを拳で叩き割る。破片が手に突き刺さった。血が流れ落ちる。痛くはないが、いつまでも血が出続ける気がした。その血には、アマネの戦意が混ざっていた。ドアがノックされる。

 「……どうぞ」

 現れたのはアマネの担当医師だった。粉々になったテレビを見て、彼は目線を下げる。

 「急に、すまないね」

 「……なんですか」

 「菅生さんから言われていた、君のデータに関することだ。自分に何かあった時、これを渡すようにと言われている」

 医師はアマネにUSBメモリを取り出した。

 「見るかどうかは、君に任せる。もしかしたら知りたくないことまで知ってしまうかもしれない。現に菅生さんはまだその時じゃないと、ずっとこれを隠してきたんだ」

 「隠して……」

 「許してあげてほしい。彼らの気遣いだ。決して君を騙そうと思っていたわけじゃない」

 「……分かってますよ、そんなこと……」

 アマネは投げやりにそれに手を伸ばした。何の変哲もないUSBメモリだ。

 「でもできることなら見てほしい。……あのひとたちはずっと、苦悩していたから」

 「それって、どういう……?」

 アマネは手元から顔を上げる。医師は意味深に頷き、病室を出て行った。

 「……あのひとたち、か」

 対調の人々を思い出して、また苦しくなった。大事な人なんていない、なんて言っていたのは強がりで、自己防衛だ。本当は優しくしてくれるあの人たちが好きだった。

 手のひらの中に、自分の謎が明らかになる。そう思うと怖かった。自分の秘密とは。どうして自分がこうなったのかの、秘密が────違和感。人の気配が一切しなくなった。

 「…………まさか」

 アマネは病室から飛び出した。廊下には誰もいない。真湖と朱里の病室に行く。いない。

 「なにこれ……異界人……?」

 アマネは戦慄した。まさか自分が異界人に気付かないなんてことがあるなんて。そもそも異界人にこんな精神攻撃みたいなことできるのだろうか。警戒しながら廊下に出て受付に行く。もちろん誰もいない。そこに置いてあったカレンダーを見て、アマネは驚愕で目を見開いた。

 「二〇十六年!?」

 アマネの叫びがこだまする。受付の中に入って書類を漁った。どれも日付が二〇一六年かそれ以前のものしかない。

 「九月……九日……」

 その日はアマネの誕生日だった。アマネは茫然とする。頬を引っ張ってもそもそも痛みを感じないから意味が無い。急に廊下の明かりがすべて消えた。代わりに現れたのは、淡く光るガス状の球体だ。アマネはこれは現実じゃないんだ、と認識した。球体はふわふわ浮かんでいたが、やがてアマネから離れ始める。アマネはそれについていくことにした。球体が階段を降りていく。踊り場に出たところで壁に吸い込まれてしまった。しかし壁の向こうから光が漏れている。アマネは壁に触れた。しかし手は壁をすりぬける。アマネはそのまま進んだ。

 「だめだ……」

 突然足元から聞こえてきた声に、アマネは肩を震わせる。見ると、白髪の入り混じった中年の男が壁にうずくまっている。アマネが入った部屋は一個のガラステーブル、色味の無いカーペット、小さなソファという殺風景な部屋だった。一つ異常なのは、壁にいくつものモニターが埋め込まれ、それぞれの画面で数値が忙しなく動いていることだった。

 「あー! お父さん、そんなところで寝てたの!?」

 扉が開き、アマネと同い年くらいの少女が顔を出す。アマネはそれを見て、刀を落とした。

 「……ねえさん」

 そこに立っていたのは、間違いなく、アマネの姉の、ユキネだった。そして『お父さん』と呼ばれた男性が顔を上げた。アマネは泣きそうになった。

 「父さん……!」

 父親はユキネを見て、落ちくぼんだ目が飛び出そうな程驚く。

 「ゆ、ユキネ! どうしてここに!? というかなんでここに入れて……」

 「何日も帰ってないんだから心配したんだよ!」

 「警備はどうしたんだ」

 「それは……まぁ、その、倒した? っていうか……」

 父親は頭を抱えた。そしてふらりと身体を崩す。

 「お父さん!」

 ユキネが父親の身体を支える。アマネとすれ違ったが、アマネに気付いた様子はなかった。

 「お父さん、大丈夫!?」

 「バカ……どうして来たんだ!」

 アマネは父親の激昂に驚いた。アマネの記憶では、父親は温厚で取り乱しているのをほとんど見たことがなかったからだ。ユキネは父親の怒りに対してむっとした表情を浮かべる。

 「何日も帰ってないからでしょ!? 電話もメールも通じないし……」

 「それでも! お父さんの仕事は守秘義務があるんだって、何度言えば……」

 「そんなものよりお父さんを心配するのが普通でしょ!? いい加減にしてよっ!」

 ユキネの泣きそうな顔を見て、父親はハッと我に返った。

 「仕事、仕事って……二週間だよ? たった一人の家族が、二週間も連絡がつかなくて……なんでそれで、心配するななんて、おかしいよ……」

 「ユキネ……」

 ユキネは流れ落ちる涙を袖で拭う。

 「もうお父さんしかいないんだよ。分かってよ。私これ以上家族がいなくなるの嫌だよぉ」

 「…………ごめん」

 父親はユキネの頭を不器用に撫でた。ユキネは鼻をすんすん鳴らす。

 「ごめん、ユキネ。お父さんが悪かった。許してほしい」

 「やだ……許さない……」

 「ごめん。ほんとうに」

 「……本気でそう思ってるなら今すぐ家に帰って」

 父親はユキネの提案に少しだけ躊躇したが、やがて諦めたように頷いた。

 「分かった。今からそう申請してくる」

 「じゃあ、許す」

 拗ねたように目を逸らすユキネの髪を父親はわしゃわしゃとかき回した。ユキネが父親の細い身体を支えて、立ち上がらせる。アマネは彼らに縋り付くように手を伸ばした。

 「父さん! 姉さん!」

 アマネの寸前で扉が閉められた。アマネはそこで我に返る。アマネが何らかの方法で過去の映像を見せられているにしても、明らかにおかしい。アマネが今いる空間が二〇十六年として、アマネはとっくに誕生しているはずだ。なのにユキネは父親を『たった一人の家族』と呼び、父親もそれを否定しなかった。おかしい。アマネの存在が無かったことになっている。おかしいのはこれが夢だから? それとも────

 アマネが立ち尽くしている中、不意にビー! という警報のような音が鳴り始めた。

 「な、何!?」

 扉が乱暴に開かれ、父親が飛び出てくる。

 「まさか……ッ!」

 父親は壁に埋め込まれたモニターをかじりつくように凝視する。

 「嘘だろ!?」

 父親は完全に興奮し切った様子で部屋を出ていった。アマネは慌ててそれを追う。警報がけたたましく鳴り響き、廊下は赤色のランプで染め上げられている。

 「お父さん!」

 「すまん、後にしてくれ!」

 廊下の先に大きな扉がある。父親が震えた手で鍵を開けると、大きな部屋に出た。中央に大きな水槽が鎮座し、それがいくつもの管に繋がれて巨大な機械に通っている。アマネは水槽の中身を見て息を飲んだ。それは裸のアマネだった。水槽の中に目を閉じたアマネが浮かんでいる。父親が水槽に繋がった端末を操作した。

 「嘘だ、嘘だ、そんな……暴走してる!?」

 父親は動揺を隠せない。必死な表情で端末を操作する。

 「頼む……頼む……頼む……」

 父親の頬に冷や汗が垂れる。突然、警告音がぴたりと止んだ。父親は驚愕に目を見開く。

 「まさか、そんな奇跡が……!? すぐに明神に連絡を────」

 「なに、これ」

 ユキネの声が聞こえ父親は振り返る。ユキネは茫然とアマネが浮いている水槽を見ていた。

 「お父さん。なに、これ」

 「……そうか。ユキネの存在に呼応して────」

 「なに、これ……」

 ユキネは恐る恐る水槽へ近づく。中のアマネが少し反応して、目をうっすらと開けた。

 「この子、人間? 人体、実験?」

 「ユキネ。ここで見たことは忘れなさい」

 「守秘義務って、まさか、まさかだけど、人間を使って、変な実験────」

 父親はユキネの言葉を遮った。

 「今すぐ帰りなさい」

 有無を言わさぬその語気に、ユキネは後ずさる。そして逡巡の後、大部屋から出ていった。アマネはどちらの傍にいるべきか迷った。

 「……すまない、ユキネ」

 父親はそう小さく謝った。無機質な電子音が鳴りわたる。父親はポケットからスマホを取り出した。盗聴防止用の装置らしきものを付けている。

 「明神」

 アマネはその名前に聞き覚えがあった。現総理、明神シンジ。

 「ああ。やっとホモデウスのプロトタイプが完成したよ。ああ。……ああ、量産については、まだ……本当に偶然なんだ。原因も不明……うん。うん、了解した」

 通話を終えた父親は、水槽で浮かぶアマネを茫然と見つめた。


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