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エピローグ

 総理大臣在任中の死亡は国中のニュースになったが、日々の情報の洪水の最中、忘れられていった。今は広い霊園の中で墓石があるのみだ。対調関係で死んだ人々を祀った特別な霊園にて、彼らは安らかに眠っている。アマネの父と姉の墓もここに移した。アマネにとって、そこは特別な場所となった。大切な人たちとの大切な思い出が残る、大切な場所だ。

 「菅生さん。シンジさん。みんな。私のこと、地獄から見守っててね」

 地獄に行くのも悪くはないだろう。あの人たちがいるなら。地獄でなぜ悪い。アマネはそう思いながら丁寧に墓石を拭き、線香をたく。煙が青天に溶けていった。

 「何言ってるの。怒られるよ」

 隣の真湖が苦笑しながら言った。二人で手を合わせ、目を瞑る。月命日には欠かさずアマネと真湖はここに来る。アマネはこの時間が好きだった。ここに来ると帰ってきたとすら思う。

 「菅生さんとシンジさんは地獄で会おうって言ってたらしいからね。私は願いに反して天国に連れていかれるより、一緒に居たい人と地獄に行く方がいい」

 「はいはい……私は天国が良いよ。死んでまで大変な思いしたくないから。ていうか、大事なのは生きてる今でしょ」

 「間違いないね」

 真湖は立ち上がり、スカートに付いた土埃を払う。

 「行こ。ライブの入り時間もうすぐだから。車にいる朱里さんも待ちくたびれちゃう」

 「待たせときゃいいんだよ。あのひと事ある毎に嫌がらせしてくるんだから……」

 「ジゴウジトクでしょ。ほら、いくよ」

 真湖はアマネの手を引いた。アマネは墓石を振り返り、「またね」と呟く。引かれるアマネの手にはインナーが無かった。醜い傷が露になっている。自分に刻まれたものすべてが家族との思い出だからだ。決して消えやしない、傷という絆だった。

 真湖は芸能活動を再開した。命の危険を乗り越えた彼女にもはや怖いものは無く、どんどんスターへの階段を上っていきますます忙しくなった。国民的アイドルになる日も近いだろう。

 アマネはよく真湖その手伝いをしている。手伝いと言っても一緒に喫茶店に行って愚痴を聞いたり、ダンスや歌の練習に付き合ったり、ライブの裏方として働く程度だが。そして学校にも毎日通うようになった。頑張って友達を増やそうとしているがなかなか難しい。

 無事生還した朱里は、真湖のボディーガード兼マネージャーとして働いている。アマネとの仲も変化しつつあり、普通の生活に馴染めないアマネをからかって遊んでいるようだ。

 そんな生活の中アマネは思う。自分は生きている、と。生まれ変わったわけでも、新たな人生をやり直し始めたわけでもない。地続きとして、ずっと、生まれた時から生き続けている。

夜になってベランダに出る。眼下に映る夜景を見て、心が浮き上がるような感覚になった。

「生き残ったな……」

今日あった出来事を思い出し、深く、深く息を吐き────こう思う。

 「生きててよかった」

 生きててよかったと思える夜はここにあった、と。



深夜高速 フラワーカンパニー

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