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第九話 前

「やったよ」

 『よくやった!』

 アマネが成果を報告すると、通信機越しに明神の声が聞こえる。それと銃声も。アマネが庭園を窓から見下ろす。屋敷に至るまでにあるその庭園では、明神と連携した自衛隊の特殊部隊が活躍していた。異界人にも対応できている。菅生は元自衛官で、その伝手を頼ったらしい。そもそも対調の戦闘部隊のほとんどは自衛隊から引き抜かれており、その戦闘ノウハウは極秘裏に伝わっているとのことだった。

 アマネと明神を始めとした襲撃部隊は、竹上の下へ潜り込ませていた部下の情報により、連絡してくる時間を把握していた。それに合わせ行動し、奇襲は現段階では成功している。竹上暗殺を買って出たのは、アマネだった。

 『そろそろ上位種も出てくる頃だろう。立松』

 「なに?」

 『ありがとう。友人を救出し次第脱出してくれ』

 「あんたのためじゃないから」

 『分かってる。もう、この件に君が関わることのないよう全力を尽くす』

 「……うん。ありがとう」

 『ああ……零士との、約束だからな』

 通信が切れる。橙色の光が弾けて、炎と共に明神の異界人態────ホモデウス態が露になった。襲い掛かる異界人をことごとく蹴散らしていく。対応しづらい遠距離は、戦闘部隊が集中砲火だ。これならば心配はいらないかもしれない。

 「さて、と」

 アマネは部屋から出る。部屋に至るまでの道には死体がこれでもかという程積み重なっていた。アマネは菅生から受け継いだ刀の血を拭い、血に溢れた廊下を注意深く進む。しかしその階の全ての部屋を見ても、朱里と真湖はどこにも居なかった。申し訳程度に残されていた敵を倒しながら進む。刀が特に役に立った。分厚い刃は敵の手足を容赦なく切断できる。頬に付いた血を拭いながら、竹上の居た二階から三階に上がった。

 屋敷の構造は至極単純だ。四階建ての洋風屋敷、学校のグラウンドほどの広さを持つ中庭。今は明神たちの対応に追われて屋敷のほとんどの戦力が中庭に集中している状態だ。隠密しながらの行動ならば、アマネ単独の方が動きやすい。

 装備は明神によって用意されていたアマネが長らく愛用していたのと同じタイプのネイルガン。そして菅生の長刀だ。ワイヤーは屋内の戦闘ということで置いてきた。久々に戦っている気がする。しかし前より身体が自由に動く気がした。

 角を曲がったその時、撃て! という声が聞こえた。無数の銃弾が飛んでくる。アマネはしかし避けることをせず、前に進みながら銃弾を受ける。

 「ひっ……」

 誰かが息を飲んだ。恐怖だろう。血塗れになり、身体中に穴が空き、それでも立つ怪物を目の前にするのは。刀とネイルガンを構え、ゆっくり、しかし着実に自分たちを殺しに来る。

 一人が回帰しようとした。その瞬間アマネはネイルガンの引き鉄を引き、彼の額を釘で貫いた。壁を蹴り、集団の中に躍り出る。一人の口の中にネイルガンを連射。さらに刀を投げ脳天をかち割った。また一人を蹴飛ばし窓から突き落とす。銃で撃たれたが関係ない。肘で鳩尾を殴り、髪を掴んで心臓に釘を刺す。さらにそれを投げ飛ばし残った二人を転ばせる。死体から刀を抜き取り、一人の首を裂いた。外れかけた頭から血が間抜けに飛び散る。

 「あうっ」

 最後の一人は、転んだ拍子に銃を落とした。それを拾おうとするがアマネは銃を踏んづける。男が絶望し切った目でアマネを見上げる。アマネは男の顎を蹴り上げ、意識を失おうとする男の胸倉を掴み上げた。

 「人質の場所はどこ?」

 「……し、しらな────」

 ネイルガンの銃床で頭を殴った。血が垂れる。涙を流していた。

 「人質の場所はどこ?」

 「ほ、ほんとにしら────」

 腹を蹴った。男はえづき、酷い咳をこぼす。頭が下がったのをいいことにアマネは男の後頭部を思いきり足で床にたたきつける。前歯と鼻が折れたらしい。ブフー、という血と息の漏れる音が聞こえた。

 「人質の、場所は、どこ?」

 「はっ……かく……さん、しか……」

 「誰、それ」

 「警備の……せき、にんを……」

 「どこにいるの」

 「しらない────」

 アマネは男の足をネイルガンで撃った。男は泣き叫ぶ。

 「知らない! 本当に! 八角さんだけはどこにも担当されなかったんだ!」

 「あのさぁ……」

 「しんじてくれ……」

 アマネは男を放すとネイルガンで始末した。容赦は無い。誰一人生きて帰す気は無かった。

 「おいおい。ひでぇな」

 野太い男の声が聞こえる。廊下の先にタバコを咥えた男が立っている。

 「あんたがハッカク?」

 「そうだと言ったら?」

 「人質がいる場所を教えなさい」

 「お前甘ちゃんすぎるぜ? 世間と現実を知れよ、お嬢ちゃん」

 「あっそ」

 アマネはネイルガンをリロードした。八角は短機関銃を構える。先に仕掛けたのは八角だった。引き鉄を絞る。銃口が火を噴いた。

 「あれ、当たってくんねぇの?」

 アマネは銃撃に当たらぬよう姿勢を低くして一気に距離を詰めていく。八角が何かを転がした。アマネは足を止め、顔を覆う。しかし体感一秒、何も起こらない。嵌められたと気づいた時には胸を強く突き飛ばされる衝撃。動きが完全に止まった。

 「やっぱりなぁ!」

 八角がアマネを蹴り飛ばす。ライフル弾は弾自体が強力なせいで当たるとアマネの身体では衝撃を殺しきれない。その隙を突かれてしまった。八角に髪を持ち上げられ、窓に何度も叩きつけられる。

 「このっ……!」

 アマネは刀を八角のわき腹に突き刺した。しかし八角の攻撃は止まらない。窓が割れ、そこから外に放り投げられた。しかし手を窓の縁にかけて勢いをつけ、八角の顔に蹴りを入れる。アマネは廊下に舞い戻った。

 「やんなぁ……」

 血の混じった唾を吐きながら八角は笑う。刀がまだわき腹に刺さったままだ。

 「返してやるよ。ほら!」

 刀を抜き、アマネに思いきり投げ飛ばす。アマネはそれを掴み取った。八角の傷はすっかり治っている。

 「……回帰しないの」

 「ああ?」

 きょとんとした顔の後、八角は爆笑した。

 「するわけねぇだろ。あんな気持ち悪ぃ姿に誰がなりてぇんだっつの」

 「…………」

 「じゃあなんで傷が治んだ? って顔だな。そりゃ、お前と同じ理屈だよ」

 「私と……同じ……?」

 八角はワイシャツをはだけさせた。胸には何かの装置が付いている。

 「これがなきゃ動けない欠陥品だがな。お前の劣化コピーさ」

 「じゃあ、それを壊せばいいわけね」

 「やってみろよ。俺を殺してくれ」

 アマネはネイルガンで牽制しながら駆け出す。八角も弾幕を張った。アマネの頬を銃弾が掠る。しかし接敵する。刀を出した。八角は紙一重でそれを避ける。

 「なっ────」

 八角は銃口を至近距離につけ、引き金を引いた。銃弾がアマネの胸をえぐる。アマネは一瞬目の前が真っ白になった。

 「首ちぎりゃ死ぬのか?」

 跪いたアマネの首に銃口を当てる。息ができない。何が起こってるか分からない……ようにしか見えないようにアマネは演技していた。アマネは油断し切った八角の両ひざをかき切る。

 「っ、てめぇ!」

 よろめいた八角の顎に掌底を叩きこむ。八角の目が白くなった。そのままの勢いで窓に向かって蹴り飛ばす。窓にヒビが入った。

 「クソッたれ……」

 八角が凄む前に、ネイルガンの銃口を向けた。撃つ。八角は前へ飛び出し、肩に釘を食らいながらアマネにタックルした。そして投げ飛ばす。アマネは窓を突き破り、中庭に転落した。遠くで明神たちが戦っている音が聞こえる。

 「くっそ……」

 「はっはぁ!」

 八角が飛び降り、アマネを踏みつぶそうとする。アマネはそれを転がって避けた。地面に大きな穴が空く。八角は歯茎を見せて笑った。

 「楽しくなってきたじゃねぇか!」

 「うるさいなぁ!」

 アマネは刀を構える。八角も懐からナイフを取り出した。

 「早く人質の場所を教えなさい!」

 「吐かせてみろガキぃ!」

 刀を振るう。八角はそれを肩で受け止め、刃を握った。アマネは引き抜こうとするがびくともしない。引き寄せられた。そして八角はナイフでアマネの目を突こうとする。

 「死ねぇ!」

 アマネは刀を手放して姿勢を低くした。そのままアッパーを繰り出す。八角は背を逸らして避けた。数 歩後退する。

 「いってぇ」

 刀を引き抜き、噴き出る血を抑えながら笑う八角。ナイフと刀の二刀流となった。

 「返して」

 「言う前に行動してるもんだぜ。大人は……」

 アマネはネイルガンを撃つ。八角は身体にいくつも釘が刺さるも、構わず刀を振り下ろした。アマネは振り切られる前に腕を取り、引き寄せ肘で八角の胸を撃つ。八角がよろめいた隙にネイルガンを至近距離で叩きこむ。

 「ぐふっ……」

 刀をもぎ取り、胴体を袈裟懸けに斬り抜いた。鮮血がアマネの顔にかかる。膝をつき、地に倒れかけた八角の髪を掴み、アマネは問うた。

 「人質の場所はどこ?」

 「……死ね」

 八角は口元を歪ませ、唾を吐いた。そして意識を失い倒れる。アマネはため息をついた。手がかりがまるで無い。闇雲に探していたところで時間が無駄に消費されてしまう。

 そう焦るアマネの背後から、とても聞き覚えのある声が聞こえてきた。

 「アマネちゃん」

 その声が耳に届いた瞬間、アマネは信じられず、固まってしまった。もう一生聞くことができない声だと思っていたから。振り向くのが怖い。それでも確認せずにはいられなかった。

 その声が、本当に────

 「お姉ちゃん」

 腹に何かが刺さった。痛い。痛い……?

 「やぁーっと、会えたね」

 少し自分より高い背。慈愛に満ちた声音。その何もかもが姉だった。その何もかもが姉のはずなのに。どうして。私をナイフで貫いているの?

 「お姉……」

 痛い。痛い! 痛い!!

 「……ちゃん」

 貫かれていたナイフを抜き、ユキネはアマネの肩を押す。アマネは抵抗もせず、地面に倒れた。見上げた顔は、火傷で醜く覆われていたけれども、焦点の合わない目をしていたけれども、やはり自分の知っている姉だった。傷を触る。手には血がべったりついていた。痛い。痛いとはこういう感覚だったのか、と思いだした。

 「なん、で……」

 ユキネは八角を仰向けにさせると、指を噛み切り血を飲ませた。すると八角の傷がみるみる治っていく。

 「なんで……こんな……」

 「アマネちゃんをこれ以上戦わせないためだよ」

 ユキネはしゃがみ、アマネを見つめる。

 「アマネちゃんは悪い大人に騙されているんだよ。むやみに傷つかされているんだよ」

 「そんなこと……ない……」

 「かわいそうに。そう信じ込まされてるんだ」

 「お姉ちゃんのために……私は……」

 「お姉ちゃんが全部ぶっ壊してあげるからね」

 ユキネは手を上げた。屋敷に至る扉から黒服の男たちが出てくる。彼らは気を失った朱里と真湖を車いすに乗せていた。

 「朱里さん……真湖……ッ!」

 刺された場所が痛い。動けない。

 「明神シンジ……菅生尊……。菅生と影山はちゃんと殺せた。明神ももう少しだ。こいつら全部始末すれば、アマネちゃん解放されるかって思ってたけど、違うもんね」

 ユキネは朱里の肩に手を置いた。

 「こいつらがいるから、アマネちゃんは戦わないといけなくなるんだ」

 「お姉ちゃん……?」

 「だったら、全部……取り払ってあげないと」

 ユキネは朱里の口をこじ開ける。そし噛み切った自分の指から、血を飲ませた。

 「ッ!? げほッ!」

 朱里は覚醒し、首に手を当て酷い咳をする。

 「あ、朱里さん!」

 「アマネ……さん……」

 朱里は過呼吸で溺れそうになっている。アマネは痛みをこらえて朱里に近づこうとした。

 「来ないで!」

 しかし朱里は拒絶する。

 「手出しされると、真湖さんが犠牲になりますから」

 「……は」

 朱里は笑った。

 「ごめんなさい。見届けられませんでした」

 「何言ってんの」

 「約束、ちゃんと守ってくださいね」

 朱里の周りに橙色の光が集まり、爆発した。そして現れたのは、異界人の上位種。筋肉が露出したかのような鮮やかな朱色で、顔は長髪で隠れており、手には細い槍を持っている。

 「さぁ、巣立ちだよ。アマネちゃん」

 ユキネがパン! と手を鳴らすと、途端に痛みが消えた。傷が治っていく。

 「加々美朱里を殺して、自分を束縛するものに気付いて?」

 「なに……したの」

 「異界人にしたんだよ。私にはその力があるの」

 アマネは刀を持ち、立ち上がった。

 「なんてことを……!」

 ユキネに向かって走り出す。ネイルガンを撃ったところで、射線を八角が塞いだ。

 「なっ!」

 「お嬢の話聞いてなかったのか!?」

 短機関銃でネイルガンを持つ腕を撃ち、アマネを蹴り飛ばす。

 「加々美朱里を殺すんだよ。あいつは異界人。お前の敵だぜ」

 「許さない!」

 「それを言うべきなのはあいつだよ、アマネちゃん」

 ユキネは異界人と化した朱里を指さした。いつか古田が言っていたことを思い出す。人間を異界人にするとはこういうことだったのか。

 「アマネちゃんは情が移っちゃったんだよ。でもそれは間違ってるの」

 「間違ってない! 朱里さんは……大事な……」

 「お姉ちゃんが、そう言ってるんだよ」

 アマネは歯を食いしばった。もうあいつは、アマネの知る姉ではない。

 ユキネは死んだ。あれは偽物だ。

 「殺してやるッ!」

 その瞬間、横から来る衝撃。アマネは壁に叩きつけられた。肩に深々と槍が刺さっている。朱里が投げた槍だ。

 「じゃあ、またね」

 ユキネたちは真湖を連れて屋敷の中に入っていく。アマネは悔しくて悔しくてたまらなかった。異界人は人間態では死なない。しかし回帰した時のまま殺せば、死んでしまう。自分から槍を抜く。もう何をしても痛くない。ユキネに何かされていたに違いない。

 「待って、朱里さん!」

 朱里が脚に力を籠める。瞬きをすると眼前にいた。アマネの首を絞め、壁に押し付ける。壁が崩れ屋敷の中に入ってしまった。

 「あぐっ」

 朱里はアマネを放り投げると、槍を拾って近づいてくる。

 「やめようよ……朱里さん……」

 頭めがけて槍が振り下ろされる。アマネは転がって避ける。立ち上がるが、何もしない。

 「朱里さん! 目を覚まして!」

 槍を構え、朱里が突進してくる。アマネは手を広げ、真正面からそれを受け止めた。胸を槍が貫く。そして壁を突き破り、外に出た。屋敷の前にある庭園だ。多くの異界人の死体と、明神が連れてきた特殊部隊の何名かの死体が転がっている。

 「あ……かりさん……」

 朱里は槍を振り、アマネを弾き飛ばした。芝生の上をアマネは滑る。

 「朱里さん。やめよう。ね? 真湖だってきっと助けるから。こんなとこで……」

 朱里はアマネを殴り飛ばす。アマネはその先にある噴水にぶち当たった。石造りの彫刻が壊れ、水しぶきが上がる。

 「こんなとこで戦うなんておかしいよ」

 朱里が近づいてきて、アマネを踏みつけた。骨があっという間に折れる。

 「戦いたくないよ……朱里さん……」

 頭上で窓が割れる音がする。巨大な影がアマネたちを覆い、朱里を斬りつけた。

 「シンジさん!」

 異界人状態の明神だ。朱里が怯んだところで明神はアマネを抱えると、その場から逃げ出した。屋敷の裏側まで行き、アマネを下ろす。明神は人間態に戻った。

 「どうして戦わない。人質はどうした」

 「……朱里さん」

 「加々美朱里がどうした」

 「あれが……朱里さんなんだよ」

 アマネは暗い声音で朱里がいた方向を指さす。明神は目を見開き、歯ぎしりした。

 「どこまでも外道な!」

 「お姉ちゃんが……いて……」

 明神はアマネを見返す。アマネは涙を目に浮かべ瞳を歪ませた。

 「それは……どういう意味だ」

 「そのまんまだよ。お姉ちゃんが生きてた」

 「馬鹿な! たしかにあの時死んだはずだ……!」

 「分かってるよそんなこと! でも本当に生きてたんだよ! 私を刺して、死んだはずの人を生き返らせて、朱里さんを異界人にしたんだ!」

アマネの言葉に、明神は髪をかき回す。

 「竹上側の異界人の増加はそれがカラクリか? 人の道を外れるにも限度があるぞ……」

 「元に戻す方法は無いの?」

 「それはどっちだ。姉か、加々美か」

 アマネは迷わなかった。

 「あれはもうお姉ちゃんじゃない。お姉ちゃんの皮を被った敵だ」

 「……加々美が異界人になってから時間はどのくらいだ?」

 「そんなに経ってないと思う。二分くらいかな……」

 「ならまだ希望はある」

 「ほんとに!?」

 アマネは涙の滲んだ目で明神を見上げる。

 「本来異界人……不完全なホモデウスを作るには再現細胞が元々の細胞を食って同化するのを待たなければだめなんだ。しかしそれをせず無理矢理に異界人として戦わせているなら、完全に細胞が同化し切る前に倒せれば……」

 「助かるの!?」

 「分からない。今出せる答えはこれだけだ」

 アマネはネイルガンをリロードした。

 「やるしかない。朱里さんは絶対助けたい」

 「……私もやろう」

 「いいの?」

 「ああ。あとは残党を殲滅するだけだ。彼らに任せても問題は無い」

 屋敷が揺れた。明神とアマネは身構えた。

 「来る!」

 壁が突き破られ、朱里が姿を現した。明神が回帰し、剣で槍を受け止める。アマネは抜刀し、背後から朱里を突き刺した。

 「朱里さん! お願い!」

 アマネの一撃で朱里の力が緩む。明神は剣を振るった。片方の腕が切り落とされる。

 「うわああああああ!」

 アマネは刀を引き抜いた。もう片方の腕を狙う。朱里は槍を回転させると、後ろでにアマネを槍で貫いた。アマネは吹き飛ばされる。明神が上段から刀を振り下ろす。朱里は後退してそれを躱すと、横から槍で明神を突き刺した。

 「シンジさん!」

 明神が態勢を崩す。アマネがネイルガンの引き鉄を引いた。朱里が気を取られたところで明神が腕を伸ばし、朱里の髪を掴む。壁に何度も叩きつけた。朱里は明神の腕を足で絡めもぎ取った。そして顔面を強かに殴りつける。落ちていた槍を拾うと、アマネに向かって投げた。

 「ッ!」

 アマネは刀で槍をいなす。刃が零れた。とてつもない衝撃で刀が持っていかれた。朱里が持っていた明神の腕を投げつけた。当たってアマネは転ぶ。朱里が脚を振り上げ頭を狙った。

 「ううっ!」

アマネは首だけ動かし避ける。耳が潰れたが問題は無い。頭に向かってネイルガンを撃ちまくった。朱里が背中から倒れかける。アマネは飛び起き、朱里の長い髪の毛を掴んだ。

 「あああああああ!」

 そして一本背負い。飛ばした先は、剣を構えている明神。背中を大きく斬りつけた。朱里は着地するが、大きく体勢を崩す。アマネは朱里に向かって刀を振りかぶった。朱里は槍を構えて防御しようとして────その動きが不自然に止まった。

 「朱里さん!! お願いッ!!」

刃は朱里の身体を深く切り裂き、鮮血が宙を舞った。朱里は仰向けに倒れ、脱力し、そして動かなくなった。アマネは朱里の下へ駆け寄る。

 「朱里さん! 朱里さん!」

 アマネの呼びかけに答えるように、橙色の身体から色が抜け、次第に肌色が戻ってくる。新しく生えてきた髪は抜け落ち、砂になっていく。槍はぼろぼろと崩れ、朽ちていった。身体が一回り小さくなり、朱里が人間の姿に戻った。すぐさまアマネは胸に耳を当てる。

 「心臓動いてないよ!」

 人間態に戻った明神が呼吸を確認する。

 「心臓マッサージと人工呼吸だ! 早く────」

 何かが通った。少しの焦げ臭さを残し、明神は倒れる。頭から微かに煙が出ていた。

 「何かできると思ったか? お前らごときが」

 声をした方に目を向けると、人差し指を向けた竹上が立っていた。

 「この私が、首を刎ねられた程度で死ぬと思ったか? 愚かな!」

 「お前……」

 アマネは茫然とした声を出す。竹上はアマネに対し人差し指を向ける。

 「お前は……私のものだ」

 視界が暗転した。


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