SIDE隣町:ダークナイト
もう日付が変わろうとしている時刻だ。
街はずれにあった廃ビルをリフォームした建物。
ここでは何人かの女子高生と、男たちが騒いでいた。
建物の持ち主は今日は不在だが、
こうしてここをたまり場にしてカス共が毎夜集まっている。
ここは、多羅篠世志男が親父にねだって用意してもらった多羅篠の城。
多羅篠がお気に入りの女を連れ込んだり、
飽きた女を部下にくれてやったり、
そういう事を撮影して金にしたり。
--------金と見た目と地位と親の七光りで、
女遊びに耽り
散々弄び飽きたら金を絞るための玩具にする。
被害者が訴え出ようとしても、
子供に甘い多羅篠の親が金と権力で被害者を黙らせてる。
吐き気を催す邪悪だ。
この世にいるべきではない下種野郎だ
出来る事なら関わりたくはないし、
なんなら俺がこの手で一匹残らずブチのめしてやりてぇ害虫だが-----
今は、それはできない。
・・・全く、嫌な気分だぜ
「有馬、お前は混ざらないのか?」
半裸で騒いでる馬鹿どもを遠目に、窓辺で転寝していた俺に話しかけてきたやつがいた。
「旦那こそ混ざってこないのかよ。そんなハゲじゃモテねぇだろ?」
「フン、憎まれ口は達者だな、有馬加速」
口の周りから顎までひげを蓄え、
筋骨隆々とした日焼け肌のゴリマッチョに毛髪一本ない禿頭。
黒いサングラスのよく似合うのは、八芸の旦那だ。
----------これで高校生とか冗談みたいだぜ
この人も多羅篠の一味だが、
俺同様にああいった騒ぎは好きじゃぁないらしい。
向こうでサルどもが盛っているような事に興味を示さず、
俺に話しかけてくる物好きな人だ。
目立つ赤髪に、なれ合おうとしない俺は、
多羅篠の一味の中で浮いている。
そんな俺を何かと気にかけてくれるこの旦那は、
ハゲだが良い人なのだろう。
元々俺の目的のためにコイツらと一緒にいるだけで、
仲間になったつもりも、
なれ合うつもりもないが、この人は気に入っている。
あのハゲ頭をつるつるしてみたい程度には。
「・・・やはり今からでも遅くない。ここを去れ有馬」
そう静かに言う旦那。
「それは出来ねぇ相談だ、いくら旦那の言葉でもな」
そんな俺の答えに複雑そうな顔をする旦那。
「こんな所にいてはいずれお前も捕まるだろう。
お前はまだ若い、こんなところで人生を棒に振るな。
それだけ整った顔をしていれば、
こんな所にいなくても女にだってモテるだろう?」
「忠告どうも。・・・だが断る」
俺はきっぱりと断るが、今日の旦那は珍しく引いてくれない。
いつもならこんなやり取りをしてもすぐに引っ込むんだがなぁ。
「聞かせてもらえないか?お前がこんな所にいる目的というものを」
そう、こちらの様子をじっと見ながら言う旦那にどうしたものかと迷ったが・・・
この人になら言ってもいい気がすした。
俺の、直感だが。
「どうしても・・・闘りてぇ男がいるんだ」
「ヤりたい・・・男・・・?!」
なぜか旦那が一歩下がった。
何でだ?まぁ、いい。
「俺がまだ中学生の頃だ。俺と同じ年頃の、
中学のガクランをきたやつがこの街の不良共とまとめて 闘ってる所を見た」
「複数でか?!」
そこ、驚くところか旦那?
俺たち割としょっちゅう多人数で闘ってねぇか?
「圧倒的だった。------しばらく後にたっていたのはその男一人、
そして周囲には不良共がぶっ倒れていた。
どいつもこいつもこの街で名前を聞く、札つきのワルどもがよ」
「なんという事だ・・・」
「倒れたヤツらの中心で、『分の悪い賭けは嫌いじゃない』
、・・・そんな事を言うアイツの声が今でも俺の耳に残っているんだ」
愕然とした様子の旦那。
わかる、俺もあの光景を見た時には、
こんなに強い奴がいるのかと驚いたからな・・・。
「俺はそいつと-----どうしても・・・本気で闘りたくなった」
思い出せば闘志が沸いてきて、思わず口元がほころんでしまう。
「そ、そうか・・・人の趣味嗜好は人それぞれだからな・・・」
なぜか滝のような汗を拭きだす旦那。
きっとあの男の圧倒的な強さに、
緊張してしまったのかもしれないな!
わかるぜ、思い出すだけで俺はまた体が震えてくる
「そこからは長かったぜ。
わずかな手がかりを元に足を棒にして回り、
不良と殴り合ったりもしながらアイツを探した。
あまりの強さといつも一人で行動しているソイツの足取りを追うのは一苦労だった。
アイツに、一方的に 敗北れたやつらから、
鋼の狼と恐れられていることを知って身震いしたもんだぜ。
そして、やっとアイツを見つけた」
思わず、笑みがこぼれる。
「俺はあの男・・・
-----鋼の狼、南野京介と-----
生死をかけて激しく闘りてぇ・・・!そのためにここにいるんだ!!」
「せ・・・精子をかけて激しくヤる?!」
俺の熱い言葉に、旦那が震えている。
「・・・そ、そうか・・・
お前が多羅篠達のバカ騒ぎに加わらなかった理由はよくわかった」
旦那もこうみえて結構な腕前の剣士だ。
極太の木刀を振り回す姿、いずれは一戦・・・と思わずにはいられない程に。
だからこそ、俺のこの胸を焦がす強い奴と戦いたいという気持ちが通じたんだな。
「そして俺の探し求めた男・・・京介が、
隣町の学校に進学し、剣道部にいることを知った。」
俺の言葉に、成程そうか・・・合点がいった、というように頷く旦那。
「この一味は隣町に手を出すようになった。
お前の言っている男がいるのはあの
・・・多羅篠のお気に入りの女の学校という事か。
多羅篠は美人が多いあの学校を手中に入れたいと息巻いていたな。
そしてその剣道部はこちらの行動を妨害してきている。
あの学校の連中とこの一味が諍いが起きているが、
---------遠からず大きくぶつかることになる」
理解が早くて助かるぜ、旦那ァ。
俺はニヤリ、と笑う
そうか・・・そうかぁ~・・・とこちらに背を向け項垂れながら歩いていく旦那。
窓を見ると、階下では多羅篠がまた新しい女を連れてきたのが見えた。
「また新しい女か
・・・あんなクソ野郎にひっかけられる奴が可哀想だぜ」
そう言いつつ、多羅篠のお気に入りの女の事を思い出した。
整った顔立ちに、
黒い長髪が目立つ奴だったな。
あれだけの美人なら、
もっと良い男がいくらでもいただろうに。
わざわざこんなドブ水の底辺に沈むことなんてなかったはずなのに、
バカな女だぜ・・・。