46.party
鏡の中に映るのは薄水色の浴衣に下駄姿の自分。
今日は夏祭りの日、皆と遊びに行く予定だったのだが折角だから皆浴衣で行こうという話になったので、珍しくめかしこんでみたのだ。
荷物を入れたバッグを肩から掛け玄関を出ると、
そこにはいつもの面子の顔があった・・・俺と同じく浴衣姿の、村雨とテツくんである。
朝顔模様の何故か可愛らしい(?)浴衣のテツくんはイメージにぴったりだし、
巾着袋を持って佇む姿はなんだか色っぽい。・・・あれ、色っぽい?
村雨はといえば紺と赤に黄色の刺し色と随分派手な色目の浴衣なのに、
村雨が着るとなぜかピシッと決まっている。
イケメンってほんとズルいよな。でも嫌いじゃないわ!・・・嫌いじゃないわ!
二の腕までまくって腕組みをしているその立ち姿から漂う兄貴・・・いや親分オーラが凄い。ところで浴衣に書いてある文字その武神装攻・・って何だろうね?
そんな明らかにレベルの高い2人に気圧されてしまう・・・俺は一般人だからね・・・。
「かっこいいですよ」
「うむ、少し見ない間に随分と男前になったんじゃないか?」
そんな風に2人に褒められてると、照れる。
「よせやぁい」
思わず俯いてしまう。
(カワイイ)
ん?・・・誰か何か言ったか?
なんだよ村雨もテツくんも、じっとみるなよ恥ずかしいだろ。
女子達と待ち合わせをしている神社の麓まで歩いていく最中、車いすに座ったサヨちゃんと、その車いすを押すギャレンくんとあって話したり、
姉さん女房に手を引っ張られているキョウスケ君の姿をみたりした。
まもねーちゃんとも会ったけれど、忙しそうにバタバタしていたけれど元気そうだった。
道中、女の子2人に左右の腕を組まれた姿の男子が話しかけてきもした。
色々な事があったけれど、今年の夏祭りは皆の笑顔がある。
「なんだかいいなぁ、こういうの」
思わず言葉に出てしまったが、そんな俺をみて静かに頷くテツくん。
テツくんってよく見るとまつ毛長いな・・・美人さんかよ。
「そうだな。・・・まずは今日という日を楽しめ」
そういいながら、フッ・・・と笑う村雨。
だからお前そういうかっこいいをナチュラルにするんじゃないわよ。・・・嫌いじゃないわ!
男3人で並び歩きながら目的の場所につくと、浴衣姿の2人がいた。
白地に黄色いひまわり柄の浴衣の小柄な女の子は、こころちゃん。
こちらに向かってブンブンと手を振っている。げんきいっぱいで可愛いね?
その隣、紺に白い花柄のしっとりした美人は・・・明日菜だ。
眼鏡を外した姿で、髪を簪でとめて普段よりも随分大人っぽく感じる。
それぞれがそれぞれの雰囲気に合った可愛さ、綺麗さだなぁ・・・とおもいつつ歩いていくのだが・・・
「2人とも、お待たせ・・・・って、あれ?」
気が付くと村雨もテツくんもいなくなっていた。
・・・あれ?
----------謀られた?!アイエェェェ!ナンデ?!1人ナンデ?!
「それじゃ、行こうか村正ァ」
そういいながら右の腕をするりと組む明日菜。
「えへへ、楽しみだね!」
そういいながら左の手を握るこころちゃん。
おお・・・おお・・・?!
当然のように俺の左右の腕の自由を奪う2人の様子に反応が遅れると、
すっと耳元に顔を近づけた明日菜が、ひそひそっと言ってくる。
「両手に花・・・だってさ、村正」
なんだかふわりといい匂いがする・・・あと耳にあたる吐息がこそばゆい・・・。
夏の魔力が俺たちをハイにしているっていうのかいないのか・・・どっちなんだい・・・ヤーッ!
心中でそんなセルフツッコミをしながら明日菜を見ると、
悪戯っぽくこちらをみて笑っていた。
くそっ、いつもより10倍・・・いや100倍ドキドキしてしまう。
「しょうきちくん、花火だよ花火!」
そんな様子に気づいてないこころちゃんは、
遠くであがりはじめた花火に目をきらきらさせていた。
「おっと、そんなに走るとあぶないよこころちゃん」
苦笑しながら、俺たちは3人で、神社の階段を昇り始めた。
屋台の賑わいや人の喧騒の中、2人ととりとめのない事を話していたが、
足は慣れ親しんだ場所へと、意識せず向かっていた。
神社の階段をのぼり境内へ、
そして裏山に続く獣道を抜けると程よい高さの山頂に出る。
駅前タワーや、街の光も足元によくみえるここは、
ほのかとよくきていた思い出の場所だった。
知る人ぞ知る穴場、であり、
境内から充分花火が見えるのでこんなところに来るのは俺たちの他にいない。
バッグからレジャーシートを取り出し引き、3人でそこに座る。
体育すわりですわるこころちゃん、真ん中で胡坐をかく俺、足を崩して座る明日菜。
座り方も人それぞれ違うよね。
「きききら、ぴかっ!って!きれいだね、しょうきちくん」
そう言って、こっちを見ながら満面の笑みを浮かべるこころちゃん。
可愛さ天使すぎるな?
「そうだね、----花火があると、あぁ、夏だなぁって感じがするよね」
そう言いつつも、つい、ほのかとの事を思い出してしまう。
いけない、と思いながらあの日の夏の事を思い出していると、ふと、右肩に重みを感じた。
「・・・そういう所だぞ村正ァ」
俺の肩に頭をのせて、ジトッとこっちをみている明日菜。
俺が考えていることが見抜かれている・・・
そして顔が・・・顔が近い・・・!
「わぁ、いいなぁ!・・・ううっ、肩に届かない・・・そうだ!」
おじゃまします、と言うとこころちゃんはころんっと寝転がり、俺の膝に頭をのせてきた。
ね・・・猫かな?!可愛いね!
「え、えへへ・・・」
顔を真っ赤にしながら笑っているこころちゃん。
あっ、やっぱりやってて自分でも恥ずかしいのね。
左手でこころちゃんの頭を優しく撫でると、
こころちゃんが幸せそうに顔をふにゃぁっとさせる。
やっぱり小動物っぽさがあるよな。
『こころちゃん、がんばるのだ!皆を代表してぼくが応援しているのだ!』
視界の隅でハムだかモルモットだかがこっちを見てる気がしたがお前脱走してきたのか???
いや、気のせいだ気のせい。
ナントカ何太郎みたいな小動物がいるなんて気のせい気のせい。
そんな風にしていると、右腕が柔らかい感覚に包まれる。
うっ・・・これは・・・この柔らかさはッ・・・!!
まさかプールの時からさらにレベルアップしている・・・ッ?!
「んー、私もなでなでを所望するぞ村正~」
なでなで・・・どこをなでなですればいいんだ俺はいったいどうすれば・・・?!
そんな風に2人に左右からドキドキさせられたり(主に明日菜に)ちょっかい出されながら、のんびりと、花火を眺めるのだった。
「ありがとな、2人とも」
打ち上げられる花火の音と光を背景に、右肩と左膝の2人に向かって呟く。
「ん。どういたしまして?」
そういって一層の体重をこちらにかけてくる明日菜。
「しょうきちくんの元気が出たなら、嬉しいなぁ」
そんな事を言って笑うこころちゃん。
この場所で、こうして花火を見て。
確かに思い出してしまう事もあるけれど、もう涙は出なかった。
「俺、明日菜のことも、こころちゃんの事も好きだ。だから絶対、必ず、答えを出すよ。
--------また恋をする。したいと、思うから」
右頬に、少しだけひんやりとした、しっとりとした感触。
「明日菜?」
そちらを視れば、少し照れた様子の明日菜の顔。おまっ、俺の頬に・・・!
続けてぐいっと左に引っ張られてから、左頬にもちゅっという音と同じような感触。
「こころちゃん?!」
えへへ、と顔を真っ赤にしているこころちゃん。
「ま、焦らず決めてよ。私は別に3人でいいし」
「わたしもそれに賛成です!」
何を言うんだ、明日菜ァ!というのとそんな戦略ゲームみたいな賛成しないのこころちゃん。
「こころちゃん、左からドーンして!」
「どーん!」
明日菜とこころちゃんに押し倒されて、3人で寝っ転がる。
馬鹿みたいで、思わず声をあげて笑うと、つられて2人も一緒になって声を上げた。
七色に輝く花火の光に照らされながら、俺たちは、そんな風に笑い合った。
「折角だからこしょこしょしようこころちゃん!」
「まかせてください明日菜さん!」
何それオニャンこころポンなのこころちゃん?!
っていうか明日菜に影響されてる?
こころちゃん随分ノリが良くなってない??ねぇ?
んおおおお?!脇は弱いからやめて!やめてぇぇぇ!
そんなおバカなことをしてげらげらと笑っていると-------
つらいことも悲しいこともあったけれど、
それは全部過去にしていけるのだと、
こうして一緒にいてくれる大切な人たちがいれば、
楽しい事を積み重ねて乗り越えて行けるのだと思う。
昨日までが辛くても、明日を楽しくしていけばいい。
まだまだ続く学校生活、俺の人生は、今までの時間よりもこれからの時間の方が長い。
だからこれからを、これまでよりも面白く、楽しく、生きていこう、と思う。
ありがとう明日菜、ありがとうこころちゃん。
それに、ありがとう、皆。
花火の音の中で身もだえながら笑い声をあげながら、そんな事を思うのだ。
「この村正・・・すけべ過ぎる!
下も脱がせよう・・・いや全部よッ全部脱がせるわよッこころちゃん」
「やめろ馬鹿明日菜変な鍋でも喰ったのか?!?!
なんで年頃の娘が男子の服を剥くんだ
教えはどうなってんだ教えは!こころちゃんヘルプ!」
「ゴクリ・・・」
「こころちゃーーーーん?!?!
・・・くそったれー!
滅茶苦茶時間が空きました。すみません・・・。
転職した先が朝7時から夜20時近くまで拘束されて残業代出ないブラック企業ェ。
辞表!出さずにはいられないッ!!
という身辺状況ですが、
盆休みを使ってなんとか花火回の表側を書き上げることが出来ました。
呼んでいただいている皆さまありがとうございます・・・。




